リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第八話 The second generation |
リリカルとマジカルの全力全壊、前回までの三つの出来事!!
一つ、闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターが復活、なのはに接触してきた!!
二つ、闇の書の回収と主の保護を目指す管理局とヴォルケンリッター達はすれ違いの果てに戦闘に突入、|私の話を聞いて(オレノウタヲキケ)!!とばかりに魔法使いに変身したなのはの怒りが炸裂!!
三つ、正体不明の仮面男がヴォルケンリッターを救い、はやての危機を告げ…紆余曲折の果てに、何故か管理局の猫姉妹はルビーへの復讐を改めて誓うのだった!!
―――――――――――――――――――――――――
『あはぁ〜おっけーですよ〜ルビーちゃんはいつ何時、どんな相手からの挑戦でもどんとこいですよ〜』
「…ルビーちゃん、ルビーちゃんが何言ってるのか分からないよ?」
いきなり脈絡もへったくれもなくチャレンジャーカモン宣言をやらかし始めたルビーになのはが面食らう。
『あれ、今誰か呼びませんでした?おかしいですね〜何やらネコ耳な誰かの怨嗟の声が聞こえたような気がするんですけど〜?』
「ルビーちゃん…色々と恨み買ってそうだもん…流石は常時妙なところと電波がつながっているだけの事はあるね?」
なのはの物言いが割と辛辣だった。
普段ならもう少しオブラートに包む物言いをする子なのだが、言葉を繕う余裕がないのだろう。
『いやそれ程でも〜』
「…褒めてないから…」
『ああ、なのはちゃんの突っ込みに勢いがない!!これはいよいよまずいのでは!?』
「なのはの…存在意義が|突っ込み(それ)みたいに言わないで…」
冗談はさておき、なのはの調子の悪さは一目瞭然だった。
現在の彼女は、タレなのフォームでベッドの中で唸っているのだから…例の魔法使いへの変身による反動、筋肉痛である。
魔法使いになればこうなる事は予想してしかるべきだったのだが、それをうっかり忘れて、感情のままに大暴走をやっちまったもんだから自業自得以外の言いようがない。
「なのは様…大丈夫ですか?」
「うう、だいっじょうぶなの〜」
ベッドの横で心配そうに聞いてくるアリシアに、なのはも頑張って返事を返す。
笑顔を浮かべたのは見上げた根性だが、まともに動けない状態を大丈夫とはいうまい。
「アリシアちゃんのメイドさん姿に癒されるの〜」
「あ、ありがとうございます」
そう、今のアリシアはメイドさんである。
ほめられたことが嬉しかったのか、ほんのり顔を赤くしているのが実にGOODですね。
「なのは、お水はどう?」
「うん、ありがとうフェイトちゃん」
しかも姉妹でと言うのがポイント高い。
ダブルメイドさんに世話をされるなのは…どこのお嬢様ですか?と言う状況だった。
「グフフ、可愛いわ〜アリシアもフェイトも〜」
『はいはいプレシアさ〜ん、とっとと手を動かしやがれですよ〜』
「ギニャーーー!!」
ピシッと音がしたと思ったら、別の意味でとろけていたプレシアが悲鳴を上げた。
蝶華麗なマスクと派手なドレスはすでにキャストオフ済み、何故かマスクはルビーが付けていると言う訳のわからなさぶりである。
アリシアの「ママ、その変なお面は何?」の一言に、自分ちょっといけてない?とか思っていたプレシアの勘違いは崩壊したのだ。
ただし、彼女の異様がそれで衰えたかと思えば…そんな事は全然なかった。
今の彼女は素の状態…素プレシアとか言えばちょっとハイソな響きだが、この女の基本装備はジャージに瓶底眼鏡、適当にまとめたポニーテールである。
人目がない場所とか、気を使わずにくつろぎたいときはこの姿になるらしいが、正座した彼女の目の前に置かれている昔懐かしのミカン箱とのマッチングが凄まじく合っている。
しかもその上にはやたらと数のある原稿用紙に鉛筆と来れば何処の苦学生か漫画家という具合だ。
「ル、ルビーちゃん!!何かしらその鞭は!?どう見てもおもちゃなのにやたらと芯まで響いて来たわ!!私にはそっちの趣味も才能もないのよ!!」
どうやらお目付け役らしいルビーが、彼女の言う所のおもちゃの鞭を羽根の部分で持っている…ピシッという音の正体はこいつだったらしい。
『魔力で強化しているだけですよ〜さあ女王様とお呼び〜では無く、さっさと書くがいいのですよ〜』
「は、はいいぃぃぃ!!」
ここには10歳にもならない女の子が三人もいるのに…情操教育と言う言葉を知らないのか?
