リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第十四話 Cat |
「皆おまたせ〜タイガー道場〜」
「始まるよー」
「……………え?な、何?」
たっぷり時間をかけた後、なのはの口からでたのは疑問符だった。
「…みんな〜おまたせ〜〜タイガー道場――!!」
「は〜じま〜るよ〜〜〜!!」
「あ、いえ、聞こえなかったわけじゃないですから」
聞こえてはいた…ただその内容を理解できなかっただけだ。
「タ、タイガー道場?」
あ、ありのまま起こった事を言うの。
気がついたらどこかの道場のど真ん中にいて、ボーッとしていたら剣道着を着た栗色のショートカットの女の人と、何を狙っているのか体操服にブル魔…もとい、ブルマの銀色の長髪な外人の女の子が出てきて、わけのわからない事を言っている。
な、何を言っているか分からないと思うけど、なのはにも訳が分からないの・・・頭がどうにかなりそうだった。
子供向け番組とか、人の話を聞かないとかそんなチャチなもんじゃなくって、もっと恐ろしい物の片鱗を現在進行形で味わっているの!!
「タイガー道場も皆さんに愛され、とうとう並行世界に出張するにいたったわけよ!!感慨深いわね〜でも師範代はやっぱり私、ご存じ冬木の虎こと藤原大河!!今日も張り切っていくわよ!!」
「異議あり…すいません、全然ご存じないです」
少なくともなのはは、タイガー道場も藤村大河なる目の前の女性も知らない。
それでご存じとか言われても困るのだ。
冷たいかも?っとか思ったが、知っている事前提で話を進められたら絶対混乱する。
「え?…マジ?マジでご存じない?」
「はい、ごめんなさい。マジでご存じじゃないです」
なのはは物事をはっきり言える日本人。
その返事にショックを受けたのか、それとも自分の存在が思ったほどメジャーじゃなかった事に絶望したのか大河ががっくりと膝をつく。
「こ、これがアウェーの洗礼って奴なのね…」
「ししょーがいきなり潰されたーって言うか、どんだけ自分の知名度に自信を持っていたんっすか?自意識過剰すぎっす」
そしてこれまた名前も知らぬブルマっ子がここぞとばかりに追い打ちをかけている。
実に楽しそうだ。
あれは絶対分かった上でやっている。
「うっがーーー!!やっかましいはこのバカ弟子が!!」
「キャーーー!!大河が切れたーーーー!!」
悲鳴を上げている割には、二人共楽しそうなので、問題あるまい。
なのはを無視して勝手に盛り上がるのは止めてほしいところではあるが…これでも一応主人公なんだぞ?
しかし、二人の騒動と言うかじゃれ合いに飛び込んで行くだけの勇気もないので静観する。
収束の気配が全く見えないので、話が再開するまで時間がかかりそうだ…なんって事を思ったせいかどうかはしらないが、静かになるまで本当にちょっと時間が掛かった。
「み、見苦しい所をお見せしちゃったわね」
「は、はあ…」
大河の言葉にどうこたえていいのか分からず、なのはは曖昧に笑った。
本当に色々見苦しかったが、それを言うのはいくらなんでもストレート過ぎると思うので黙っておこう。
なのはは空気を読める良い子。
「改めて、タイガー道場の師範代、冬木の虎こと藤村大河見参!!」
「そしてその一番弟子、冬木の良心ことイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、参上!!」
「えっと、藤村大河さんに、イリヤスフィールちゃん?」
未だに状況が全く読めてないが、とりあえず二人の名前が分かっただけでも一歩前進…っと思っておこう。
いくらなんでもブルマちゃんと呼ぶわけにもいかないし、年上にさん付けするのは礼儀の基本です。
「ああ、なるほど。藤村大河だからタイ…」
「トペ・アインツベルン!!」
「イリヤちゃん?ニャーーーー!!」
完全な不意打ちだった。
Q 脈絡も前振りもなく、いきなり幼女がフライィングボディアタックなんてしかけて来たらどうしますか?
A それは受け止めるしかないだろう。嬉しいかどうかは別にして、危ないもん。
なので、なのはも受け止めた。
ただし、なのは自身の体重が軽いのと意表を突かれたせいで、二人はもつれ合いながらごろごろと道場の端まで転がって行く。
「な、何何何!?」
気がつけば、なのははマウントポジションを取られていた。
イリヤが真剣な顔で見下ろして来るのが、今の状態と合わせてとっても怖い。
「ししょーをタイガーって呼んじゃダメ。そんな事を言ったら吠えるんだから」
「ほ、吠える?」
人間の行動として吠えるというのはどうなんだろうか?
