ラステイションの花嫁 (1)  新郎新婦入場
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〜ラステイションの花嫁〜 (1)

 

「夢について、君は何を感じる?」

 

「――えっ!?」

 

 私は思わず素っとん狂な声を上げてしまった。

 声が教会中に響き渡ろうとも、それがはしたないことだと理解していても、驚かずにはいられなかったのだ。

「ノワール……そんなに驚いた顔をしないでおくれよ。今の君はとても言葉には出来ないような表情をしているよ」

「そっ、そんな変な顔はしてないわよ」

「僕に嘘をつかなくてもいいよ、ノワール。今の君は『合理的で、損得感情でしか動かないケイが夢なんて曖昧な言葉を口にするなんて意外ね』って顔に書いてあるから丸わかりさ」

「……どんな顔なのよ」

 しかも、見事に図星を言い当てられた。

 さすがケイね。交渉事に慣れているだけあって相手の感情のわずかな機微を読み取ることに人一倍長けている。私はそこを見込み、性格を無視した上で、彼女を教祖へと推薦したのだけれど。

「そんなことより君は夢という言葉から何を感じる? 何でもいい。思ったことをオブラートに包み隠さず、率直に述べて欲しい。将来に対するロマンでも、はたまたセンチメンタリズムな運命でも構わない。今はとにかく君の意見を聞きたいんだ」

「何よ……気味悪いわねぇ」

 さっきとはまた別の意味でケイの言葉にどきりとしていた。おそらくケイは私に語りかけることで何かを探っている。

 私――いえ、私とユニに関する何かを。

 コホンと咳払いをしてから、思考を落ち着ける。

「夢とは一言で語り尽くせる程、小さくはないと思うわ。それは将来だったり、願望だったり、または寝るときに見るものだったり、状況によって様々な形を私たちに見せてくれる。それを望むときは甘い果実を口にしているような――心地よい気分に浸れるわ。と、まあ、今思い浮かぶ限りだと……ざっとこんなところかしら」

「なるほど……君の意見を聞いてはっきりした。やはり共通するイメージは曖昧模糊だ。雲のように掴みどころがなく、液体のようにするりと手の平から零れ落ちてしまう……夢に実体なんてあるわけ無いだろう? 現実はそう甘くない。寝ているだけで夢が叶うはずないんだ。どんなに甘い夢を見ても、それは逃避以外の何物でもない」

「その通りね。夢に形なんてない。ましてや寝ているだけでは夢を実現できない。だけど、空想することによって計り知れないエネルギーを得ることが出来るのは事実よ。人は夢を追い続けることで、生きる喜びを実感できる。自分の中に秘められた欠片を寄せ集めて、それを形にしようとする力こそが夢なのよ」

「随分と声に熱が籠っているじゃないか。驚いたよ。君もまた、夢を追い求めている一人なのかい?」

「まあね。私はラステイションの女神よ。他の国とのシェア争いで遅れを取るわけにいかないわ。特にプラネテューヌにはね」

 当然のことながら嘘はついていない。

 女神として自国のことを優先するのは当然のことだから。

 それと、ケイには声優を目指していると言ってもいないし、言う必要すら無い。

「国の発展を第一に考えてくれるのは嬉しいね。鼻が高いよ。だけどノワール、君の持つ夢の価値観に対して、これだけは言わせてもらうよ」

 ケイの鋭い視線が私をとらえた。

 

「ナンセンスだ」

 

 ケイの声が教会に響いた。

しんとした教会の中にぴりりとした緊張が満ちていく。

「そんな日和見主義じみた考え、排除してかかるべきだ。甘ったれた考えは捨てるべきだと思う。確実なものだけしか僕は信用しない主義でね、夢とか希望とかそんな形ないものに僕はすがりたくない。人生とは積み木のようなものだ。もちろんそのままでは不安定だからすぐ崩れてしまうだろう。だが、しっかりとした土台さえあれば難なくクリアできる問題だ。接着剤でも何でもいい。強く固定するものがあればそれで十分なのさ。天才じゃなくても、積み重ね次第で、人は人生の勝者に成り得るのさ」