特にプレシア…子供は親の姿を見て育つ物だぞ?
「一ま〜い…二ま〜い………二十八ま〜い…あと972枚足りなーい」
目の幅涙を流しながら、プレシアがやっているのは漢字の書き取り、今回のもろもろに対する罰だが、内容を考えたのがフェイト、流石は小学三年生である。
そして千枚と言う数を決めたのがアリシア…全然容赦なしである。
四百字原稿用紙千枚なので、ざっと四0万文字書くまでプレシアは許してもらえず、スキンシップ禁止を娘達から言い渡されている。
「ね、ねえアリシア?タイピングで書いちゃダメかしら?そしたらママ、赤城リツコばりの高速タイピングを披露して一時間もたたずに終わると思うんだけど?」
「…ママ?」
「はい、ごめんなさい」
娘は強し、母は弱しで涙目のプレシアが漢字の書き取りに戻る。
プレシアもアリシアとフェイトには頭が上がらない。
そして以前助けてもらった事からなのはにも頭が上がらない上に、ルビーは存在自体が無茶な奴なので言わずもがな…高ランク魔導師のはずなのに、この場におけるヒエラルキーが一番下なプレシア・テスタロッサであった。
「なのはちゃ〜んお湯もって来たよ〜」
そんなプレシアに同情していると、タイミングよく入ってきた三人目のメイド、すずかがお湯を入れた桶にタオルを持って部屋に入って来た。
ちなみに、三人娘のメイド服は月村家からのレンタル、形から入るのがジャパニーズクヲリティー。
「三人ともごめんね」
なのはが申し訳なさそうに謝る。
本来ならば、家族に手伝ってもらうべき所かもしれないが、それぞれ学校に店になどの事情がある…なのはは知らない事だが、事実は高町家の皆さん三人による押しの強いジェットストリーム説得に折れたからだ。
そしてプレシアは、アリシアとフェイトについてきたおまけである。
お仕置き中なのでスキンシップは出来ないが、久しぶりの娘たちとの再会に、なるだけ傍にいたいのだろうと察してみる…早くお仕置きが終わるといいな。
「さあ、体を拭こうね」
親友に手伝ってもらうのは心苦しい事この上ないが、今のなのはは真面目に動けない。
根性を入れれば動けなくもないが、毒の沼地の強制行軍に近いので、一歩ごとにHPが削られてゆく。
動けないとはいえ、汗をかくしそのままでは気持ちが悪いし、友人達の手を煩わせるのは心苦しいしで二律背反ななのはだが、最終的には女の子的な身だしなみ意識が勝った。
「うう、お願いします。ごめんね、皆に迷惑かけちゃって…」
「遠慮しないで、湿布も替えるね」
なのはは思う…何っていい友人たちなのだろうかと…同時に、一時の衝動に負けて彼女達に魔法を放ってしまった自分の若さゆえの過ちに自己嫌悪になる。
シャア・アズナブルが認めたくないわけだ。
「ごめんね、フェイトちゃんにすずかちゃん、もうお友達に魔法を向けたりしないから…許してくれる?」
おどおどと謝るなのはに、二人がにっこり笑って頷いてくれた。
「気にしてないよ」
「私たちこそごめんね、もうなのはちゃんを無視したりしないから」
「ありがとう!!」
三人が笑いあう事で仲直り完了、同時になのはは金輪際、友人に魔法を向ける事はしないと固く心に誓う。
だが、なのはは別の危険に気づいていない…自分一人に、似非とはいえメイドさんが三人そろって奉仕してくれているこの状況…そろそろハーレムの完成形が見え始めている事に気がつけ!!
外堀が埋められ始めている事に気がつくんだ高町なのは!!それと、見えない位置で「予定通り」と新世界の神のような顔で笑っているプレシアとルビーにも…ルビーには顔がないけど、あの雰囲気は絶対笑っているぞ!!
