天の迷い子 第二話 |
Side 静護
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ ピッ≪カチッ≫
「う〜〜ん…ふわぁぁあああ。…起きよ。」
朝五時。
腕時計のアラームで目が覚める。
腕時計、何でそんなものがこの世界にあるのかというと、あの光に包まれたときに俺が持っていた荷物、腕時計の他には、携帯、財布、道着に竹刀・木刀、あと教科書にノート、筆記用具なんかの持っていた鞄に入っていたものが、そのまま俺の隣に落ちていたらしい。
ただ、スマホは落下した衝撃で壊れていたし、教科書類はこの世界に、というかこの時代にはあってはならない知識だと思ったので昨日のうちに燃やしてしまった。
まあそれはさておき、三十分ほど柔軟体操をして体を解すと、鍛錬を開始した。
まずは筋トレ。
本当ならランニングから始めたいんだけど、この辺どころか、この屋敷の中すら知らない俺がそんな事をすれば、確実に迷う、間違いなく迷う。
なのでランニングはまた今度。
まずは腕立て、腹筋、背筋を各二百。
次に水を入れた壷、は無いからこの椅子を持った状態で壁なし空気椅子、二十分。
そのまま中腰歩き二十分。
その後、木刀で素振りを三十分程やった後、体を拭いて着替えてから(俺が着ていた服はあまりに目立ちすぎるということで文和が用意してくれた)十分程度座禅を組む。
とりあえず朝の日課はこれで終了。
手持ち無沙汰なので水差しの水を飲んでボーっとしていると、
「おはようございます。流騎様、起きていらっしゃいますか?」
女性が声をかけてきた。
ちなみに名前のほうはこちらの世界の風習に則って姓が流、名が騎、字は無し、真名が静護ということで通すつもりだ。
「はい、今開けます。≪ガチャッ≫おはようございます。…あの、流騎様っていうのは勘弁してもらえませんか?恥ずかしいですので。」
「え?ですがお嬢様のお客人ですので失礼なのでは?」
「客人というわけでもないんですが。それにこれから俺、この屋敷で働かせていただきますから先輩に当たる人に様付けで呼ばせる訳にもいきませんよ。普通に話してください。」
そういうと、その女性はにっこりと微笑んだ。
「ふふっ、わかったわ。私の名前はチーフォン。これからよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。フォンさん。」
部屋を出て、廊下を歩く。
「それじゃあ、今日は私に付いて仕事をしてもらうわね。まずは洗濯から。」
連れ立って汚れ物置き場に向かう。
「うわ、すごい量ですね。」
そこには洗濯物が山をなしていた。
「そう?このくらいは普通よ。さあ、早く運びましょう。リンちゃんはそっち、フーさんは向こうをお願い。流騎君はこっちね。」
それぞれに洗濯物を手に洗い場へ。
大方の洗濯が終わり少し食事休憩を挟む。
「以外に手馴れていましたね。男の人なのでもっと手間取ると思ったんですけど。」
「まあそれなりには経験があるからな。リンちゃんの教え方も上手かったし。」
「えへへ、どういたしまして。人に教えるのって初めてで緊張しましたけど。」
「あっはっはっ、確かに緊張してたねぇ。最初はどっちが教えてるのかわからないくらいだったし。仲のいい兄妹みたいで微笑ましかったけどね。」
「ふふっ、顔を真っ赤にして一生懸命教えようとしてるリンちゃんはとっても可愛かったわよ。」
「うぅ〜、それはもう言わないで下さい。」
顔を赤くして抗議するリンちゃんを見て笑う俺たち。
次にやったのは各部屋の掃除。
屋敷内を把握する意味もあるので少しゆっくり回る。
さすがに身分ある立場の仲頴や文和(同じ屋敷に住んでいる)の部屋はもっとベテランの侍女さんが管理しているらしい。
屋敷の案内もかねた掃除が終わり、そろそろ昼食の時間。
「さて、今日は私たちが料理当番よ。そうね、とりあえず一人一品ずつ作りましょうか。そういえば、流騎君は料理できるのかしら?」
「ええ、俺の故郷の料理でしたら。でも、俺漢の出身じゃないんでもしかしたら口に合わないかも。」
「おや、あんた異国から来たのかい?確かにどことなく変わった雰囲気を醸し出してはいたけどねえ。どの辺から来たんだい?」
「この大陸から海を越えて東に行ったところにある小さな島国ですよ。」
「流騎さん海を渡ってきたんですか?すごいなあ。」
「ほらほら、おしゃべりはそこまでにして早く作らないと皆休憩に入っちゃうわよ。流騎君は故郷の料理で構わないから作ってくれる?」
「ういっす!」
それぞれ料理を作り始める。
俺は何を作ろうか。
大勢に作るんなら一気に作れるものがいいよなあ。
使える食材や調味料はと。
おっ、醤油があるのか。じゃが芋も発見。肉もあるし、多少なら砂糖も使っていいんだよな。
「ふ〜ん、ふんふふ〜〜ん♪っと、はい完成。」
まあ材料でわかるだろうけど肉じゃがだ。
さて、皆のお口に合うかな?
