リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 エピローグ Merry Christmas & Happy birthday
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 クリスマス・イブ…ぶっちゃけるならば、年末最後にして最大のホーリーイベント…プレゼントやらケーキやらで友人・恋人と飲みまくりの食いまくりのはしゃぎまくりの一夜……本来のクリスマスの趣旨とは乖離甚だしい事この上ないが、少なくとも日本における大多数の認識としてはおおむね間違ってはいない。

 25日が終われば本格的に年末に向けて動き出すので、これが最後とばかりに皆が幸せに浸り、楽しむ日………なのだが、どんな事にも必ずと言っていいほど、例外というものは存在する。

 それはクリスマス・イブにも適用される不文律であり、聖夜とはいえ100%の人間が幸福の中にいるわけではない。

「ん〜〜あっま〜い!おいし〜い!!」

 日本の地方都市、海鳴にある喫茶店翠屋…営業を終了し、閉めた後の店内において、これでもかというほど豪華絢爛なフルーツパフェと個人用の小さなケーキ…この店のパティシエ、高町桃子による採算度外視&職人のこだわりをこれでもかというほどに詰め込んだ一品、もとい二品を堪能しているアリサ・バニングスは間違いなく前者、幸せを甘受している側である。

「「「「……」」」」

 そしてアリサの眼の前、パフェとケーキに舌鼓を打つアリサを店の床に正座したままうらやましそうに見ているなのは、フェイト、すずか、はやての四人は不幸せを享受している側になる。

 店内には他にも高町家一同とパーティーにお呼ばれしてきた月村忍とメイドの二人もいるが、皆一通りの事情を知っているか教えられたため、全力で四人から目をそらしていた。

 今回の件は明らかにアリサ以外の四人の方に非があるし、ここで関係ない人間が仲裁に入ると間違いなくこじれるのが目に見えているためだ。

「な、なあアリサちゃん?ちょこっとでいいから私達にもわけ…」

「あ〜おいし、それで何か言ったかしらはやて?」

 ぎらりと形容できる視線に睨まれて、はやてがタラリと冷や汗を浮かべる。

 ちなみに彼女、決戦時においては普通に立てていたものの、バリアジャケットを解除したとたんまた歩けなくなった…闇の書にリンカーコアを吸われていた時期が長かったのと、長い車椅子生活で衰えた足にはリハビリが必要だったからだ。

いずれは普通に歩けるようになるだろうとアースラの医者にも診断されたのだが、問題なのは今現在のはやては、まともに足が動かないということである…それでも容赦なく正座させる所にアリサの怒りようが垣間見えるというものだろう。

「え〜いや、おいしそうやね?」

「ええ、とってもおいしいわよ〜」

 無言の圧力に屈したはやてに、アリサは顔を元の笑顔に戻してスイーツの感想を嬉々として語る…彼女もなかなかいい性格をしている。

「それにしてもみんなひどいわよね〜魔法?魔術?魔導師?私何にも知らなかったなぁ〜」

「「「「……う」」」」

 重い…とてつもなく重い何かが四人に圧し掛かってくる。

 その重みに屈して土下座したくなるレベルだ。

 すずかのジャーマンスープレックスで気絶させられたアリサだが、当然というか予想通りというか、意識を取り戻したのは【なのは&エミヤシロウVSネコアルクカオスによる世界をかけた最終決戦、勝つのはDOCCHIDA?】の終わった後で、しかもなのはたちがとりあえずアースラに帰還した直後と来れば、アリサが自分の置かれた状況と本人の性格+彼女に対するもろもろの仕打ち(主にすずか経由)からすさまじいマシンガントークで説明を求めるのは当然であり、なのは達としてもここまできたら事情を説明しないわけにもいかなかったため、洗いざらい暴露した……………のだが、なのは達の話を全部聞いたところで、アリサに大泣きされた。

 いつも勝気なアリサのマジ泣きには、友人一同マジで焦り、何でも言う事を聞くからと宥めて泣きやませたら、クリスマス・イブにものほしそうな四人の目の前でパフェとケーキを独り占めして至福を満喫しているアリサという構図が誕生したというわけだ。

 ちなみに、アリサが堪能しているケーキとパフェの代金は四人のお小遣いから出ている……家族のカンパとかは一円たりとも認められないのも約束の内である。

「みんな私だけ除け者にして、酷いわよね〜すずか?」

「えう」

「そういえばすずかもその一人だっけ〜あ〜あ、これからどうやって付き合っていけばいいのかな〜」

「ア、アリサちゃ〜ん」

 アリサの攻撃というか口撃にすずかは涙目だが…これに関しては間違いなくすずかのせいなので同情の余地がない……やはりジャーマンスープレックスを路上でやるのはまずいだろう。

