リリカルとマジカルの全力全壊 無印編 第十二話 後より出でて我が道を行く物 |
「撃ち抜け…轟雷…」
斧状のデバイス、バルディッシュに魔力が宿り、闇を切り裂く黄金の静電気がほとばしる。
それは、主たるフェイトの|魔力光(いろ)だ
「サンダースマッシャー!!」
『Thunder Smasher』
バルディッシュの電子音声がフェイトの言葉を復唱し、先端から顕現させたのは、天の裁きに例えられる神鳴り、夜の闇を駆け抜ける黄金の刃。
『…プロテクション』
どこまでも平静な声が響く。
鋭い稲妻の矛先が向かう先に現れたのは、桜色の魔力光で形作られた魔法陣。
破壊と守り、正反対の方向性を持つ両者は、交通事故かと思うほどの轟音と共にぶつかり合う。
結果は拮抗…雷光が魔法陣を破る様子はない。
「……」
自分の放った電撃が防がれるのを見てもフェイトに焦りはなかった。
この結果は予想のうち。
攻撃と防御、両者を比べた場合、余程の差がない限り盾となった魔法陣に軍配が上がる。
放出系の魔法は、目標に向かって飛ぶ間にある程度空気中に拡散してしまうため、同量の魔力なら、術者の眼前で展開されるプロテクションが勝るのは常識だ。
「な!?」
だから、フェイトが声をあげてしまったのはそれが理由ではない。
自分の攻撃を受け止めた桜色のプロテクションが自分の攻撃を受けとめながら…
「大きくなっている?」
否!!
これは近づいてきているのだ。
「くっつ!!」
とっさに回避行動をとったフェイトの直近をプロテクションが通り過ぎる。
ちらりと、プロテクションに隠れるようにして白いバリアジャケットの後姿が見えた。
そのまま、人間大の砲弾となったプロテクションは背後にあった岩に衝突し、あっさりと打ち砕いて土埃を巻き上げる。
「あいたた…」
『大丈夫ですか、なのは様?』
「うん、ありがとうレイジングハート…でも失敗だね、プロテクションで攻撃をはじいている間は前が見えないんだもん」
立ち上る土埃を?き分けながら、立ち上がったのはなのはだ。
あれだけに派手に岩に突っ込んでいったというのに無傷…考えるまでもなくプロテクションをクッションにしたのだろう。
そうでなければ、自爆技以外の何物でもない。
「……」
フェイトは|彼女(なのは)に対する認識を改めざるを得ない。
よけたのは正解だった。
今のをまともに受けていれば、大怪我を負っていただろう。
更に、プロテクションに残っていた自分の魔力も食らっていたはずだ。
「フェイトちゃん?」
見上げるなのはの紺色の瞳が、空中にとどまっていたフェイトを見る。
フェイトもそれを見てバルディッシュを構えなおす。
「フェイトちゃん?ジュエルシードを集める理由を教えてほしいの」
「…私と貴女はジュエルシードを集めている。なら…」
「戦うしかない?…そんな簡単に結論を出さないように、お話ししなくちゃいけないんだと思うけど?」
なのはも頑固だ。
すでに戦闘に入っている以上、お話も何もないと思うが、意地でもフェイトから話を聞くつもりらしい。
『フライアーフィン』
レイジングハートが魔法を発動し、なのはの靴に魔法の羽が発生する。
それを見たフェイトが、バルディッシュを構えなおした。
「どうしても、戦わなきゃだめなのかな?」
「賭けて…ジュエルシードを…」
「…わかった。でも、なのはが勝ったらお話聞かせてもらうからね!!」
次の瞬間、なのはが空に駆け上がる、
両者が自分の杖を構えて距離を詰め、戦闘が再開された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「|盾打(シールド・バッシュ)だな」
「ああ」
一連の動きを見ていた士郎の、ぼそりとした呟きに恭也が頷く。
「知っているんですか?」
話についていけないユーノが説明を求めてきた。
魔導師に接近戦の知識は、確かに門外漢だろう。
「西洋の戦闘技術だよ。向こうは片手に剣、反対の手に盾を持つのがスタンダードだったんだが、その内に剣でだけじゃなく盾でぶんなぐることを考えたやつがいたんだ」
「なるほど…」
やり方に違いはあっても、その概念は共通している。
あの砲撃を防ぐ盾をそのまま攻撃に使ったらどうなるかと…その結果があれだ。
まともに当たっていれば、さっきの一撃で決着が付いていてもおかしくはなかった。
しかも、ある程度強力な砲撃を放つとき、術者はどうしても硬直して無防備になるタイミングが発生してしまう。
なのはの攻撃はそれを狙ったものだろう…8歳でこの戦闘センス、しかも魔法というものに触れてまだほんの僅かという事を考えれば、身内贔屓と言われるのを覚悟して、天性とか天才などという言葉を思わずにはいられない。
なのはが力に溺れてしまわないかと、不安がないわけじゃ無いが…子供が正しい方向に枝葉を伸ばせるように導くのは、親や年長者である自分達の義務だろうと士郎と恭也は考えている。
それを過保護と言われようが気にしない。
「それに、あの金髪の子もなかなかできるな」
魔導師同士の戦いを見るのは当然初めてだが、おそらく彼女の戦い方が魔導師のスタンダードだろう。
あの歳で一つ一つの動きに無駄が少ない。
どちらかといえば、近接の方がメインか?
