リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第一話 Re-ignition
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「「「「ハッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜♪ハッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜♪」」」」

 海鳴市の隠れた名店、翠屋の店内に誕生日の歌が響く、歌っているのは4人の少女達、なのは、すずかにアリサとフェイトだ。

閉店した店内には子供達の他に、大人達が各々適当な椅子に座って子供達の合唱を微笑ましく見つめていた。

「「「「ハッピバ〜スデ〜ディアはやて〜♪ハッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜♪」」」」

 明かりを消した店内で、唯一の光源は?燭だ。

 ケーキに刺さった蝋燭の明かりに照らし出されているのは今夜の主賓、八神はやてである。ケーキの上に置かれているチョコレート製のプレートには《誕生日おめでとう!はやてちゃん》とある。

「おおきに、皆おおきにな」

 車椅子に座ったはやての瞳からにじむものがある。

 自分の誕生日を祝ってもらえることがよほどうれしいらしく、何度も何度もありがとうと言い続けるはやてからは、喜びと感謝を存分に感じられた。

「っちゅーても私の誕生日は明日なんやけどな〜」

 誕生会を一日早くしてくれと頼んだのははやてだ。

 八歳最後の夜を皆で語り明かして終わりたいという我儘だが、友人達は満場一致でそれを快く承諾してくれた。

 なので誕生会の後は、なのはの家にてお泊まり会が控えている。

 そんな理由でもなければ、まだ小学生のこのメンツがとっくにゴーホームしてなければならないような夜中に、集まる事などできなかっただろう。

「もう、はやてったら大げさよ?」

「さ、はやてちゃん、蝋燭を吹き消して」

「よっしゃ」

 気合い充填、息を大きく吸い込んだはやてが、一息で9本の?燭を吹き消すと、唯一の光源を無くした店内が真っ暗になる。

 次いで、明かりが付けられた室内は誕生会の飾りつけがされており、はやてに向かって四方からクラッカーが鳴った。

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとうはやてちゃん」

 皆がはやてを取り囲み、口ぐちに祝福する。

「ありがとう。みんなありがとう。わたしはわたしのままでええんやね!?」

「なんでいきなり最終回な事言ってるのよ?」

 しかも打ち切りっぽい終わり方だ。

 劇場版の予定でもあるのだろうか?

「フッ、愚問やね〜アリサちゃん?目の前にネタがあればとりあえずボケとく、それが関西人のDNAを持つ者の義務や!!」

 関西在住の人が聞いたら強烈な突っ込みが来そうな事をのたまいやがった。

 ひょっとしたら愛すべき馬鹿かもしれないが…この女、油断も隙もあったもんじゃねえ!!

「いっや〜ごめんなアリサちゃん、今日のわたしは最初っからクライマックスなんよ〜」

 今宵のはやては笑いに飢えている?とにかくテンションがまともじゃない。

 両親を事故で亡くし、財産管理をしてくれる叔父はいるものの、海外にいてなかなか日本に来る事が出来ない。なので、はやてもその叔父さんの名前は知っていても、実際に会った事はないのだとか、ホームヘルパーの人は来てくれているらしいのだが、彼等は家族では無い。仕事が終われば家に帰らざるを得ない人達だ。

 後にははやてだけが残される。この辺りはそれぞれの家庭の事情なので、他人ではなかなか踏み込めない。

 そんな彼女だからこそ、皆が自分の為に店を借り切って誕生日会を開いてくれたことがうれしくてたまらないのだろう。

「し、仕方ないわね…き、今日だけは特別よ?勘違いしないでよね!」

「グフフフ…デレたアリサちゃんが可愛いすぐる…チューしたい」

「なんだってーーー!!」

 アリサの絵がナワヤ調に濃くなった。

 MMRですねわかります。

「な〜む〜」

「手と手のしわとしわを合わせて拝むんじゃないわよーー!!」

「ツンデレ御馳走さんです!!」

「誰がツンデレか!!後食べるな!!」

「アリサちゃんのクギミー」

「誰よそれ!?」

 分かる人には分かる。

 分からないなら今すぐ釘宮でググれ!!