「夢は接着剤にすら成り得ないとでも? 実にあなたらしい考え方ね。次からはリアリストとでも呼ぶべきかしら?」

 むっとなって言い返した。

 なんだか声優になりたいという夢そのものを愚かだと否定された気がして、ついついキツイ口調になってしまった。

「夢と現実の区別が出来ていると言ってほしいな。僕にだって血も涙もある。もっとも、君のようなロマンチストにはなりきれないけどね」

 ケイは神妙にうなずきながら、腕を組み始めた。

「ノワール、君は現実は厳しい事ばかりで溢れてると思わないか? だからこそ世の中には、形のない空想であったほうが幸せなこともある。叶えられない夢はその人にとって残酷なものでしかない。夢は夢で終わるべきなのさ」

「ちょっと……それはどういう意味よ?」

 私が問うと、ケイはにやりと薄ら笑いを浮かべた。普段、笑うことのないケイが笑うのは、とても空恐ろしいものを感じさせた。

「憶測で物事は口にしないことにしてるのさ。特に今回のケースに限ってはね」

「今回のケース? 何よそれ」

 薄ら笑いを浮かべながら、教壇に歩いていくケイ。その手にペンとメモが握られているのが、私の目を引いた。

 私の話を記録していたわけでもなさそうだし、何かの重要な書類だろうか?

「君と話せてよかったよ、ノワール。確証はないが、おかげで確信の方が高まった」

「ちょっと、あなた一人で勝手に納得しないでよ。憶測でも推測でも何でもいいから話しなさいってば」

「本当に分からないのかい? となるとアレは僕だけが体験した幻なのかな。まあ、仮にアレが現実だったとしても、今のところ危険はなさそうだ。万が一何かが始まったとしても君がいる」

 ケイは振り返った。

 その視線はさきほどの何かを探るような目つきだった。

「ノワール、これだけは胸に留めて欲しい。夢を追いかけるのもいいが、現実だけは見失ってはいけない。何が夢で、何が現実なのか、その境目だけはしっかりと区別するべきだ。さもないと過去の亡霊に足をすくわれてしまうよ」

「それは忠告のつもり?」

「違うさ。これは警告だよ。夢を見る者に対しての、ね」

「何よそれ。あなたらしくもないわね」

「直に分かるさ。ま、分からない方が面倒事も少なくて幸せだと思うけどね」

「……無駄話はお終いにしましょう。そろそろ仕事を片付けさせてちょうだい」

「了解。僕の方もそうさせてもらうよ」

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 ケイはそう言って、執務室に戻っていった。

 私も自室に戻り、机に着く。ペンを握って書類と格闘を始める。

 書類と向き合いつつも、私は内心、首を傾げてばかりだった。

 ケイの警告――その言葉の50%を理解できているかどうかと問われればノーだと言わざるを得ない。

 

 詩的というか……どうにも表現が曖昧で、彼女らしくないと思う。それは夢や希望にすがれないと言ったケイ自身もそう感じていることだろう。

他ならぬ彼女自身ですら頭の奥から懸命に言葉を捻り出してきているような仕草だった。だからこそ詳しく語ろうとせず、あえてあのような曖昧な言い方をしたのかもしれない。

 

 夢――私とケイの会話の主題であり、何度となく交わされた言葉。

 

 やはりこれが大きく関係しているのだろうか。

「バカらしいわね」

 考えを振り払うように私は首をふった。

 その一方で、深層心理にいる私は、バカには出来ないと告げている。

 だとするとこれは私だけの問題ではない。下手をすればこの国――ラステイションに関わる一大事と成り得るかも知れないだろう。

 私は大きく背伸びをした。眠気が押し寄せて、欠伸まで出てくる。

 私は夢という単語に、非常に敏感になっているだけだ。

 それはケイだけでなく、もしかするとユニもそうなのかもしれない。

 だけど、もし夢が夢だけでは終わらず、はたまたそれが現実のモノとして形を伴なったとしたら?