 それを食らってピンピンしているアリサも人間かどうか疑わしいとは思うが、やはりジャーマンはポテト以外は文字通りいただけない。

「え、えっと…アリサちゃん?」

「どうしたのなのは?つらそうね?」

「私ね、筋肉痛が再発って言うかまたやっちゃったって言うか…」

 いわずと知れた魔法使いになった反動である。

 いくらリターンに対するリスクが破格の低さといっても、きついものはきつい。

「このままだと正座の姿勢で体が固まっちゃいそうなんですけどぉ〜」

 筋肉痛の時や、運動直後にじっとしていると体が固まって動けなくなるあれだ。

 一度固まってしまうと本当に動かす時に痛くなるので地味にきつい。

「そう、大変ね〜頑張ってね!!」

「ニ、ニャ…はい…」

 とってもいい笑顔で形だけの応援を返された…解放してくれるようすが欠片も見えない。

 きっと今日のアリサは容赦とか慈愛の精神をどこかに忘れてきたブラックアリサなのだ。

「ア、アリサ?」

「どうしたの、フェイト?あんたも何か文句があるわけ?」

「そ、その…黙っていたのは私達のせいだから何もいえないけど…何で、何でアリシアだけ?」

 姉に名を呼ばれ、アリサの隣に座っているアリシアが身をすくませた。

 彼女の目の前にはアリサと同じ二品が鎮座しているが、アリシアはそれに手をつけることなく恐縮してしまっている。

「だって、私達より小さい子に正座させて目の前で甘いものを堪能するなんてできないでしょう?」

 |自分達(トモダチ)はいいのか?っと四人は思ったが、賢明にもそれを口にはしない…今日のアリサは王様である。

「あらあら〜アリシアどうしたの?全然食べてないじゃないの〜?」

「えっと、アリサさん?」

 そんな事を言われても、アリシアはどうしたらいいか分からず、目を泳がせるしかない…っというかどうもなのは達をいびるダシにされているような気もして来ている。

 いや、これは間違いなくダシにされている…女の怒りとは書くも恐ろしいものか?

「四人の事なら気にしなくていいのよ?」

「そ、そう言うわけにも…」

 アリシアの中に、アリサの言うとおりご相伴にあずかるという選択肢はない。

 この状況で平気でパクパク食えるのはアリサくらいの物だろう…アリシアにそこまでの図太さを求めるのは無理だ。

「ほ〜ら、食べないなら私が食べさせてあげる〜♪」

「い、いえ、自分で食べられますから…」

 夜天の書の主、八神はやて……。

 吸血鬼の血をひく末、月村すずか……。

 現状においても高レベルの魔導師、フェイト・テスタロッサ……。

 そして未来の魔法使いの卵、高町なのは……。

 まだ10歳ほどの子供であるが、この四人がそろえば、冗談でなく師団規模の数だろうと敵に回して相手ができるだろう。

 ただし、アリサ>>>越えられない壁>>>四人…それが今宵一晩のやり方である。

 そんな風に色々ヒエラルキー下剋上な事をやらかしている子供達の隣では…。

『これからよろしくお願いしますぞレヴァンティン殿〜メリークリスマス!!』

『M…Merry Christmas…』

『ハハハ、元気がないでござるな〜レヴァンティン殿〜元気があれば何でもできるでござるよ〜メリークリスマス!!』

 バルディッシュが全力でレヴァンティンに絡んでいた。

 双方デバイスなので表情などは当然読めないが、それでもバルディッシュが上機嫌で、対するレヴァンティンが迷惑そうにしているのは良く分かる。

『姉さん…何ですかあのバカ…バルディッシュのテンション上げ上げっぷりは?』

『あはぁ〜一瞬、思わずバカディッシュと呼ぼうとしましたねレイジングハート?まあいいですけど〜』

 ……まあいいのか?