「あ?」
「い?」
「う?」
「え?」
『お?』
なのはがパジャマを脱ぎ、手伝ってもらって熱いタオルで体をふいていると…何か音が聞こえてきた。
「…って何かこれ、前にもやったような気がするの?」
あの時は何があったんだったか?
あんまり思い出したくないような事があった気がするのだが?
「誰かが家の中で走っているのかな?」
ドドドとか形容できる音だ。
しかもこれは……近づいてくる?
「帰って来た!!なのは、僕は帰って来たよ!!」
部屋の前で音が止まったなと思った瞬間、いきなりドカンと部屋の扉が開き、見覚えのあるマントをつけた民族衣装のような服にクリーム色の髪にエメラルドの瞳の少年が突入…そう言うのがふさわしい勢いで部屋に入って来た。
『あれ〜ユーノ君じゃないですか?』
ルビーの言うとおり…見覚えがあると思ったらユーノだ。
「ただいまなの…は?」
ユーノの言葉が途中で切れる。
部屋の中の状況…服を脱いでいるなのはと、彼女の体を拭いている三人のメイドさんと言う倒錯的な光景に、ユーノの顔色が真っ赤になる。
「いっつ…」
ユーノの反応を見て、正気に戻ったらしいなのはが、これまた自分の恰好を思い出して真っ赤になる。
「きっつやぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっはぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、抜き打ちで放たれたガトリングガンドがユーノを木の葉のように吹き飛ばす。
約束とは破るためにするものなのかもしれない…まあ、女の子の部屋にいきなり突撃して来て、裸の少女をガン見する奴を友達とみなさなければ問題はないのかもしれないが…やはりノックは日常生活における必須マナーの一つである。
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『まったく、いきなりラッキースケベをかますなんて、貴女は何処のギャルゲー主人公ですか?帰って来たって、セクハラするために帰って来たんですか?』
「はい、すいません…」
『爆発して死にたいんです?』
「死ぬのは勘弁です。ごめんなさい」
部屋の天井から、バインドで簀巻きにされたユーノが吊るされている。
ガンドでぼこぼこだが、部屋の中にいる誰も同情しない。
「な、なのは?大丈夫だよ。一瞬、一瞬だから…きっとユーノもガンドの衝撃で忘れちゃったはずだよ」
「……」
なのはからの返事はない。
ただの屍では無く、布団を頭からかぶってカメなのフォームにモードチェンジしていた。
フェイトがなんとか顔を出してくれるように説得しているが、天岩戸は簡単に開きそうにない。
『でもまああれですよね、ユーノ君にとって悪いことばかりじゃないですよね〜なのはちゃんがあんな反応をするって事はユーノ君?一応男の子として意識されているって事ですよ?哀願動物から二階級特進ですね〜』
二階級の基準がぜんぜん判らない。
「え?そ、そうかな」
そこで照れるな、単純すぎるぞユーノ・スクライア!!
しかも、その発言は女だらけのこの場では死亡フラグになる!!
『ではでは〜壁は厚くてかたいくて高いですが頑張ってくださいね〜』
「え?」
「うふふ…なのはちゃんにセクハラするなんて…ユーノ君っていけない子ねえ…」
「す、すずか?」
すずかが黒化している?
今は昼間で、魔術を使ってもいないようだけど?
「ねえユーノ君?」
「な、何?」
「フェレットの毛皮って襟巻に出来るのかな?」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
ユーノが悲鳴を上げるが、バインドで雁字搦めでは逃げ場がない。
「それとも…?いだ方がいい?」
「止めてーー!!それは男の子のデンジャラスゾーン!!」
『ユーノ君、運命とあれば心を決めるもんですよ?』
「そっとしておいてよ!明日に繋がる今日くらい!!」
二階級特進って死亡込みで?