「もし悪夢が現実になったら……!」

 気づけばペンを持つ手が震えていた。その反動で書類を数枚落としてしまった。ふにゃふにゃに曲がった文字が書類をすっかり台無しにしている。

 夢が現実のモノへと姿を変えていくような気味の悪さに、背筋がぞくりと震えあがった。

 いくらなんでもそれはシャレにならない。

 

 ――夢。

 

 声優になりたいという願望が叶うのならともかく、夢が現実になるのはなんて恐ろしいことなんだろうか。

 言葉こそ同じでも、そこに含められた意味は百八十度異なるといってもいい。

心の奥底から闇が這いよってくるような錯覚に囚われ、心臓がどくどくと脈打っている。

 

 ――最近、恐ろしい夢を見た。

 

 ――巨大な影。

 

 ――そいつは私の前に現れて、何かを告げた。

 

 ――そいつはとある願いを私に持ちかけた。

 

 ――私がそれに対して、何と答えたかは覚えていない。

 

 ――何かを答えたかもしれないし、答える前に夢から醒めたのか、それすらも定かではない。

 

 ――私の記憶はそこですっぱりと途切れているからだ。

 

 その願いがどんな内容だったか、今となっては思い出せない。

目が覚めた後、時間が経つにつれ、私の記憶に霞がかっていったからだ。

 

 ――ただ、そのときのことを思い出すと、ひどく落ち着かない。

 

 ――それがユニに関係しているような気がして、心の中に荒波がさざめき立つのだ。

 

 たかが夢。

 されど夢。

 はっきりとした確信はない。

 真実は、頭の奥底にたちこめる、深い霧の中に包まれたまま。

「夢は夢で終わる、か。目覚めてから悪夢が続いたら、恐すぎるものね。……はあ、夢もいいことづくめではないわね」

 私はペンを置いて、イスに寄りかかりながら自分の身体を抱きしめた。

 ああ、どうしよう。こんな惨めな姿をユニかケイに見られでもしたら、恥ずかしいなんてものじゃすまされないわ。

 私は耳たぶまで真っ赤にして、呼吸すらまともに出来ないだろう。そのまま両手をじたばたさせながら悶え死ぬかもしれない。

 ……というか今まさにもうしている。

 けれど、今の私はそうせずにはいられなかったのだ。

「ケイのバカ……恐くて眠れないじゃないの」

 

 

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 男は絶望していた――

 

 理不尽な現実と、残酷なこの世界に。

 男は憎悪していた。

 心には憎しみの炎を宿し、終わることなき怒りに胸を震わせていた。

 同じ人間同士であるにも関わらず、なぜ上と下の身分があるのだろうか。

 

 名誉。

 権力。

 地位。

 家柄。

 

 たった二文字で事足りる肩書き程度で、人間の位が決まってしまうと言うのなら、この世界は狂っている。

命に上も下もない。誰か一人が得をせしめて、誰か一人が損を背負うことはあってはならない。

人間は等しく平等であるべきなのだ。

 

 この世界は間違っている――

 

 男は富裕と貧困の差に、原因があると信じて疑わなかった。

 

 ――貧しい子供には夢すら与えられないというのか。

 

 ――苦しみ抜きながら、のたれ死ねというのか。

 

 ――飢餓に苦しみ、娯楽の楽しみを知らず、先の見えぬ明日に怯え続ける毎日。

 

 そんなのは死よりも辛いではないか――

 

 男は革命を求めた。

 富裕と貧困の壁をぶち壊すために。

 貧しい子供達のためなら、躊躇いなく悪事に手を染めた。

 娯楽の楽しさを知らぬ子供達にマジェコンを無償で手渡すことで、救済を差し伸べた。その手がどれほど真っ黒に染まろうと厭わなかった。

それが世界に救済をもたらせると信じて疑わなかった。

 たとえ邪心を崇める異教徒と後ろ指をさされようとも、それが暗闇の世界に光を差し込めるのなら、男は喜び勇んで正義の刃を振りかざした。

 

 私が剣となりて、世界の歪みを断ち切ろう――

 

 そのためなら男は自分の幸福をかえりみなかった。ただ、子供達の笑顔を守り抜くために。

 それが男の信じた道であり、生きがいだった。

 そんなときだ。

 

 男の前に彼女が現れたのは。

 

 “バッカじゃないの!”

