リリカルとマジカルの全力全壊 無印編 第三話 トラブルのヨ カ ン
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気が付けば、夜の森を見ていた。

夜の闇は木々の枝葉という衣に隠されて、その深さを増しているようにも見える…まるで悲鳴さえも飲み込もうとしているかのようだ。…では…正面の舞台に立つ一人の少年が今宵この場の犠牲者なのだろうか?

 見たことの無い民族衣装のような服を着た、おそらくなのはとそう歳の変わらない子だろう。

 クリーム色の髪をおかっぱ状にした少年だ。

「グルル…」

 その緑の瞳が睨む先には黒い獣がいた。

 熊ほどの大きさの毛むくじゃら…そう描写するしかない異形だ。

 明らかに少年を敵と認識しているそれ…獣性の凶器が自分に飛び掛って来る気配を感じた少年が、ビー玉くらいの大きさの赤い玉を取り出して…。

ーーーいや、って言うかなんですかこのB級厨二臭バリバリの展開は?

「え?だああああ!!」

 掛けられた声に、律儀にも反応した…反応してしまった少年の隙を付いて、獣が襲い掛かってきた。

 獣が口を利けたのなら、きっと「抱きしめて、銀河の、果てまで〜!!」と言ったに違いない全身ダイブ、所謂フライング・ボディ・プレスという奴だ…最後はキラッじゃなくてプチッだったが。

 地面に着地した音が、その重量を表現するかのようにやたらと重い。

 別の意味で痛い静寂が下りてきた。

ーーーうわ〜、いきなり平面蛙ルートですか?。

 どっこい生きてるシャツの中?

「っこんな所で死んでたまるか!!」

ーーーおお、本当に生きてた!!

 流石に驚かずにはいられない。

 プチッと逝っちゃったと思っていた少年が、その細腕で熊モドキを重量上げの如くリフトアップしたらそれは目を見張る光景だろう。

 そんなものを見てしまっては応援するしかないではないか。

ーーーファイトー!

「いっぱーつ!」

 助け?を借りて、少年が熊モドキを放り投げた。

 マッスルな超人の血を引いているようには見えないが、人間命の危機に直面すると色々信じられない事をするものだ。

 しかし、それで決着が付くほど甘くも無かったらしい。

 投げられた熊モドキがひらりと軽やかに着地する。

 この熊モドキできる!!

 唯の熊モドキじゃない!?

ーーーそこに痺れる憧れるぅ〜!!

「伊達にあの世は見てないぜ!!」

ーーーえ?ガチで?

「走馬灯はスタッフロールまで見たけどね!!」

 どうやらマジらしい。

 マジでこのギャグ補正とご都合主義の世界観の中で、少年は臨死体験を経験したようだ。

ーーーと、という事はまさか死んでから現れるという8番目の感覚とかに目覚めて神に近い男になったりしたんですか!?

 四六時中目を閉じるのがデフォになり、乙女座のくせに慈悲の心が無くなって、初対面の相手に跪けとか言う性格破綻のオプションが付いて来そうだ。

 スカウターで計れれば、あの無茶ぶりは確実にギルガメッシュ級の数字が出るだろう。

ーーーおお、熱い、熱いですよぉ〜やれば出来るじゃないですかぁ〜!!ポップコーンとコーラのLを売っている売店は何処ですかー!?

 一部脱力しそうな声も、今の二人(一人+一匹?)には届かない。

 互いに目の前にいる|強敵(ライバル)だけを見ている。

 そして始まる|決闘(どろじあい)。

「|避けてみろ、ただし地球は粉々だ(グロロロロロオ)!!」

「考えやがったなコンチクショー!!」

 そんなくそ熱い地球をかけたバトルを経て…。

「|こんな形でなければ、お前とは友達になれたかもしれないな…(グルルルルルル)」

「それは違うよ、僕と君は敵だから出会うことが出来たんだ」

 …な感じで最終的には種族や言葉を超えて分かり合った挙句に友情が芽生えたり…・・そんな安易でお手軽で涙を誘う展開は全くこれっぽっちも無かった。

 そもそも、これはそんな熱血格闘系ではない。

 選択肢は三番、現実は非情である。

ーーーまあ、サイヤ人でもなければ死にかけたからっていきなりパワーアップはしませんよねぇ〜。

 何とか赤い玉を使って熊モドキを撃退することに成功した少年だが、代償に大分手ひどくやられてその場で倒れてしまう。

「誰か…力を貸して…」

 少年の言葉を最後に、風景がフェードアウトして行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『次回に期待して43点!!』