「おおぉぉおお!!うんめぇ!何だこれ、甘口で野菜が口の中でほろりと崩れて、肉も柔らかくてめちゃうめぇ!」
「ホントに。食べたことの無い味だけど、すごく美味しいわ。」
「何だかほっとする味だねぇ。気に入ったよ。」
大人気だった。
「流騎さんって料理も得意なんですね!お掃除も丁寧で、手際が良かったし…あれ?もしかして私、女の子として家事の面で流騎さんに全部負けてる?」
「だっはっはっ!リンはもうちょっと修行しねえとな!ほれほれ頑張れよ!」
「いや、リンちゃんの料理も美味しいぞ。ただ、ちょっと火が通り過ぎたな。」
「うう、優しさと助言が胸に突き刺さります。」
などと他愛ない話をしていると、
「わあ、いい匂いですね。」
そこには、煌びやかな衣装を纏った少女が立っていた。
「えっと、どちらさまでしょうか?」
と、俺が尋ねると。
「へう!?一晩で顔を忘れられるほど私、印象薄かったんですか!?」
えっ、今の口癖もしかしt≪ガドッ≫うごっ!!
「ちょっとあんた、なに月を泣かしてんのよ!蹴るわよ!」
「もう蹴ってんだろうが!っ痛〜〜!文和がいるってことは、やっぱり仲頴か。昨日と全然格好が違うからわからなかった。ごめん。」
「いえ、私も取り乱してごめんなさい。ところでその料理は流騎さんが作ったんですか?」
「俺が作ったのはこれだけ。肉じゃがって言う俺の故郷の家庭料理なんだけど、よかったら食べるか?」
「えっと、皆さん良いんですか?」
「は、はい、もちろんです!董卓様!な!皆!」
「ど、ど、どうぞお召し上がりくだせえ!」
「それじゃあ、頂きます。ほら詠ちゃんも。」
「えっ、僕も?まあ、月がそういうなら頂くわ。」
会話の間に小皿に分ける。
「ほい、仲頴。ほれ、文和も。」
「ありがとうございます。…はむ。むぐむぐ、ふぁああ、美味しい!」
一口食べた後、眼を輝かせて箸を動かす仲頴。
「ちょっとあんた。なんで男の癖にこんなに料理が上手いのよ。」
反対に何故か俺の事を睨みつける文和。
「いや、単に長いことやってきたからだと思うけど、何で睨むんだ?」
「べ、別に睨んでなんかないわよ!」
もくもくと、肉じゃがを食べ始める。
「≪ぼそっ≫何よ、この敗北感は。」
(わかります、文和様。)
文和がなにやら呟いた後、リンちゃんがコクコクと頷いている。なんなんだ?
「美味しかったです。政務があるのでもう行かないと。ごめんなさい。失礼しますね。」
「ま、まあまあ良かったわよ。じゃあ僕達は行くわ。」
そう言って、二人は食堂から出て行った。
俺は手を振って二人を見送ってから、後ろを振り返ると、全員が好奇心に満ちた目でこちらを見つめていた。
「うふふ、ところで流騎君?お嬢様とはどんな関係なのかしら?」
「そうですよ!董卓様は確かに気さくでお優しい方ですけど、いくらなんでもあんなに親しげには話せないです!それに文和様にまで。どんな関係なんですか!?恋人ですか!?愛してるんですか!?」
フォンさんとリンちゃんを筆頭に質問攻めにあった。
それから、俺と仲頴と文和が友達であることを説明するのにかなり苦労した。
どっちが好きなんだ、仲頴か、文和か、それとも両方か、キャーー!とか言い出して一時収拾がつかなくなりそうだったけど何とか納得してくれた…のか?
ま、まあいいや。そのおかげで皆とすぐに打ち解けられたし。
午後からは、薪割りや荷物運び、書庫の整理なんかの力仕事をした。
体力には自信があったけど、やっぱり昔の人ってのはパワフルだ。
普段から力仕事をやってる所為か、皆かなり筋肉がついていて、元の世界じゃ結構筋肉質で通ってた俺も、こっちじゃもやしっ子みたいだ。
夕食を食べた後、夜の鍛錬。
柔軟から始め、素振り、打ち込み、無手での打ち込み、イメージトレーニングなど。
イメージトレーニングの相手は師匠。
というより師匠以上に強い人間と今のところ出会った事が無い。
それどころか、まともに試合になりそうな人すら知らない。
中学の剣道部にも、高校に入って見学した剣道部にも、出た大会、見に行った大会にも、そんな人はいなかった。
遼姉や雄姉は例外。
だって歴史に名を残す英雄だし。
それでも師匠なら二人に引けは取らないだろうなと思う。
ちなみにうちの師匠、御歳85歳(真・恋姫無双発売年)。
立派な化け物である。
「…っ!……んぐっ!………っぐぅ、ぬっ!!…………っ!!!っぷはぁあ!!!か、勝てねぇ!」
イメージだけなのに。
っつか勝てるイメージが全然湧かない。
『ふぉっふぉっふぉっ、わしに勝とうなど五十年早いわ。』という声さえ聞こえてきた。
あと五十年生きて、しかも剣を振ってたらもうそれこそ妖怪だけどな。
……………さすがにそれは無い、よな?