『実はですねレヴァンティンには|剣(シュベルトフォルム)、|連結刃(シュランゲフォルム)に続く第三の形態があるらしいんですよぉ』

 その名も|弓(ボーゲンフォルム)、レヴァンティンの遠距離攻撃形態だ。

『でも〜それを使う機会がなかったというか、なのはちゃんとシロウさんが弓を使う時にもハブられ、出番なしに終わっちゃったわけです』

『それで、何故バルディッシュが調子に乗らなければならないんですか?』

『ほら〜一応バルディッシュは、ザンバーフォームのお披露目に成功しているじゃないですか〜』

 まったく役にも立たなかったが、それを言うとフェイトまで泣いてしまうので要自重だ。

『自分はちゃんと変身出来たけどレヴァンティンは不完全燃焼だったんで、ちょっと優越感を感じてるんじゃないですか?』

『バルディッシュ…貴方の小物ぶりが増大中です』

 聖夜なのに、救いが微塵もないな…。

「ねえちゃん!!」

 そんな微妙過ぎるクリスマスパーティーーに乱入してきたのはサンタでもブラックサンタでもなく、ヴィータだった。

 扉を破壊するつもりなのかという勢いで開け放ち、店内に突入してきたヴィータは、はやての姿を見つけると一直線に駆けよって来る。

「ヴィータ、何処にいっとったん?色々問題ありまくりやけど今日はクリスマスパーティーー…」

「そんな事はいいから!リインフォースを止めてくれよ!!」

「リインフォース?リインフォースがどないしたんや?」

 主語がないのでうまく話が通じないものの、そのあわて様から何かただ事でないというのは分かる。

 しかもリインフォースがらみだ。

「ヴィータ…主には何も言うなと言っただろう?」

「リインフォース?」

 問い返そうとしたはやての言葉より早く、店の扉を開けて本人が登場した。

 しかも彼女一人だけでなく、シグナム達ヴォルケンリッターにクロノとリンディ、そしてプレシアまで一緒だ。

 全員に共通しているのは、どこか沈痛な物を抱えている表情をしている所か…これで何かあったと察しない奴はいないだろう。

「……リインフォース、どうしたんや?」

「お暇を…頂に参りました」

「っ!?」

 短いが、はっきりと告げられた言葉にはやてだけでなく全員が息をのむ。

「どう言う…事や?」

「防衛プログラムは消去に成功しました。しかし私が残っている限り、いずれ遠くない未来にプログラムが再構築されてしまいます」

 防衛プログラム…それ自体はコアごと消去に成功した物の、それを生み出した土壌となる夜天の書は闇の書に改悪されたままだ。

 このまま防衛プログラムが再構築されれば、それは再び暴走する闇となる。

「なので、私は闇の書と共に消えます」

「あかん!!何いっとるんや!?」

 はやての言葉に対して、リインフォースはやさしい笑みで答えた。

「すでに守護騎士プログラムは切り離して主はやてに依存する形に書き換えてあります」

「そんな事を聞きたいんやない!!何か方法があるはずや!!」

「無理なのです。元の…夜天の書であった頃のバックアップデータは失われています。再構築は不可能です」

 リンディ、クロノ、プレシアが揃って顔を逸らした。

 彼等の力を持ってしても、リインフォースの改悪を修正する事はかなわなかったのだろう。

「もう少し時間があれば…」

「ミズ・プレシア、貴方達はできる限りの事をしてくれた。この結果は貴方達のせいではない」

 プレシアのつらそうな言葉は己の力不足の悔しさか…顔を俯かせる彼女をリインフォースが慰める。

 そもそも、夜天の書を作り出した技術自体が失われた物だ。

 研究を進めればそれをどうにかすることは可能かもしれないが、どうしようもなくそのための時間が足りない。

「そんな…」

 しかし、はやてにとってそれは納得できるものではない。

「あかん!!あかんよ…せっかく自由になったのに…これからは皆一緒に…」

「申し訳ありません…主…」

 泣きだしてしまったはやてを、リインフォースはやさしく抱きよせた。

 誰もがそれを黙って見ている。

 主と…僕の最後の別れを…。

 

――――――――――――――――――――――

 

