リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第十一話 A new gate opens |
緑の草原を、刃の形をした音が駆け抜ける。
しかも一つでは無い。
先に走り去った音を追いかけるように、いくつもいくつも音が重なる。
「刃ぁぁぁぁぁ!!」
「破ぁぁぁぁぁ!!」
『だっしゃーーーー!!』
音源は桃色の剣士と黒の魔導師…シグナムとフェイトだ。
刃の白銀と、魔力刃の黄金が鍔迫り合い火花と魔力を散らす。
「相変わらず良い太刀筋だな、テスタロッサ!!」
「ありがとう!!」
『マスターなら当然!!』
「だが!!」
鍔迫り合った状態から、シグナムが押し込む。
体重、身長、力において、未だ成長途中のフェイトよりシグナムの方に分があるのだ。
「ぐっ!!」
『マスターファイトー、1パーツ!!』
それを理解しているフェイトは、自分に向かって来る力に逆らわずに引く。
これが数年先ならば、腕力でも拮抗出来たかもしれないが、そんな仮定に意味はない…それに何より、ただで終わるようなフェイトでもなかった。
「雷鳴!!」
「何だと!?」
短い呪文と共に放たれたのは…蹴りだった。
互いに武器がふさがった状態での生身での蹴り、そこまでならばシグナムも驚きの声を漏らす事なく、冷静に対処できただろう。
フェイトの蹴りに魔法…彼女の属性である電撃がまとわりついていなければ…炎熱や冷却魔法ならばいい…いや、よくはないが火傷や凍傷を負いながらでも、それを耐えて反撃できる位の自制は可能だ。
だが、電撃はダメだ…電撃はまずい。
スタンガンを例に出すまでもなく、電撃は表面よりも内面にダメージを与える属性、電気を流された筋肉が硬直してしまう生理反応は意志の強さではどうにもならない。
「こっのおぉぉ!」
いかにシグナムとはいえ、わずか瞬きほどの間に、ここまで理路整然とフェイトの攻撃の危険性を看破できたわけでは無い。
故に、フェイトの蹴りに対して自分の肉体での防御では無く、レヴァンティンの鞘を合わせたのは戦士としての本能が思考の速さを凌駕した結果だっただろう。
『ちぃぃぃぃぃぃ!!防ぎやがったでござるな!?』
「くっ!!」
今度はフェイトがうめく番だった。
所詮、デバイスの補助も受けていない|一小節(シングルアクション)の魔法…鞘が金属製だったとしても、それを伝わって感電させるまでの電気は起こせていない。
「ああああ!!!」
フェイトの攻撃が不発に終わった以上、今度はシグナムのターンだ。
剣を振り抜く間合いすらないほぼゼロ距離から、シグナムがフェイトに向けて肩からぶつかって行く。
「キャ!!」
蹴りで体勢を崩した状態で体当たりを受け、体重の軽いフェイトの体は、はじかれたように飛ばされた。
「バルディーーーシュ!!!!」
『喜んでーーーー!!』
返って来た反応がアレだが、砲撃モードになったバルディッシュに魔法の光があつまる。
更に、バルディッシュに新たに組み込まれたリボルバーのシリンダー状の部品、カートリッジシステムが稼働し、フェイトの魔力を底上げする。
『「プラズマスマッシャー!!」でござる!!』
後方に吹き飛び続けながら、フェイトが黄金色の砲撃を放つ。
「くっ!!」
タックルを放った状態のまま、動きを止めているシグナムに避ける事は出来ない。
出来る事は受け止めて耐えるかもしくは…。
「紫電…」
レヴァンティンのカートリッジシステムから立て続けに薬莢が排出される。
シグナムの魔力が炎に変換され、刀身に炎が宿った。
「一閃!!!!」
タックルで居合抜きのような体勢になっているシグナムが、気合いと共に逆袈裟の一刀が放つ。
剣筋に沿って赤が走り、炎の龍が空に駆け上がる。
金色の槍と赤炎の龍、両者は互いを食らいあい、爆発という結果を招いた。
「くっ!!」
「うっ!!」
背後に吹き飛ばされる二人の中間で爆煙が起こり、互いの姿を見失わせる。
本来ならば追撃は不可能が普通……可能とするのが一流だ。
「な!?」
フェイトが思わずうめいたのも仕方ないことだっただろう。
爆煙を突き破って鋼の蛇…レヴァンティンの連結刃の奇襲が来た。
「プラズマスマッシャーー!!」
迫りくる刃に対して、フェイトは回避では無く攻撃を選んだ。
こちらに向こうが見えないのと同様に、シグナムにもフェイトの姿は見えていないはず。
しかも攻撃の直後となれば、動きが止まっているだろう…黄金の魔力弾が、連結刃と共に爆煙を蹴散らす。
「な、いない!?」
だが、煙を貫いた先には誰の姿もなかった。
『マスター、上でござる』
「は!」
バルディッシュの助言に視線を上げれば…いた。
「迂闊だな」
シグナムが、連結刃を戻しながら大上段に構えて落ちて…斬りかかってくる。
爆煙だけでは無い。
連結刃まで囮にした奇襲…この巧みさは重ねた戦場の数か?
