リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第三話 Initial-R |
12月1日〜
日本人は基本的に何でもありな民族である。
これだけ言うと節操無しと受け取る事しか出来ないが、その良し悪しはともかく、これだけ別の文明圏の風習やら文化やらを、躊躇なく取り込む民族も珍しいのではないだろうか?
宗教からして多神教で、元から存在した神道を始めに、一週間を陰陽道、正月は神社に詣で、葬式は寺で上げ、2月14日のバレンタインにはお菓子会社の策略に乗せられた女の子は好きな異性にチョコレートを贈りつつ、一ヶ月後の三倍返しを期待し、最近は一部でハロウィンとは名ばかりなコスプレ集団の練り歩きまでやったりするのだから、よく言えばマルチで興味と好奇心旺盛な民族とも言える。
その中でも特に、一年で最も俄かキリシタンが増えるのが12月である。言わずと知れたイエス・キリストの生誕祭、クリスマスがあるからだ。
日曜礼拝なんて知っているかどうか怪しく、教会なんて近づいた事さえない人間だって、この日ばかりはケーキにプレゼントを用意してどんちゃん騒ぎをやらかし、恋人達に至ってはデートに告白にと大忙しなのである。
もしキリストさんが生きていたら、この俄共が!!俺の誕生日をダシにはしゃいでいんじゃねえ、俺も混ぜやがれ!!と突撃してくるのではないかと考えるのは偏見が過ぎるだろうか?
まあ、日本中がそんな感じなので海鳴の街もその例外では無い。
最近はデパートや商店街で、一カ月以上も前に飾りつけが行われるなどざらで、12月に入ったら本格的にクリスマス一色になる。
「もう〜い〜くつね〜る〜と〜く〜り〜す〜ま〜す〜♪」
「混ざっているわよ。はやて?しかも気が早すぎ」
そんなクリスマス商戦真っ盛りな街を、なのは、すずか、アリサ、フェイトにはやての仲良し5人の少女達がウインドウショッピングをしている。
その中でも特に上機嫌で改造した歌を口走っているのは、車椅子に乗っているはやてだ。
「え〜そんなにはようないよ〜?だって今日はクリスマスイブイブイブイブ…」
「ああ、はいはい分かっってるわよ」
指折りでイブの数を数え始めたるはやてにアリサがやれやれと苦笑して止めさせる。
「にゃはは〜はやてちゃんずっと楽しみにしてたもんね」
「ん〜ばれてもうた?実はうち、今年のクリスマスを一万年と二千年前からまっとったんよ〜」
思いっきり嘘だが、にこにこ笑うはやてに水を差すのがためらわれる。彼女がクリスマスを楽しみにしていたのは本当だ。
実は相当前から似たような感じで、日を追うごとにおらとってもワクワクしてきたぞと言うのが目に見えて分かる有様だっただから、気がつくなと言う方が無茶である。
むしろ隠す気があったのだろうかと、そっちの方が意外だ。
「今年のクリスマスはうちの家でやるから、皆出席してな」
しかし、詳しい事を聞かないのがこの場の正解だろう。
自分の家でクリスマスパーティをやりたいと言い出したのははやてだ。
それに加えて彼女のワクワクドキドキな擬音が見えそうな有様を考えればきっと何かサプライズな事を考えているに違いない。
それを事前に聞いてネタばれさせるなど、KYの汚名は免れまい。
「うん」
「わかってるわよ」
「プレゼントもって行くね」
「アリシアも、連れて行くから」
なので、ここはなんにも気付かなかったという事にして、当日せいぜいびっくりさせてもらうのが正しいのだ。
「やっと見つけたーー!!」
「「「「「え?」」」」」
いきなり聞こえてきた声に、思わずびくっとなった5人が振りむく。
「え、えっと…」
目に入って来たのは、高校の制服を着た女の子が、男を前にしてうろたえているという図だった。
一体なんだろうか?昼間の往来だし、犯罪臭はとりあえずしないので緊急では無いのだろうと思う。
「あれ?あの女の人?」
「なのは、知り合いなの?」
「う〜ん」
知り合いと言えなくもないだろう。
ただ彼女はなのは本人の事を知らないはずなので、それを知り合いと言っていいのかは困る。
今年のジュエルシード事件の直前に、オタクな男から救った女の子だ。
男の目的がなのはの方にあったので、救ったと言っていいのかどうかも疑問ではあるのだが…。
「男の人も?」
「男の人は知らない」
本当に知らない。
すらりとした長身で、二十代後半と言ったところか?