この辺りは、畑が違っても共通するものがある。
きっとよい師に恵まれ、本人の努力が合わさった結果に違いない。
一番感心するのは、戦闘開始前にあれだけルビーにペースを乱されていながら、いったん戦闘が始まってしまえば、そんなの関係ないとばかりに切り替えられた彼女の精神力だ。
その点において、彼女はすでに一流の片鱗を見せ始めている。
「ふん、当り前さ!!フェイトが負けるわけがない」
士郎達の意識を、なのはとフェイトの戦いからの引っ張り戻したのは、力強く誇らしげな声だった。
視線を下げると、挑戦的なアルフの目が三人を見返して来る。
「いや、そんな恰好で凄まれても…」
「だったら離せーーー!!」
アルフの声が下から聞こえてきたのは、単純に声の出所が低いから…戦闘開始と同時に、なのはをフェイトにまかせ、邪魔になりそうな士郎達にとびかかってきた彼女だが、返り討ちにあってこの有様だ。
飛べない御神剣士はただの御神剣士だが、空さえ飛ばなければ、御神剣士二人相手に勝てるやつはそう多くない。
その結果、鋼糸とユーノのバインドでぐるぐる巻きで地面に転がされているというわけだ。
人道とか、男として思う所がないわけじゃないが…手を出して起き上がらせようとすると、噛みつこうとして歯を剥き出しに威嚇して来るので放置中。
下手なところを触ってしまって、妙なフラグ立ても勘弁だし…その場合の男の立場とはヒエラルキーの最底辺に一直線だ。
ついでに、額に貼られた≪賞品≫の紙がかなりの遊び心を感じさせるが、士郎達もルビーとかかわって性格が悪くなったか?
ルビーならストレートに負け犬と書きそうな気がするので、これはまだいい方だろう。
「…ところでユーノ君は大丈夫かい?」
「え、ええ…何とか結界をはれる程度には回復できましたから」
ユーノのいる地面には、白く光る魔法陣が展開されている。
なんでも広域結界という奴で、この辺り一帯を隔離しているらしい。
それがなければ、とっくに大事になっていただろう。
桜色と金色の砲撃が飛び交う極彩色の戦場は、激しく目によろしくなさそうだ。
「おい、あたしを無視するなよ!!」
あらかさまに話と視線を逸らされて怒り心頭なアルフだが…今の彼女は、犬モードから人間モードに戻っている。
おかげで胸とか太股とかが、鋼糸とバインドに押しつぶされていて、ちょっと官能的なことになっていて…男三人は目のやり場に困る困る。
下心はないが、桃子と忍にばれた時が怖い。
万が一、なのはに害虫を見るような眼をされたら楽に死ねるだろう。
「あー、アルフ君と言ったね?解放したら何をするつもりなんだい?」
「もちろんお前らをぶっ飛ばしてフェイトの加勢に行くに決まっているだろ?」
「じゃあだめだ」
交渉ですらなかった。
ぶっ飛ばされると聞いて、素直に開放する奴などいるものか。
「ユーノ君…使い魔というのはみな彼女のみたいな感じなのかい?」
やれやれという感じに、士郎がユーノに質問する。
「いえ…多分、彼女の場合はミッドチルダ…僕達の世界にいた狼をベースに使い魔を作ったんだと思いますが、まだ使い魔になって間もないんだと思います」
