魔法少女リリカルなのは〜過去に縛られし少女〜  第四話
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訓練場についた私たちは、すぐさま稽古を始めることとした。

稽古といっても、剣を使っての戦いになれるための訓練のようなものだ。

何度も繰り返しやれば剣の扱いにも慣れる。

そうすれば魔力を使っての戦闘などでも、新しい戦い方もできるはず。

そう思って私は稽古をしている。

ちなみに今日は、シグナムさんとの試合形式のような稽古だ。

「よろしく、お願いします」

「ああ、遠慮はいらんぞ」

互いに軽めの挨拶を交わし、訓練用の剣を構える。

その瞬間、私は飛び出し勢いよく剣をふるった。

いきなり速攻で攻撃をし、不意をつく作戦だ。

 

ギンッ!

 

金属がぶつかり合ったような音が響く。

やはりと言うべきなのか。不意打ちを狙ったはずの私の初太刀は、いとも簡単に止められてしまった。

動揺している暇などはない。すぐさま次々と攻撃を繰り出す。

シグナムさんはそれらに対し反撃することもなく、ただ避けるか防いでいた。

(わかっていたけど、やっぱり一撃すら当たらない……)

そもそも彼女と私とでは、剣を扱うことへの経験が違いすぎる。

そんな私が自分から攻撃を仕掛けても、まともに当てることなどほぼ不可能だろう。

なら私がこの((女性|ひと))に勝つことは無理なのではと思うかもしれないが、そう決めつけるのはまだ早い。

私には一つだけ‘秘策’があるのだ。

それを試さないうちに勝てないと諦めることはしたくはない。

私は今はただ何も考えていないかのように攻め続けた。

それに対しやはり彼女は反撃は一切してこない。

(予想通り、動きを観察してる)

この事実により、私のある考えは間違っていないことがわかった。

その時、私はつい安心してしまったのだろう。

「はあっ!!」

彼女の強烈な一撃への反応が遅れてしまった。

「っ!? うっ」

何とか防いだが攻撃を受け流すことができず衝撃が伝わり腕がわずかに痺れてしまった。

(左腕が少し動かしづらい……)

私にとってこの状況は本来なら好都合のはずなのだ。‘秘策’とは攻撃されている時にこそ使えるものだから。

しかし思ってもいなかった事態が起こり、私は焦るはめになってしまった。

(くっ!。このままじゃ、まずい)

片腕が動かしづらければ、相手の攻撃への反応は当然遅れることとなる。

満足に受け流すことも出来ないし、避けることも防ぐことも難しくなる。

そうなってくれば今の私のように、体力の消耗だって必然的に多くなる。

つまり何もできないまま疲労して終わってしまうなんて結果もあり得る。

(……そんなの、いや)

だがこのまま攻め続けられれば、そう遅くないうちにやられることは必然。

(なら、どうすれば……?)

私がそんな迷いを抱いた、その時だった。

「でやぁぁぁあ!!」

気合を入れた叫びとともに、重い一撃が私を襲った。だが――

(これを、まってた!)

私はそれを剣で受け止めた。そして、‘態勢をくずした振りをした。’

「これで、終わりだ」

一言だけ呟き彼女はとどめの一撃を振るった。

キィィン!

「なに!?」

彼女は動揺している。だがそれも当然だろう。急に‘相手の動きが速くなったのだから。’

私は相手の剣をはじいたその勢いを利用し、隙を見せている彼女へと剣を振るった。

(これは当たる。勝った……)

私は勝利を確信した。

ヒュッッ!

なのに耳に届いた音は、空を切り裂くような音だった。彼女の姿は目の前にいなかった。

「惜しかったな」

その声は足元から聞こえ、下を向こうとしたその瞬間には喉元に剣が突きつけられた。

「……負けました」

まさかあの状態からすぐさましゃがんで、攻撃をかわすなんて思わなかった。さすがだなと感じた。

「ふっ。何か狙っているのは気づいていたが、あんな方法をとるとはな。最初から狙っていたのか?」

「はい。あれが私の‘秘策’でしたから……」

私が言う‘秘策’とは最初から速さを抑えておき、最後の一瞬だけ自分の本当の速さで決めるというものだった。

自分が突然早くなったりすれば相手は戸惑うだろうし、うまくいけば隙もみせるかもしれない。

その瞬間を狙えば勝てる可能性もあるはずだと思っていた。

結果は予想とは違うものに終わってしまったのだが……

私はこの‘秘策’とはどういうものなのかを、シグナムさんに細かく話した。すると――

「なるほどな。狙いは悪くないだが最後の一撃は褒めてやれんな。何故だかわかるか?」

一つだけ問いかけをされた。

それに対し私は自分の考えを答えた。

「油断してしまったから……」

「そうだ。勝てると確信して詰めが甘くなるのは、自分がまだ未熟だという証拠だ。それを忘れるな」

「……はい」

この女性(ひと)の言葉には重みがある。だからこそ素直に聞いておくべきなんだと思う。

「まあいい。これで稽古は終わりだ。戻って休め」

「はい、失礼します」

私が訓練場を出ようとしたその時、代わりに一人の少女と青年が入ってきた。

「なんだよ。もう終わったのかよ」

「……俺は急げと言ったぞ」

「しょうがないだろ。はやての話に付き合ってたんだからよ」

「どうして、ヴィータとザフィーラさんが……?」

この二人はシグナムさんと同じ、はやての守護騎士の二人だ。

だが何故この二人がここに来たのだろう?