しかも、結構な|美男(イケメン)ですね。
「な、何か御用ですか?」
女の子がびっくりしながらも、男に話しかけた。
どうも男が見つけたと言ったのは彼女で間違いないらしいが、それにしては彼女の反応が初対面の人間に対するそれだ。顔見知りでは無いらしい。
「ずっとあなたを探していました…貴女こそ…貴女こそ…」
「え?ええ?」
これは所謂、告白と言う奴だろうか?
「「「「「おお〜!?」」」」」
思わず5人揃ってゴクリと唾を飲みつつガン見してしまう。
そこはそれ、女の子ですもの、ドラマでは無く、正真正銘の生告白?略してナマコクに興味がないわけがございません。
「そ、そんな事言われても、ま、まいっちゃうな〜」
彼女の方も、満更では無いらしい。
割とレベル高めのイケメンに告白されて悪い気はしないのだろうが、赤くした上にニヤケた顔で、何を困っているんだお前?
「貴女こそ僕の女王様ブヒー!!会いたかったデブー!!」
イケメンの口から出たとは思えない、思いたくない言葉が世界を凍らせる。
「「……何?」」
一瞬の空白の後、最初に現実に戻って来た彼女となのはが声を上げる。
二人はとっても良く似た顔をしていた。
語尾にデブ?…更にはブヒ?…何だ?何かその取り合わせにはデジャブーを感じるぞ?
「あ、あんたまさかあのキモオタ!?」
「ああ、なるほど」
得心が行ったなのはがポンと手を打つ。
魔女っ子のなのは目当てで、あの女の子を相手に強姦未遂した男だ。
あくまでなのはをおびき出すための演技であり、本人は14歳以上には興味がないとか言っていたので、実際のところ女の子の方には危険は全くなかったのではあるが、それで法律の網をすり抜けられると思ったら大間違いである。
確か警察に捕まったと聞いた気がするのだが?
「あ、あんた病院送りにしたはずでしょう!?」
「昨日退院したブヒー!!」
「ええーー!?」
真面目に聞き逃せない事をしゃべっている…未だに名前も知らない彼女の気持ちは分からなくはないが、半年も入院させるような大けがを負わせたのか?
同じ女としてもやり過ぎを感じないわけにはいかないぞ?
「しかも全然別人じゃない!!」
それは激しく同意である。
あのオタクのパーツが何一つ残っていなかった。
「カロリー計算された病院食でちょっと痩せただけデブよ!!」
「ちょっと?」
すごいな病院食、世の中の体重に悩む女の子の味方じゃないのか?
「さあ女王様、カムォ〜ン」
全員が見ている前で、男がリバース五体投地…要するにアスファルトの道路にあおむけで寝転んだ。
その眼が何かを期待して少女を見ている。
スカートの中を堂々と覗こうとしていると考えられなくもないが、この男の変態ぶりはその程度では済まないようだ。
「ぷり〜ず、きっく、みー」と言わんばかりに、親指だけを立てた両手で「おれおれおれおれ」と自分を指している…これはやはり、踏めと言う事か?
「女王様…ヒソヒソ…」
「美男子とのプレイ?……ヒソヒソ…」
「最近の若い連中の性風俗は乱れている…云々…」
ギャラリーの言葉が、静かになったこの場にはよく響く。
声を抑えようとしているのかどうかも疑問ではあるのだが…。
「う…あ…」
気がつけば彼女の顔が真っ赤だ。
これは逃げるなと誰もが思い…「いやーーーー!!」そして案の定、逃げた。
「あ、待ってくださいデブーーー女王様―――!!」
それを追いかけるキモオタもといイケメン男。
「女王様言うな!!」
「ヘブロ!!」
とって返して来た彼女に、カウンターの拳を|美顔(イケメン)に叩き込まれた。
男の体がその場で縦に一回転してベシャリと音を立てて大の字になる。ぴくぴくしているのはまさか断末魔のけいれんではあるまいな?