 高町家、なのはのベッドの上でルビーがのたまった。

 事情を知らなければ寝起きの奇行に思わずカウンターを入れていたかもしれない。

 さっきまで見ていた夢の批評なのだろうが、そもそもなんで杖が夢なんて見られる?

「えへへ〜なのはもう食べれないなの〜」

 ちなみに、部屋の主であるところのなのははまだお休み中。

 幸せそうな寝顔で涎を垂らし、お約束の寝言を吐いている。

 そんなものを見逃したら、愉快型魔術礼装の名が泣く…なので、ルビーは当然の如く携帯の動画機能を起動、一部始終を撮影して朝食の席で披露して大爆笑を勝ち取った。

 

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「なのは、どうしたの?」

「はにゃ?」

 かけられた言葉になのはがはっとする。

 私立聖祥大附属小学校、三年生のなのはが通う学校の屋上だ。

 そして、声をかけてきたのは金髪のツンデレ…もとい、友人のアリサ・バニングであり、その隣には、これまた友人の和風ロリッ子…ではなく、月村すずか…最近、ルビーに毒されてきているのを感じるなのはは苦笑い。

 時刻は昼、三人はベンチに並んで腰掛け、各々の弁当を広げていた。

 ちなみに三人の馴れ初めは|いじめっ子(アリサ)に、|苛められっ子(すずか)で、すずかのカチューシャをとって苛めていたアリサになのはがアリサをひっぱたいてからお説教、その後は取っ組み合いの喧嘩に発展した。

 肉体言語から始まるあたりが難だが、結果的に三人は親友となったのですべて良しである。

 しかし、喧嘩してから仲良くなるなど、何時の時代の不良理論だ?

「何か心配事でもあるの、なのはちゃん?」

「すずかちゃん…うん、またルビーちゃんがね…」

「「ああ、やっぱり?」」

二人ともすぐに納得してくれた…割と良くあることなのだ。

「またルビーって奴が迷惑かけたの?いい加減にしなさいっていうのよ!」

 ちなみに、二人はルビーをなのはの友人と思っている。

 なのはがそう言ったからだ。

 というよりそう言わざるを得なかった。

 親友に嘘をつくのは心苦しいものがあるが、空を飛んで会話をし、しかも魔術まで使う無機物の存在をどう説明しろと?

「にゃはは、ルビーちゃんも悪気は…無いと思うんだ」

「その間は何よ?」

 なのはの額に冷や汗が流れる。

 頭の中に浮かぶのはいつも楽しそうに『あはぁ〜』と言いながら空を飛ぶ友人で師匠で恩人の姿だ。

「そんなに迷惑をかけられて嫌じゃないの?」

「で、でもお友達なの」

「なのは、あんた人が良すぎるわよ?」

 呆れているアリサの後ろでは、すずかがコメントに困った顔をしている。

 なのははルビーのことが嫌いではない。

 むしろ好きな部類に入るが、あの悪戯好きはどうにかならないだろうかと時々思う。

 悪いことをしたらちゃんと謝ってくれるし、二度としない。

 しかし、ルビーはさらに手を変え品を変えで色々な事をやらかしてくれる。

 やっていることはどれも悪戯の域を超えないし、なのはや他の家族が本当に嫌がることは絶対しないのだ。

 その境界線をきちんと把握した上で、デットラインのギリギリまで責めてくるチキンレースを楽しんでいる節もある。

 今朝の寝顔暴露にしたって、なのはは恥ずかしかったが他の皆は笑顔だった。

 ルビーにはそういった微妙なバランス感覚があるので、憎みきれないのだ。

 …あれ?それって普通の悪い人よりたちが悪いって事じゃないなの?