「……」

 抱き合うはやて達に、店内にいる全員の視線が向けられている時、唯一の例外であるなのはは二人に目もくれず……

「ルビーちゃん?」

『は〜い、何ですか?』

 ルビーの元に辿り着いていた。

 その顔は何時になく真剣だ。

「…どうにかしてあげられないかな?」

『出来ますよ〜』

「あ、やっぱり出来たんだ」

 ルビーの返事に、なのははほっと安堵の息を吐く。

 肩に感じていた筋肉痛以外の重みも一緒に抜け落ちた気がする。

『なのはちゃ〜ん、そこは「ああ、やっぱり出来るんだ…って本当にできるの!?」って言う所では?』

「う〜ん、何となく?ルビーちゃんならできる気がした」

「ほんまにできるん!?」

 いきなり会話に乱入されたが、なのはもルビーも声の主がはやてと分かっているので嫌な顔すらしない。

 気がつけば、店内にいる全員がなのはとルビーに注目していた。

 特にリインフォースが目を丸くしているのが印象的だ……クール奇麗系の呆気にとられた表情というのは多分レアだろう。

『本当にできますよ〜アリシアちゃんの時よりハードルは低めですね〜ルビーちゃんの能力の範疇です』

「それで、どうやるのかしら?」

 具体的な方法を聞いてきたのはプレシアだ。

 彼女もそろそろ付き合いが長いので、いい加減にルビーのやる事に驚くのは止めたのだろう。

 ならば後は純粋な好奇心だけが残る。

『ルビーちゃんがマスターの異なる可能性を引き寄せて上書きする能力の持ち主なのはご存知ですね?』

「つまり、彼女の“正常な状態の可能性”を引き寄せて上書きするということ?」

『は〜い、その通りです。さっすがプレシアさん、リインフォースさんがプログラム体というのもラッキーだったですね〜』

 これがちゃんとした肉体を持っていたら最終的には元の状態に戻ってしまうだろうと解説するルビーに、全員が感心している。

 ルビーを見る目が尊敬の色一色になっているのは初めてかもしれない。

「でも…彼女は貴女のマスターじゃないわよ?その可能性を引き寄せるなんてできるの?」

『確かにルビーちゃんの想定されていない使い方ですが、ここはあえて無理を通して道理に引っ込んでもらいましょう。その為に必要なのは〜』

「何!?何が必要なん!?」

 はやてが必死になってルビーに続きを促す。

 他のヴォルケンリッター達も同様だ。

 これがうまくいかなければ、家族となるはずだった一人が永遠に失われる。

『ズバリ、乙女ぱわ〜です!!』

「「「「「「「……は?」」」」」」」

 聞いた者全員が聞き返していた。

 真剣な話だったはずだが…何かファンタジーなワードが混じって来た。

『汚れ無き少女のラブラブパワーがルビーちゃんにさらなる力を与え、不可能を可能にする力を与えてくれるんです!!』

「「「「「「「え、えっと…」」」」」」」

 愛と勇気の少女マンガの設定見たいだと誰もが思った。

 本当にそれでどうにかなるのだろうか?