「いやーーーーーーーーー!!」
風と共に去りゆく彼女を追う者はいなくなった。
彼女…明日からこの街を歩けるのだろうか?このショックでひきこもらない事を切に願う。
「ま、待ってデブーーー!!」
「「「「おお!!」」」」
撲殺されかねなかった一撃を受けてなお、アグレッシブに立ち上がって、彼女の後を追う男の姿に、その理由はどうあれ称賛の声が上がった。
「がんばれーー!!」
「全米が泣いたーー!!」
やたらと無責任な声が聞こえるが、皆が彼を応援している。
千鳥足ながらも彼女を追って行く彼の姿が見えなくなった所で、やっとなのは達の金縛りが解けた。
「な、何なのあれ?」
「さ、さあ…」
「よ、世の中色々おるしな〜」
何故か、なのはだけでは無くはやての反応も悪かった。
「ん?なのはにはやて、どうかしたの?」
「にゃはは、何でもないよ〜」
「そうや〜何でもないんよ〜」
ともあれ、人間が数カ月で全くの別人になるという奇跡が存在するという事が証明されてしまった。
聖夜には奇跡が起こると言うが、イブ×23でこれだ…本番の24日の夜には一体どんな奇跡が起こるだろうか?
魂がルフランしたりしないだろうか?…そんな風な期待に胸を膨らませる時間がなのはにもありました。
――――――――――――――――――――――――――
「ここか…」
深夜、海鳴の街を一望できる場所に人影があった。
町で一番高いビルより、更に高い場所から見下ろしているのはまだ幼さを残している少女だ。
赤のゴスロリ風の服と帽子が、彼女の性格をストレートに表しているような気がする。
その右手にゲートボールのようなスティックを持ち、肩を叩きながら何かを探しているようだ。
「先日から感じている強大な魔力、おそらく間違いあるまい」
彼女の保護者と言うには、少々毛色が違う男が傍に並び立っていた。
赤に対する青、動きやすさを重視したのか薄手の服に、両手足には銀の手甲と脚甲を装備している。
ゲームで言えば、格闘家のスタイルだ。
何より、彼の頭にある犬のような耳と、腰から伸びるふさふさの尻尾が尚の事ファンタジー色を濃くしている。
「しかも複数だ」
「一人じゃなかったのか?」
「噂では一人のはずだがな」
「どっち道、見つけてみれば分かることだし、見つけないと何にもはじまんねーし、そろそろ行こうぜ」
不安要素を出たとこ勝負で対応しようとする少女に、男は溜息しか出てこないらしい。
「ここからは分かれて探そう」
「わかった。集合場所は例の所で、気をつけろよヴィータ」
「ふん、誰に言ってんだよ。ザフィーラ」
ヴィータの顔にニヤリと交戦的な笑みが浮かび、それを見たザフィーラがやれやれと頭を振り、姿を消す。後にはヴィータだけが空中に取り残された。
「さってと、いっちょやるか?グラーファイゼン?」
気楽に、ヴィータは自分の杖を構える。
『Gefangnis der Magie. (魔力封鎖)』
「封鎖結界」
ヴィータを中心に魔力が展開され、結界を形成する。
「…この魔力、見つけた。行くぞ」
『Jawohl.(了解) 』
結界の中に取り込んだ魔力を感じたヴィータが、一直線に飛んだ。
――――――――――――――――――――――――
「な、何これ?」
そして、結界の中に取り込まれた張本人、なのはもその異常に気が付いていた。
『結界ですね〜』
あっさりルビーが状況を看破した。
いつもはふざけていても、ルビーだって礼装だ。
いざとなればすぐに臨戦態勢をとれる。
『ミッド式の結界では無いようです』
『魔術式でもありませんね〜ひょっとしなくても緊急事態って奴ですか?レイジングハート?』
『強力な魔力が一直線にこちらに向かってきています。確実に捕捉されているかと』
なのははとっさに、ルビーとレイジングハートを掴んで部屋を飛び出した。
――――――――――――――――――――――――――――
『Gegenstand kommt an.( 対象、接近中)』
「へえ」
己のデバイスの報告にヴィータはニヤリと笑った。
「手間が省けるな」
いきなり結界の中に取り込まれたのを警戒して、逃げられるかもしれないと思っていたのだが、それは杞憂だったようだ。
むしろ本人から近づいてくれるというのなら都合がいい。
やがて、とあるビルの屋上に見た目が自分と同じくらいの年齢の少女が現れたのを、ヴィータの目は見つける。
封鎖結界の中に取り込んだのは一人だ。
故に、この世界で自分以外に動いている人間は、自分が探していた人間である可能性が高い。
懸念材料は、その相手がただ魔力を持っただけの人間という可能性、あるいはまったく関係ない魔導師である可能性だが、それに関してはこれから調べればいい事だと、ヴィータは高度を落として少女と話す事が出来る場所に降りて行った。
――――――――――――――――――――――――――――――
封鎖空間を駆け抜け、適当なビルの屋上に出たなのはの前に現れたのは、赤いバリアジャケットを着た女の子だった。
「いきなり封鎖結界を張るなんて、どこの子?」
なのはの声が聞こえた証拠に、彼女は唇の端を釣り上げた。
おや?何故か目がよく言ってくれたという風にキラキラ輝いているように見えるのは気のせいか?