「それに未だに紹介もしてくれないし」

「いや〜それは…」

 あんな物を紹介したら何が起こるか解った物ではない。

 どんなにシミュレートしても、大騒動一択の未来しか予想できないのだ。

「なのは、ねえなのはったら!」

「ふえ?」

「やっと帰還したみたいね?」

 気が付けばアリサがなのはの事を呼んでいたようだ。

 意識が軽くあっちの世界に旅立っていたらしい。

「な、何なの?」

「だから、今日の作文のことよ!」

 いつの間にか話題まで変わっていたらしい。

 一体どれだけの時間、自分は呆けていたのかと冷や汗が流れる、

 そんななのはの百面相を見て、アリサの後ろですずかがニコニコ笑っているのはどういう理由だろうか?

「聞いてるの、なのは?」

「うん、聞いてる聞いてる」

 アリサの言う作文というのは今日の授業で出された宿題だろう。

 内容は自分の将来について…まあ、学生には定期的にあるイベントのようなものだ。

「アリサちゃんとすずかちゃんは、もう結構決まってるんだよね?」

「うちは…お父さんもお母さんも会社経営だし…いっぱいちゃんと勉強して、跡を継がなきゃ…ってことぐらいだけど?」

「私は機械系が好きだから…工学系で、専門職がいいなって思ってるけど…」

 …いや、将来について明確なビジョンを持つことはぜんぜん悪くない。

 むしろ良いことだとは思うが、堅実すぎて8歳児のそれではないなーとも思う。

 親にしてみれば、こんなしっかりした娘を持って安心アンド鼻高々だろう。

「そういうなのははどうするのよ?」

「うーん、やっぱり翠屋の跡継ぎかな」

 あくまで表向きである。

 なのはの本当の夢は”魔術使い”になる事だ。

 魔術使いになって、困っている人を救いたいというのが、なのはの本当の願い…そういえばとなのはは思い出す。

 なのはが魔術を教えてくれとルビーに言った時の話だ。

 「泣いている子がいたら助けてあげたいの」と言ったら、あのルビーが珍しく真剣な雰囲気をまとったのだ。

『なのはちゃん?それは魔術師じゃなくて魔術使いです。とっても難しいことなんですよ?』

「魔術使い?なのはがんばるの!!」

『そうですか…正義の為でなく、誰かの涙を止める魔術使い』

 ルビーはしばらく悩んでいた。

 何をそんなに考えていたのかは、今でもなのはにはわからない。

 更に子供だった当時は尚の事だ。

『フフフ、やあーっぱりなのはちゃんには才能があったんですね〜。よーっし、なのはちゃんががんばるならおねーちゃんがんばっちゃいますよぉ〜』

 そう言ってルビーは魔術を教える事を了承してくれた。

『まず初めにルビーちゃんの事はししょーと呼ぶのです』

「はい、ししょー」

『千里の道も一歩から、まずはご町内に愛される魔女っ娘から目指しますよぉ〜』

「なのはがんばるよぉ〜」

 そんなこんなで海鳴の魔女っ娘は誕生した…あの頃は若かったな〜となのは(8歳)は思う。

 その後、何故か桃子が参加してきて衣装のデザインを担当することになった。

 自分から名乗り出たらしい。

 ちなみに、新しい衣装ができたときには必ずファッションショーと銘打って家族にお披露目する絶対ルールが出来上がっている。

 美由希はそんななのはをかわいいとほめた挙句に抱きついてくるし、父と兄は微笑ましく見ているが……最近、なのはもそろそろ何かおかしくないかとは感じ始めているのだ。

 自分はひょっとして着せ替え人形的な玩具にされていないか…とか…美由希は高校生だからなかなか乗ってこないし、いやがるけどなのは素直だから…なんて考えたら負けかなと最近になって思う。