 夢物語と断じたいのは山々だが、残念な事にその中心はルビー……こいつはある意味、何をやらかした所で何となくルビーだからしょうがないとか思わせるところがある。

「私…やる!!」

「え?主はやて?」

 名乗りを上げたのは他ならぬはやてだ。

 それを見たリインフォースがあわてだした。

「き、危険です!!あんな訳の分からない物の言う事を信じるんですか?」

『あはぁ〜割とひどい言われよう』

 ルビーと初対面ではわけのわからないものというのは仕方がない。

 実際、付き合いが長くてもやっぱりルビーはわけのわからない物だ。

「それでもや、リインフォースがいなくなるくらいやったら何でもするで!!」

「主…」

「にゃはは、はやてちゃん?」

 なのはがはやての肩に手を置く。

「なのはちゃん?」

「ルビーちゃんのマスターはなのはだもん、魔術回路を持ってるなのはがルビーちゃんを起動しなきゃダメでしょ?」

「力を貸してくれるんか?」

「は、はやてちゃん…」

「私達も…」

「フェイトちゃんに…すずかちゃんまで…」

 なのはに続いてフェイトとすずかも協力を約束してくれた。

「なのは様、私も…」

「えっと、ルビーでいいわよね?私魔術とか魔法とか使えないんだけどやれる?」

『は〜い、大丈夫ですよ〜』

 アリシアとアリサまで協力を申し出てくれたことに、はやての涙腺が緩む。

「皆…ありがとうな」

「泣くのは後にしなさいはやて、その人が助かってから…」

「そうやね、アリサちゃんツンデレありがとう」

「一言多いわ!!」

 通夜のようだった場が、一気に何時も通りの空気に戻った。

「あたいもやるぜ!!」

『え?ヴィータちゃんも?』

「なんだよ、なんか文句あるのか?」

『う〜ん、まいっか、きっとどうにかなるでしょ』

「なんだよそれ、何か気になるな…」

 実年齢●●歳の見た目幼女ゴスロリは少女にカテゴライズしていいものかどうか…っとか、きっと気にしたら負けだ。

『さってと、ではでは〜まずなのはちゃんがルビーちゃんを握ってください』

「うん」

 なのはが言われたとおりルビーを手に取る。

『次にリインフォースさん』

「わかった」

 リインフォースがなのはの手の上からルビーを握る。

『それではみなさん、ルビーちゃんの何処でもいいから掴んでくださーい』

 言われて、全員がルビーのどこかに触れた。

『では行きますよ〜皆さん、全力でリインフォースさんの事を思ってください』

「「「「「はい!!」」」」」

『なのはちゃん、魔力回路起動』

「わかったよ!!」

 なのはが瞳を閉じ、トランス状態になると同時にルビーが淡い七色の光に包まれた。

 なのはの魔力回路で生成された魔力がルビーに流れ込んでいる証拠だ。

 全員でルビーに手を当ててしばらくすると、徐々にルビーの輝きが強くなって行く。

 もはや電灯を通り越してサーチライトレベル…光が目に刺さってくる。

まともに目を開けているのもつらい。

『あはぁ〜来てます来てますよ〜〜ルビーちゃんびんびんに来ています!!ルビーちゃんびんびん物語!!』

 びんびんって……何が?

 なのは達から供給されているらしい、ルビー曰く乙女パワーという奴が過充電っぽくなっているのか、何時になくルビーがハイって奴になっている。

『そんでもってリインフォースさんと同調開始〜』

「う…あ…」

 リインフォースの口から声が漏れる。

 艶っぽい声に、見守る男性陣がどきりとした。

 お姉さんキャラが顔を赤くして悶える姿は…いいものだ。

『リインフォースさんの同位存在掌握、顕現〜』

 リインフォースの体がダブって見えた。

 元々のリインフォースと、半透明に輪郭がぼやけているリインフォース…おそらく、新しく現われた方が改悪されることなく、オリジナルのままであったリインフォースの可能性なのだろう。

『シンクロ完了、リインフォースさん、“上書き”どうぞ〜』

「くっ…了解、“修正”を開始します!」

 苦しげながらも、リインフォースが何かをやったのだろう。

 両者の距離というか輪郭が一つに重なった。

「……やったんか?」

 その奇跡のような光景に圧倒されながらも、問いを発する事が出来たのははやてだ。

「…はい、成功です。主はやて…」

 はやての恐る恐るな問いかけに、リインフォースが答えた瞬間、歓声が爆発した。

 ご近所さんの迷惑になるかもとか、そんな事を考えている余裕など誰にもない。

 ただただ、今宵ここで起こった奇跡を喜ぶ声を上げている…この世界から消え去るはずだった一人の女性の運命が、確かに変わったのだ。

「ほんま、ほんまに消えんでええの?」

「はい…防衛プログラムも、正常な状態に復帰しました」

 その瞬間、翠屋は聖夜に相応しく、喜びと幸せの中にあった。

 それは間違いないし、疑いようはない。

「……う」

「リインフォース?ど、どうしたんやリインフォース」

 たとえそれが、いきなりリインフォースが苦しげに身をよじるまでの…短い平穏だったとしても…。

「どう言うことルビーちゃん!?成功したんじゃなかったの」

『え?いや…ルビーちゃんにもよく…“上書き”は成功したはずなんですが…』

 ルビーが真面目に困っている。

 つまりこの状況はルビーの予想すら超える事態という事か?

 その時点でかなりやばい気がする。

「しっかりするんやリインフォース、どないなっとるんや!!」

「あ、主はやて…う…」

「う?うなんや?」

「……生まれる」

 一瞬で音が消えた。

「「「「「「「「「「……な、何―――――!?」」」」」」」」」

 そして放たれる大絶叫、ただし今度のそれは喜びではなく、戸惑いと困惑と…後は若干の恐怖がないまぜになった叫びだった。

「う、生まれるって子供がか!?」

「あ、赤ちゃんってこうやって生まれるのユーノ君?」

「え?いや全然違うよ!!まずは雄しべと雌しべが…」

「なのはに何教えようとしているんだこの畜生は!!」

 一瞬でパニックの極みに達した一同は、普通の会話でさえ怒鳴りつけるような大声になる有様だ。

「し、忍!?何とかならないか!?」

「え、ええ!?恭也!?何で私に聞くの!?」

「恭也様…失礼ですがそれはセクハラに当たるのではないでしょうか?」

「恭ちゃんのスケベ…」

「ええ!?ちょ、ちょっと待った!!」

 三角形の面子は全滅っぽい。

 むしろ内部分裂中…彼等は元々、|18禁(おこさまおことわり)な連中だから、子供の作り方は知っていても、出産に関する知識はあるまい。

「シ、シグナム!!こういう時どうしたらいい!?」

「愚問だな!!騎士に助産婦の真似事などできるわけなかろう!!私よりもシャマルの方が!!」

「私だって子供を産んだことも取り上げた事もないわよ!!」

「こういう時こそ年の功だろうがシャマル!!」

「一緒に作られたんだから同い歳でしょう!!人を年上みたいに言わないで!!」

「……」

 ヴォルケンリッターは端から論外、元からして主を守るためのプログラムなので、知識だけはあるかもしれないが、それはあくまで情報の域を出ないものであり、実際に直面した経験などあるわけがない。