「そろそろお話をさせてもらってもいいかしら?」
ユーノ限定で猟奇EDルート一直線だった場を、一言で収めたのはリンディだった。
本当はユーノに続いて部屋に入って来ていたのだが、瞬時に状況を理解して、尚且つフォローできないと思ったのかそれとも放っておいた方が面白そうだと思ったのか、ユーノが一通り折檻されるまで空気になっていた薄情者……一応処刑は止めてくれた物の、それが当然の如くミノムシばりに吊るされているユーノの現状にはノーコメントだ。
やはり女か…。
「まずは久しぶりですね、皆さんも変わり(?)なさそうでなにより」
ジャージ姿の天才女科学者に、少女メイド×3、そしてこいつだけは絶対に変わりそうにない愉快型魔術礼装に、亀状態のなのは…略してカメなの…これだけ濃いカオスを前にして変わらないと言う辺りに、リンディの慣れを感じさせる。
「いろいろ積もる話もあるけれど、まずはなのはさん?」
「はい?」
「ちょっと顔を出してほしいのだけど…」
いくらなんでも、亀状態では話がしづらい。
なのはも同じことを思ったのか、布団の中でもぞもぞと動き、方向を変えたようだ。
リンディ達の見ている前で、布団の裾がめくれ上がり、なのはが目を潤ませて顔を出す。
「ふにゃ〜?」
「「『ぐは!!』」」
そしたらいきなりリンディとプレシアとついでにルビーが吐血した。
「ど、どうしたの?」
「な、何でもないわ!!ちょっと危なかったけど…」
「凄まじい破壊力…フェイトとアリシアに匹敵するわよ」
『狙ったわけでもないのにこの可愛さ…パネエッす』
どうやら、まさに亀という有様のなのはに萌えて、わきあがってきた加虐心とかいろいろを無理やり抑え込んだらしい…いい歳して、吐血するほど萌えたのかこいつら?
「なのはちゃん可愛い!!」
「なのは…」
「な、ナデナデしてもいいですか?」
「にゃーーー!!」
そして、大人たちほどこらえ性のない子供達は、遠慮なくカメなのはを愛でる。
筋肉痛で身動きのできないなのははなされるがまま……そんな様子を大人達+ユーノが羨ましそうな目で見ていた。
ちなみにその全ては映像記録としてルビーが永久保存済みである…その後、何とかなのはの布団をはがし、全員を正気に戻してから仕切り直しがされたが…それまでにかかった時間は約一時間…なんとか落ち着いたものの全員顔は赤く、息が荒いのがちょっと怖い。
特に元々筋肉痛だったなのはが余計に疲れた風になっている上に、着ている物が乱れていて…今この場に何も知らない第三者を放り込んだらどう判断するだろうか?
『ダメですよ皆さん、いくら何でもやり過ぎです。いたいけなカメなのちゃんは病人なんですから、無理させたらメ!』
「「「「「はい」」」」」
『ではなのはちゃんに謝罪をどーぞ』
「「「「「ごめんなさい」」」」」
言っている事は正論で、反論の余地などないが、普段が普段なだけにルビーから言われるとどこか納得できない物が残る。
日ごろの行いがどれだけ大事なのかと言う話だ…って言うかこいつもなのはの映像を記録する為に傍観していたくせに、何で自分は関係ないみたいな顔をしているのだろうか?
「…もういいです」
ちょっと膨れてしまったが、なのはのお許しが出てほっとする。
「なのはさんこれ、お見舞いね」
そう言ってリンディがなのはに差し出したのは、A4サイズの封筒だった。
何が入っているのか、割と薄い。
「あ、ありがとうございます」
「ふふ…開けて見て」
促されたなのはが何だろうと思いながら封筒を開け、中身を確認して目を丸くした。
「…あの、リンディさん?何ですかこれ?」
「何だと思うのかしら?」
「便箋…に見えますけど…」
見えると言うかそのものだった。
「ええそうね、始末書というか、反省文用の便箋ね」
「し、始末書?」
びっくりするなのはに、リンディは何処までも優しい笑みだ。
「報告ではかなり張り切ったらしいですね?」
「うっ」
なのはが呻いた。
心当たりがあり過ぎる。
「なのはさんは民間協力者だけど、かばうのにも限界があるのよ?」
「ご、ごめんなさい…」
本来なら、始末書で済まない所だが、あの場における責任者はあくまでクロノであったため、リンディと入れ替わるようにミッドチルダに呼び戻されたのだ。
確かに指揮を取りきれなかったという意味での責任はあるだろうが、このメンツの手綱を取ることの難しさを考えれば、同情の余地くらいはあると思う。
「よろしい。体が治っても、始末書が提出されるまで作戦の参加は許しません」
「はい…」
有無を言わさず、ビシッとリンディが締めた。
年季の違いと言うか年の功というか、この辺りはまだまだクロノには真似できまい。
『なるほど、これがなのはちゃんの記念すべきファースト始末書ってわけですね〜』
「ル、ルビーちゃん?それだとなのはがこれからしょっちゅう始末書を書くようになるって言っている気が…まさかだよね?」
ルビーは並行世界の自分ともリンクしているので…ある意味でなのはの通る予定の未来を知っている可能性がある。
『あはぁ〜』
「な、何かなそのとっても気になる言い方は…ってあたた…」
やはり全身筋肉痛では分が悪い。
「プレシアさんも始末書を書いて下さいね」
「わ、私も!?」
固まったプレシアの目の前に、リンディの笑顔と共にドンと置かれたのは千枚の原稿用紙タワーと同じ高さはあるだろう便箋タワーだった。
仲良く並んだ左右二つの塔に、プレシアの顔が思いっきり引き攣る。
「はい、大人げなさすぎな暴走の責任はとってください」
「うう…はい」
なのはに続いてプレシアも撃沈した。
この時点で既に、二人の中では若さゆえの過ちと大人げない過ちが黒歴史化している……人は痛みを伴わなければ何も学ばないとは、誰の言葉だったか?