 ともあれ、魔術で困っている人を助けたいというなのはの根幹にあるのは、ルビーとの出会いだ。

あの日、泣いているなのはの前に颯爽と現れ、父親を癒し、バラバラになりかけていた家族をつなぎ戻して笑えるようにしてくれたルビーに、なのはは今でも感謝している。

 …だから自分も…どこかで泣いている誰かを見たとき、その人を助けたいと思った…その為の魔術だ。

 そんななのはの思いをルビーに伝えた事はない…子供とは言え、流石に気恥ずかしいものがある

 もっとも本当に伝えたりしたら、ルビーは罪悪感や色々な物に生まれてきてごめんなさいするかもしれないが…なのははそんな事は知らない。

 …目の前で泣いている誰かの涙を止める。

 それが魔術使いなのはのあり方だ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ねぇ、今日のすずか、ドッジボールすごかったよね〜」

「うん、かっこよかったよね〜」

 なのはが自分のあり方を確認した放課後、三人は歩いて塾に向かっていた。

 塾に向かう停留所から、塾のある場所までは少し歩かなければならないのだ。

 三人は体育の授業中のすずかの活躍で盛り上がっている。

 すずかはおっとりした外見とは裏腹に、スポーツ方面ではクラスと言うか学年でも頭一つ分ぬきんでた身体能力を持っている。

 運動神経の切れているっぽいなのはにとっては羨ましい限りだ。

「あぁ、こっちこっち。ここを通ると塾に行くのに近道なんだ。」

 不意に、アリサがそんな事を言い出した。

 指差しているのは公園の中だ。

「えっ、そうなの?」

「うん、ちょっと道悪いけどね」

 そう言って、アリサがさっさと公園の中に歩き出す。

 この三人の中で先陣を切るのは大抵の場合でアリサだ。

 それになのはとすずかがついて行くのが恒例だが、今回もそれは例外ではない。

「あ、おーいアリサちゃんやないか?」

「え?あ、はやて」

名前を呼ばれたアリサが振り向き、それになのはとすずかが習えば、声の主はすぐに見つかった。

 公園の反対側に、自分達と同い年くらいの少女がいる。

 車椅子に乗っている栗色の髪をショートボブにした女の子だ。

「はにゃ?」

 それを見たなのはが軽く反応する。

 名前は知らないが見たことのある顔だったからだ。

 しかも、アリサの知り合いらしい。

「誰?」

 唯一、この場で本当に彼女を知らないすずかがアリサに聞いた。

「ああ、ごめんね。最近知り合った八神はやて、私達と同い年よ」

「はやて言います。よろしゅう」

 車椅子で近づいてきたはやてが挨拶する。

「あ、こちらこそ」

「よろしくね、はやてちゃん」

 あわててなのはとすずかも挨拶を返した。

 初対面の挨拶は人間関係の基本だ。

「そや、アリサちゃん?また現れたらしいで?二丁目の路地裏で変態から女の子助けたらしいわ」

 はやての言葉に、なのはが内心だけで反応する。

 その場所と話の内容は、昨日女子高生が豚男を半殺…ゲフンゲフン…なのはが駆けつけた場所だ。

「また人助けしてるの?よく飽きないわね〜」

「そこが魔法っ娘のいいとこやないの?」

 …なのはの胃がきりきり痛み出した。

 これがプレッシャーというものなのかとなのはは学ぶ。

「ねえ、二人とも?一体何の話をしているの?」

 話を振ってくれたすずかに、心の親指を立てる。

 なのはから話を振れば、どんなぼろを出すか知れない。

 何より、自分の噂なんて聞きたいような聞きたくないような…。

「すずかも知っているでしょう?魔女っ娘の話」

「ああ、そういえば聞いたことがあるかも」

「私達はその子に会いたいのよ」

「な、なんで?」

 軽く引きつりながらもなのはが聞く。