どちらかと言えばそれは、野生の肉食動物とかそう言う連中の行動だろう。
そう…たとえば|虎(タイガー)とか…そんな目で本人を見たら、目があった。
「うん、どうかしたの?」
「あ、いえ…」
しかし、なのはにはそれを大河にぶつける勇気はなかった。
「ん?どうしたの、言うてみんさいな?」っと言う感じのオーラを存分に発散している本人を目の前にして、地雷を踏むような愚は犯さない。
何度でも言うが、なのはは空気の読める良い子なの!!
「さ〜って、時間食っちゃったからここからはサクサク行くわよ。弟子一号、今日のゲストは誰かな〜?」
「はいししょー、今日の相談者は海鳴市在住の高町なのはさん(9歳)でーす」
「よ、よろしくお願いします」
とりあえず頭を下げておく。
何時の間にゲストになったのかとか、なんで相談者にされているのかとか、しかも当然の如くさらっとなのはの個人情報まで知られているなんて何それ怖い!!エトセトラエトセトラ…突っ込みどころには困らないのだが、それを言っても多分無駄な気がする。
「え、え〜っと、タイガー道場ってなんですか?」
とりあえず一番気になる事を聞いてみる。
タイガー道場…その名前に聞き覚えはない。
聞き覚えはないが、|厄介(トラブル)の響きを感じる…実際、面倒に巻き込まれているので今更と言う気もするが…。
「よっくぞ聞いてくれました!!その質問を待っていたわ!!」
大河が嬉しそうに反応する。
説明したくて待ち構えていたか?
「タイガー道場、それはバッドエンドを迎えちゃった救われない魂に、明日のハッピーエンドの為のその一を教える場所なのだよ、なのはちゃん!!」
「は、はあ…」
そう言ってジャブを繰り出す大河…なのはの歳を考えろ…ネタを振られている事は分かっても訳が分からず困っていないぞ?
「ってバッドエンド!?ここって死後の世界なんですか?」
流石のなのはも真っ青だ。
確かに、闇の書の暴走に巻き込まれた事を考えると死んでいてもおかしくない。
むしろ、歴代の主の末路を考えると、可能性は高くさえあるだろう。
相当に無茶だったし、なのはも覚悟を決めた行動だったが、それでも自分が死んだというショックはでかい。
「ん〜なのはちゃんの場合はチョッチ違うかな、ちゃんと生きてるみたい。でも諸々の色々からたまたまチャンネルがつながってここに来ちゃったみたいなのよね〜」
「そ、そうなんですか?」
なのはが心底ほっとする。
死後の世界がこれでは、正しい意味で夢も希望もない。
百歩譲って走馬燈だったとしても、人生最後に見る光景がこんなふざけた物だったら嫌過ぎる。
「っと言うわけで、悩める困ったちゃんの終着駅、タイガー道場に迷い込んできたなのはちゃんのお悩みは何かな?」
「な〜にっかな、な〜にかな?」
「な、悩みですか?え、えっと…」
大河とイリヤがノリノリだ。
|タイガー道場(ここ)は嘘か真か指針をくれる場所らしいので、何か言わないと収まりがつかないのかもしれない。
そして、幸か不幸かなのはは一つの悩みを抱えていたりする。
「あ、あの…それじゃあ、何でもいいんですか?」
「おっしゃドンとこーい」
「どんな相談でもししょーとイリヤが相談に乗るよ〜」
むしろこの二人だから不安になるのだが…本当にまともな答えが返ってくるのだろうか?