「さて、では本題に入りましょうか?我々が優先させなければならない事は、闇の書の確保とその主の保護です。その基本方針は変わりません」
真剣モードとなった全員が頷く、異論は無しだ。
「問題はヴォルケンリッター達の事ね、同じ手は使えないだろうし…」
「……リンディさん?」
その口ぶりでは、同じ手が使えるなら実行するつもりがあると聞こえるのだが?
YESとか答えられるのが怖いので、あえて聞かないけど…きっと気のせいだと思う。
気のせいと言う事にしておいたほうがきっと良いだろうという処世術を学び、なのはは大人に一歩近づいた。
「リンディ艦長、質問があります」
「はい、何かしらフェイトさん?」
「彼等はどうやってあそこから逃げ出したんですか?」
フェイトの質問は彼女だけでは無く、あの場にいた全員の思いだった。
なのはの|大虐殺祭(ジェノサイド・カーニバル)は、砲撃ではあるが、同時に広範囲殲滅魔法でもある。
あの時ヴォルケンリッター達に逃げ道はなく、逃げても効果範囲の外まで逃げ切る事は出来なかったはずなのに、砲撃が止んだ後にあの四人の姿はなかった。
たとえ信じられなくても、事実が目の前にある以上、そしていきなり現われたり消えたりできない以上、逃げ出す事に成功したと考えるしかない…ならば問題はその方法である。
「その…なのはちゃんの魔法が着弾する直前、誰かが四人を強制転移させたの」
「出来るんですか、そんな事?」
砲撃を避けたとしても、その周囲には封鎖結界があった。
直撃はしていない物の、|大虐殺祭(ジェノサイド・カーニバル)の余波を防ぐ程度には強固な壁だ。
ヴォルケンリッター達を助けた何者かは、一瞬でそれを破壊して、同時に転移魔法を発動させたというのか?
「…いえ、違うわ…あの時、何者かがシステムに介入して封鎖結界の一部が解除されていたみたい」
「「「「え?」」」」
「調べて見て、初めて判明した事ですが…逆に言えばそれほどまでに、システムを操作した何者かの隠蔽は完璧だったと言う事です」
「それはちょっとびっくりね…」
子供達だけでなくプレシアも、驚いていた。
管理局が次元世界の警察じみた事をしているのは伊達では無い。
そのシステムも、どこのだれかも分からない輩に、勝手を許すほどザルな物ではないはずだ。
「痕跡すら残さずハッキングしたなんて…そんな事が可能なの?少なくとも私には出来ないわよ?」
技術屋として優秀なプレシアが断言するのだから、管理局のファイヤーウォールは相当に硬いのだろう。
この場合、それを突破した何者かの技術をほめるべきか?