「実はね、私二ヶ月前に誘拐されたの」

「えええ!!」

 あのいつもおっとりしたすずかが、驚きの悲鳴を上げた。

 まあ正しい反応だろうが、なのはは驚かない。

 何故ならば知っているからだ。

 ついでに言えば、その誘拐されたアリサを救い出した張本人がなのはだったりする。

 いきなり『キュピーンと来ちゃいましたー』とルビーが叫び、気が付けばアリサが監禁されていた場所に行き着いたと…助けない理由があるはずもなく、誘拐犯達にガンドを雨あられと叩き込んで殲滅。

 連中は心に恐怖を刻まれ、刑務所の中で模範囚になっているそうな、性格がとても丸くなっているらしい。

 なのはの魔術特性は収束、開放、制御、操作など、やたらと放出に傾倒しているため、魔力弾など使った日にはには漏れなくオーバーキル気味になる。

 ガンドだって結構上位の魔術なのだが、初級魔術より早くなのはが真っ先に使えるようになったのがそれだった…本当に規格外な娘だ。

 その後、万が一にも正体がばれたりしたら恥ずかしくてしょうがないので、アリサを開放したら逃げるようにその場を離れたのだ。

「そ、それじゃ…はやてちゃんも?」

「ん?いやいや、家はそんなお金持ちやないよ。うちの場合は図書館で本をとってもらったんよ」

 これまたなのはがやった。

 だから、なのはははやてに一方的な面識がある。

 しばらく前、図書館に行った時の話だ。

 なのはは高い場所にある本が取れなくて困っている車椅子の女の子を見つけた。

『ムム、フラグのにおいがしますよ!!』

「フラグ?取りあえずお手伝いしてくるね」

 それを見て当然手を貸してあげようとして…。

『まってくださいなのはちゃん、魔女っ娘が人助けをするときは常に変身してからですよぉ〜』

「え?別に変身しなくても…あーーー!!」

 …な感じでルビーが余計なことをした。

 いきなり現れた魔女っ娘に図書館中の視線+はやての驚きの視線を受けたなのはは頭に血が上り、はやてに本を取ってあげると全力全開全速力でその場を離脱したのだ。

 そんな訳で、はやてには初対面だがなのはははやてを知っているという奇妙な状況が完成したのである。

 もっとも、名前を知ったのはついさっきのことだが。

「その魔女っ娘がね、お礼を言う前にいなくなったもんだから探しているのよ。そんな訳で色々捜し歩いていたらはやてと知り合ったってわけ」

「うん、うちもお礼を言いたいと思って図書館に通ってたんやけど、現れてくれんでな」

「にゃははは」

 アリサはともかく、はやてには悪いことをした。

 探していたとしても会えるはずがないのだ。

 最近、あの図書館には行っていないからエンカウントしようがない。

 正体はばれていないと思うが、羞恥心でなのはの心が折れた。

 子供に羞恥心がないと思ったら大間違いだ。

 魔女っ娘は正体を秘密にしなければいけないとルビーに言われているので、自分から名乗り出ることも出来ないから罪悪感がグサグサ刺さってくる。

『もしもばれたら…クククッ』

 何故かと聞いたら、きっちり不安になるような部分で話をぶった切ってくれた。

 おかげでなのはは怖くて誰にも自分が魔女っ娘である事は言ってない。

 知っているのは家族だけだ。

「き、きっと魔女っ娘さんもアリサちゃんとはやてちゃんが感謝しているって伝わってると思うの」

「ん?」

「うーん」

苦しい…実に苦しい話だ。

「そんなわけないでしょうなのは?」

「流石にそれはちょっとなぁ〜ロマンチックすぎと思うわ」

「ははは、そだね」

 …嘘をつくのは大変だとなのはは学んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 …そんな少女達を見る一対のアーモンド型の瞳がある。