「まだだよシグナム…バルディッシュ!!」
シリンダーが回転し、三発ほどのカートリッジがロードされる。
再びバルディッシュに魔力刃が形成されるが、今度のは鎌より厚く、重い。
『ひっさびさの魔人狩りですぞーーーー!!受けて見れシグナム氏!!』
「な!?」
今度はシグナムが驚く番だった。
フェイトが構えているのはハルバート状の巨大な斧、今までのフェイトの戦術とはかけ離れたパワータイプの武器だ。
何より、竿状武器のハルバートと片手剣に属するレヴァンティンではリーチの差が存在する。
レヴァンティンの刃がフェイトに届くより、バルディッシュの刃がシグナムに先に届く。
「はぁぁぁぁぁ!!」
『大車輪でござるなぁぁぁぁ!!』
フェイトがタイミングを計り、ハンマー投げの様に一回転して遠心力を刃に乗せる。
重量武器の威力を増大させる動きと、すでに軌道変更も迎撃も無理なタイミングだ。
シグナムは十分に遠心力の乗った一撃が、自分の脇腹に吸い込まれて来るのを感じる。
「ぐっつ!!」
両者の激突は、甲高い金属音となった。
少なくとも、肉や骨の立てられる音では無い。
「そんな…」
フェイトは唖然とした。
必中必殺のタイミングに合わせた最高クラスの一撃…シグナムはそれに対して、剣を持つ右手、剣の原に当てた左の肘と太ももで威力を吸収し、魔力刃そのものはレヴァンティンを盾にする事で受け止めていた。
「ぬ…くっつ…」
しかし、反動までは消せなかったらしく、剣を盾として保持したままの姿でシグナムが吹き飛び、フェイトとの距離が開く…今度は見失わない。
「……ふう」
レヴァンティンを降ろし、深いため息をついたシグナムが無形の位でフェイトを見る。
「…素直に賞賛させてもらおう。テスタロッサ…見事と言うほかない」
笑みの形になった唇から洩れたのは、フェイトを褒める言葉だった。
近接戦に特化したベルカ式、しかも一流の騎士であるシグナムからの賛辞…めったに受けられる物ではないのは確かだろう。
「デバイスを介さない魔法で肉弾戦とはな…背筋に走った物がまだひかないぞ」
あのやり取りは、シグナムをしても驚きだったようだ。
デバイスの補助なしで魔法を使う事は理論を知っていれば不可能では無い、ただしその場合どうしても威力が落ちるし、発動までのタイムラグが必要だ。
故に、魔導師同士の魔法合戦になるとデバイスを中心とした物になりがちなのだが、フェイトはそんな思い込みを逆手に取り、魔力刃に意識が向いている所に魔力を込めたけりを叩き込んできた。
もしシグナムの魔法形態が近接戦主体のベルカ式でなく、しかも彼女の技量が一流でなかったなら、間違いなく落とされていただろう。
「…私が、思いついたわけじゃないから…」
フェイトが参考にしたのは、なのはの魔法と魔術の両立だ。
自分も初めて相対した時はかなり驚き、追いつめられたのを思い出す。
魔術回路を持たないフェイトでは魔術が使えないので、なのはのようにデバイスで砲撃しながら剣を振るうような完全な両立には至っていない。
特に威力と言う面でどうしても劣るが、自身の持つ電気の属性でそれを補っているのだ。
「自分の物でもない物を容易く取り込める柔軟性も、貴公のセンスだと思うが…」
シグナムの目が意味ありげに向けられたのは、フェイトに手の中にあるバルディッシュだ。
「そのバルディッシュに組み込んだカートリッジシステムのようにな」
『フハハハ、よくぞ言ってくれました!!』
「…何?」
予想外すぎる反応が返ってきて、思わずシグナムは聞き返していた。