しかもハンマー状の杖をくるくる回し始めたのは何故だ?
「名乗るほどのもんでもないが、天地爆砕!あらゆる物を打ち砕く鉄の伯爵グラーフアイゼンと鉄槌の騎士、ヴォルケンレッド、ヴィータとはあたしの事だ!!」
ドドンと、効果音が聞こえそうな勢いでびしりとポーズをとったヴィータに、なのはは正体不明の寒気を感じた。
明らかに痛い子だ。しかも名乗るほどのもんじゃないとか言いながら自己紹介しているし、何よりあたしの事だ!!とか啖呵を切られても初対面だし、その台詞は最低限自分の事を何かしら知っている相手に言うべきものだろう?
おかげでリアクションに困る。
「フッ怖いくらいに決まったぜ…」
なのはは本当に怖かった。
あんな恥ずかしい決めポーズ付きの台詞を言い切れるなんてそれだけで只者では無い。
「ん?驚き過ぎで声もでねえか?」
確かに驚き過ぎて何も言えないのは本当だが…羞恥は時として本人より見ている人間の心を折るのだという事を知ろう。
なのはの顔は目の前で見たヴィータの奇行のせいで真っ赤だ。
「まあいいか。それで、お前が魔女っ子で間違いないよな?」
「は?」
かなり予想の上を行かれた為に、反応が遅れた。
「え、ええ〜っと、不本意な部分も無きにしも非ずだけど…」
『なのはちゃん、ここは任せてください』
「ルビーちゃん?」
なのはの言葉を遮って、ルビーが前に出た。
『なのはさま、私もお願いします』
「レイジングハートまで?」
ルビーだけならまだわからなくもなかったが、レイジングハートまで名乗りを上げてきたのは意外だ。
なのはは不思議顔で、待機状態のレイジングハートを翳す。
『お前が魔女っ子かと聞かれれば〜』
『答えてあげるが世の情け』
我々は…この台詞を知っている…この分厚い鉄板の台詞を知っている。
『世界の破壊を防ぐため』
『世界の平和を守るため』
『愛と正義の魔法で貫く』
『ラブリーチャーミーな正義の味方』
ルビーが魔術でやたらと派手な光の演出をしている。
『ルビーちゃん!!』
『レイジングハート』
終いには花火のような爆発のエフェクトまで使い出した。
至近距離にいるなのはなど、驚きで硬直してしまっている。
『銀河をかけるR団の二人には〜!!』
『ホワイトホール、白い明日が待ってます』
「に、にゃんてな〜す?」
思わずなのはも勢いに乗せられて参加してしまった。
しかも両手は猫の手…実に萌える。
だって仕方がない、なのはの世代にポケモンはドがつく真ん中ストライクなのだ。
「はっ、ルビーちゃん!レイジングハートも何を言っているの!?二人のRはロケット団のRなの!?」
「や、やるじゃねえか…」
「えええーーー!?」
思わずなのはは叫んでいた。
この状況と流れで、その発言はあり得ないだろう?後、一体何にヴィータは恐れ戦いているのだ?
『いえいえ〜そちらもなかなか』
『感服いたしました』
そして、互いの健闘をたたえあうルビーとレイジングハート。
「え、え〜っと」
更には完全に状況においてけぼりを食らった主人公なのは。
まさか名前にRが入っていないから仲間外れなどと言わないだろうな?