 その持ち主は人間ではない。

 銀に近い灰色の毛並みが美しい猫だ。

 自由奔放で移り気、一日の大半を寝て過ごす毛むくじゃらが、一つのことに集中してじっと息を潜めているということは実は珍しい。

 せいぜい獲物…主に鼠とかゴキブリを狩る時位の物だ。

 そして狩を成功させると彼らはそれを主人に見せる癖がある…死んだ鼠の死体やつぶれたゴキブリは実に鬱な気分にしてくれること請け合いだ。

 そんな愛すべき彼の生き物は、背の低い植木の陰に隠れてじっと前を見て動かない。

 まるで監視しているかのように…。

『猫さん?私はこう思っているんです…』

「…!!」

 猫が全身の毛を逆立て、尻尾をピンと立てて解りやすく驚いた。

 更に振り向いたところで硬直する。

 何時の間にか、鋭敏な猫の感覚すらもすり抜けて至近に来ていたのは…空中浮遊する杖だった。

 しかも微妙に男前な兄貴の幻視が見える。

『幼女はいいものだ…と』

「……」

 猫の表情から感情など読み取れないが、それでもあえて言うのなら、猫が杖をここに馬鹿がいるという目で見た…気がする。

『彼女達は夢一杯、可能性一杯です。大きい女性をからかって楽しむのもそれはそれで面白いのですが、それとは違ったファンタスティーックでドラマスティーックを感じませんか〜?』

 クズだ。

 ここにいるのは間違いなく外道の眷属だという目で猫は杖を見る。

 実に表情豊かで芸達者な猫がいたものだ。

 というか津久井ヴォイスを真似るな!!

 クーガーの兄貴はそんな逆光源氏なことは言わない!!

「大は小をかねるのか?否、あえて言おう。大が小をかねたらとっても痛いと!!」

 …世の中の幼女はこいつから逃げるんだーと猫は思った。

 なんか色々混じっている。

 こいつちゃんと自分の言っていることが理解できているのか?

『もちろん小さければ男の子もありですよ』

 …男の子も全員退避ーと猫は思った。

 こいつは真性だとも思った。

『ルビーちゃんのこんな思い、理解してくれますよねぇ〜さっきからなのはちゃんたちをガン見している同士の猫さん?』

「理解できるか!私は女でロリ趣味はない!!ついでにショタ属性もないから!?」

 

ーーーザ・ワールド、時は止まる。

 

『…おや?』

 

ーーーザ・ワールド、時は動き出す。

 

『今、貴方しゃべりませんでしたか?』

「……ニャー」

 人間で言うとヤバイと…そんな感じの表情を作った猫はそっぽを向き、ワザとらしい猫なで声を上げた。

 毛皮がなければだらだらと汗が流れていたに違いない。

『そういえば、何か猫にしては妙に大きな魔力を持っているようですけど…』

 ルビーと名乗った杖がプレッシャーをかけて来る。

 猫はもう限界だと逃げ出そうとして…。

『はいはい猫さーん?』

「……っ!!」

 振り向かなきゃ良かったのだが、既に後の祭りである。

 猫の目に映ったのは回転するルビー…その動きに目が釘付けになる。

『カカカ、所詮は畜生!!本能には逆らえないでしょう?さあさあ、遊んであげましょう。さらには首をくすぐって上げますよー、なでなでして欲しかったら洗いざらいはいてしまうがいいのですよぉ〜』

「……」

 悪魔超人のように笑うお前の方がド畜生だと睨む猫だが、その前足はルビーに向かって一歩を踏み出した。

 所謂、悔しい!でも遊んじゃう!!な状態である。

 目の前には実に猫のつぼを突いた動きをするルビー…じりじりと、猫は恍惚とした表情で引き寄せられるかのようにルビーに近づき、その前足から爪を伸ばしてルビーを引っかこうと…。

(助けて…)