まあ、それはそれとして…言うだけ言ってみるのもいいかもしれないと意を決したなのはが口を開く。
「え〜っとですね、最近周りの人が、お友達とか含めて私の事を魔王様魔王様って呼ぶんです」
「ほうほう…それはたいへんね」
「オス、これが流行りのいじめっすね?」
「そ、それでですね、ひょっとしたら私ってトラブルを呼び込む体質じゃないかと思って…」
なんとなくこのタイガー道場も、自分のトラブル体質が引き寄せたような気がしなくもないが、この際それは考えないようにしよう。
「もしかしてなのはは、ずっとこんな感じで騒動に巻き込まれたり起こしたりしながら大きくなるんでしょうか?」
「……………………まあ、割とね、ってチョイ待ち!!何処に行くのなのはちゃん!?」
いきなりあらぬ方向に向かってダッシュしたなのはに、大河が驚く。
「うあああああん、お家帰る!!」
「ショックのあまり幼児化!?放っといてももうすぐ帰れるから!!魔術で強化した拳で壁をぶち抜いて帰ろうとか無茶しないでー!!」
「うえええーーん!!」
大河の訴えも、今のなのはには届きそうにない。
「お、落ち着いてなのはちゃーーーん!!さっきのコメントはノーカンでお願いします!!絶対そうなる保証なんてないんだから!!」
「……本当?」
「う…」
大河の言葉に、破壊活動をやめたなのはが振り向くが、その大きな瞳に涙をいっぱいためた顔を見た大河がうめく。
「ししょー、新しい世界の扉が開きかけてるっす!!」
「うおっ、やべー!!もう少しで道を踏み外すところだったわ!!」
一体どんな世界に踏み込みかけたんだ大河?
お前は一応教師なんだぞ?
「と、とにかくね、なのはちゃん?未来はどんどん変わっていくものなの、だから必ずそうなるとは限らないのよ」
大河が良い事言っていると自画自賛している…そんなに大したこと言っているかこいつ?
「そ、そうなの?」
「ええ、本当はこの時点ではまだ二つ名は悪魔のはずなのに、すでに魔王様になっているし」
「……」
「こりゃあ最終的には魔神とか破壊神まで行くかもしれないわね、ほら、すでにこんなに運命は変わっているのよ?って、あ、あれ?なのはさん?お〜い」
「ししょー、それってフォローになってないどころかむしろ奈落に突き落してる感じ?」
「うぁぁーーーーん!!」
なのはスタンピードリターン…タイガー道場の崩壊速度が上がってる?
「だぁぁぁぁ!!待って待ーって!!あたしの道場がどんどん瓦礫の山に!!」
「ししょー、口は災いのもとってこういう事を言うんですね〜」
「他人事みたいな顔してんじゃないわよバカ弟子一号!!あんたも魔術師なんだから、なのはちゃんを止めて!!」
「あ、それ無理っす」
イリヤの返事は短くて聞き間違いようがなく、そして情け容赦のないものだった。
しかも手をひらひらと白旗のように振っているおまけつきだ。
「何故に!?」
「だってあの子の内包してる魔力、イリヤの何倍あると思っているんですか?ここまで差があると全力で仕掛けても残念賞っすね」
「ええい、役立たずめ―――!!」
「うわぁぁぁーーーーん!!」
泣きながら、なのはの八つ当たりは続く。
――――――――――――――――――――――――――
『…なのは様?』
誰かがなのはを呼んでいる。
聞き覚えのある声…引き寄せられるようになのはの意識が覚醒に近づいて行く。
『なのは様、気がつかれましたか?』
「レイジングハート?」
声の主は、レイジングハートだったらしい。
見ればバリアジャケットもちゃんと展開されている。
「なのはは…気を失っていたの?」
『はい、バイタルに問題はなかったのですが、魘されているようでしたので呼びかけを繰り返していました。時間がかかって申し訳ありません』
「レイジングハートのせいじゃないよ」
ルビーと違って、自分で動く事が出来ないレイジングハートでは、呼びかけることしかできなかっただろうと思う。
「そっか、夢だったんだ…」
この世ならざる場所に存在するタイガー道場…はたしてそれはなのはが見たただの夢なのか…それとも…。
「それにしても一度ならず二度も夢オチなんて、作者は不二子先生に喧嘩を売っているとしか思えないの」
『な、なのは様?なのは様のおっしゃっている事が理解不能なのですが…』
「うん…なのはも自分で何を言っているのかよく分からない」
元々寝起きは良くないなのはだ。
目を開けていても文字通り寝言と言う可能性は否定できない。
「それで…っと、ここは何処?」
周囲を見回せば、上下左右、ただ黒いだけの世界が広がっている。
先の見通せない闇の中心では、自分の居場所を知るための判断材料がない。
どうやらなのはは床に寝ているようなので、上下と重力はあるらしいが、これまた床まで真っ黒で、本当に地面か結界か何かの上なのかの判断さえつかないと来ている。
長時間ここにいると、精神崩壊を誘発されそうだ。
むしろこんな真っ暗闇の中で、自分の姿だけは確認できるのが驚きだが、何かの作用で体がほのかに発光しているのだろうか?