「アリサちゃんのイケズ〜わたしもファーストキスをかけてんのに〜」

「どんだけ体張ってんのよあんた!?」

 ファーストキスから何を始めようというのか…そこまでやるのかこの女?

「にゃははは〜」

 最近、特に息のあって来た二人のやり取りに、なのはは笑うしかない。

「二人共仲いいよね〜」

 すずかもなのはと一緒に、二人から距離をとったところで微笑んでいる。

 二人とも、アリサの親友であるという事は間違いないが、はやてとアリサの掛け合いはそれとは少し違うのだ。

 あえて言うなら漫才コンビのボケ役と突っ込み役?今の状態の二人に割って入って行くためにはちょっと特殊な感覚が必要になる。

 なので、あれはその中にダイブして行くたぐいの物では無く、テレビと同じようにはたで見るものなのである。何よりここが重要なのだが…。

「はやてちゃんに弄られてワタワタしているアリサちゃん可愛い〜よね♪」

「赤くなっているのがいいわよね〜」

「お、二人とも分かってるやん」

「う、裏切ったなー三人そろって私の思いを裏切ったのねー!?」

 親指を立てあう三人にアリサが絶望した。

 最近の四人の関係はこんなものである。

 一定レベル以上の真面目ちゃんは、総じて弄られ要員かその候補生である。そのギャップが人を萌させるのだ。っと言うかいい加減三番目の子供達ネタから離れよう。

「はいは〜い、子供達〜飲み物持って来たよ〜」

 トレーにジュースを乗せて、子供達に配り歩くのはアルフだ。

「おお、温泉のお姉さんやないですか!?」

「お、覚えていたのかい?」

 アルフが嫌そうな顔だ。

 ここにいる面子で、アリサの次くらいにはやての被害を受けている人物なので仕方がないと言えば仕方がない。

 すでにはやての目がアルフの胸にロックオンだ。

 手などわきわきさせてスタンバっている。

「相変わらずええ物をお持ちで!!」

「近づいたらガブッと行くよ!!」

 はやての存在に、アルフが割と本気でおびえていた。

 やはり、温泉での事が軽くトラウマになったか?

「あ、あの…」

「ん?」

 二人の一触即発状態を解除したのはフェイトだった。

「フェ、フェイト・テスタロッサです。よ、よろしく」

 人に慣れていないが故だろう。

 フェイトは少しおどおどしながらも自己紹介した。ひょっとして自己紹介すら初めてかもしれない。

 ルビーに名乗った時のあれはノーカンだ。名乗ったというより策にはまって聞きだされたのだから、なのでこれはフェイト・テスタロッサのファースト自己紹介?

「これはご丁寧に、わたしの名前は八神はやてや、よろしゅうな」

「よ、よろしく」

 差し出されたはやての手にフェイトが自分の手を重ねる。

 握った手の温もりに、フェイトがほっとした頬笑みを見せる。

「ま〜ったく、なのはもすずかも人が悪いわよ?何で今まで紹介してくれなかったの?」

「にゃはは〜最近知り合って友達になったばかりなの」

「そうなの?」

「ほ、本当だよアリサちゃん」

「ふ〜ん」

 アリサの追及&ジト目にタジタジになりながらも、二人は何とかごまかしに成功した。

 親友に嘘をつく事にはなれる事がないが、流石にこの世界の存在をかけた戦いの中で知り合ったとは言えない。言ったらまず間違いなく心配される。主に頭の中身が大丈夫かどうかという意味において…親友にそんな目で見られるのはいくらなんでも勘弁であるし、かといってフェイト達がこの世界に留まる事が決まった以上、無関係ではいられまい。

 ちょうどいい事に、はやての誕生日が近かったので、合わせて二人に紹介したのだ。

「よ、よろしくバニングスさん」

「え?ああ、こちらこそよろしく、それと私の事はアリサでいいわよ。私もテスタロッサさんじゃ無くてフェイトって呼んでいい?」

「あ、それならわたしもフェイトちゃんって呼びたい」

「ど、どうぞ、ってえ?」

 フェイトがコクンと頷くと、はやてがその手を掴んで握手してくる。 

 速度に優れた魔導師であるフェイトに反応さえさせないとは…今日のはやてはどれだけスペックを水増ししているのだろうか?