『あれ?この声は?』

 肉声ではない声が聞こえて、しかも何か聴き覚えを感じたルビーは思わず回転を止める。

「は!わ、私は何を…フシャー!!」

 正気に戻った猫が、また人間の言葉を発して一目散に逃げる。

 『あ、猫さーん』

 ルビーの呼びかけに、今度は振り返ってたまるかと止まるどころか加速して猫は逃げた。

『…世の中には変な猫がいるもんなんですね〜』

 …誰かが聞いていれば、お前以上に変な奴なんかいるかと突っ込みを入れていただろう。

 

そしてその夜…。

 

『え?魔力を持ったフェレット?』

「うん、そうなの」

 何でも、ルビーが聞いたあの声をなのはも聞いたらしい。

 その時、ルビーは猫に構って見ていなかったが、なのはが声を頼りに探してみれば、怪我をして力尽きていたフェレットを見つけたそうな…問題なのはその後、なのはの魔術師としての目は、傷だらけのフェレットから漏れ出ている物を見た。

 フェレットは魔力を持っていたのだ。

 なのはと違って、魔力を見る目を持っていないアリサとすずかは単純に傷だらけのフェレットに驚き、すぐに近くの動物病院に連れて行った。

 その後、急いで帰宅したなのはは事の次第をルビーに相談して今に至る。

 ちょうど夕食時だったため家族も皆そろっているので全員の視線がルビーに集まった。

『それはいてもおかしくないですよ。ルビーちゃんも今日魔力を持った猫にあいましたし、この世界にも吸血鬼なんかがいるくらいですから』

「ぶ!!」

 …何故か恭也が噴出したが、そこは武人一家。

 美由希はひらりと軽く避け、士郎は桃子ごととんだ。

 運動神経のないなのはと夕食のおかずに関しては、ルビーが飛んできた物をシールドでそのまま跳ね返した。

 おかげで、自分で噴出した物で恭也がダメージを食らってる。

「恭ちゃん、どうかしたの?」

「い、いや…何でもない」

 妙に挙動不審になっておきながら、なんでもないはないだろうと思うが…。

「ル、ルビーちゃん?猫ちゃんはケットシー?」

『デブ猫じゃなかったですね〜長靴も履いていませんでしたし、でもやれば出来るかもしれませんよぉ言葉をしゃべっていましたから』

「そうなんだ〜」

 なのはが目をキラキラさせている姿を見ていると実に癒される。

 何故、子供というのはこんな風に無条件に癒しオーラを持つのだろうか?