先ほどまでの戦いの中でも、デバイスには必要ないやたらと気合の入った奇声を上げていたが…。
『天が呼ぶ!!地が呼ぶ!!人が呼ぶ!!新たなる力を手にいれたバルディッシュ物語後期型!!その名も「バルディッシュ・アサルトです」…な!?』
あのフェイトが…バルディッシュの口上をつぶしただと?
『そ、そんな殺生なマスターー!!夜なべして考えた決め台詞が…』
「ねえバルディッシュ?」
『お、おや?何故にマスターがなのは様と同じ魔王色の覇気を纏っていらっしゃる?某、気を失ってしまいそうでござるよ?』
しかもすごくいい笑顔だ。
「さっきからはしゃぎ過ぎでしゃべりすぎで煩いと思うんだ。…ちょっと邪魔だよ?」
『も、申し訳ござらん…少々、調子に乗り過ぎていたようでござる。本体フレームがみしみし言うような熱烈な握りしめをされなくとも、マスターの思いははっきり伝わってござる。っと言うかユルシテクダサイ』
「目立ちたいのは分かるけれど…気が散るから必要な時以外、静かにしてないと折…怒るよ?」
『Y…Yes,Master!!』
バルディッシュの口調が昔に戻っていた。
それだけでなく小刻みに震えているような気がする…フェイトが途中で不自然に言葉を切った時の文字が違っていた気がするのに関係があるのだろうか?
しかしフェイトは自分のデバイスの返答に満足したのか、それでいいんだよと呟きつつ前を見る…何故か唖然としたシグナムと目があった。
「ごめん、待たせたねシグナム?」
「あ、ああ…いや、今来たところだ」
思わず待ち合わせの恋人みたいな返しをしてしまったシグナムに、首をかしげたフェイトだが、気を取り直してバルディッシュを構える時には、薄い笑みを浮かべていた。
それを見たシグナムが…何かまずい物の扉を開けてしまったような、やっちまった感を感じたのだが、それをフェイトが知る事は出来ない。
「行くよ、シグナム!!」
「こ、恋!否、来い!!」
シグナムの返事が上ずっていた。
再開された戦闘は、その激しさと規模を広げて行く。
――――――――――――――――――――――――――――――
「「「「「……」」」」」
フェイトとシグナムの戦闘に、全員の目が奪われていた。
二人だけ、戦いのレベルが違う。
もし二人のうちどちらかが相手より劣っていれば、すでに数回は落とされているであろうレベルの接戦…このバランスを崩して、フェイトの不利になる事もありうるとなれば下手な援護も躊躇われる。
しかも、本人達は周りに全く気を払っていないので、見ているだけでも物騒でしょうがない。
ついさっきも、シグナムの避けたプラズマスマッシャーが流れ弾となり、仲間のはずの武装局員達のすぐ傍を通り過ぎ、あわてて回避するという一幕があった。
そんな二人の戦いが、戦場のど真ん中で行われているとなれば、悠長に自分達の戦闘とはいかなくなるのは仕方のない事だろう。
「え〜っと、あの子すごいわね」
「ああ、我等の将と互角とはな」
武装局員達と同じ理由で傍観者に回っていると言うか、回らないわけにはいかないザフィーラとシャマルが、二人の戦いに感心している。
元からヴォルケンリッターの将として設定されたシグナムだが、同時に実力的にも将として十分な技量をもっているのだ。
その彼女と手加減なしに互角に戦っているフェイト…自分達の将が負けるとは思わないが、シグナムの言葉どおり、フェイトの技量は認めるべきだろう。
「それにしてもあの子、バトルジャンキーだったのね」
「ぐぁ!!」
悲鳴とともにやたらと生々しい音が聞こえた気がするが…気のせいだろう。