 

 彼女はそう言って、男の信念をいともたやすく切り捨てた。

 声こそ一人前に大きいが、身の丈は男の半分にも満たず、男の目に、彼女は非力でか弱い子娘にしか映らなかった。

 普段ならば、取るに足らない小娘の戯言など、鼻で嘲笑って見過ごしていただろう。

 しかし、今回ばかりはそうもいかなかった。

 

 彼女は女神だったのだ――

 

 男にとって因縁の宿敵であり、世界を歪める元凶そのものだったのだ。

 男は彼女との出会いに、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられなかった。そう。今やそこにいるのは非力でか弱い小娘ではなく、男は世界の歪みと、真っ向から対峙しているのと等しかった。

 

 “ズルをしても幸福は訪れないわ。自分のお金で買って、初めてゲームの楽しさが分かるのよ”

 

 とりとめもないその言葉は、男の心を大きく揺さぶった。男にとって信念を否定されることは、己の存在理由そのものを否定されたのと同義だった。

 もちろん死ねと言われて簡単に死ねる程、男は潔くない。

 

 生きる意味を――人生そのものを否定されたのだ。

 

 男は真っ向から彼女に決闘を挑んだ。己の信念を賭けて、三度に渡る死闘を繰り広げた。

 一度は容易く勝利を治めることができた。だが、二度目からそうはいかなかった。

 戦闘技術においては男より劣る。だが、信念の強大さにかけては男の巨体を軽々と上回っていたのだ。

 

 そして、いつしか男は敗北した。

 

 信念と信念のぶつかり合いに、己は敗れ去ったのだ。

 所詮、自分の生きがいとはその程度のものだったのかもしれない。

 だが、男はそれでも希望を捨てなかった。

 彼女の掲げる理想にいたく心惹かれ、別の可能性を感じていた。男は彼女に共感し、変貌を遂げた。折れ曲がった信念は形を変え、新たな生きがいが男の中で生まれてすらいた。

 いつしか男はこう願っていた。

 

 ――彼女が欲しいと。

 

 男にとってそれは生まれて初めての願望といえるものだった。

 誰かの為ではなく、自分の為に。

 

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「ほう……肉体は滅びても、精神は未だ健在か」

 暗闇の中に、女の声が響いた。男の意識しか存在しないはずの、この空間に。

「その声は……マジックか?」

 マジック・ザ・ハード――それが声の正体であり、男にとって上司にあたるべき存在だった。

艶めかしい肢体と、妖しげな薄ら笑いを浮かべているのがいやに特徴的な女だった。

絶世の美女――というよりかは、氷の女王という表現が的確かもしれない。

「久しいな、ブレイブ。女神に敗れたと聞き及んでいたが、まさかこのような場所で生き永らえていたとはな」

 男は名を呼ばれたことで今さらのように自分の名を思い出していた。

 男の名はブレイブ・ザ・ハードといった。マジックと同じく犯罪組織に所属しており、なおかつ四天王として肩を並べる存在であった。もっとも、組織内の立ち場や発言力はマジックが上なため、同格とは言えなかったが。

「死んでも死にきれないさ。生憎、私は死に場所を見つけてすらいない。だから、こうして人前に化けて出ることもある」

「安心しろ、ブレイブ。役目なら十分果たしてくれたさ。お前が敗れたことで、我らの理想が一つ達成された」

「どういう事だ? むしろ私が敗北を喫したことで、組織は多大なる被害を被ったのではないか?」

 ブレイブの問いかけに、マジックは不敵な微笑で応えた。

 それは蛇のようにぎらついていて、こちらが隙でも見せようものなら容赦なく喉笛を食いちぎってくる類の危うさを孕んでおり、女と言えども油断できない雰囲気を醸し出している。