 特にザフィーラに関しては硬直して身動きさえ取れないでいるが…雄と書いて男ならばその気持ちは十分に分かる。

「「「落ち着きなさい!!」」」

 誰もがどうしたらいいか分からなくなっている所に、頼もしい声が響いた。

 全員が振り返るそこにいるのは三人の女性…高町なのはの母、高町桃子…フェイトの母、プレシア・テスタロッサ…クロノの母、リンディ・ハラオウン…。

「「「「「「「「「「おお〜!!」」」」」」」」」」

 誰もが浮足立つこの状況で、慌てないどころかジョジョ立ちまで決めるとは…やはり経験者は伊達では無い。

 ママーズの頼もしさに、全員が後光を見た…勿論、スパゲッティーの麺は関係ない。

「なのは、フェイトちゃん?急いでお湯を用意して、でもあんまり熱くしちゃダメよ」

「「はい!!」」

「アリサさんとすずかさんは清潔なタオルを用意してください」

「「はい!!」」

「ヴォルケンリッターは私達の補佐をお願いするわね」

「「「了解!!」」」

 桃子、リンディ、プレシアのテキパキとした指示に全員が従う。

 反論や疑問は出ない。

そう言う事を言う雰囲気じゃないというか、実際そんな事を言っている場合でもなかった。

「「「そして男性陣は…」」」

「は、はい!!」

「俺達は何をすればいい!?」

「主の為、リインフォースの為、何でもするつもりだ」

 口々に協力を申し出る男達だが、それに対してママーズはにっこりと笑い

「ここは今から男子禁制です」

「邪魔をしないでくださいね」

「速やかに撤収!!」

「「「「「イエッサ!!」」」」」

 三者三様の物言いだが、要するにとっとと出て行けという指示に、男達は即座に従う。

「親父、男ってこういうとき無力だな…」

「言うな…彼女は彼方の女と書く、男が女を理解しきる事も理解され切る事もない」

「け、経験者は語るのか?」

「ああ…そう言う事だ」

 やたらと重い親子の会話、しかもこの場における唯一の妻帯者の言葉に、残り三人の男達はなるほどそう言うものなのかと思う。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「どうですか?」

「「「う〜ん」」」

 男達が出て行き、残された女性陣一同に囲まれながら、ママーズははやての問いかけに唸っていた。

 何だかんだで勢いのまま男達を追い出したまではよかったが、三人は今更ながらに困惑している。

 |本人(リインフォース)が生まれると言ったので、とっさに出産用意を整えた物の…どう見ても彼女に妊娠している様子がない…ならば男達を追い出す必要はなかったのではないか?と思わなくもないが、ママーズも平常心に見えてかなりパニクっていたようだが、全ては後の祭りだしとりあえずどうでもいい。

 問題はリインフォースだ。

「う…うう…」

「だ、大丈夫なんか?」

 妊娠ではないとすると、ひょっとして性質の悪い嘘や冗談のたぐいかと言えば……それも違う。

 出産かどうかはともかく、リインフォースの苦しげな表情はどう見ても演技ではない。

「そう言えば…人間じゃないのよね…」

 プレシアの言うとおりだ。

 今更ながらだが、彼女は人間では無い…人間の常識が当てはまらない存在だ。

 となると、本当に出産だとしても、自分達の経験が全く役に立たない事になるが…真面目にこの状況から何がどうやって生まれるんだろう?

「う…生まれます!」

「え?あちょっとま…」

 焦りの言葉を言いきるより早く、リインフォースの胸から何かが飛び出してきた。

 白く…リインフォースの髪の色に似た輝きの球体だ。

 光を通して、中に何かが見える。

「妖精…さん?」

 それを見たなのはが、思った事をそのまま口にした。

 球体の中にいるのは小さな女の子…一糸まとわぬ全裸…膝を抱えるようにして丸くなっている少女だ。

「見た!?ルビーちゃん、これが本当の妖精さんだよ!!」

『なのはちゃん…まだネコアルクのネコ妖精設定を認めてなかったんですか?』

「譲れない物が…あるんだよ」

 こだわりの熱意は認めるが、正しいのかそれ?