「…プレシアさん…失礼ですけど貴女のお知り合いに出来そうな人はいませんか?」
リンディが少し申し訳なさそうにプレシアを見た。
皮肉を言うつもりはないのだろうが、事実としてプレシアはそう言った方面へのつながりもある。
「……痕跡も残さずって言うのはちょっと…闇の書の主ってそんな事も出来……ああ、そう言う事なのかしら?」
「やはり、そう思います?」
何やらプレシアとリンディの間で分かりあっているが、それ以外の誰も付いていけない。
「クロノにエイミィをつけて本部に戻しました。話を通しておきますので、少し動いてもらえませんか?」
「そこまで先を読んでいたの?確かに、“それ”を調べるならミッドチルダに戻る必要があるけれど…」
プレシアが言い淀む、何か問題があるような口ぶりだ。
『いいんですかリンディさん?それは多分、管理局の…』
どうやらルビーも話について来れているらしいが、子供達には主語のない会話から裏事情を見抜けるほどの人生経験はない。
「今さらですから…」
『そうですか〜』
リンディが苦笑したのを見て、ルビーもそれ以上何かを言う気はないようだ。
二人のやり取りを見ていたプレシアがフムと頷く、彼女も手を貸すことに異論はないようだ。
「ところでリンディ艦長?」
「何ですか?」
「…司法取引って素敵な言葉だと思わない?」
「首尾よく行ったら、裁判では大分考慮されると思います」
よく分からないが…何かが台無しになった気がする。
二人共怪しい笑みを浮かべてウフフなんて笑っているが、これが年の功といべきか、腹黒さと言うべき代物かは線引きが難しい。
「な、何?」
『子供には難しいアウトローなお話ですよ〜』
「そ、そうなんだ」
何となく、まだ立ち入るには早い世界な気がしたなのはは、それ以上聞けなくて黙った。
『それにしてもさすがはリンディさん、なかなかの策士ぶりですね〜』
「褒め言葉として受け取っておくわ、ルビーちゃん」
『そんな貴女にプレゼントフォーユー』
ルビーが何処からか取り出した“それ”をリンディに差し出す。
「扇?」
『正確には軍師扇って言うんですけどね〜リンディさんにはぴったりだと思うんですよ〜』
「あ、ありがとう」
後の諸葛リンディ誕生の瞬間であり、そして同時に並行世界の果てで、新たなる軍師が誕生した瞬間でもあった。
「では、そろそろ話を戻しましょうか?」
扇を受け取り、軽く振って持ち心地に満足したリンディが、場の流れを本題に軌道修正した。
「当面の問題は…やはりなのはさんが作戦に参加できないのは痛いですね…」
「うう…」
前回の事を考えれば、おそらく10日前後なのはは役立たずだろう。
何だかんだで、なのはの戦闘力はアースラと同等かそれ以上、何よりその恐怖はヴォルケンリッターも骨身に染みただろうから、そこにいるだけで抑止力の期待が出来る。
「いっそ立っているだけでいいから出てもらうべきかしら?」
「ち、ちょっと待ってください!!…恐怖って何?何の事!?」
「知らないほうがきっと幸せだと思うけど…聞きたいのかしら?」
「いえ…いいです」
にっこり笑うリンディに対して、なのははそれ以上の言葉が出なかった。
内容に関しては、身に覚えがあり過ぎて困ってしまう。
リンディも、軍師扇を受け取ったことでより策士ぶりに磨きがかかった気がする。
「現実問題、なのはさんが抜けた穴は簡単に埋められないわ、人員も簡単に増やせないし」
万年人材不足の管理局だが、暗部が暴露された騒動中の現在はそれに輪をかけて人間がいない。
例のグレアム提督が手と人員を回してくれたおかげでアースラは改修と、クロノが言っていた対闇の書用兵装、アルカンシェルの搭載が予定より大分早く完了して、まさにグレアム提督さまさまだが、逆にこれ以上頼るのは無理だろう。
既にこの世界の近くまで来ているアースラの乗組員と、現在この世界に滞在している武装局員以上の人数は動かせない。
ただでさえ戦力と人員が多いに越したことはなかった所に、なのはの戦線離脱は冗談でも何でもなく痛かった。
「わ、私がマスターの代わりになります!!」
「「「「「え?」」」」」
全員でどうしたものかと悩んでいたら、いきなりアリシアが名乗りを上げて来て、全員が目を丸くする。
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アリシア・テスタロッサは、マスターであるなのはの為に何かしたいと思っていた。