『おそらく闇の書の内部です。取り込まれたかと』
「あ、やっぱり?」
とりあえず思い出せる記憶を順に紐解けば、はやてと一緒に闇の書の暴走に巻き込まれたのだろうという所まではきちんと覚えている。
なので予想はしていたのだろうが、衝撃の事実を前にしてこの反応…この子も肝が太くなったと言うか図太くなったと言うか…どうも魔術師モードが継続中のようなので、それの関係もあるかもしれない。
夢の中ではあれほど情緒不安定だったというのに…。
「ってそう言えばはやてちゃんは何処!?」
なのはと一緒に闇の書の暴走に巻き込まれたはやて…一緒にいたなのはが無事なのだ。
はやてもきっと無事で近くにいるはず。
『はやて様は右の方です』
「いた!!」
思わず立ち上がってレイジングハートの示す方向を見れば…地面に倒れているはやてを見つけた。
「はやてちゃん!!」
呼びかけるが反応が返ってこない。
とっさに駆け寄り、はやての手を取る。
「…暖かい」
『呼吸、脈拍ともに問題ありません。なのは様と同じように意識を失っているだけかと』
「生きている…よかった」
見た所、外傷もなさそうだ。
生きているだろうとは思っていたが、生存が確認できたことで、緊張の糸が切れたなのはがへたり込む。
「よかったね、はやてちゃん、そろそろ起きて」
自分で目を覚ますまで待ってやりたいのはやまやまだが、どうも状況がそれを許しそうにない。
こんな場所にいる事自体がすでにして緊急事態なのだ。
まさかはやてを担いで行くわけにも行くまい…何か行動するにしても、まずは目を覚ましてもらう必要がある。
「ねえ、はやてちゃんってば…」
何度もゆすって見るが、はやてが目を覚ます様子はない。
「レイジングハート、はやてちゃんは気を失っているだけなんだよね?」
『はい、はやて様にはこれと言って異常は見受けられません』
「なら、なんで目を覚まさないのかな?」
レイジングハートが太鼓判を押すならかなり信用が置ける。
はやてが気を失っているだけなのは間違いないとなると、後は目を覚ませばいいだけのはずなのだが、肝心の本人は目を覚まさない…意識がなく、脱力して割と重いはやての体を抱え上げながら、なのはは困った。
「どうしよう。何ではやてちゃんは起きないの?」
『こういう場合、王子さまのキスでもあればすぐに目を覚ますのですが…』
「はは、レイジングハート。それはいくらなんでもメルヘンすぎ…ん?」
何かを感じたなのはの言葉が途中で切れる。
『どうかしましたか?』
「今、はやてちゃん…身じろぎしなかった?」
「……」
はやてからの返事はない。
ただの屍のようだが、ほほにうっすらと赤みが差している。
しかも自然にそうなったように見せかけて…顔を逸らした?
「……はやてちゃん?」
『なのは様、これはキスとかそう言うイベント待ちの状態では無いでしょうか?』
「……」
なのはは無言ではやてから手を放した。
ゴンとか小気味良い音をたててはやての頭が地面に落ちたが…それでも寝たふりを継続するとはいい度胸だ。
その根性だけは評価するし認めてやるが、それ以外は何一つ認めてやらない。
「レイジングハート、とりあえず一本撃っとこうか?」
なのはのハッピートリガー発言に、今度は分かりやすくはやてが身をよじった…しかしそれでも目を開けようとはしない。
まだまだ頑張るつもりらしい……盛大に間違った根性の使い方をしている
『了解、オーダーは何にしましょう?』
気のせいか、レイジングハートの物言いも普段より冷たく感じる。
はやての体をスキャンしているはずなので、なのはよりもごまかしが効かないのだろう。
「勿論〜全力全開のスターライトブレーカー0距離射撃…」
とうとうはやてが冷や汗をかき始めた。
なのはの言葉に、意味は分からなくてもまずい何かを感じているらしい。
あのエクスカリバーと真正面からぶつかり合い、世界を壊したほどのそれは、ルビーがいない状態とはいえ、十分“必殺”の名を冠するにふさわしい威力を持つ。
勘違いしている人間が多いが、必殺技とは読んで字のごとく必ず殺す技であるからして、殺人技につけるのが本来正しい。
『至近距離だと、非殺傷設定でもかなり危険ですが?よろしいですね?』
「よろしいよ。はやてちゃんだもん?」
「全然よろしくないわぁーー!!」
目の前で飛び起きたはやてを、なのはの冷めた目が迎える。
真正面から見られたはやてがフリーズし、だらだらと汗をかき始めた。
「おはようはやてちゃん」
「お、おはようなのはちゃん」
いくらなんでも冗談が過ぎたと悟ったらしい。
なのはの満面の笑みと向かい合うはやてがガタガタ震え出した。
砲撃モードでスタンバっているレイジングハートに気がついたせいもあるだろう…本気だったのか?