「ヴィータ、ザフィーラ。何か用か?」

「お前らが稽古をしてるって聞いたから見に来たんだよ。もう、終わっちまった見てえだが」

「俺も同じような理由だ」

「ふっ、残念だったな」

「シグナムもあたしたちが来るまでもう少し長引かせろよ」

「……無茶を言うな」

ヴィータの言葉にシグナムさんは少し呆れているような感じだった。

(ふう。少し疲れた)

『マスター、お疲れ様です』

頭の中に声が響いた。思念通話だ。

(ありがとう。でも勝てなかった……)

『マスターが彼女に勝つにはまだ無理でしょう。何より経験の差が違いすぎます』

(そうかもしれない。でも少し悔しい)

『負ければ誰でも悔しいものです。だからこそ、次は勝てるように訓練を重ね強くなりましょう』

(そう、だね……)

確かにその通りだ。負けて悔しいなら強くなって勝てばいい。

何度も訓練して強くなればいいのだ。

それに今日の稽古だって、負けはしたが手応えはあった。

私は確実に強くなってるのだ。

それが確かめられただけでも今日の訓練は無駄ではなかっただろう。

(とりあえず、部屋に戻ろう)

『マスター、お忘れになったいませんか?』

(何のこと?」

『稽古が終わったあと、話をするのではなかったのですか?』

(……忘れてた)

それだけ稽古のことで頭が一杯だったのだろうか?

『今のうちに聞いておくべきかと思いますが?』

確かに早いうちに聞いておいたほうがいいだろう。

私は守護騎士たちに話しかけた。

「シグナムさん、ヴィータ、ザフィーラさん。話があります」

「ああ、そういえばそうだったな」

「話って何だ?」

「俺にもあるのか?」

「はい。実は……」

 

 

 

「ふむ。判断力か……」

「私はそんな才能を持っていないと思っています」

「だけどよ。あたしはあの模擬戦を見てたからそんなことないって思うけどな」

「さっきも言ったはず。それは見てなかったものとして考えて」

「何故だ? 俺はそのことがあまり重要だと思わんが?」

「詳しいことは言えません。勝手だとは思いますが、模擬戦はみていないもとして考えてもらえませんか?」

「……ああ、了解した」

とりあえず話を聞いてくれた三人は、それ以上深く聞くことはなく真剣に悩み始めた。

(そのほうが助かる。簡単に結論を出されても困るから)

それから少し時間がたち、一人が呟いた。

「……あたしは、持ってると思うぞ」

「私も同意見だ」

「俺もだ」

「……そう思う理由は?」

「理由は教えられねえ」

「どうして、ヴィータ?」

「てめえ自身が自分には才能なんて持ってないって、決めつけちまってるからだよ」

「それがどう関係してるの?」

「自分にはないって思ってるものを、他人があるって言っても信じられねえもんだ」

「それで?」

「だからてめえは、少しは自分のことをわかれってことだよ」

「……意味がわからない」

「ああ、もう! めんどくせえ! だからそんな才能があるのかどうかを知りたきゃ、試せばいいってことだよ!」

「試すってどうやって?」

「少しは自分で考えろ! いくらでもあんだろうが! 集団戦の訓練をするとかよ!!」

「あっ、そんな方法が……」

そうだ。なにも聞いて回るだけじゃない。

そんな方法だってあるんだ。

どうしてこんな簡単なことを思いつかなかったのだろうか?

「はあ。何で頭の回転はええくせに、こういう時だけにぶいんだよ」

「ごめん……」

「はあ。もういい」

「ご苦労だったなヴィータ」

「シグナムてめえ! お前もなんか話せよ! あとザフィーラも! 何であたしだけがこんな苦労すんだよ!!」

「お前が率先して話を進めるからだろ?」

「俺も同じ意見だ」

「ぐっ! ちくしょう!」

正しいことを言われたからか、ヴィータは二人に何も言い返せなかった。

そういう私もそのやりとりを見ながらも、これから自分が何をすれば考えていた。

でも、とりあえず――

(疲れたから、部屋に戻ろう)

私はここから出ることにした。

「三人ともありがとうございました」

「気にするな」

「もうこんなことで悩むんじゃねえぞ!」

「俺は何もしていないぞ」

私は例を言って三者三様の答えを聞いたあと、訓練場を後にした。

私はこのまま部屋に戻ることにしたが、ふとある疑問が浮かんだ。

「こんな方法があること知ってた?」

『どうだと思いますか?』

「……こんな時にまで厳しいなんて」

『大きく成長するには自分で悩み考え動き、そして自分自身で答えを出すことも必要なのです』

「……わかった」

そういえば忘れていた。

私のデバイスは主人には厳しいってことを。

今度からは忘れないようにしようと私は心に誓った……

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