それはマスターとサーヴァントと言う関係以上に、母を助けてくれたこと、そして妹であり姉でもあるフェイトを助けてくれた事に純粋な恩義を感じていたからだ。
ここまでされて何も返さないですませる事は、子供ゆえの純粋さも手伝ってありえない。
「アリシア…貴女の言いたい事は分かるけど…」
「それは…ちょっと…」
プレシアとフェイトが顔を曇らせる。
その理由はアリシア自身も理解していた。
確かにアリシアはサーヴァントである。
なのはとのパスがつながっている事に疑いはないが、同時にただそれだけである。
すずかのように人間離れした能力の持ち合わせはないし、宝具も持っていないし、クラスさえない…何よりアリシアは“魔術師”でも、“魔導師”でもない上に、そのどちらにも“なれない”のだ。
確かにジュエルシードの事件以降、アリシアの中には魔力が宿っていた。
しかしそれはただ単に宿っていただけ…魔力はアリシアの中に存在している物の、魔導師に必要なリンカーコアが形成されていないと検査で判明している。
リンカーコアがないという事は、なのはのような魔術師は勿論、母や姉のような魔導師にもなれないということ、ただ巨大な魔力を保有しているタンクであると言うのが、現在サーヴァントアリシアに対して分かっている事のすべてだ。
『アリシアちゃん、それはいい考えですね〜』
「「「「「え?」」」」」
だが一人だけ、場違いな事を言ったルビーに、全員の視線が集まった。
『アリシアちゃんに魔法少女になって貰いましょう』
「ル、ルビーちゃん?どう言う事?アリシアちゃんにはリンカーコアがないんだよ?」
『なのはちゃんが作ればいいんですよ〜』
「作るって…」
「作れるんですか!?」
ルビーの話にアリシアが食いついてきた。
なのはの力になれる可能性が現れた事で、思わず声が大きくなっている。
『はい〜アリシアちゃんは、かなり異端ではありますけどサーヴァントです。これはOK?』
「はい」
『サーヴァントのマスターには絶対命令権である令呪が三つ与えられます』
「これの事?」
なのはが軽く呪文を唱えると、左手に令呪が浮き出してきた。
通常は魔術で周りの皮膚と見分けがつかない色に変化させているが、三つの令呪はずっとなのはの左手にあったのだ。
『令呪は何も、無理やり言う事を聞かせるためだけあるんじゃありません。普通なら出来ないような事も道理を無視する事も出来るんですよ〜だからなのはちゃんが令呪に願えば』
「アリシアちゃんの中にリンカーコアを作れる?」
『エグザクトリ〜』
全員がその無茶な話に目を丸くしていた。
「なのは様、お願いします」
「えっと…」
いきなりそんな事を言われても、なのはも困る。
どうしたものかと、プレシアとフェイトを見た。
「なのは、アリシアが思うとおりにしてあげて、なのはの力になりたいって気持ち…分かるから…」
「私達は元々魔導師だもの、いきなりアリシアが魔法を使えるようになっても大丈夫、受け入れられるわ、むしろ嬉しくさえあるのよ」
母親と姉の了承を受けてしまった。
本人も同意しているとなれば障害はない。
「う〜ん、でも…魔導師になるって事は、アリシアちゃんが戦うってことだよね?」
『大丈夫ですよなのはちゃん、リンカーコアを作るとき、同時に魔術回路にしてしまえばルビーちゃんがサポートできます』
「え?ルビーちゃんが?」
『は〜い、マスターはあくまでなのはちゃんのままですけど、仮のマスター権を発行すれば問題無しです』
レイジングハートや他のデバイスをアリシアに持たせるのは無理がある。
アリシアは魔法の勉強をした事がないし、デバイスを手に入れても彼女にあった魔法を設定しなければならない。
レイジングハートはなのはに合わせて設定してあるので、これをそのままアリシアに渡しても使いきれないのだ。
『その点、ルビーちゃんならある程度制御できますから〜』
「お願いします。なのは様…」
「…分かった」
ルビーの説得と、アリシアのお願いに押し切られた形だが、アリシアがそれを引け目に感じているというのならやってみるのも悪くはないだろう。
「でも、危ないと思ったら無理しないでね?」
「はい」
「じゃ、行くよ」
なのはが、令呪の宿っている左手をアリシアに向けると、視線がここでない遠くに合わさり、トランス状態になったことが分かる。
なのはの魔術行使を見るのが二度目な一同は息を飲んで成り行きを見守った。
「令呪に告げる。聖杯の寄る辺に従い。この者、我が サーヴァントに, 戒めの法を重ね給え(Ein neues Gesetzl, Ein neues Verbrechen)」
