魔法少女リリカルなのは〜過去に縛られし少女〜 第九話 |
『そんなことがあったのですね』
部屋に戻ってきた私はエターナルパルスになのはと何を話していたのかを教えていた。
最初は少し話すのを躊躇った。
なのはの様子が少しおかしいと感じ、心配していたことを聞かなければ話はしなかっただろう。
『彼女はもう大丈夫なのでしょうか?』
一通り話し終えたが、まだこの子は心配なようだ。
「なのはが落ち着いたって言った以上、私たちはそれを信じるしかない……」
少し冷たい言い方かもしれない。
けれどなのはは誰かに心配をかけたりすれば、自分を責めてしまうような性格をしている。
少しでもなのはのことを思うなら気づかうより信じてあげたほうがいい。
私はそう思っている。
『そうですね』
そのことをこの子もわかっているのか、それ以上気づかうようなことは何も言わなかった。
次にこの子が口に出したのはこの話をしたら多分聞かれると思ったものだったため、ある意味予想通りだった。
『マスター。先程の話の中で一つ気になることがあったのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?』
「……事故のこと?」
『はい』
……正直、話すだけなら別に構わない。
ただこの子がどうして知りたがるのかが気になる。
それを聞いてからでもいいだろう。
「どうして、知りたいの?」
『私は貴女のことが知りたい。ですから教えてください。これから永遠に守り続ける貴女のことを……覚えていますか、この台詞?』
「それは……」
忘れるはずがない。
私たちにとってこれ以上ないぐらいの大切な誓いの言葉だ。
忘れるほうがおかしい。
『どうして知りたいのか、という問いの答えにこの台詞はなっていませんか?』
守ると決めた人のことを知りたいと思う。
確かになっている。
私を満足させるだけの答えになっている。
「……わかった、話してあげる」
『ありがとうございます』
これから話すのは決して楽しい話なんかじゃない。
お礼を言われたことに少し抵抗を感じた。
(そういえばこの話を誰かにするの初めて)
今まではこのことを聞かれても誰にも話さなかった。
聞いてくる人なんてそんなにいたわけではないがやはり多少はいた。
それもまだ心配して何があったのか聞いてくれるならまだいい。
だが興味本位なんて冗談じゃない。
初めて聞かれた人がそんな理由で聞いてきたのだ。
それ以来誰にも話すことはなく、聞かれることも嫌だった。
けれどこの子だけは別。
嫌だ、なんて思わなかった。
この子になら話してもいい、そう思った。
そう思えるのはこの子が私のことをどこまでも信頼してくれるからだ。
それなのに私はこの子に何もしてあげられていない。
何か喜ぶことをしてあげたい。
そう思うが何をすればいいのかわからない。
こんな時、本当に薄情な自分が嫌になる。
(……弱気になってる場合じゃない。何かしてあげることはないの?)
そう思った矢先のことだ。
ある提案を思いついた。
早速、聞いてみることにする。
「エターナルパルス。ついでに私の過去の話、聞いてみない?」
『よろしい、のですか?』
その声が少し嬉しそうに聞こえたのは偶然じゃないと信じたい。
「うん。あまり楽しい話じゃない。だけど私は貴女に聞いてほしいから」
これは私なりのお礼でもある。
口にはっきりと出したことはないが、この子は私の過去がどういうものだったのか知りたがっているようだった。
それを私は今まで気づいていたにもかかわらず、他人に自分の過去を必要以上に知られたくないと思っていたため話したことはなかった。
例え人には話したくないことがあるとはいえ、この子との誓いを破っていたことには変わらず罪悪感も感じていた。
だから過去について話そうとしている今、一緒に話そうと思ったのだ。
例え話したところでこの子が喜んでくれるかどうかはわからない。
でも今の私が出来るのは、前に私のことを知りたいと言ってくれたこの子の言葉を聞き入れてあげることぐらいなのだ。
信じて話すしかない。
『マスター。お願いします』
「うん」
私も話すついでに過去の記憶へと遡ることにしよう。
私の記憶の始まりは白い殺風景の薬品の香りが微かにする部屋から始まった。
その時まず最初に思ったことはどうして病院で寝ているのだろうなどではなく、自分は誰なんだろうと思ったことだ。
この時まで自分が記憶喪失を体験することなんて予想もしていなかった。
ただ不思議なことに私はここが病院という建物であることは覚えていた。
一般的な知識も忘れたわけじゃない。
思い出せないのは自分のこと、そして自分が今まで関わってきた人だ。
家族の顔すらわからない。
そんな時だった。