「ああ、しかも魔王と同レベルになりつつあるな」
「のぁ!!」
また聞こえた…どうも空耳じゃなかったらしいと見れば、orz状態のアルフだ。
「あ、あたしの…あたしの…フェイトが染められていく…いや、もう染められている?」
「「……」」
「あんなにいい子だったのに…」
なににそんなに絶望しているのかは知らないが、ダメージがでかそうなのは良く分かる。
「…事情はよく分からんが、頑張れ…アルフ」
「あんたに…あんたに何が分かるんだよ?」
ヤバイと言うか、ウザい感じにアルフがやさぐれている。
しかし、そんなアルフを見てもザフィーラは怯まない。
「相談には乗ると言っただろう?何にショックを受けているかよく分からんが、そんな状態のお前を放っておけるか」
「ザフィーラ、あんた…」
アルフの目が潤んでいる。
それを見たザフィーラは頷きで返した…そこで頷きを返すのは正解なのか?
「…ねえザフィーラ?」
互いに見つめあい、フェイトとシグナム達とは違うタイプの二人の世界を作っている所に、シャマルが話しかけてきた…なんでそこでアルフが「何で邪魔するんだよテメー!?」と読み取れる不満そうな顔をするのだろう?
「何だ?」
「貴方、前回からその人にフラグ立てまくっていない?狙ってるの?」
「…は?」
ザフィーラが何言ってんだという顔になり、理解できないという意味の言葉を漏らした。
「なにを言って…」
「な、何言ってんだい?ザフィーラがあ、あたしを狙ってるって?」
何やらアルフがあわてだした。
しかも顔を赤くして挙動不審…おや?
「だ、大体だな、あたいたちは今戦ってるんだぞ?」
だったら戦え。
最後の一人になってガンダムオブガンダムにでもなるくらい。
「ば、馬鹿なこと言ってんじゃないよーーーー!!」
アルフはにげだした。
「え?あれ?」
そしてザフィーラは残された。
「ひょっとして、自分がフラグを立てていた事に、全然気がついてなかったの?」
「……マジでか!?」
キャラに似合わない絶叫を上げるザフィーラ…ザフィーラのステータスに、鈍感主人公属性が追加されました。
ハーレム属性はない…っと言うか家に帰れば女の中に|男(オス)が一人状態なので必要ないだろう…多分…そしてアルフのステータスに、分かりやすいツンデレ属性が付加された。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「お〜お、シグナム達派手にやってんな〜」
戦闘の中心から離れた場所でヴィータが呟いた。
シグナムとフェイトの戦っている空域では、派手に爆発やら選考やらが起こっている。
それを見るヴィータの視線に、若干ではあるがうらやましげなものが含まれている。
彼女も、その本質は騎士だ。
様々な制約と紆余曲折があって望まぬ戦いの中にいはするが、基本的に己の力を存分に振るう事は望むところである。
それが実力の拮抗している相手となれば、それ以上言う事はない。
「だってーのに…やれやれ、なんであたいはこんな奴があいてなんだ?」
ため息とともに前を見る。
そこにいるのはルビーを剣道の竹刀のように構えるアリシアだ。
「魔力は多いようだが…何で素人が戦場に出てんだよ?」
流石と言うべきだろう。
放出される魔力はともかく、アリシアの体勢と重心、それとルビーを構えた姿から彼女が素人である事を見抜いたようだ。
しかも、周囲には二人以外の武装局員が一人もいない。
完全に一対一の決闘状態だ。
「が、頑張りますから!!」
「がんばりますって…」
この場合、どう答えればいいのだろうか?