「んう…」

 それはともかく、全員の注目を集める中、球体の中の少女が身じろぎし、閉じていた瞼が開く…その下にあった色彩は…。

「あ…赤い…」

 リインフォースと同じ赤い瞳…容姿も、リインフォースをそのまま小さくしたような整った顔立ちをしている。

「リ、リインフォース?あれ何?あんだけ似とるんやから他人やないやろ?」

「あ、主はやて…私にも何が何だか…」

 驚きではやてもリインフォースも口調が変だ。

「う〜ん」

 球体が消えても空中にとどまったままのリインフォース小(仮)は、羞恥心も何もなく全裸の体で大きく伸びをした…男連中をとっとと追い出していたのは男性陣にとっても、リインフォース小(仮)にとっても正解だったようだ…まあ、予想していたわけではないのだが…やがて満足したのか、リインフォース小(仮)はまだどこか寝ぼけた眼で周囲にいる全員を見回し、リインフォースに目を止める。

 ?マークだらけで自分を見るリインフォースとリインフォース小(仮)の視線が真っ向から交差した。

「ママーーー!!」

「「「「「「「何――――!?」」」」」」

 さっきから何度目の絶叫だろう?

 数えるのも億劫だ。

 リインフォース小(仮)は本人も含めて驚愕している周囲を丸っと無視して、リインフォースの胸に飛び込んで行った。

 リインフォースの方も、胸に飛び込んできた小さな自分をとっさに受け止める。

「ま、ママ?」

「はい、リインフォースママ〜」

 どうやら本当にリインフォース小(仮)はリインフォースの事を母として認識しているようだ。

『あはぁ〜そう言うことですか〜』

「ルビーちゃん?」

『あれは多分、重複したリインフォースさんの情報ですね〜ルビーちゃんもこれは予想外』

 “上書き”ならば問題なかっただろう。

 しかし、リインフォースがやったのは“修正”、並行世界の自分のデータを元に、己の情報を正常な状態に書き換えたのだ。

『この短時間で自分の構成情報を書きかえるなんて、どこぞのスーパーコーディネーターみたいな事をしますね〜古代ベルカのロストロギアは化け物か〜って言いたくなります』

 上書きと修正、この二つは似ているようで全くの別物だ。

 上書きの場合、元からの情報と新しい情報を置きかえるため、基本的に元のデータは破棄される。

 元のデータ…それはすなわち、はやて達との経験…それが失われれば、残るのはリインフォースそっくりでありながら、別のリインフォースだ。

 それでもリインフォースには違いあるまいが、無意識にしろ意識的にしろ、彼女がそれを嫌がったのは理解できる。

 そのため、リインフォースは正常な自分の情報をもとに、防衛プログラムを含めた問題のある部分だけを正常な状態に戻したのだろう。

「それで何であの小さなリインフォースさんが出てくるの?」

『データが重複して存在したからでしょう』

 元々のリインフォースと、並行世界のリインフォースのデータだ。

「別々のOSが二重にインストールされたようなものかな?」

『大体そんな感じでしょうね〜二つは根本は同じものだったはずですが、すでに別物となっていますから〜』

 そんな物がまともに機能するわけがない。

『なので、新しい方のリインフォースさんのデータが外に吐き出されて実体化したわけです』

 おそらくは、並行世界から取り込んだリインフォースのデータが稼働しようとしたため、拒絶反応のような感じにあの小さなリインフォースを排出する事で、自己崩壊を回避したのだろうというのがルビーの予想だ。

『確かに親子といえなくもないですね〜元データが同じなので姉妹とも言えるかもしれません』

「それって大丈夫なの?」

『多分?元々あのリインフォースさんは改悪されなかった可能性のリインフォースさんです。むしろ大丈夫ではなさそうなのは…』

 じっと見つめあう大小のリインフォースだ。

 どうなるのかと、思わずガン見してしまう。

「ママ〜」

「え、えっと…娘なのか?私の?」

「はい〜リインはママの娘ですよ〜」

 一応、親子の語らいみたいなものをかわした二人が見つめあうこと数秒…。

「……主はやて!!」

「うわっとびっくりした。どうしたリインフォース!?」

「私、この子の母親になります!!」

 いきなり叫んだかと思えば…これまたいきなり母親宣言ですか?