「なんだよ、文句あんのか?」
アルフが歯を剥き出して威嚇してくる。
今の彼女には、それくらいしかできないので仕方がない。
ユーノの説明によると、使い魔は生み出される時点で、術者から最低限の知識を与えられはするが、そこから先の知らない知識や能力は自分で経験を経なければ、身につかないらしい。
「なるほど…」
士郎は大体の事情を理解した。
アルフが使い魔になった経緯は問題じゃない。
重要なのは、狼だった時期を計算しなければ、彼女の年齢はおそらく5歳にもならないだろうという事だ。
つまり、見掛けは大人のアルフだが、その内容はなのはよりも子供…ところどころに見せる子供っぽい仕草や、感情的な所がむしろ彼女の素…つまり、アルフの直情的だったり、あまり深くものを考えない部分は、正しい意味で若さゆえの過ちということになる。
「「……」」
士郎は恭也と視線を向けると、恭也の目に理解の色があった。
先日の翠屋での事は恭也にも話してある。
故に、この状況のおかしさを理解したのだろう。
いかに優れているとはいえフェイトは子供だ。
それに随伴させるのが、見た目はともかくこれまた子供…しかも監視されているらしい状況で、アルフが無力化されたというのに助けに来ないということは、他に仲間がいないことを意味している。
ルビーはジュエルシードをかなりの危険物と判断していた。
つまり、おそらく黒幕だろうフェイトの母親は、子供二人にそんな危険物の回収を丸投げした上に、見ているだけで何のバックアップもしていない。
そんな事がありうるのだろうか?
それは…何らかの理由でフェイトの母親に余裕がないということを意味するのではないだろうか?
微妙に、焦りに似たものを感じるのは…気のせいだろうか?
「…後でルビーちゃんに相談した方がいいかもしれないな」
ルビーも、事がなのはとフェイトに関する事なら少しはまじめに取り組むだろう。
そんな事を考ながら頭上を見上げると、なのはとフェイトの戦いが佳境に入りつつあった。
―――――――――――――
「くっ!!」
迫りくる桜色の閃光を、フェイトは空中でとんぼ返りを打ってよけた。
|砲撃の主(なのは)は、こちらと距離をとって正確に狙い打ってくる。
「この…くらい!!」
なのはの砲撃は、あのルビーを黙らせた砲撃、ディバインバスターだ。
一発でも食らえば、プロテクションの上からでも持って行かれかねない砲撃が、直ぐ傍を通り抜けて行く度に、フェイトの精神が消耗してゆく。
フェイトはじりじりとしたプレッシャーに押され始めていた。
このままではいずれ、精神的に疲労したところで回避を失敗する…勝負に出るしかない。
「バルディッシュ、ブリッツアクション!!」
『Blitz Action』
フェイトの移動速度が加速する。
視界に映るなのはの姿が急速に近づく。
フェイトは、なのはの砲撃にさらされながらも、一つの仮説を立てていた。
彼女が遠距離からの攻撃に終始しているのは、接近されるのを嫌っているからではないだろうか?
