英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 外伝〜銀閃と黄金の軍馬の旅行者〜 |
〜飛行船・デッキ〜
「……以上が王国北方で起こった空賊事件の顛末さ。」
「まさか、没落した我が国の貴族がそちらにいるとはな……」
ロレントに向かって飛行している定期船のデッキでオリビエは何かを耳にあててしゃべり、何かからも男性の声が聞こえて来た。
「ああ、没落したカプア一家の連中がこんなところに流れてくるとはね。王国から問い合わせがあるかもしれないから適当にあしらってくれ。」
「了解だ。ダヴィル大使にも言っておく。……それで肝心の”彼”には会えなかったようだな?」
「うん、結局彼には会えなかった。どうやらトラブルが発生したらしい。空賊事件との関係はいまだ不明だが別の勢力が動いているのは間違いない。」
「そうか………やはりそう簡単に事は運ばないな……」
オリビエが残念そうに語ると、何かからも落胆した声が聞こえた。
「フッ、そうでもないのさ。面白い連中と知り合いになれたよ。」
「面白い連中だと?」
「ああ、”彼”の家族に後”闇の聖女”の娘に”覇王”の孫娘にも会っちゃったよ♪」
「ほう……”彼”の……ん?待て、今何かとんでもない人物と出会ったと言わなかったか?」
「え……ああ”闇の聖女”の娘に”覇王”の孫娘かい?」
「そう、それだ………って何!!!???」
オリビエが話をしている男性らしき声はオリビエが会った人物を告げると一瞬絶句し、その後怒りを抑えたような声を出した。
「……まさか、貴様はいつもの調子でその方達と話をしたのか?」
「さすが我が親友♪いやぁ〜、噂通り容姿端麗なメンフィルの姫君達を見て、”闇の聖女”やメンフィルの武官達にも会いたくなっちゃったよ♪いっそ、こっそり大使館に侵入しちゃおうかな♪」
「この……お調子者が!!万が一正体がばれて、他国の土地で同盟国の皇女に言い寄ったこと等が判明したら完全に外交問題だぞ!?それに大使館に侵入して、捕まったら貴様の身どころかエレボニアが滅んでしまうわ!そこのところをわかっているのか!?」
「わかった、わかった。そんなに恐い声をださないでくれ。そちらの方は引き続き頼む。くれぐれも宰相殿に気付かれるな。」
怒鳴る男性らしき声にオリビエは適当に答えて言った。
「くっ……本当にわかっているのだろうな?……まあいい、その件は了解だ。」
「また連絡するよ……親友。」
そしてオリビエは何かについているボタンを押して懐に戻した。
「フフ、相変わらずからかい甲斐のある男だな。融通の利かないところが可愛いというか何というか……」
「……携帯用の小型通信機ね。ずいぶん洒落たものを持ち歩いているじゃないの。」
飛行船から見える空を見て呟いたオリビエだったが、その時背後からシェラザードの声が聞こえ驚いて振り向いた。
「シ、シェラ君……」
「ツァイスの中央工房ですら実用化していないオーブメントを持っているなんてね……。あんた、いったい何者なの?」
「フッ、水くさいことを言わないでくれたまえ。漂泊の詩人にして天才演奏家、オリビエ・レンハイムのことはキミも良く知っているはずだろう?だが、もっと知りたいのであれば所謂(いわゆる)ビロートークというやつで……」
「悪いけどマジなの。道化ゴッコは通用しないわよ。エレボニア帝国の諜報員さん。」
「フフ、『風の銀閃』の名はどうやらダテじゃなさそうだね。エステル君やメンフィルの姫君達の前では気付かぬフリをしていたわけか。」
シェラザードを誤魔化そうとしたオリビエだったが、真剣に自分を睨み仮の推測で自分の正体を言ったシェラザードにオリビエは否定もせず、シェラザードに感心した。
「これ以上、あの子達やお世話になっている人から任されたご息女に余計な心配をかけたくないもの。それじゃ、詳しいことをサクサクと喋って貰おうかしら。あんたの目的は?どうやってリベールに潜入したの?」
「その前に……2つほど訂正させてくれるかな。まず、道化ゴッコはしていない。ボクの場合、これが地の性格でね。擬態でも何でもなかったりする。」
「あー、そうでしょうね。ワインをダダ飲みしたのだって飲みたいからやったんでしょうよ。」
オリビエの答えにシェラザードは溜息をつきながら納得したが、その後真剣な表情でオリビエを睨んだ。
「ただしその後、門に連行されて情報を集めることまで計算してね。私達と合流する事まで狙っていたとは思えないけど……」
「フフフ……そのあたりは想像にお任せするよ。……訂正するのはもう1つ……この装置はオーブメントじゃない。帝国で出土した『古代遺物(アーティファクト)』さ。あらゆる導力通信器と交信が可能で暗号化も可能だから傍受の心配もない。忙しい身には何かと重宝するのだよ。」
オリビエは懐から先ほどまで使っていた装置らしき物を出して説明した。
「アーティファクト……七耀教会が管理している聖遺物か。ますますもって、あんたの狙いが知りたくなってきたわね。あんたも知ってると思うけどリベールは唯一異世界の国であり、
”大陸最強”を誇るメンフィルと同盟を組んでいる国……まさか同盟を崩す工作や……それとも、自分達にとってリベール侵攻を邪魔された恨みや仲間の仇であるメンフィルの重要人物の誘拐や暗殺かしら?」
オリビエの説明を聞いたシェラザードはますます警戒心をあげ、目を細めてオリビエを睨んだ。
「イヤン、バカン。シェラ君のエッチ。ミステリアスな美人の謎は無闇に詮索するものじゃなくてよ。」
「………………………………本物の女に近づきたい?あたしの鞭で手伝ってあげるけど。」
オリビエのふざけた態度にシェラザードは鞭を構え、笑顔で睨んで言った。
「や、やだなあシェラ君。目が笑ってないんですけど……まあ、冗談は置いとくとして。」
シェラザードの様子に焦ったオリビエだったが、急に真面目な表情になった。
「ったく。最初から素直に話なさいよ。」
「お察しの通り、ボクの立場は帝国の諜報員のようなものさ。だが、工作を仕掛けたり、極秘情報を盗むつもりはない。ましてや眠れる獅子より怖い物を起こすような真似なんてできやしないさ。知っているとは思うけどエレボニアは導力技術さえなかったメンフィルに大敗したんだからね。そんなエレボニアが導力技術も手に入れたメンフィルに逆らう勇気や戦力なんてないよ。なんせエレボニアが誇る将軍、『焦眼のゼクス』中将さえ『メンフィルの堕天使』ファーミシルス大将軍に圧倒的な力の差を見せつけられた上、率いていた兵もほぼ全滅させられたんだしね。そりゃあ逆らう気もなくすよ。ボクはただある人物達に会いに来ただけなんだ。」
「ある人物達……?」
シェラザードはオリビエの目的が気になり、先を促した。
「キミも良く知っている人物達だよ。一人は『王国軍にその人あり』と謳われた最高の剣士にして、稀代の戦略家。大陸に5人といない特別な称号を持つ遊撃士――『剣聖』――カシウス・ブライト。そしてもう一人は異世界の偉大なる王にして”大陸最強”と謳われている魔人。『剣聖』の上をも行くと言われるメンフィルの”覇王”――『剣皇』――リウイ・マーシルン皇帝その人さ。」
オリビエは詩人が物語を謳うような動作で自分が会いに来た人物達を語った……
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