自分を捕まえに来ている相手に、がんばってくれと言うわけにもいくまい。
「まあ、やるからには負けるわけにはいかねーんだけど…サポートも無しに何が出来るって言うんだ?」
やはりヴィータは気が乗らないようだが、それも仕方があるまい…基本的に手加減などは苦手そうなヴィータだが、素人相手に|ベルカの騎士(プロフェッショナル)が本気を出すわけにもいかないだろうくらいの常識は備えているはずだ。
『いいんですか〜ヴィータちゃん?』
「あん?」
『油断していると後悔しますよ〜?』
億劫そうにグラーフアイゼンを構えるヴィータだが、ルビーの言葉に視線がきつくなった。
「…お前何言ってんだ?あたいをなめてんのかよ?」
『いえいえ〜ただ、アリシアちゃんがなのはちゃんより“安全”かどうかは分からないって話ですよ〜』
「何だと?」
ヴィータが改めてアリシアを見る。
じっくり上から下まで、これが男だったら視姦とか言われかねない。
見られているアリシアは、自分に向けられる視線に硬直しているようだが、ヴィータはお構いなしだ。
「…やっぱり素人じゃねえか」
見返して見て尚、ヴィータの判断にぶれはなかった。
どう見てもアリシアは素人だ。
戦闘どころか、まともに魔法を使えるかどうかも怪しい…ヴィータが油断出来ていたのはそこまでだった。
「い、行きます!!だ、大斬撃―――!!」
「は?」
瞬間…世界が切れた。
否、世界がずれた。
アリシアがルビーを振るっただけで、ヴィータはあまりに緊張感のない掛け声と、自分の目が見た物が理解できずに呆ける。
「……」
何か嫌な予感を感じて、世界がずれた断面だった部分…自分の真横を見たヴィータが言葉を失う。
大地が切れていた。
砕くでも裂けるでもない。
純粋な意味で大地が切断され、直線上に存在する物は岩だろうが木だろうが関係なく、鏡面のような切断面を見せている。
切断面の端は刃として十分使えそうなほどに鋭い。
『ダメですよアリシアちゃん、大斬撃だとヴィータちゃんが真っ二つになっちゃいますよ〜』
「ご、ごめんなさい」
『この後で魔女っ子にスカウトするんですから気を付けてくださ〜い』
やっと理解が追い付いてきたヴィータが真っ青になる。
『だから魔力弾に切り替えましょう。非殺傷設定なんて便利な物はありませんけど、きっとヴィータちゃんは生き残ってくれるはずですよ〜』
「なんだそりゃ!?」
いくらヴィータでも焦る。
さっきの斬撃に、ヴィータは反応さえできなかったのだ。
この上、非殺傷設定がないなどと聞けば平常心ではいられない。
「お、お前!!ルビー!?」
『なんですか?』
「さっき安全かどうか分からないとか言ったな!?」
アリシアがなのはより弱いとは言っていないのがネックだ。
『ええ、アリシアちゃんは先日魔術師になったばかりです。だから…』
「だから?」
『手加減とか分からないんですよね〜』
手加減と言うのは技術である。
自分の持てる能力を完全に把握した上で、どの程度の力を出せば狙った結果が得られるかをイメージし、実行し、結果を出すという工程を経て初めて手加減と言うものは成立する。
なので、急に力を手に入れただけの素人であるアリシアには、なのはのような手加減が出来ない。
これが魔法ならば非殺傷設定と言うものがあるのだが、ルビーは礼装である。
しかも、技術が伴わなかろうと魔力的に問題はないのが最悪だ。
結果として、アリシアの攻撃はなのはお得意の全力全開の一択しか残っていないため、常に最大レベルの攻撃がヴィータに向けて放たれる事になる。
「むちゃくちゃ危険じゃねえか!!」
子供に刃物や火を使わせるのと同意である。
『だーい丈夫ですよ〜』
「その根拠は何だ根拠はーーー!?言ってみやがれ!!」
「なのは様の代わりにがんばります!!」
「がんばるな!!がんばり方を間違えてるぞお前!!あの魔王に代わりなんていてたまるか!!世界が滅ぶぞ!!」
…そこまで言うか?