本気で0距離で撃ち込むつもりだったのか?
「はやてちゃん…人間、やっていい事と悪いことがあると思うの…こういう冗談はどう考えても後者でしょ?」
「う、それはそうやけど…うちにだって言い分はあるんやで?」
「良いよ、聞いてあげる」
なのはがそう言うと、何やらはやてが真っ赤になった。
妙な反応になのはがなんだろなと思っていると…。
「あ、ああいう別れ方しとって、こうやって面と向かって会うのがこう…な、恥ずかしかったんよ」
「あう…」
はやての言葉で思い出されたのは、≪なのは&はやてさよならの翼≫ダイジェストシーン全集だ。
二人とも最後だと覚悟を決めていたため、何か色々恥ずかしいやり取りをしていた気がする……思い出すと、なのはも赤面ものだ。
「そ、そやからな…ここは一つ笑いでも挟んで場を和ませようと…」
「お、お気づかいありがとうございます」
何か違うような気がしないでもないが、これ以上思い出すのは羞恥心が意識のブレーカーを落としそうになっているので考えないことにした。
「は、はやてちゃん?」
「な、何かななのはちゃん?」
「あの事は二人だけの秘密って事で…いいかな?」
「いいとも!!」
はやても似たような心境だったのか、ノリよく了承する。
ここに、女の子の女の子による女の子の為の同盟が締結された。
ただし、なのはははやてが背中にまわした反対側の手の親指が立っている事には気がつかない…上手く誤魔化したなこの子狸。
「それにしても、ここは何所なん?」
「う〜ん、レイジングハートは、闇の書の中じゃないかって言ってる」
「レイジングハート?」
なのはは自分の持っている杖状態のレイジングハートを見せる。
「なのはちゃんの部屋でも見たけど、これがなのはちゃんのデバイスなんやね?おしゃべり機能があるん?」
「うん、レイジングハート、御挨拶」
『以後、お見知り置きを、八神はやて様』
「こちらこそ宜しゅうな〜レイジングハート、うちの事ははやてでええよ」
結構な状況のはずだが、自己紹介は穏やかに行われた。
「ええな〜なのはちゃん。うちもお話しできるデバイスとかほしいわ」
「えへへ、いいでしょう…ってそんな和んでる場合じゃないよ!!ここから出ないと危ないんだった」
「おお、それもそうやね」
この狸…天然ボケか?