「あ〜うん、わたしとしても家族が増えるのは望むところやし、なのはちゃん達の話だと危険はないみたいやけど…ええの?」

 やっと闇の書から出られたと思ったら、一足飛びに母親になるなど波乱万丈も過ぎるだろう。

 決して色々な意味で先を越されそうだからというわけではない。

「……本当やで?何も羨ましがってはおらんからな?」

「は?…主はやて、誰と話をされているのですか?」

「えう?ああ、気にせんでええよ。よっしゃ!!夜天の書の主として、新しい家族の誕生を認めるで!!」

「「「「「「おお〜」」」」」」

 皆から賞賛と拍手が来た。

「よかったな」

「はい、ありがとうです〜ママ」

「ふふ、今日からお前はツヴァイだ」

「ツヴァイ?」

「そうだ。私がアイン、お前がツヴァイだ」

「わ〜い、ママから名前を貰いました〜わたしの名前はリインフォース・ツヴァイですよ〜」

 確かに母親が娘に名前をつける事は間違いではないだろう。

 間違いではないが…だがしかし、駄菓子菓子である!!

「ち、チョイ待ち!!名前はもうちょっと考えてつけようや!!そのまんま過ぎやろ!!」

 一番目と二番目…はやてが待ったをかけたのもむべなるかな…そのまま、新しい家族の名前を決める八神家家族会議が開催された。

 

 聖夜には奇跡が起こるという。

 きっとこれも、そんな奇跡の一欠けら…神は暴君だから、時々気まぐれに奇跡を起こす。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「「「「「……」」」」」

 年末の野外は寒い。

 しかも海鳴は海に面した町である…冬の海風の冷たさは半端ない物がある。

 しかしそれでもあえて、五人は野外にいた。

「「う〜〜」」

「ユーノ君、クロノ君?少し落ち着きなさい」

 そわそわと、冬眠から目を覚ましてしまった熊のように、周囲を歩きまわっているユーノとクロノを高町士郎が窘める。

「す、すいません…」

「も、もう、生まれたんでしょうか?」

 まんま我が子が生まれるのを待っている父親の姿だ。

 二人の様子に、そう言えばなのはが生まれた時の自分も同じ行動をしていたな〜と、士郎は懐かしく昔を振り返った。

「覚えておけよ恭也、お前も忍さんの時はああなる」

「な、何を言ってるんだ親父!!俺はあんな待てを言い渡された犬みたいな事…」

「そう言う事はさっきからやってる貧乏ゆすりを止めてから言え」

「うう…」

 どうやら自分で気づかないうちにやっていた貧乏ゆすりを止めるが、ほどなくして再開したのを見て、恭也の練習メニューに精神鍛練を取り入れる事にした士郎だった。

「………頑張るのだぞ、リインフォース」

 ザフィーラ?

 彼なら忠犬ハチ公よろしく、狼モードで翠屋をじっと見て身動きもしない…あれが彼なりのやり方なのだろうと思うので邪魔はしないでおく。

「お、寒いと思ったら雪か?」

 見上げれば、黒い空から白いかけらがはらはらと降って来た。

 とても儚い、地面に触れれば消え去る一片の雪…だがそれだけに、積り行く雪にはない美しさを見せる。

 ホワイトクリスマス…聖夜には奇跡が起こるという。

 今年の神様は大盤振る舞いをしてくれているようなので、きっと無事に終わるだろう。

「しかし……寒いな…」

「ああ…本当に…」

 事が事だけに、安易に店に戻る事も出来ず…かと言って自分達だけで家に帰るのも薄情に過ぎると寒さに耐える男性陣は無事に(?)ツヴァイが生まれ……母親役のリインフォースの強権でリインフォース小の名前は結局ツヴァイに決まった……そのままクリスマスパーティーー兼ツヴァイの誕生パーティーーになっている事など知りようもない。

 自分達が追い出した男性陣の事?

 勿論、皆忘れていてだれ一人思い出しませんが何か?

「…無事に生まれるといいな…」

「ああ…」

「そ、そうですね!!」

「げ、元気なのが一番だよ!!」

「うむ…」

 五人はそれぞれ程度の差こそあれ、新しい命の誕生に期待していた…のだが、結局、女性陣が彼等の事を思い出すのはパーティーーが終わった後の事になる。

 ツヴァイの誕生を聞くのもその時だ。

 その間、ずっと雪の振る野外で五人は寒さに耐えしのぶ事になるのだが…………………|彼等に幸あれ(メリークリスマス)。

 

 

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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ
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