言ってる間にも、アリシアの頭上に魔力が集まり…多分ガンドのような属性の魔力弾が形成される。
「げ、元気玉!?」
『あはぁ〜二度ネタはメ!ですよヴィータちゃん?』
因果は巡る…ヴィータは欠片も覚えていないので理不尽な事この上ないだろうが…。
―――――――――――――――――――――――――――――
「シグナム!!!」
「む?」
背後からの声に、思わず戦闘の手が止まる。
一騎打ちをしていたフェイトも声に驚いたらしく、動きが止まった。
この声は…ヴィータ?
「何だヴィータ、決闘の最中に無粋だぞ!!やっと調子が出てきたと言うのに」
やはり|こいつ(シグナム)もバトルジャンキーのようだ。
最初はともかく、そろそろ純粋に戦闘を楽しみ始めている気配がある。
「良いから、こっち見やがれ!!」
「まったく、そんなに慌ててみっともない。何が…ってなんだそれは!?」
シグナムが叫んだ。
あの冷静で皆の頼れるお姉さんで劣化の将…もとい、烈火の将で凛としたクールビューティのシグナムが…ついさっき慌てるヴィータみっともないとか言った張本人が…イメージを根こそぎ無視して大声で叫んだのだ。
ただしそれは、シグナムがどうこうでは無く、彼女が見た光景の方に問題がありまくりだったので責めるのは酷だろう。
「あれは、魔力弾か!?」
ただの魔力弾なら、いきなりとはいえシグナムが取り乱す事はなかっただろう…ただの魔力弾だったなら…問題はその大きさだった。
でかい…とにかくでかいのだ。
「助けてくれシグナム!!」
小さなビルくらいのでかさの魔力弾から、ヴィータが必死こいて逃げている…自分の方に向かって…すなわち、特大の魔力弾が自分に向けて飛んできていると言う事だ。
「お前何で追いかけられてるんだ!?元気玉は悪い心を持った人間にしか向かわないんだぞ!?」
「そのネタはもう良いから!!逃げろ!!」
「フン、勘違いするなヴィータ!!ベルカの騎士に後退はない!!だが、後ろに向けての前進はある!!」
「全くその通りだぜシグナム、こりゃ一本取られたな!!」
「「あははっはははーーー!!」」
シグナムはこんらんしている。
ヴィータはこんらんしている。
盛大にメダパニっているようだ。
「では行くぞ!!」
「オウヨ!!後ろに向かってダッシュだ!!」
シグナムはにげだした。
ヴィータはにげだした。
「ザフィーラ!!」
「シャマル!!」
「む、シグナムにヴィータ…ってなんじゃそら!?」
「まさかそれが伝説の元気玉なの!?」
「「そのネタはもう良い!!」」
天丼も流石に三回はやり過ぎだ…あれ、四回か?