「感激やな〜誕生日に新しいお友達が出来るなんて、最高のプレゼントや〜」

 本当に嬉しそうなはやての眼には涙が滲んでいる。

 ただそこにいるだけで、こんなにも歓迎してもらえるなどとは思っていなかったし、こんな反応は見るのも聞くのも初めてだ。

 思わず目を白黒させても仕方があるまい。 

「いい加減にしなさい。困っているでしょう?」

「あいた〜」

 感激しているところに悪いが、話が進まないのでアリサがはやてをはたき倒した。

 はやてもはやてで、痛いとか言っているが、その声は明らかに楽しそうだ。

「フェイトは気にしなくていいわよ。はやてはこう言う恥ずかしいキャラなんだから、いちいち相手してたらきりがないわよ?」

「そ、そうなんだ」

「う〜ん、フェイトちゃん?そこは納得せずに否定してほしいんやけどな〜」

「ご、ごめんなさい」

 わたわたと焦るフェイトの姿は、実によく萌える。

「フェイトちゃんはかわええな〜」

「えう?あ、ありがとう…」

 どうやら、二人の顔合わせは大成功のようだ。 

「さって、そろそろいいかな?はやてちゃん、私達からのお誕生日プレゼントだよ」

「八神はやてさん、お誕生日おめでとうございます」

 なのは達が横にどくと、今までその背に隠れていた人物が前に出てきた。

 金髪に濃い赤の瞳の色、何よりフェイトを小さくしたような容姿の少女が、花束を持って前に出てきた。はやての目が丸く見開かれている。

「はやてちゃん、この子はフェイトちゃんの妹でアリシアちゃんだよ」

「アリシアちゃん?」

 はやてがアリシアを見てプルプル震え出した。そんなに花束に感動してくれたのだろうか?かなり奮発して大きいのを用意したのだ。

「も、もらってええの?」

「勿論、はやてちゃんの為に用意したんだよ」

「そんなら遠慮なく」

 そう言うとはやては花束を受け取った。

 持っている“アリシアごと”。

「ありがとうな皆、わたしらきっと幸せになるから」

「はい、ベッタベター!!」

 スパーンと小気味良すぎる音がした。 

 アリサがその手に持つ巨大ハリセンではやてに突っ込みを入れた音だ。

 今度はさっきまでと違って本気の突っ込みだ。はたかれた方のはやては、顔をのけぞらせている…前から行ったのか?

「いった〜アリサちゃんの突っ込みがどんどん容赦なくなってく〜大体そんなもん何処に持っとったん?」

「女の子には秘密の隠し場所がたくさんあるのよ」

「私も乙女やけどそんな凶悪なもん仕舞えるシークレットゾーンなんて知らんよ!?」

 追及は罪である。

「あ〜も、それはもういいわ、でも顔面叩く事はないんやない?しかも三回も〜」

「は?一回しか叩いてないでしょ?」

「え〜確かに三回叩かれたんやけど?」

 それはひょっとしたら、巨大ハリセンに書かれている《物干し竿Mk2(対はやて専用)》の文字が原因かもしれない。参加者の御剣剣士の目が「こいつ出来る」な感じになっているのが気になるのだが?

「な、なのは〜」

 そして、この流れに付いてこられないのはフェイトだ。

 このメンツに参加してから日が浅いのがやはり致命的か?