「貴様に続いてトリックも敗れた。残るは私一人だけ。……この状況を不利と呼ぶのならば、そうなるのかもしれないな」

「トリックが敗れた……だと!? それは真なのか!」

 ブレイブは驚愕した。

トリックとはブレイブと同じく、四天王の一人だった。志こそ違えど、共に肩を並べて戦った戦友の一人だ。その訃報を耳にして冷静を保つなど不可能だった。

「ああ、事実だ。貴様のように未練たらしくこの世に留まる気配すら感じられない。肉体も精神も跡形もなく消滅したのだろう」

「そうか……やつは本懐を遂げたのだな」

 ブレイブはそっと目を閉じて、戦友に黙祷を捧げた。

 彷徨うことなく成仏できたなら、きっと名誉の死を遂げたのだろう。何の執着も残さず、心おきなく眠りにつけるのはなんと幸福なことだろうか。

「私も堕ちたものだな。死して尚、未練を晴らす為にこの世を徘徊し、未だに目的を果たせずにいる。墓場で安らかに眠りつくことはおろか、死霊のように現世をさまようこの現状を良しと考えている。畜生以下の存在だよ、私は」

「何を嘆く、ブレイブ。簡単な事だ。未練があるのならば晴らしてしまえばいい話ではないか」

「だが、そう上手くいく話ではないのだよ。目的の達成は非常に困難極まる。私の進むべき道は、いつも茨に阻まれている。痛手を伴なわなければ歩くことすら適わない」

「そんなことは当然だろう、ブレイブ。何かを手に入れるには、それ相応の代償を支払う必要がある。我ら四天王の前に、女神という最大の障害が立ちはだかったようにな。で、貴様をこの世に縛るモノとは一体何なのだ?」

「言えぬ。私の沽券に関わる話だ」

 口を閉ざそうとするブレイブに、マジックはさらなる追い打ちをかける。

「貴様を倒した、女神候補生のことが気になるのか?」

「――何故それを?」

 ブレイブはマジックをじろりと睨みつけた。

「ふっ、やはりそんなところか」

 分かりやすい男だ、と肩をすくめるマジック。

「難しく考える必要はない。手に入れたければ力づくで奪い去ってしまえばいいだけの話だ」

「断固、拒否する」

「何故?」

「私の流儀に反するからだ」

「他に方法があるというのか?」

「私の道に、諦めの二文字はない。私という存在があり続ける限り、何度でも再起する所存だ」

 胸を張ってそう答えるブレイブに、マジックは挑発的な笑みを投げる。

「威勢がいいことだな。――だが、どうするつもりだ? 肉体が滅んだ貴様にはあの小娘を抱きしめることが出来るのか? 抱きしめることはおろか、触れることすら叶わないはずだ」

「それは……っ!?」

 ブレイブの声がかすれ、動揺が露わになる。それを見とったマジックの笑みがより一層、色濃いものとなった。

「ふん、諦めるのか。貴様の未練とやらも程度が知れるな」

 ブレイブは歯がみするような思いでうつむいた。

 彼は彼女をものにする為に、思いつく限り様々な方法を試してきたつもりだ。といっても今や精神だけの存在と成り果てた彼に出来る事と言えば、人の夢に入り込んで何かを伝えるくらいだ。

そうして彼女と接触を図ろうとしたのだが、ブレイブは直前で怖気づいてしまい、妥協に妥協を重ねた結果、彼女の姉とその教祖とコンタクトを図ることにしたのだ。

 彼女の姉とは曖昧な結果で終わってしまったが、決定的となったのはラステイションの教祖と接触を図ったときのことだった。

直接ダメ出しこそされなかったものの、女神と婚約の契りを交わすに当たり、いくつかの交換条件を提示された。それはラステイションのために無償で労働力を提供したり、献上金という名目で多額の料金を支払わなければいけなかったり等々、無理難題を押し付けられたのだ。これでは条件を飲む以前にダメだと言われているようなものと変わりない。