「それにしても言葉をしゃべる猫ね〜ルビーちゃんに関わってから常識って何だろうって時々思うわ」

 美由希が苦笑しながら言う。

 苦笑で済んでいるあたりが慣れだろう。

 それでいてルビーの言葉を嘘だとは思っていない。

 まあ、ルビーを見慣れていれば大抵のことは信じるだろう。

「それにしても、この町に吸血鬼?」

『いますよぉ〜なのはちゃんのお友達のすずかちゃんが吸血鬼じゃないですか?』

「ええ!?」

「何故知っているルビー!?」

 トンでもサプライズを喰らったなのはの驚きを打ち消すかのように、怒鳴ったのは恭也だった。

『何でって、感覚の目で見れば』

「そんなスタンドを見る感じでわかるもんなのか!?」

『割と』

「割とわかっちゃうもんなんだー!!」

 恭也がゲシュタルト崩壊を起こしていた。

 そんな家族の姿に、女性陣は軽く引いている。

 いきなり奇声を上げる人間を前にすれば、正しい反応だろう。

「恭也、知っていたのか?」

「う…その、すまない」

 いい加減見かねた士郎が恭也に聞くと、もはや言い逃れは出来ない(ルビーの言葉と自分のリアクションでごまかしは不可能になった)と諦めた恭也があっさり認めた。

『すずかちゃんのお姉さんの忍さんももちろん吸血鬼ですからね』

「…そうだ。月村家は夜の一族と呼ばれる家系なんだ」

 恭也の様子から嘘ではないと解る。

 というか、仮にも付き合っている相手をこんな冗談のネタにする恋人はいないだろう。

「ル、ルビーちゃん?本当なの?」

 やはり信じられないのか、美由希がルビーに聞いて来た。

 忍もすずかも、美由希と面識がある。

 そんな相手が実は吸血鬼だったと知れば、驚くなという方に無理がある。

『ええ、まあ…とはいえ、あそこまで混血が進んでしまうとたいした力は持っていないでしょう』

「そ、そうなの?」

『そうですね〜普通の人よりちょっと運動能力が上がったりする位じゃありませんか?健康のために日光浴だって出来ると思いますよ』

 思い当たることがあるのか、なのはがコクコク頷いていた。

 某騎士王を髣髴とさせるリアクションだ。

『もはや幻想種とはいえませんね、血は吸えるかもしれませんけど他人を死徒にする力も無いでしょう。ちょっと妙な体質を持った普通の人ですよ』

 ルビーの基準では、吸血鬼とは噛んだ相手を食人鬼にするのは当然で、更に体内に666の獣を飼ったり、殺しても転生して死ななかったり、条件がそろったら現象として形をとった挙句に自分の世界を作り出すようなそんな連中だ。

 混血にしたって、見ただけで相手を燃やし尽くしたり、もしくは人外の膂力を発揮して素手で人体を破壊するとか、死神の目でも持っていなければ驚くに値しない。

 そんな連中と比べれば、忍もすずかも十分一般の人間のカテゴリーの中に入る。

「すずかちゃん…」

『言わなかったのは嫌われたくないからですよ、きっと…でもこれからなのはちゃんが魔術師として成長していけば、いずれ気づくことですからね、それでもすずかちゃんとお友達でいられますか?』

 ルビーの問いかけはかなり突っ込んだものだった。

 雰囲気に他の誰も介入できないが、そうでなくともここは二人以外の誰も入っていい話しではないと黙っている。

 なのはにとって、避けて通れることではない。

 相手が友人であることに加え、|魔術師(なのは)もまた……吸血鬼と同じ世界の存在だ。

「すずかちゃんは…お友達だよ。これからも…」

『なのはちゃんはいい子ですねぇ〜ルビーちゃんとってもいいマスターに会えました』

 ルビーがくるくる回りながら飛んで嬉しさを表現している。

 聞いていた皆も、なのはの答えにほっとした。

 一番安堵したのが恭也なのは言うまでもない。

『それにしても変ですね〜』

「へ?何が?」

『フェレットの話ですよ』

「あ…」

 全員が思い出した。

 もともとはなのはが見つけたそのフェレットが話の中心だったのだ。

『も〜皆さん駄目ですよぉ〜わすれちゃ、メ!』

 話がずれた原因は、多分にルビーに有る気がするのだが…これ以上脱線するのはアレなので口を噤む…その代り後で覚えてろよと視線に思いを込めた。

『なのはちゃんの才能ってかなり偏っているからすずかちゃんの正体に気づかなかったのはまあ仕方ないです』

「うう…」

 なのは涙目、そろそろ|恭也(シスコン)が小太刀を取り出し始めた。

『そんななのはちゃんに解ったくらいですから、そのフェレットの垂れ流しになっている魔力は結構多かったはずなんですよ』

「え?あのフェレット君が?」

『何者なんでしょうね、そのフェレット?』

 何か起こりそうな気がしますよ〜などと言いながら、ルビーは内心どきどきわくわくしていた。

 しかし、何も起こらなかったとしてもそれはそれで問題ない。

 何もおこらなかったら無理やり介入して何かを起こす。

 それがルビークヲリティー。

『しかし、この時はまだ誰も…ルビーちゃん本人さえ、あんな結末になることなど予想してなかったのですマル』

「ルビーちゃん?何イミフなこと言ってるの?」

『最近推理物にはまっているんですよ』

「へ〜それってじっちゃんの名に懸ける方?それとも真実は一つの方?」

『あえて言うなら古畑さん一択で』

「ああ、何かとっても納得出来たの〜」

 アレも結構腹黒だから?

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい? あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう? だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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