「だ、大丈夫だよフェイトちゃん。はやてちゃんだって本当にアリシアちゃんを連れて行こうなんて思っていないよ」

「そ、そう?」

 涙目…本気と書いてマジに、アリシアが取られるとかそんな心配しているらしい。

この子は…生まれと今までの人生が問題ありまくりなので、仕方がないと言えば仕方がないのだがやはりもっと人生経験が必要だ。迂闊に冗談も言えない生真面目さんはきっと騙されて宗教の壺とか買わされてしまう。特に人間に慣れるという意味で、多くの人と関わった方がいい。

まあそれは、なのは達という信用できる人物がいるので問題はなかろう。何よりなのはとすずかという魔法の存在を知る人間が傍にいるという事は大きいはずだ。

 来週には、なのは達と同じ小学校に転校する手筈も整えてあるのだし。

「…ごめんなさい八神さん」

なのは達がそんなやり取りをしている間、あっちの方でも話が進んでいたらしい。

何故かアリシアがはやてに謝っている?

「ん?何やアリシアちゃん?わたしの事はお姉さまでええんやで〜」

「この女、まだ諦めてないの?」

 突っ込みに疲れたのか、アリサのリアクションがおざざりだ。

 はやてもはやてで、その不屈の精神だけは評価してもいいだろう。

 もう少し軌道修正した後でなら尊敬してもいいと思うが今のままでは駄目だ。

「ごめんなさい。私、もうなのはさまのものなんです」

 ピシリと…空間が凍る音がした。

「にゃ?」

 いきなり思いもよらない方向から来た流れ弾に、なのはが反応できずに目を丸くする。

 究極的な爆弾投下…事情を知る全員が目をそらす…なのはから。逆に、はやてとアリサがギギギと音がしそうな動きでなのはを見た。

 その表情をなんと形容すればいいだろう?とりあえず女の子がするにはちょっとな顔だ。

「…アリシアって言ったわね?」

「なのはちゃんの物って…どう言う事なん?」

「私となのは様はサーヴァントとマスターの関係なんです」

 人生において、嘘というのは割と潤滑剤として重要な事がある。

 まだアリシアちゃんには難しいかもしれないが…それなら空気を読んで何も言わないでください|お願いします(プリーズ)…そんななのはの思いは、アリシアに届く前に遅すぎる。

「…奴隷?」

「御主人さま?」

「えー何で二人共、そんな難しい言葉を即答できるの!?」

 ちなみになのはは、英語と日本語の二ヶ国語サラウンドで問題なく会話が出来るスーパー小学生である。人の事を言えた義理では無い。

「なのはちゃん…」

 背後から、肩におかれた手に体が硬直する。振り返るのが怖い。

「す、すずかちゃん?」

 振り返ったそこにいたのはやはりすずかだった。何でそんな決意の籠った視線を向けてくるのか…これはまずい、時限爆弾だ。

「私…負けないから!!」

「主語を明確にしてください!!」

 思わずテスト口調になってしまうなのはだった。

「なのは…」

「フェイトちゃん!?」

 ぬぁ〜ぜそこで赤くなってやがりますかこの萌っ子は?

 無言は時として千の言葉より色々な事を語るというのに…しかもこの状況はとてつもなくまずい。勘違いされる要素が多すぎる!?

「なのは…」

「なのはちゃん?」

 だからほら…なのはの両肩に死神の手が置かれるんだ。

「わたし、なのはちゃんの事みくびっとったわ、ごめんな〜」

「なのは…きっちりOHANASIしましょう」

「え?ち、ちょっと!?」

 事情はある。

 二人の脳内に展開されているお子様お断りな妄想より、はるかに健全な理由だ。

 しかしそれを話したら、神秘の秘匿とかその他もろもろに引っ掛かってしまう。

 今のなのはは、魔術師であると同時にミッド式の魔導師でもあるのだ。もれなくその秘密の重要性も二倍二ばーいである。

「安心しーやなのはちゃん、わたしらはなのはちゃんを見捨てたりせーへん」

「そうよ。絶対なのはを“更生”させて見せるから…大丈夫」

「ちょま!!二人の中ではなのははどんな立ち位置になっているの!?」

 やはりコンビか…連携が流れ作業の如く淀みない。

「さあなのは、あんたの罪を数えなさい?」

「つ、罪!?な、なのはは悪い事してないよ!!」

「まあ、その辺りはなのはちゃんの部屋で聞こうか?すずかちゃーん、かつ丼よろしく〜」

「よ、夜中にそんなカロリーの高い物を食べるのは良くないんだよ!?」

 そう言う問題でもなかろうに…。

「あっれえ〜なんでかなのは、捕まえられた宇宙人みたいに引きずられて行くなの?」

 片方は車椅子のはずなのに、抵抗できる気がしない。…リリカルとマジカルの全力全開…主人公逮捕により完!?