最初のプロテクションによる特攻以降、フェイトとの距離を詰めようとはしていないのは、接近戦が不得意か、訓練不足と考えれば説明がつく。
近接戦闘というのは、技術と経験、相手とのかけ引き、加えて相手の攻撃を至近距離で食らうかもしれない恐怖を屈服させなければならない。
おそらく、実戦経験の少ないなのはには、それらの感覚が養われていないのだ。
フェイトはそこに勝機を見出した。
『ディバインバスター』
「くっつ!!」
防御はしない。
プロテクションを使えば、防げても足が止まってしまう。
その間に、再び距離をとられてしまうだろう。
だから、フェイトは純粋な身体能力と飛行魔法のみを使って、迫りくる砲撃の射線から自分の身をずらし、紙一重でかわす。
急旋回で体がねじれ、砲撃がかすってマントがちぎられるが、構っちゃいられない。
それで勝てるなら安いものだ。
「あ!」
フェイトの動きに驚き、対応出来ないなのはの顔を横目に、彼女の直ぐ傍を駆け抜けて背後に回り込むことに成功した。
なのははが振り向こうとするが遅い。
デバイスは、砲撃の残心で、前方に向けられたままだ。
…完全に取った。
しかし、フェイトは魔法を発動させない。
魔法を発動させれば、どうしても次の行動までに、僅かとはいえタイムラグが生じる。
そんな隙を見せる気はない。
見せていい相手じゃないと思うから、斧状のバルディッシュで純粋に殴りに行く。
「…ごめんね」
振り向こうとしている彼女の横顔を見ながら、バルディッシュをがら空きの背中に叩きつける。
魔法を発動させていないバルディッシュは、非殺傷指定などないただの鉄の棒だ。
バリアジャケットの防御力で致命的なことにはならないだろうが、それでも衝撃を完全に消す事は出来ないだろうし、誰かに武器で殴りつけられるのは恐怖以外の何物でもあるまい。
…ここで彼女の心を折り、この戦いを終わらせる。
心でもう一度謝りつつ、しかし一切の手加減をせずにフェイトはバルディッシュを叩きつけた…ガキンという音と手ごたえが、バルディッシュを持つ両手に返ってくる。
「な!?」
跳ね返ってきた反動に、思わずフェイトが声を上げる。
明らかに、バリアジャケットの感触ではない。
「そんな、“剣”なんて…一体何処から?」
フェイトは見る。
なのはが背後からの攻撃を、“白刃”で受け止めているのを…なのはは右手にレイジングハートを持ち、左手で細身の直剣を逆手に構えてフェイトの攻撃を受け止めていたのだ。
『ディバインバスター』
「くっつ!」
フェイトの本能が、認識より早く緊急回避を取らせる。
後ろではなく前、なのはの頭上を飛び越える最短ルートを通りながら、一瞬前までいた場所を閃光が通り過ぎるのを見た。
…ゼロ距離から放たれたディバインバスター!?
見れば、なのはが剣を持つ左手の脇を通すようにレイジングハートを構えている。
魔法による加速の効果が残っていなければ、避けられなかっただろう。
「捕まえたよ、フェイトちゃん!!」
「っつ!!」
フェイトがはっとする。
レイジングハートに気を取られ過ぎた。
見れば、なのはが剣を持っている方の手の指が一本、自分を指している。
その指先には魔力の光が宿り、直後にズドンという音とともに、放たれた魔力弾がフェイトに迫る。
「が!!」
さすがに、これは避けられなかった。
体の中心に魔力弾が直撃する。
バリアジャケットでダメージは軽減されるが、吸収しきれなかった衝撃が、体を突き抜けて背後に抜けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
上手くいった…なのはは左手の剣…黒鍵を握りなおしながら思う。
黒鍵はルビーに作り方を教わり、なのはが作った礼装だ。
本当は、投げつけて使う物らしいのだが、まだ成長途中のなのはの小さな手では一本持つことしかできない。
柄だけの黒鍵に魔力を流すと、再び魔力で作られた白刃が現れる。
魔法と違って、魔術には非殺傷などという便利なものは存在しないため、魔力を調整して刃はつぶしてあった。
なのはの持つ強大な魔力によって、右手のレイジングハートで魔法を使い、左手で魔術を行使するのが、魔導師であり魔術師であるなのは独自のスタイルだ。
そのおかげで純粋な魔導師であるフェイトより、一枚多い手数を保持することができるが…なのははそれを土壇場まで温存していた。
…千載一遇のチャンスをつかむために。
最初に、ディバインバスターを見せたところから全て…意味もなく|最強の手札(ディバインバスター)をさらしたように見せて、なのはとの遠距離戦に危機感を植え付け…距離をとって接近戦を嫌がっているように見せて誘い込み…勝利を確信したフェイトの裏をかく所まで…なのはとレイジングハートは魔術師としての計算された合理的な思考によって戦場を支配していた。。