部屋の扉が開き一人の女性が姿を見せた。
着ている服からすぐに看護婦であることはすぐにわかった。
その看護婦は私が目を覚ましていることを確認すると、まるで信じられないというような表情をした。
その時何か色々と言われたがあまり覚えていない。
唯一覚えているのは、私は一年間も昏睡状態だったということ。
目を覚ませたことは奇跡に近い、という二つだ。
その看護婦はそのあと急いで部屋を出て行った。
それからほどなくして違う人たちが姿を見せた。
一人は先程の看護婦。
二人目は少しやつれて貧弱そうに見える男性。
三人目は優しそうな印象を持てる女性。
四人目は私より少し年上な感じの女の子。
ここにいる人たちは一つだけ共通点があった。
それは皆して涙を流していることだった。
そこで私は気づいた。
看護婦を除くこの三人が私の家族なのだと。
きっと私が目覚めたことが嬉しいのだろう。
けれど私は嬉しいなどと思うことは出来なかった。
むしろ私は恐怖のあまり少し震えていた。
記憶がないことを伝えることが怖かった。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、記憶がない私がその言葉を口にするのが怖かった。
「リリス、よかった」
ここで男性はそう言って笑いかけてくれたが、恐怖が紛れたわけではなかった。
むしろ気が動転していたからなのか、あることを聞いてしまった。
「リリス? それが、私の名前なの……?」
この時一瞬だけ見えた表情は一生忘れることはないだろう。
それほど悲しげに見えたのだ。
それから三人は必死に自分たちのことをそして私自身のことを聞いてきた。
一度でも禁句とも言えることを聞いてしまった私は誤魔化すこともできずあるがまま答えた。
結果は全て、わからないの一言だった。
一通り全部聞き終わった後、待っていたものは静寂だった。
誰も、何も、言葉を発することが出来なかったのだ。
私はその時の現状があまりにも悲しかった。
そして嫌だった。
だからなのか私は殴られたっておかしくないようなことをこの時言ったのだ。
「私のことは、忘れてください」
当然他の人たちは驚愕したような表情だったが、構わず続きを口にした。
「記憶がない私は、皆さんのことを家族だって思えません。こんな酷い子なんて忘れたほうが――」
この後の言葉は続けられなかった。
思いっきり頬を叩かれたのだ、そこにいた女の子に。
その時言われたことは今でも覚えてる。
確かこうだった。
「バカなこと言わないで! リリスは家族なの。覚えていなくたって家族なの。家族のことを忘れることなんて出来るはずないでしょ!!」
泣きながら目の前の女の子は凄く怒っていた。
昔の私はそこで気付いた。
自分がどんなに酷いことを言ったのかを。
そして私は泣き出してしまった。
叩かれたのが痛かったからなどではなく、自分のことをこんなにも思ってくれる人がいるということに気付けた、それが嬉しかったからだ。
私が泣きやんだ頃、まるでタイミングをはかっていたかのように医者が一人姿を見せた。
そこで話していたことは詳しくは覚えていないが、確かもう少しばかり入院してもらう必要があるというものだった気がする。
その後は私はずっと家族と話していた。
私は何が好きで何が嫌いなのか、そんな他愛無い話をずっと続けていた。
そして気付けばもう当たりは暗くなり始め、帰る時間になっていた。
名残惜しいが仕方ないと諦め、私は家族を見守っていったのを覚えている。
「ちょっと、休憩していい?」
『はい。構いませんよ』
とりあえず私は目覚めたその日のことをある程度まとめながら話していた。
『記憶喪失、だったのですね』
「驚いた?」
『はい……』
声が少し暗く聞こえた気がする。
だから――
「……気にしないで」
安心させてあげることにした。
「もう昔のことだから、今は気にしてない。それに私から話し始めたんだから、暗くならないで」
『……わかりました』
どうやら納得したようだ。
声が暗く聞こえたりはしなかった。
(そろそろ続きを話そうかな)
と思ったのだがやっぱりやめた。
今は気にしてないと言ったがやっぱり話し始めると、少し胸が苦しくなる。
この子に知ってもらいたいと言うのは嘘ではない。
けれどもう少しだけ休んでてもいいだろう。
(許してくれるよね?)
心の中で私は呟くとベッドに寝転んだ。
そこでの僅かな時間はゆったりとした心地よいものだった……
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第九話です。リリスの過去の話がメインです。 | ||
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