「迎撃する!!」
「わ、わかった!!」
「やーってやるぜ!!」
シグナムのレヴァンティンとヴィータのグラーフアイゼンから連続してカートリッジが排出される。
その隣で、ザフィーラの前方に銀のベルカ式魔法陣が展開された。
「縛れ!!鋼の軛、てりゃぁぁぁぁ!!」
魔法陣から飛び出した銀の鎖が魔力弾を拘束する。
「くっ、何と言う馬鹿げた魔力、抑えきれんのか!?」
みしりみしりと鎖が悲鳴を上げる。
それでも迫ってくる魔力弾の動きは止まらない。
「シュランゲバイセン!!」
『Schlangebeisen』
シグナムのレヴァンティンが連結刃状態になり、鋼の軛に捕らわれた魔力弾を更に拘束する。
「このまま押しつぶしてやる!!ヴィータ!!」
「おうさ!!ギガントフォーム!!」
グラーフアイゼンの部品が組み換わり、巨大なハンマー状になったかと思えば巨大化した。
「ギガントシュラーク!!光になれやーーーー!!」
『Gigantschlag』
グラーフアイゼンが迫ってくる魔力弾にカウンターで叩き込まれる。
破壊力だけは文句なく最強ではある。
高速で動く物にはあてづらいのが玉に傷の技だが、シグナムとザフィーラによって速度を落としていた魔力弾は絶好球だった。
ヴィータの言葉通り、魔力弾は光る魔力になって霧散する。
「「「「……」」」」
何とか窮地を脱する事が出来たが、ヴォルケンリッター達の顔色はすぐれない。
「…ヴィータ、後何発だ?」
「ゼロだ。全部使っちまった」
「我の魔力も、大分もって行かれた」
ヴィータとザフィーラの返答に、シグナムは頷きで返した。
シグナムの状態も似たようなものだ。
「シャマル…」
「ごめんなさい。予備のカートリッジは皆に渡した分しか…」
「……」
どうやら、全員のカートリッジが切れたようだ。
ただしそれが間違いだったか?と言われれば否と答えるだろう。
カートリッジを使い切らなければならない状況だったし、それほどの代償を支払わなければ回避不能な状況でもあった。
しかし……その後が続かない。
すでに自分達は、管理局員達に包囲されている。
本人の魔力で戦う事は可能だが…この数の差を覆すことが可能かと言われると難しい…結局のところ、数は力なのである。
「…投降してください」
そんなシグナム達の状況を勘づいているのだろう。
フェイトが降服勧告をしてきた。
一気に攻め込めば勝敗が決してしまいそうな状況で…それでも最後の勧告をするあたりを彼女の優しさと言うべきか甘さと言うべきだろうかと考え…シグナムは独断と偏見で優しさだろうと判断する。
そちらの方が色々と気分がいいからだが…。
「悪いが、その申し出は断らせてもらう」
たとえ不利であろうと、追い込まれていようと曲げられない物がある。
主はやての事は、間違いなく曲げられない事だ。
「そう…ですか…」
フェイトも、シグナムの返答は予想していたはずなのに顔を歪めて苦しそうな表情を作っている。
これも彼女の優しさか…だが、それとこれとは話が違う。
バルディッシュを構えるフェイトとルビーを構えるアリシアを見て、シグナム達も構える。
一見して手詰まりな状態だが、突破口がないわけでもない。
魔力はあるのだ。
「シャマル…最悪の場合、闇の書の魔力を解放する準備をしておけ」
「おいシグナム…」
「ヴィータ、他に方法がないんだ」
せっかく集まった魔力を開放するという事は、闇の書の完成が遅れると言う事、そして被害者を増やすと言う事、本来蒐集されるはずではなかった誰かが、運悪く被害にあうと言う事だ。
「ここで、捕まるわけにはいかないんだ」
「…分かったわ」
シャマルが闇の書を取り出して構える。
それを見た管理局員達が、ヴォルケンリッター達に殺到した。
「え?」
その一音は…誰の口から洩れた音だっただろうか?
言葉にすらならないそれは、考えて発された物では無い。
むしろ無心、あるいは空白…思考停止した思考が、反射的に漏らした疑問符だ。
いつの間にか、アリシアの背後に今までいなかった人物が現れていたが…この場の全員が目を離せないのはいきなり現われた男では無く、アリシアの方だ。
人間には当然ではあるが手足が二本ずつ付いている…決して三本目の手などと言うものは存在しないし、アリシアにそんな物があったわけでもない。
…なのに何故?
アリシアの胸から、三本目の腕が生えているのだろうか?
そして何故…その手はアリシアのリンカーコアを掴んでいるのだろうか?
あまりにも現実離れした光景が世界を停止させる。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ | ||
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