「今の貴様に出来ることはもう全て試したのだろう? そして残された道は、女神候補生の夢に直接赴く以外に他ならない。

――そうは思わないか、ブレイブ?」

 一度は力づくも考えた。しかし紳士的な彼は、彼女に婚約を申し込むにあたって、やはり彼女の意思を無視して、一方的に自分だけの想いを貫き通すことは((憚|はばか))られたのだ。

「ブレイブ、貴様は難しく考え過ぎだ。時には水のような柔軟性で、臨機応変に立ち回らなければならないこともある。例えそれが、己の流儀に反することであってもな」

「……たしかにお前の言う通りかもしれんな、マジック。目の前に困難が立ち塞がった程度でむざむざと足を止めるとは、実に私らしくもなかった。……私が何のために生き恥をさらしたのか、その意味さえ見失うところであったよ。礼を言わせてもらおう」

「ふん、礼には及ばないさ。その気になったならば、私に構わずとも、貴様の未練とやらを晴らしにいくがよい」

「そう言ってくれるか、マジック。……かたじけない。この恩はいずれ、返させてもらおう!」

 高らかに叫ぶと、ブレイブの姿は消え去った。影も形も残さず、彼方へと霧散していった。

 一人、取り残されたマジックが秘かにつぶやいた。

「愚かな男め。……全く、利用しがいがあるというものだ」

 口元を歪め、薄らと微笑んだ。

「成否は問わない。あの男の行動がどちらに転ぼうと、我らの目的はおのずと果たされる」

 それは心臓が凍りつくような、残酷な笑みであった。

 

「――全ては犯罪神様のために」

 

 

                          〜ラステイションの花嫁 (2)へと続く〜

説明
「――ユニっ、私と結婚してほしい!!」 ラステイションの女神、ノワールは最近、変な夢にうなされていた。それは妹のユニによって討ち取られたはずの男――ブレイブ・ザ・ハードが世にも恐ろしいことを言いながら迫りくるという内容だった。「もし夢が現実のものとなったら?」ノワールは、バカげていると自分に言い聞かせつつも、それがただの夢であると自分に納得させることもできず、押し潰されそうな不安に憑りつかれていた。やがて、姉妹の仲を引き裂くようにそいつは現れた。「お義姉さん! あなたの妹を私に下さい!」 ……果たして、姉妹はどうなってしまうのだろうか?  (※今回は、前回と打って変わって連載形式です!)
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コメント
ロージュ&ミヤウエさん>>コシヒカリありがとうございます! マジックさんは犯罪神さまのためにしか動かない人なので、何か裏があるのかも…(っ´・?・`c)おっ、お二人方も参加されるのですか! これは楽しみになってきました。素晴らしい一冊を作れるよう、共にがんばりましょう!(銀枠)
クロさん>>お米うまし! はーいっ、ご期待に添えられるよう、全力を尽くさせてもらいますね三` ω´)っ(銀枠)
はぜおうタイプさん>>お米ありがとうございます! たしかにあのロボットみたいな見た目はかっこいいけれど、恋愛対象として見れるかと問われればまた別の話になりますよね。⊂(`?ω?´)つ私の文なんてまだまだです。頑張ります!(銀枠)
「全ては犯罪神様のために」とはいえ、マジックさんがブレイブの青春?恋路?なんでもいいや。猛プッシュするなんて思いもよりませんでした。話は変わりますが、ウチら合同本参加することにしました。メールフォームの方(間違えて2回送っちゃいましたが)で送信しましたが、一応スタッフの一人であるあなた様にも勝手ながら連絡させていただきます。(柏中ロージュ&ミヤウエ)
これからも頑張ってください!!応援していますよ〜!!(クロ)
ブレイヴさん…マジックか何かに身体作ってもらえれば……。引かれてる原因の殆どが図体だろうに…。しかし文章力すごいなー、あこがれちゃうなー。(リアルではおぜうタイプ@復帰)
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