体を拭き、着替えて寝台に倒れこむ。
なれない仕事をした所為か、めっぽう眠い。
眼を閉じると瞬く間に眠りの中に落ちていった。
仲頴の屋敷で働き始めてから一週間(といってもこの時代に週の概念は無いが)。
仕事にもようやく慣れてきた。
他の使用人の人達もいい人達ばかりで、仕事終わりに俺に字を教えてくれる。
おかげで、少しずつ字の読み書きも出来るようになってきた。
まあ、相変わらず侍女さん達が仲頴や文和との関係を根掘り葉掘り聞いてくるのはちょっと疲れるけど、まあそれは御愛嬌と言った所だろう
今俺は、午前中の仕事を終えたので、中庭で木刀を使って鍛錬をしている。
別の世界に来てしまったとしても、鍛錬を怠る理由にはならないし、なによりこの時代の治安は悪い。
だから、最低限自分の身を護る術は持っておくべきだろう。
そうじゃなくてもじいちゃんに強くなるって約束したからな。
「ふっ!はっ!せっ!やっ!てぇらぁっ!!…はぁ、はぁ、はぁ、素振り、終わりっと。」
千の素振りを終え、汗を拭いていると、見覚えのある女性が声をかけてきた。
「ん?おお!流騎やんか。何してるん?こんなとこで。」
「鍛錬だよ。仕事の合間にやってるんだ。」
「へぇ、んなら、うちが稽古付けたる。剣もって構ええや。」
一人での鍛錬では筋トレや素振り、打ち込みぐらいしか出来ることが無かったからその申し出は願っても無いことだった。
何より、俺でも見ただけで超一流だと判るほどの武人に稽古をつけてもらえるのに、断るなんて勿体無いこと出来るわけが無い。
俺がそう言うと、遼姉は、
「そこまで言われると照れるやんか。隊の連中はうちが稽古つけたる言うても、なにかしら言い訳して逃げるか、そうやなくても遠慮して断る奴ばっかりやから、素直に喜ばれるのは嬉しいわ。」
と言って武器庫から模造剣を出し、構えた。
「よっしゃ!いつでも来ぃや!」
俺は剣を正眼に構え、正面から打ちこんだ。
「踏み込みが甘い!もっと腹に力込めえ!」
弾かれる、と同時にそのまま体当たり、から引き胴!躱される!のは予測済み、踏み込んで渾身の袈裟切り!
ガキィ!簡単に止められる!
「ちっとはマシになったけど、まだまだ全然や!ほら、もっと来ぃ!」
「うっらぁぁあああああああ!!!!!」
全力の気合を込めて遼姉に向かって駆け出した。
「ぜっ!ぜっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
中庭で大の字になって倒れている俺がいた。
「ふう、まあこんなもんかなぁ。また昼からも仕事あるんやろ?休憩の時間も残しとかんと、もたんしな。」
「あり、がと、ござい、ました!」
何とか礼だけは言う。
「おう。自分剣術始めて二年言うてたっけ?才能無いなあ。強なる見込みは有るとは思うけど。」
ぐっ!人が気にしてることを!
まあ、師匠にも言われてはいたからショックでは無いけど、やっぱちょっとへこむなあ。
でも、
「あのさあ、才能無いのになんで強くなる見込みはあんの?」
ずっと疑問だった。師匠からも才能はないと言われたが、強くなれないと言われたことは無かったから。
「ほかの事は解らんけど、武に関して言うんやったら、強くなるっちゅう確固たる決意ちゅうか心の強さみたいなもんがあれば、そんなもんはいらん。ただ才能が有る者は無い者より上達が早い。それだけの話や。」
なるほど、そういうもんか。
「まあ、確かに天才ちゅう理不尽なくらいの強さを持った人間もおるけどなぁ。あれは例外中の例外や。そういや自分、恋……呂布にはまだ会ったこと無かったな。気まぐれやからなかなか捕まらんけど、その内連れてきたるわ。」
そういうと、遼姉はひらひらと手を振って屋敷を後にした。
その後、息を整え、濡れた手ぬぐいで体を拭き、水を飲んで着替えてから仕事に戻る。
さぁて!昼からのお仕事頑張りますか!
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ド素人の暇つぶし、第二話です。 良かったら読んでやってください。 自分はメンタル面がへたれなのでつまらないと思った方はそっと戻るをクリックしてください。 それではどうぞ。 |
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