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 深夜…はやて宅のはやての部屋にて、棚に飾ってある一冊の本が身じろぎした。誰も触ることなく、まるで目覚めを迎えた生き物のように、その身を震わせたのだ。

 “それ”は見るからに奇妙な本だった。何所からどう見ても本のはずなのに、まるでそのページが開かれるのを拒否するかのように、鎖で雁字搦めにされている。本が持つ本来の機能、その内包された知識を開帳する事を防ぐかのように…あるいは中に封じられている物を外に出さないかのように、強固で徹底的な拘束。

 本は誰も触れていないにも関わらず、本棚から浮き上がり空中浮遊を始め、更には無機物でありながら魔力を放出し始めた。

 暗い室内よりなお暗い、闇色の魔力だ。

 本の内部から発される魔力の圧力に負けた鎖がはじけとび、本のページが開く。何も書かれていないページが確認を求めるかのように右から左へと高速でめくられ続け、最後のページに到達すると表紙がぱたんと閉じられる。

『Ich entferne eine Versiegelung.』

 本から電子音が響いた。英語では無い、ドイツ語の発音で“封印を解除する”と語る。

『Anfang』

 次いで、“起動”の言葉と共に、本から目がくらむような光が発された。見るものが見れば理解できるだろう。放出された物の正体は魔力だ。解き放たれた膨大な魔力が室内に放出され、一瞬で集約し、気がつけば誰もいなかった場所に同じ、黒のインナーのような服を着た数人の男女がいる。

 一人は金の髪を肩のあたりで切りそろえた母性を感じさせる女性、一人はまだあどけない容姿を持つ赤い髪の少女、一人は凛々しい印象を与える桃色の髪の女性、最後の一人は精悍な体躯を持つ男性…その四人が、主に傅く騎士のように片膝を付き、頭を垂れていた。

「闇の書の軌道を確認しました」

「我等、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」

「夜天の主の下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

 四人が口上を言い終わる。どうやらヴォルケンリッターと言うのが彼等の名前のようだ。

しかし、口上を述べ終わったはずなのに、その間もその後も、現われた4人は無言で片膝をついたまま頭を上げない。彼等の言葉をそのままに受け取るのならば、主の言葉を待っているのだろうか?

 うって変わって静かになった室内を、静寂が支配する。

「…なぁシグナム?」

「し、静かに、ヴィータちゃん」

「主の御前だぞ、無礼は許されない」

「そのくらいわかってるけどさ……」

「だったらなんだ?」

「気のせいかも知んないんだけどさ、人の気配なくねえ?」

「…なん…だと?」

 シグナムと呼ばれたポニーな彼女が顔を上げる。そこにあるのはどうしようもなく無人の室内であり、自分達は誰もいない場所に対して頭を下げていたようだ。

「「「「……っつ!?」」」」

 恥ずかしい…誰もいない場所に一人芝居を真剣にやっていたのだと気づいて見れば、大噴火の如く羞恥心が湧きあがってくる。そしてそれは別にシグナムだけの物では無く、ヴィータと呼ばれた少女と、残り二人も顔が真っ赤になっていた。

「あ、主、どちらにおいでですか!?」

 返事はない。ただの屍すらないようだ。

「さ、探せ」

「主、主はいずこ!?」

「主様―――!?」

 その夜、無人のはずの八神家はとってもにぎやかだった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『燃え尽きろー♪』