令呪から膨大な魔力が噴出し、アリシアに取り込まれてゆく。
「アリシアちゃんのリンカーコアを生成、同時に魔術回路を構築せよ」
今度はアリシアの体から魔力があふれ出し、彼女の胸の前に集中してゆくのを全員が見守った。
「リンカーコアの創造…」
「本当に神のような所業ね」
常識に浸かりきっている分、大人であるリンディとプレシアの驚きは特に大きいが、元来研究者であるプレシアは特に、何一つ見逃さないと目を皿のようにしていた。
やがて魔力が凝縮され、白く強い輝きを放つリンカーコアが形成されたが、それだけでは終わらない。
リンカーコアの表面にクモの巣のような筋が走る…おそらくこれが魔術回路のサーキットだろう。
リンカーコアから伸びた糸状の魔術回路がアリシアの胸を中心にして全身に広がり、彼女の体を魔術を使うのに特化した形へと作りかえて行く、ほどなく工程の全てを終えたリンカーコアは、アリシアの胸に沈んで行き、完全に見えなくなると、先ほどまでの魔力の嵐が嘘だったかのように、室内が静まりかえった。
「終わりました。これが…リンカーコアなんですね?」
自分の体の変化を感じ取ったのだろう。
愛おしむように自分の胸に手を当てたアリシアがそう言った事で、緊張が切れたみんながほっとする。
「本当にアリシアちゃん、無茶しないでね?」
「「「「なのは(ちゃん)が言っても…」」」」
「あう」
彼女以上に無茶をする人間はそうはいまい。
なのはが盛大に墓穴を掘ってオチがついた。
『さあさあ、さっそく変身ですよアリシアちゃん!?』
「は、はい」
ノリノリで強引なルビーに押され、アリシアがその柄を手に取ると、七色の光が輝いた。
光の中でアリシアの服が変わって行く。
薄い青のレオタードに、腰の部分にスカートのようなフリル、太ももまであるニーソックスにひじの先まである長い手袋、背中には巨大なマントが翻り、頭にはこれぞ魔女と言う感じの三角帽子が乗っている。
『いよっしゃーーー!!新しい魔女っ娘ゲットーーー!!ひっさびさ〜の魔女っ娘衣装ですよ〜!!』
ルビーのテンションが天井知らずに高い。
最近、なのははバリアジャケットばかり着ていたので、その反動か?
「ど、どうですか?」
変身を終えたアリシアがはにかみながら聞いてくる。
「とっても可愛いわよアリシア!!」
「うん、可愛い」
プレシアとフェイトの評価は上々だ。
似たようなバリアジャケットを着ているので、抵抗がないのだろう…プレシアは言わずもがな、流石は親子というところか、趣味が似ているのだろう。
「どうですかなのは様?」
「う、うん可愛いね」
クルンとその場でターンを決めるアリシアに、なのはもそう言うしかなかった。
笑顔なところを見ると、本人も嫌と言うわけでは無いらしい。
まるでプラグスーツのようなデザインの魔女っ娘だ。
『ちなみに、デザインはなのはちゃん用エロカッケー最終決戦用衣装です!!』
「その設定、まだ残っていたの!?」
てっきり黒歴史化していたと思っていたのに、とんだ不発弾もあった物だ。
「って事は…なのはがあれを着ていたかも…」
「ユーノ君、何を想像しているのカナカナ?」
「な、何でもないよ」
ハイライトの消えた目と、自分を指す指先に灯る魔力の光を見たユーノが、あわてて取り繕う。
余裕がないせいで突っ込みがきつくなっているだけだと思いたい。
『さあアリシアちゃん、これから貴女は魔法少女、マジカル☆アリシアとして愛と平和の魔術使いまくりですよ〜』
「はい、頑張ります!!」
「何か…とってもデジャブーなの…」
なのはが表現に困る表情でアリシアとルビーを見ていた。
昔の自分の姿がアリシアに重なる…きっとルビーに目を付けられた魔女っ娘の誰もが通る道なのだろう。
アリシア・テスタロッサがルビーの新たなる犠牲者となるか否か…実はそこが何気に一番心配な点だったりする。
『あはぁ〜戦いの空に、新たなる魔女っ娘、マジカル☆アリシアが飛びたちます!!次回リリカルとマジカルの全力全壊、第九話【ぱわーあっぷ】にドライブ・イグニッションですよ〜!!』
ルビーが予告みたいなことを言いやがったので終わる。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ | ||
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