あるいは相当な大物かのどっちかだろう。
「レイジングハート、ここから出る方法は?」
「ありません」
「「っ!?」」
返答はレイジングハートからでは無かった。
なのはではない…はやてでもレイジングハートもない四人目の声…とっさになのはははやてを背後にかばう形でレイジングハートを構える。
「…主、目覚めてしまったのですね」
闇の奥から…女性の声が聞こえて来た。
諦めたような…何所か悲しむような声に、なのはの胸が締め付けられる。
「誰?」
姿はまだ見えない。
しかし声の主が近づいてきているのを感じる。
「貴女には…眠っていてほしかった」
闇の中に浮かび上がったのは女性だった。
銀の髪を長くのばし、赤い瞳をもつ女性がなのはとはやてを見ていた。
「貴女は…誰ですか?」
「私は…闇の書の管制人格…」
―――――――――――――――――――――――――――――――
固有結界、マジカル星はルビーの固有結界本来の形である。
その姿は枯れた大地と赤く曇った空によって構成された無人の世界だ。
「「いっやぁぁぁーーーーーーー!!」」
そんな無人の世界を全力ダッシュする人影が二つ…猫姉妹とそれに続く…
「にゃあ」「うにゃ」「み〜み〜」「ニャースでニャース」「にゃん」「にゃにゃにゃ」「にゃっぷにやぷー」
猫…猫…猫の群れ…………若干匹、妙なものまで混じっている気はするが、とにかく猫である。
それがかなりの数でロッテとアリアを追いかけていた。
ちなみに、猫達の鳴き声を訳すと「メス、ゲットだぜ!!」っとか「おらの嫁になってくれろ!!」っとか「ロッテちゃんは俺の嫁!!」っとか「アリア様〜可愛がって〜」とかとにかく不穏当な単語が混じっている。
「何何何!?何で、あいつら、こんな殺気、立ってんの!?」
二人を追いかける猫達の眼にはハートマークが見える。
数もそうだが、一匹一匹の様子が尋常じゃない。
「知らないわよ、こっちの話なんて、聞きやしない!!これじゃまるで…」
『は〜い、楽しんでますか〜』
「「くそ杖!!」」
走りつつ、この世界のどこからでも見ることのできる巨大ルビーを睨む。
言わずと知れたこの場の仕掛け人だ。
「あんた、何を、したの!?説明、しなさい!!」
走りながらの怒鳴りつけは息が切れ切れになるが、それでも言わずにいられない。
『何って、婚活ですよ婚活〜出会いのない猫さん達に旦那様をご紹介〜』
「人を行き遅れみたいに言うな!そんな事頼んで無いでしょ!?」
『行き遅れた人はみんなそう言うんです。だ〜か〜ら〜、|彼女(メス)いない発情期のオスを集めたんですよ〜あはぁ〜逆ハーレムですね〜』
「「何を素で洒落にならない事してんだ貴様!!」」
女性としては少々はしたない言葉使いだとは思うが、それだけに猫姉妹の心情をストレートに表していた。
「え?って事は、何、あいつら」
『まあ、要するに子作り所望って事です』
「「いやーーーー!!」」
二人の駆ける速度が上がった。
顔が赤い所を見ると、お子様お断りな未来予想図でも想像したか?
単なる追いかけっこと思っていたのが、貞操と人生をかけた耐久レースになったのだ…それは必死にもなるだろう。
「ガルルルルル!!」
「「ん?…ヒッ!!」」
何やらネコにしてはやたらと獣性を感じさせる鳴き声に、姉妹が走りながら横目で背後を見て悲鳴を上げた。
いつの間にか自分達を追いかけている連中の数が増えている…いや、増えているだけでは無く、その中にやたらとでっかい猫が混じっていた。
「なぁーーーんでライオンがいるのよ!!」
他にも、トラ、ヒョウ、ジャガー、チーターに小さい物ではオオヤマネコやらピューマにボブキャットまでいる。
連中に共通しているのはやはり猫科と言う一点だ。
「もしかしてあれも!?」
『あはぁ〜勿論旦那様候補ですよ〜猫さん達の趣味が分からなかったんで〜より取り見取り揃えてみました〜』
「いろいろな意味で壊れるわ!!」
「い、嫌がらせ!!嫌がらせでしょう!!」
嫌がらせ以外に解釈の仕方があるなら教えてほしい。
『捕まった時点で結婚式を挙げる準備は出来ていますよ〜ブライダルコーディネーターなルビーちゃん♪』
「「そんな至れり尽くせりなんかいらない!!」」
『ちなみにチーターさんは時速110キロで走りますよ?』
「「いやーーーー!!」」
猫姉妹が何度目かの悲鳴を上げつつ、左右に避ける。
二人の間にとびかかって来たのは話に出てきたチーター…影が差したか?