『それにしても黒でも白でもなく、あえて定石を外す赤のゴスロリとはなかなか斬新ですね〜自分でデザインしたんですか?』
「お、これの良さが解るか?これは主は…いや、姉ちゃんがデザインしてくれたんだぜ」
さて、少し余談だが、詐欺には二種類あるという事を知っているだろうか?
『実にエクセレントですね〜』
「そ、そうか?お前話せるじゃねえか」
『赤と言う事は、やはりリーダーだからです?』
「ん、いや違うよ。あたいたちヴォルケンリッターの将はシグナムだ。赤じゃなくてピンクなんだよな〜あいつ、でも炎使いだから赤いっちゃ赤いんだけどさ」
一つ目は、あからさまな嘘をついて騙す方法、もう一つは相手に勝手にしゃべらせて情報を吐き出させるように誘導する方法である。
どちらがより高度かは言うまでもないが、後者に関しては場合によっては詐欺とすら認識されない事もある。
『やはりヴォルケンリッターは正義の戦隊なんですね〜?』
「ああ、あたいたち4人は姉ちゃんの騎士だからな!!無様な事は出来ねえよ」
『ええ〜四人もいらっしゃるんですか〜?』
「あたいにシグナム、シャマルにザフィーラだ」
そして、このヴィータと言う少女はこの詐欺ととっても相性が良いようだ。
ルビーが誘導していると言ってもしゃべりすぎである。
ノリノリで情報を開示している本人は、間違いなく気が付いていない。
『へへ、実はこの帽子の人形も姉ちゃんが買ってくれたのを参考にしているんだぜ』
そう言って、自分の帽子にくっついている呪いウサギ人形を見せながらにっこり笑うヴィータ…そのセンスはどうなんだろうな?
ウサギはウサギなのだが、その口と目が糸で塞がれている様子が実にあれだ…それはねえよと言いたいシュールさだ。
キモ可愛いと言えなくもないが…あくまで呪いウサギである。…まあ、誰でもない本人が嬉しそうなので他人がどうこう言う事でもないか。
『いいお姉さんなんですね〜所で貴女の主兼お姉さんのお名前は?』
「ああ、やが…ってうおおおおおお!?何言わせようとしてんだよおまええええええ!?」
「あ、気がついた」
どうやらそれはトップシークレットだったらしく、寸前で思いとどまって正気を取り戻したようだ。
ヴィータが荒い息をつきながら焦っている。
心臓は高速の16ビートを刻んでいるに違いない。
『チッ、もうちょっとだったのに』
そしてルビーが黒い事を言っている。
「ルビーちゃん、説明ドウゾ」
『彼女、人間じゃないですね〜魔力で編まれた存在、サーヴァントに似ている感じがします。つまり、彼女を存在させる要になる何者かがいるという事です。それが彼女のマスターですね』
「な!?」
いきなりそこまで見抜かれるとは思っていなかったのだろう。
ヴィータがわなわなとふるえている。
しつこいようだが、普段その片鱗すら見せなくても、ルビーは結構優秀な部類の礼装なのだ。
「だ、騙したのか!?」
騙したと言うよりも、単にヴィータが迂闊だっただけなのだが…。
「卑怯だぞ!?」
「え?なのはが?」
びしっとヴィータが指さしているのはどう見てもなのはだった。
ここまで蚊帳の外だったのに、いきなり指さされた上に睨まれては頭に?マークを浮かべてしまっても仕方がないだろう。
「こいつはお前の|物(デバイス)だろう!?」
「くっ!」
ヴィータが中々に反論できない事を言う。
確かにルビーのマスターはなのはで、持ち主が誰かと言われればやはりなのはだ。
「友達になれると思っていたのに…」
「え?いや…いくらなんでもそれは段階をすっ飛ばし過ぎだと思うの」
なのはも大概だが、この発言はそんななのはを持ってしてもあんまりである。
人間関係構築の手間をなめんな、あってすぐに友達関係になれるのはゲームの中だけである。
「あんなに一緒だったのに!!」
「夕暮れどころか、出会ってから10分と経っていませんが!?」
「姉さんは、会って5分であたしを妹にすると宣言したぞ?」
何だそいつは?
誰だそいつは?
