いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した。 |
第十八話 ああ、もう!情けない!
「…ほら、泣かないで」
年上のお姉さんが俺の背中を優しく撫でて来てくれる。だけど、俺はそれに答えることが出来なくて、ただ、彼女にごめんなさいとしか言えなかった。
「…いっぱい我慢してだよね。偉いよ。あんなにも一杯出していたんだから」
転生してから初めてだったんです。
「…大丈夫?さっきまで顔を真っ赤にして唸っていたから」
お姉さんが心配そうな顔をして俺に聞いてくる。
大丈夫です。沢山出ましたから。体の中にあるもの全部出したんじゃないかと思うくらいに出しましたから。
お姉さんは俺が出した((物|・))を綺麗に雑巾でふき取る。
初めてだったんだ。
それが、
それが俺の…。
俺のっ!
(転生してから)初めての((嘔吐|・・))だった。
「沢高志さん。お薬です。お大事に〜」
ああ、もう!情けない!
気合と根性でフェイトの持ってきてくれた麻婆豆腐を無理矢理呑みこんだ後、烈火のごとく腹が燃えるように痛くなった。
授業中、その痛みに耐えかねてトイレに行ってから保健室でウーウー唸っていた。
帰宅後、プレシアとアリシアと一緒に、病院に行って診察されるまで待っていたら、不意に襲ってきた嘔吐感にあらがえず病院の受付前で吐いてしまった。
アリシアには見られないようにプレシアがその手で目隠し&耳栓をしたが保護されたのはアリシアのみで他の人には迷惑をかけた。
吐いた瞬間に涙や鼻水が出て情けないったらありゃしない。
俺がトボトボと診察室から出てくると、アリシアとプレシアの三人で話していた車椅子の少女がこっちに向かってぺこりと頭を下げた。
どうやら、プレシアの新しい就職先の図書館をよく利用する女の子らしい。その縁もあってかアリシアとも仲良くおしゃべりをしている。
俺の方も軽く挨拶して、自己紹介をしようとすると彼女の担当医がやってきて彼女を診察室に連れて行った。
…あ、名前を聞き忘れた。
今度聞いてみるとしよう。
今日も遅くに病院に行った所為か、帰る頃には辺りが暗くなり始めたので外食になった。
この間行き損ねたファミリーレストランでお子様ランチを頼むアリシア。
夜なのにランチ。これいかに。
ちなみにプレシアは無難に日替わり定食。俺は素うどん。
「いいでしょー。お兄ちゃんにも食べさせてあげようか?」
食べたいけれど食べれません。胃がボロボロなんで…。
分かっていて言っているなアリシア。
よろしい。お前の嫌いなピーマンを無理矢理食わせてやろう。
ほらっ、あーんしろ。
「むーむー」
ピーマンと一緒にハンバーグも食わせているので、口では嫌々だがなんだかとても楽しそうなアリシアだった。
俺以外の二人はカラフルな夕食なのに俺は白一色。なんか悲しい。
湯豆腐というメニューもあったが、さすがに自嘲した。…あ、また胃が。
「…明日。明日までには答えを出すわ」
病院から帰って来る間に完全に眠ったアリシアを背負っていたプレシアが不意に口を開いた。
「フェイトの事はこの子。アリシアにも伝える。でも、それからのことについては踏ん切りがつかないの…」
「まあ、そうだろうな」
アリシアはフェイトの事を知れば烈火のごとく怒り狂うだろう。
プレシアから彼女が妹が欲しいとせがまれたこともあったらしい。
そのフェイトが自分の代わりに管理局に掴まってしまった。
そして、何の因果かこの町に来て俺のクラスメートをやっている。しかも彼女は今日、俺に麻婆豆腐を持ってきた。
もしかしたらだが、彼女に興味を持たれたのかもしれない。その興味が俺の住んでいるところ。アリシアそして、プレシアにたどり着いた時、彼女はどんな行動を示すか分からない。
俺を恨むだろうか。いや、確実に恨むだろう。
自分が欲しかったプレシアの傍にポンといきなり入り込んだ俺を恨まないはずがない。
自分が欲してやまない場所をいともたやすく手に入れた俺を疎まないはずがない。
「…私に何かあったらアリシアの事をお願いしても」
ガチャリ。
マンションの鍵を取り出して鍵を開ける。
そして、部屋の中に二人を先に入れてから最後に自分が鍵を閉めながら部屋に入る。
「ストップだ。プレシア。スフィアがある間は一蓮托生だ。お前に何かあった時は俺も一緒だ」
「…私は時空管理局に。いいえ、世界を滅ぼそうとした大犯罪者よ。その罪はあなたに背負える物じゃない。アリシアやフェイトにだって…」
「俺はこの世界の人間じゃない。だいたい、俺がお前の立場なら同じようにやっていたさ」
もし、世界を滅ぼせば元の世界に帰れる。自分の大切な人が生き返る。と、あの虚数空間で知ったら俺はこの世界を滅ぼしていたかもしれない。
そこに偶然、プレシア達が落っこちて来て、アリシアにスフィアが移って、今がある。
そして、この世界にも愛着がついた。
もう、この世界の住人として生きていこうかな。なんて、考えてもいる。
「母親の意志なんて男の俺じゃ分からないけどさ。仕方ないんじゃないかな」
「楽観的ね」
「夢のような力を持つ魔法使いがそれを言うか?」
「正確には魔導師よ。しかも、元、ね」
プレシアはアリシアを俺が敷いた布団に寝かせる。
アリシアの寝顔に微笑みながら、何かを決心した表情を見せた。
「…明日。あなたのいう魔導師のご両親がやっている喫茶店に行くわ。そこで全部伝える。この子に妹(フェイト)の事を…」
「…そっか」
この様子なら俺も何も言うことh…。
キィンッ。
「このタイミングで!?」
突如張られた結界。
目の前にいたプレシアが結界に除外されて見えなくなる。その様子に俺はガンレオンを展開してアリシアを揺さぶり起こす。
「…むー、眠いよー」
「アリシア、ユニゾンするぞ!」
「にゃー」
何やら弱々しく返事をしたアリシアがユニゾンすると…。
(…すぴー)
寝息を俺の中(心の中?)でたてていた。
ユニゾンって片方が寝ていても出来るものなのか?
今、マグナモード使ったらアリシアは跳ね起きるかな?
少し悪戯心をくすぐられた俺だが、すぐにそれを追っ払って外に出る。
一応、念のため。人気の通らない道を通りながらこの結界を張った人間を探していると。
「…げ」
色とりどりの鮮やかな光が夜空を舞台にぎゅんぎゅん飛び回っていた。
その中に輝く一つの光り。
「…もう復活したのか」
ブラスタが紅い光を追い詰めるようにぎゅんぎゅん飛び回っていた。そして、
「時空管理局、執務官クロノ・ハラオウンだ!貴方の事は民間協力者から聞いている!武装を解いてこちらの指示に従ってもらおうか!」
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第十八話 ああ、もう!情けない! | ||
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