魔法少女リリカルなのは〜過去に縛られし少女〜   第七話
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なのはとの訓練を終えて部屋へ戻ってきた私がまず最初にした行動は、ベッドに倒れこむことだった。

「つかれた……」

『お疲れ様です。お休みになりますか?』

「うん。寝る」

相当疲れているのか、私はどうしようもないぐらい眠かった。

このまま寝たいぐらいだが汗をかいたし服も汚れている。

さすがにこのまま寝るわけにはいかない。

かといってシャワーを浴びる元気などないため、億劫だが私は立ち上がり軽くタオルで体をふき適当に見つけた服に着替えた。

そして私は再びベッドに倒れこんだ。

『それではマスター。ごゆっくりお休みください』

「うん。おやすみ……」

私はゆっくりと目を閉じた……

 

 

 

目の前に広がるは白い世界。

何もない孤独を感じさせる世界。

私が今いる場所はそんな場所だった。

今日の朝もこことよく似た場所に私はいた。

ただ朝とは一つだけ違うところがあった。

それは目の前に人のようなものがいるということだ。

何故か全てがぼやけて見えて顔も身体も何もかも詳しくはわからないが、確かに人の輪郭をしたものがいた。

「……貴女は、誰?」

私は目の前の何かに声をかけた。

「…………」

しかし当然だったのかもしれないが返事などなかった。

そもそも私の夢に現れたこの得体のしれない何かに、回答を求めること自体が間違いなのかもしれない。

「……ねえ。貴女は、誰なの?」

にも関わらず私はこの何かに問いかけることをやめない。

「…………」

返事はない。

それでも私は呼びかけるのをやめるわけにはいかない。

少しでも安心したいからだ。

私がここ最近見る夢ではいつだって、頭のなかに嫌な声が響く。

耳を塞ごうが何をしようが声は無情に私のなかにただ響く。

そしてその声を聞いていると私はどうしようもなく恐怖を感じる。

何とか解決しようとしても、解決策なんてわからない。

けれど目の前にいるこの何かは、こんな苦しみから私を解放してくれる気がしたのだ。

そんな根拠なんてないが不思議と私の考えは間違ってはいないという確信のようなものがあった。

だから声をかけた。

会話の内容なんてどうでもいい。

ただこの何かと話すきっかけのようなものがほしいと思い、最初に頭に浮かんだのがたまたま何者かを聞いてみようというものだっただけだ。

「ねえ。答えて。貴女は、誰なの?」

そして私は三度目の問いかけをした。

「……それを聞くことに何の意味があるのかしら?」

三度目にして初めて声を聞けた。

「貴女が私の正体を知ることに何か得でもあるというの?」

「……ないなら最初から、こんなこと聞かない」

「あら? だったらそれが何か教えてもらえると助かるわ」

「……私の夢に意志をもった私以外の誰かがいる。その正体を知ることで何かを知ることができるかもしれない」

「なるほど。それが貴女の言う得ね」

「そう」

ここまで私の望み通り会話は出来てる。

順調なはずだ。

……なのにこの胸の奥で感じる妙な気持ちは何なのだろう?

この気持ちが影響しているのか、この人に頼ることもしれないと思うことが間違いな気がしてきた。

油断は出来ない、そう思い続けていなければいけない気がしてきた。

(どう、して? やっぱり話しかけるべきではなかった……?)

心の中で後悔にちかい言葉を呟くが今更遅い。

私は話しかけてしまったし相手も反応した。

もういくら悔もうが遅い。

多分あの無反応だった二回こそが、選択肢を変える最後の機会だったのだ。

今となってはこの選択が間違いだったとしても進むしかない。

いや、間違いではないと信じるかしかない。

「……いて……しら?」

「えっ?」

そこで私は気づいた。

何か話しかけられていたことに。

「貴女、ちゃんと聞いているのかしらと言ったのよ?」

「あっ……」

「そちらから話しかけてきておいて、上の空でいるのはどうかと思うわよ?」

確かにこの一度考え込むと周りのことに全く気を向けられなくなるのは、さすがに直すないとまずいかもじれない。

「まあ、いいわ。それで何処から聞いていないのかしら?」

「……何か話していたの?」

私の言葉に相手は呆れたような表情をしながらため息をついた。

私はそこでようやく気付いた、そして驚愕した。

どうして今になってなのかはわからない。

だが今まで靄がかかったようにはっきりと見えなかったのに、今は相手の表情が良く見えるのだ。

けれど私が一番に驚いたことはそこではない。

(私と、同じ顔……?)

よく顔が似ているというならまだいい。

けれど髪の色を除けば、まるで鏡を見ているかのように目の前の人は私と全く同じ顔をしていた。

「どういう、こと……?」

つい声に動揺の声を漏らしてしまうほど今の私は気が動転していた。

そんな私の様子を見ていた相手もどうやら少し驚いているようだった。

何に対してかはわからない。

私の様子が相手が驚くぐらい異常だったのだろうか?