「裏切りものーー!!」
「ええ!?」
ヴィータが銀の鉄球を取り出して、自分の杖を構える。
それが何なのかは分からないが、おそらくは攻撃系の何かだ。
見ず知らずの誰かの偏った考えでヴィータに恨まれ、しかもルビーのせいで悪化して、悪くもないのになのはは裏切り者扱い。
「……」
普段温厚ななのはが、ちょっといらっときた。
「ルビーちゃん!!」
『はい?え?』
答えたルビーをむんずと掴み、なのはがヴィータに対して半身になる。
『ち、ちょっとなのはちゃん!?』
「内角をえぐる球に対しては、肘を折りたたみ…」
『何するつもりなんですかーーー!?』
流石のルビーも焦る。
なのはは全然ルビーの言葉を聞かずに、ぶつぶつと多分危険な事を呟いていたのだから。
「シュワルベフリーゲン!!」
『Schwalbefliegen』
ヴィータが鉄球をハンマーで叩くと、赤い魔力を纏った鉄球が高速で打ち出される。
残像と紅の魔力の尾を引いた鉄球は、一直線になのはに向かい…。
「球に逆らわず、素直に打ち返す!!」
『イチローーーー!!』
ゴンとかガンとか金属同士の激突によって生み出された結果は、それはそれは見事なピッチャー返しだった。
「だあーーーーー!!?」
叫びながら、思わず仰け反ったヴィータの頭上を、同じ軌道を戻って来た鉄球が通り過ぎる。
本能がとらせた行動は正しい、あんなものをキャッチするのは無理だ。
同時に、ぎりぎりで避けた為に、鉄球が“それ”を打ち抜く光景を、ヴィータの目ははっきりと見た。
『な、なんて事するんですかなのはちゃん!!』
バットの代わりにされたルビーが文句を言ってくる。
杖のくせに、タンコブをつけているところなど芸が細かい。
「ごめんねルビーちゃん、代わりになりそうなものがなかったの、かっとなってやったけど今はちゃんと後悔しているよ」
謝りながらも、なのはの顔は何所かすっきりしたものだった。
しかも、あの高速で飛んで来た鉄球を打ち返すとは…当然、魔術の強化を使ったとはいえ、なのはもそろそろ人間と言う枠に収まりきれない存在になりつつあるようだ。
「…お前ら」
「え?」
『おや?』
気がつけば、ヴィータがプルプル震えている。
しかも、なのはをはっきりと憎しみをこめた目で睨んでくるこれは…怒っている?
「さ、最初に攻撃したのはヴィータちゃんだよ?」
『なのはちゃん、なのはちゃん?』
「ん?」
『多分原因はあれですね』
「あれ?」
ルビーが示す先にあるのは、鉄球で真っ二つになって落下してゆくヴィータの帽子だった。
「……」
『やっちゃいましたね、テヘ』
そういえば、ヴィータがあの呪いウサギ人形は彼女の姉が買ってくれたものをモチーフにしたとかどうとか、嬉しそうに言っていたのだったか?
「あたしはおまえを倒さないとあかん、倒さないと気が済まんのや!!」
兄じゃなく妹のくせに…分かりやすく、思いっきり八つ当たりの台詞だった。
しかも目からハイライトが消えている。
突っ込みと言うか、反論するより早くヴィータが新たな鉄球を取り出した。
「今度は四個!?同時に来られたら|本物(イチロー)でも打ち返せないなの!!」
『なのはちゃん、またルビーちゃんをバットの代わりにしようとしていましたね!?』
ルビーに答える暇も惜しかったから、なのはは躊躇なく走った。
全力で自分の後方、屋上の反対の端へ。
「レイジングハート!我、天命を以下略!!」
『了解しました。セットアップ』
背後で金属同士がぶつかる音を聞きながら、なのははやはり躊躇なく飛んだ。
魔術回路を起動、体重を魔術で軽減しつつ、強化の魔術で足の筋肉を強化、一っ飛びで屋上の転落防止用柵に飛び乗ると、踏みこみで足の形にひしゃげさせながら全力で前に踏み出す。
なにもない虚空へと、なのはの体はすぐに重力と言う名の鎖にからめ取られ、落下を始めた。
その一瞬後に、寸前にいた場所を鉄球が通り過ぎる風切り音を聞きながら、なのはは白い光に包まれ、光の繭を突き抜けたなのはの体は白のバリアジャケットに包まれていた。
平穏な日常の終わり、非日常のターンの始まり始まり〜。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ | ||
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