『キャーーーー!!』

 同時刻、海鳴市の月村邸において、割烹着の悪魔が箒に乗り、空中を飛びながら火焔瓶に見えるそれで少女を丸焼きにしていた。

『ああ、某のさっちんがーー!!』

 ゲーム機から、コントローラーの端子を直接本体に接続して絶叫しているのはだれあろう、フェイトのデバイスであるバルディッシュだった。

 テレビの中では≪1P WIN≫の文字が輝いている。

『『結構なお手前でした。よーし、わたしももっと鍛錬して、お屋敷を牛耳―――い、いえ、秋葉さまと士貴さんをお守りしなくては!』』

 そして、割烹着の悪魔の勝ち名乗りに自分の台詞を重ねているのは当然の事ながらルビーだ。

 相変わらず危険な事を平気でやらかしているらしい。

『ひどいでござる。ひどいでござるー!!今のはハメでござろう!?あの技は卑怯でござる!!』

『やはり、個人シナリオがないのがアレなんでしょうかね〜?』

『さっちんをバカにしたらルビー氏でも許さんでござるよ!?』

 勘違いないように言えば、別にルビーはバルディッシュに何にもしていない、レイジングハートのように人格プログラムを弄ったわけでもなければ、口調を変えろと言った事さえない。

 なのに、ちょっと日本のサブカルチャーのデータを与えた途端この有様である。後は独自に自分の能力を使ってネット接続で、気がつけばこんなんでましたである。

 変われば変わる物…っと言うのはどうにも人間に限ったことでは無かったようだ。

『姉さん、今度は私がお相手します』

『おっけ〜ですよ〜』

『では私は翡翠を選びます』

『レイジングハートも分かってますね〜』

 レイジングハートも参戦してきた。

 何故主を放って、デバイスと礼装が月村邸に揃って、しかも《土器!ポロリはないよ!!デバイス・礼装ゲーム大会〜!!》などという縄文式か弥生式か分からない物を開いているのかと言えば、なのはの家でお泊まり会をするに当たって邪魔だったからである。

 ついでに、ルビーが『その欲望、実に素晴しい!!ハッピーバースデー!!』と誕生会に突撃してくる事を予防するためだ。

 あり得ない可能性だとは思うのだが、二人を知る人間としては完全な否定が出来ない。

 はやては、間違いなく桃子とか忍やリンディ側の人間である。ルビーとの|相性(シンクロ)率は400%を超えて溶けてしまうかもしれない。

 そんなわけで、お目付け役のレイジングハートとバルディッシュ付きで、月村の家に隔離である。

『さっちん、大丈夫でござる!!きっと報われる時が来るでござる!!』…訂正、お目付け役はレイジングハートだけだ。

 ゲームパッケージに向かって何言ってんだこいつ?

『きのこ氏だってわかっているはず。きっと月姫2ではさっちんシナリオも追加されるはずでござるよ!!』

 |あいつ(バルディッシュ)…かなり危険な事を抜かしているような気がするが…突っ込まないが吉か?

『てや〜!正義の魔法少女、ただ今参上〜』

『ご要望であれば、お相手します』

『うわーお手柔らかにお願いできます?』

『あなたを、KOです』

 かろうじて二人の区別はつくものの、それがゲーム内音声なのか、それとも本人達が直接しゃべっているのかは声だけでは判別できない。今、≪MELTY BLOOD Actress Again≫において、世界を超越した姉妹対決が始まろうとしている。メタすぎだ!!… そんな彼等が、自分の部屋でアリサとはやてに詰め寄られたなのはが涙目になっている事など知りようがない。

 

 ただ…もしこの日、それぞれの歯車が後もう少しだけ噛み合っていたならば、どうでもいい事から割とクリティカルな事まで、運命は大幅にその形を変えていただろう。

 だがしかし、仮定に言葉遊び以上の意味はない。この日がターニングポイントだったと気がつくのも大分先の話だ。

 確実に、そして静かに、多少のすれ違いを含みながらも…この世界の危機を内包した時限爆弾は起動した。

 

説明
リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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