こんな見当違いなことを考えていたからだろう。

「まさか貴女、私の顔が見えているの?」

すぐに応えることができなかった。

時間にすれば十秒程だと思うが、それぐらいの時間をかけて私はようやく返事を言うかわりに頷いた。

それを見た私と同じ顔をしている女性は、考え込むような仕草で何かを呟いていた。

だが今はそんなことより先に確かめたいことがある。

それは相手の正体だ。

会話をするという口実のために先程は適当なことを言ったが今は違う。

はっきりと何者なのかを確かめないとこの気持ちが治まることはない。

「貴女は、本当に、誰なの?」

そうして私は四度目になる問いかけをした。

「……全てを教えてはあげられないわ。それでもいいというなら――」

そこで相手の声は唐突に小さくなり始めた。

同時にある特有の感覚が襲ってきた。

(まさか? 夢から覚めようとしているの?)

まさに最悪のタイミングだ。

何も相手のことがまだわかっていないのに、もう終わりが近づいているなんて。

けれどこのまま何も知らずに終わるなんて御免だ。

せめて一つでも知ってからでないと。

そう思っているのに、声を出したいのに、もう無理だった。

身体は徐々に消え始め、身体のどこも動かすことが出来なかった。

……夢から覚めることがここまで嫌だと思ったことなんて今までにはない。

もどかしい気持ちでいっぱいだった。

その時だった。

「……また、会えるはずよ……」

ただ一言それだけが聞こえ、私の身体はこの白い世界から完全に消えた。

 

 

 

目を開けるとそこには見覚えのある天井が見えた。

当然だが周りを見渡してもあの人はいない。

『何かをお探しですか?』

「なんでもない。それより、どれぐらい寝てた?」

『三時間ほどです。ゆっくりお休みになれましたか?』

「うん。ゆっくり休めた」

『それは良かったです』

私は夢のことを今ここでこの子に話そうかと思ったがやっぱりやめた。

別に自分からわざわざ話す必要もないと思ったからだ。

ないだろうが夢を見たのかといったことを聞かれない限り自分から話すことはやめておこう。

「じゃあ今から仕事に戻らないと」

『マスター。今日は仕事をしなくていいと言われていたはずですが?』

「だけど他にやることがない。それに少しでもやっておいて損はない」

『早急に終わらせなければならないものでもあるのですか?』

「それは、ないけど……」

『でしたら、なのはさんの部屋に行って頂けませんか?』

「なのはの部屋? どうして?」

『マスターが目覚める少々前に、この部屋に一度彼女が訪れたのです。まだマスターは眠っていたので((言伝|ことづて))を預かっています』

「言伝って?」

『はい。目を覚ましたら私の部屋に来て、とのことです。なので行かれてはどうですか?』

「……わかった。じゃあ行こう?」

『いえ、私は置いていってもらって結構です。どうやらマスター個人にお話があるようでしたから』

「ならいい機会だから、ついでにメンテナンスに出そうか? これから忙しくなると思うから」

『では、お願いします。マスター』

私たちは部屋を出ると偶然そこでフェイトに出会った。

事情を説明するとフェイトもどうやら自分のデバイスをメンテナンスに出すようだったので一緒に持って行ってもらえた。

私はそのまま直接なのはの部屋に向かったのだが、なのはは部屋にいなかった。

なので私は今なのはを探すために歩き回っていた。

私はその途中あることを考えていた。

それはさっきの夢に関係することだ。

私が最初あの((女性|ひと))と話した時、何故かそれはやってはいけないことだった気がした。

話してはいけなかったのかもしれないなんて思った。

けれど顔が見えてからは違った。

動揺していたからあの時は気づかなかったけど、明らかに最初のときとは違う感じだった。

どっちかというと話して良かったのではないかという思いがあった。

まるで真逆の思いを一人の人物に抱いた。

一体何故なのだろう?

「はあ……この頃こういうのが多い気がする」

こういうのとはいくら考えても答えが出ないもののことだ。

今回も自分のことなのに自分で答えが出せない。

……少し情けなく感じる。

「あっ、リリスちゃん!」

私が自分のことで落ち込んでいると後ろから大声が聞こえた。

振り向くとそこにいたのは私が探していた人だった。

「なのは。探してた」

「ごめんね。ちょっとはやてちゃんのところに行ってて……」

「そうだったんだ。話があるって聞いたけど?」

「うん。そのことなんだけど私の部屋に来てもらってもいいかな?」

「……うん、いいよ」

「……リリスちゃん、何かあったの?」

「どうして?」

「少し暗い表情をしてたから」

「そんなことない。大丈夫だから」

「……何かあるなら遠慮なく言ってね」

「わかった」

自分では気付かなかったがつい悩んでいたのが表情に出てしまったらしい。

なのはたちに心配をかけさせたりしないために次からは気をつけないと。

私はひっそりと心に誓った。

「それじゃ、行こう。リリスちゃん」

「うん。なのは」

そうして私たちはなのはの部屋へと改めて向かった。

他愛無い話をしながら……

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