唯一の懸念材料はやはり接近戦だった。
フェイトの考えた通り、なのはは近接戦は素人に毛が生えた程度でしかない。
魔術で体を強化して、やっとフェイトの斬撃を受け止めることができる程度…もう一度やれと言われても自信がない。
しかし、それでもやらなければ勝てないと思った。
魔法の訓練を積む時間のあったフェイトに対して、自分は魔法を手に入れてから半月も経っていないのだ。
これで両者に差がなければそれこそ詐欺だろう。
誰よりもなのはがそれを理解していたからこそ、リスキーな賭けにでるしかなく、そしてなのはは賭けに勝った。
そのはず…なのに…。
「まさか、倒せないなんて…」
『手ごわいですね、なのは様』
軽い口調は内心の動揺を隠すため、なのはの耳には、自分の心臓がすごい速さで鼓動を打っている音が聞こえていた。
「ゲホ、ゲホ…」
咳き込みながら、それでも落ちることなく空中にとどまり続けているフェイトがいる。
ガンドの威力が、バリアジャケットを貫けないのは想定していた。
それでも、威力の半分はフェイトの体に届いたはず…気を失っていてもおかしくないというのに、フェイトはいまだ、バルディッシュを手放しさえしない。
「フェイトちゃん…フェイトちゃんにとってジュエルシードは、そんなに大事なものなの?」
「ゴホッ…貴女には…関係ない」
この期に及んで、フェイトは理由を語ってくれない。
フェイトの眼には、覚悟と決意の色があった。
「…フェイトちゃん」
フェイトが、バルディッシュを構えるのを見たなのはは、あわててレイジングハートと黒鍵を構えなおした。
フェイトがダメージを受けているのは間違いない。
まだなのはの方が有利…だが…。
『なのは様?』
黒鍵とレイジングハートが小刻みに揺れている。
なのはのふるえが止まるより早く、再びフェイトが加速した。
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「…バルディッシュ、もう一度」
『Blitz Action』
フェイトの速度が再び上がる。
わずかな思考の中で出したフェイトの結論は、やはり近接戦だった。
…分かったことがある。
なのはは遠距離ではディバインバスター、中距離ではあの指から出す魔力弾、接近戦においては剣という風にすべての距離に対応できるらしい。
この中で一番厄介なのはやはりディバインバスター…まともに食らえば間違いなく落とされるのだから、やはり砲撃戦は却下。
次に中距離戦、あの魔力弾は意表を突かれたとはいえ、バリアジャケットで受け止めることができた。
故にそれ自体は脅威とまでは言えないが、なのははどういうわけかデバイスとほぼ同時に魔力弾を放てるらしい。
動きが止まったところで、ディバインバスターを打ち込まれれば結果は同じだ。
そして近接戦…剣で受けられ、返す刀でディバインバスターを撃たれたものの、ほかの技術に比べ…あの剣技だけはどうにも素人臭かった。
もしあの時、剣をわずかにずらして体勢を崩されていたら、無防備なところにまともにディバインバスターを受けていたはず。
彼女の剣には、そう言った“技”に類するものが感じられなかった。
例えるなら、力任せにたたき切るそれ…彼女の体格でそれだけの力が出せるのも疑問だが、今はどうでもいい。
重要なのは、彼女の接近戦には付け入る隙があり、自分は接近戦が得意ということだ。
「レイジングハート!!」
『ディバインバスター』
距離を詰めようとするフェイトに向けて砲撃が来た。
見え見えの大技は明らかな誘い、しかしこのまま食らうわけにもいかないので、相手の想定内の行動と分かっていて射線から体をずらす。
「くっ!!」
案の定、避けた所になのはの左手から、マシンガンのような魔力弾の嵐が来る。
「こんな事までできるなんて…」
必死に回避する。
手足に数発食らってしまうが、無視して加速する。
止まってしまうのが一番まずい。
すでに、なのははディバインバスターのチャージに入っているはずだ。
終わる前に距離を詰めなければやられる。
「でも…これなら…」
魔力弾に誘導性が無いのは幸いだった。
最小の動きで、魔力弾の間をすり抜けて行く。
相対速度で視認などできない状況で避けられたのは、経験に裏打ちされた勘以外の何物でもなかった。
「早い!?」
さすがに、この速度はなのはにも驚きだったようだ。
彼女の驚く顔が、何故か可笑しくてほほが緩みそうになるのを、無理やり押し込む。
フェイトは、速度をゆるめることなくなのはの下に飛び込み、バルディッシュを槍のように突き出した。