チーターとはいえ、体重は人間よりも多いし、爪は鋭く牙は長い。
向うはじゃれついたつもりでも、人間側にしてみたら大怪我になる。
「「来ないでーーーーー!!」
姉妹が限界を超えた速度で駆け抜ける。
その眼には激しい運動かあるいは純粋な恐怖か、あるいはその両方であるかもしれない滂沱の涙があふれていた。
『あはぁ〜≪人生の墓場一直線!!101“万匹”の中でお嫁さんをゲットするのはDAREDA!?耐久レース!!≫盛り上がってまいりました〜♪』
「「勝手に盛り上がるな!!」」
とりあえずゼロが4つほど多い。
姉妹の悲鳴は、ルビーに呼応した猫達の鳴き声にかき消された。
―――――――――――――――――――――――――――――――
『あはぁ〜ビクトリー』
現実世界に戻って来たとき、勝敗は誰の目から見ても明らかだった。
「あうう…」
「畜生…」
ロッテとアリアは足腰立たなくなってへばっている。
アダルトな意味では無く、単純に全力疾走し続けた為に、正しい意味で足が動かなくなったのだ。
体力が尽きて、猫達に押しつぶされる絶体絶命の瞬間に、自分達は走るだけじゃなく空も飛べるはずと気がついた時には後の祭り、すでに筋肉に乳酸がたまりきって、まともに立つことも出来ない。
流石の猛獣も空までは手が届かず、やれやれとルビーが固有結界を解除して今に至る。
ちなみに、時間に関してはルビーが固有結界内の時間を操作したので、現実世界ではほとんど時間が経っていない。
「…また無茶をやらかしたようだな?」
『おや、振り返ればクロノ君がいる』
クロノだけでなく、その隣にはプレシアまでいた。
二人は揃って、諦めと同情の入り混じった視線を猫姉妹に向けていた。
「…クロノ」
「クロノ君」
「……二人を引き取りたい」
何か言いたげな姉妹をとりあえず無視して、クロノはルビーに問いかけた。
この場の主導権はルビーにあると理解しているようだ。
『別にかまいませんよ〜ルビーちゃんの憂さも晴れた事ですし〜』
ジョークでは無い。
間違いなく本気で言っているし、憂さ晴らしの為にここまでやるのがこいつだ。
『でも〜二人を保護するのは犯罪者だからですか?それとも“同僚”だからです?』
ルビーの言葉に、ロクに身動きがとれない癖にアリアとロッテが身をすくませる。
その反応だけで、ルビーの言葉を肯定したも同然だ。
「気づいていたか…」
『まあ割と最初から、管理局ご自慢のファイヤーウォールを痕跡なく出し抜く事が外部の人間に不可能なら、残るは内部犯ですよね〜簡単な消去法ですよ』
鍵は扉の内につけるものだ。
外から中に入ろうとする人間は防げるが、内から外に出ようとする人間を防ぐ事は出来ない。
単純な理屈ではあるが盲点…ルビーだけでなく、少なくともリンディ、プレシア、クロノとエイミィ辺りは気が付いていただろう。
「…最初の質問に関しては両方と言っておこう」
『GOOD、ルビーちゃんもそろそろ自分のスタンスに戻りたいんで、むしろこっちから引き取りをお願いしますね〜』
「感謝する」
ルビーに頭を下げたクロノとプレシアは、二人をバインドで拘束しなおした。
「とんでもないことになりそうだけど、大丈夫?貴方達だけでやれるの?」
空に浮かんでいる漆黒の球体を見ながら、プレシアが尋ねる。
『あはぁ〜プレシアさん、愚問ですよ〜重要な物はすべてこの場に揃っています』
心なしかルビーが楽しそうだ。
『不屈の魂に魔法の珠玉、そしてその主がそろう時、そこに不可能が存在すると思いますか?』
「なのはさんは無事なの?」
『ルビーちゃんとの赤い糸はつながったままですよ〜』
「何で普通にパスって言わないの?でもそう、無事なのね…」
プレシアだけでなく、クロノもほっとした息を吐く。
二人ともなのはの事を心配していたようだ。
「がんばってね、こっちの面倒を片付けたらすぐに戻ってくるから」
『あはぁ〜きっと戻って来た時には終わっちゃっていると思いますよ〜』
「あら、頼もしいわね」
プレシアがにやりと笑いを残し、クロノ達ともども転移魔法で姿を消した。
後に残ったのはルビーだけだ。
『さ〜ってと〜邪魔ものは片付いた事ですし〜』
誰もいなくなったのを確認したルビーは頭上を見上げる。
そこにあるのは変わらず、夜の闇よりなお暗い漆黒の太陽だ。
『あはぁ〜待っててくださいね〜|なのはちゃん(マスター)〜今ルビーちゃんが行きますよ〜』
終わりの時は近い。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ | ||
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