「で、でも!!」
早いとはいえ、動きそのものはただの直線行動、なのはは剣を構え、バルディッシュの穂先に当てて狙いをそらす。
両者の間から火花が飛び、なのはとフェイト、二人の顔が照らされ、至近距離で視線が絡み合う。
狙いを逸らされたバルディッシュは、なのはの顔の真横を抜けて背後にそれた。
「レイジングハート!!」
「させない!!」
なのはが、レイジングハートを向けようとしてくるのを、フェイトは足の裏で受け止めて抑える。
砲口を自分に向けさせなければ、砲撃など怖くない。
「バルディッシュ、アークセイバー!!」
『Arc Saber』
…これで、詰んだ。
―――――――――――
フェイトが魔法を発動した瞬間、なのはは自分の敗北を悟った。
背後、具体的には首のすぐ後ろに魔力を感じる。
死角なので確認はできないが、おそらくは魔力で作られた刃がある。
このまま、フェイトがバルディッシュを手前に引けば、ギロチンの如くなのはの首を魔力の刃が薙ぐだろう。
なのはの回避も防御も、間に合わない。
『…ジュエルシードをお渡しします』
「レイジングハート…」
レイジングハートから、ジュエルシードが吐き出された。
「…あなたの事を良く思ってくれる。…いいデバイスだね」
ジュエルシードが移動し、バルディッシュに吸い込まれる。
それを見たなのははため息をついた。
…レイジングハートの判断は正しい。
言い訳のしようもないほど、完全ななのはの負けだ。
そして、最初にジュエルシードを賭けていた以上、フェイトにジュエルシードが渡るのも当然だ。
「…ごめんなさい。もう少しだけ」
「え?」
フェイトはそう言うと、なのはにバルディッシュを突き付けたまま、地上を見た。
そこには、拘束されて地面に転がりながらも、してやったりな顔をしているアルフと、その近くに自分達を見上げてくる士郎と恭也、ユーノがいる。
「…アルフを開放してください」
士郎が苦笑しながら手を振ると、アルフをからめ取っていた鋼糸がすべて外れる。
「あ、士郎さん!?」
「ユーノ君、ここは黙って言うとおりにしてくれないか?」
「う…」
フェイトの鎌は、なのはの首をとらえたままだ。
ユーノは、渋々ながらバインドを解除した。
それを見たフェイトは、なのはからバルディッシュを離し、ゆっくりと地上に降りて来る。
「…いいのかい?」
解放されはしたが、警戒心を保ったままのアルフが問いかけてきた。
士郎と恭也の実力は、文字通り身を持って知っている。
二人とユーノの三人がかれば、アルフを再び捕まえられるだろう。
なのはが人質と言うなら、こちらはアルフを人質にする事も出来たはずだ。
「何、これはお礼さ、フェイトちゃんとの戦いは、なのはにもいい経験になっただろうからね」
実際、空が飛べないとはいえ、士郎と恭也がなのはに味方していれば、勝ちは揺るがなかったはずだ。
しかし、だれよりなのはがそれを望まなかっただろう。
結果として戦うことになったとはいえ、なのはは、どうにもあのフェイトという子に感じるものがあるらしい。
戦う相手に、必要以上の思い入れを抱くのは危険だとは思う。
彼女達は確かに幼い。
しかし、だからこそ純粋に真剣なのだ。
親としてはそれを大事にしてやりたいとも思う。
子供の問題は、子供達だけで解決した方がいいに決まっているのだから…幸い、魔法には非殺傷設定というものがあるらしい。
本当に危険になる前には介入するが、逆にそれまでは二人の好きにさせる事で恭也達とも話し合っていた。
今回はなのはの負けだが、負けて学べることがあるのも知っている。
それだけでも、この戦いの意味はあったと士郎は思うのだ。
後の子供達のフォローは大人の仕事…と言うより、そのくらいしか大人の出る幕はあるまい…親バカと言いたかったら好きに言え。
「…フン、フェイト!!」
士郎の答えに、おもしろくなさそうに鼻を鳴らしたアルフが駆ける先には、フェイトがいる。
「やったねフェイト〜やっぱあたしのご主人様はすごいよ!!」
フェイトに抱きついて、全身で喜びを表現するアルフは、まさに犬のようなはしゃぎっぷりだ。
「うん、でも危なかったよ」
勝利者のはずなのに、フェイトは敗者のなのはよりボロボロだった。
二人を見比べて、フェイトが勝ったと思う人間はそう多くないだろう。
それでも、彼女が勝ったという事実は変わらない。
彼女はなのはに勝って、ジュエルシードを手に入れたのだ。
「さあ、目的は果たしたんだ。帰ろうフェイト」
「うん、そうだねアルフ…ってあれ?」
「おっと」
戦闘の疲れか、ふらついたフェイトをアルフが受け止める。
「大丈夫かい、フェイト?」
限界が来たか?
フェイトが勝ったとはいえ、ダメージは明らかにフェイトの方が多い。
「アルフ…何か変…」
「フェイト?」
フェイトの顔色が悪い。
妙に青ざめているのを見たアルフは不安になる。
「体が動かない」
「っつ!!」
言われてアルフも気がついた。
体の動きが鈍い、しかも徐々に動かしづらくなってゆくこれは…。
『ふふふっ風下に立ったが主らの不運よ!!』
この場にいる全員が気付いた。
声が言う所の風上に何かがいる。
『今回ルビーちゃんが全然出てこないからって油断しちゃいましたね〜?あはぁ〜」
それは間違いなくルビーだった。
しかも、ルビーの周囲から何か燐分のようなものが発生して風下…つまり自分たちの方に流れてきている。
これは…。
『忍法、春花の術ですよ〜解説しよう!!春花の術とは、風上から粉末状の毒をばら撒いて風に乗せ、風下にいる連中を一網打尽にする忍法である!!Byカムイ外伝』
「「「「「毒!?」」」」」
律儀なルビーの説明に、全員の声が悲鳴になった。
バリアジャケットは、衝撃や魔力の防御には優れているが、空気を遮断するような機能はない。
「ってなんで僕たちまで!?」
抗議がユーノから来た。
彼だけでなく、士郎や恭也まで被害を食らって倒れている。
悲鳴が多かったのは彼等のも込みだったからか?
確かにこの術は人間を区別することはできまい。
文字通り風下にいた不運というやつだが、そもそもなんでそんなものを使う?
…まさか本当に命にかかわったりする物をばら撒いていないだろうな?
「あ、あわわ…」
唯一、被害を受けていないのは、空中にとどまり続けていたなのはだ。
しかし、みんなを助けようと下に降りれば、ルビーが言う所の春花の術に巻き込まれてしまう。
八方塞がりな状況についていけず、目を白黒させることしかできない。
『負けたらジュエルシードを渡すとは言いましたが、簡単に帰すなんて誰が言いましたかぁ〜』
「この…卑怯者!!」
アルフの言葉を、誰も否定できない。
清々しい位の悪人で外道だった。
「フェイトは…あたしが守るから」
「アルフ…」
しびれる体に鞭打って、アルフがフェイトを引き寄せ、抱き込んでルビーを睨む。
見上げた忠誠ぶりだ。
じりじりと、ルビーが二人に近付いていた。
『あはぁ〜スーパールビーちゃんターイムですよ〜…ん?』
何かに気づいたルビーの動きが止まる。
脈絡のなさに、全員の頭に?マークが浮かんだ。
『…スーパーよりすぅ〜ぱ〜と平仮名の方がいいでしょうかね?』
「「「「「知るかぁーーー!!!」」」」
息の揃った全突込みだった。
『あはぁ〜それでは改めまして〜お二人様ご案なーい』
「ちくしょう、来るな!!」
「アルフ…」
アルフがフェイトを庇い、フェイトはアルフに強く抱きついて思わず目を閉じる。
カッポーーーン
「「は?」」
次の瞬間…気がつけば、フェイトとアルフは並んで温泉につかっていた。
『あはぁ〜とぅーびーこんてぃにゅ〜ですよ〜』
…ルビーにかかわって、すんなり奇麗に終われると思う方が甘いのだ。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ | ||
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