緋弾のアリア 紅蒼のデュオ 2話
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昼休み

 

飛牙と怜那は人気のない屋上にいた。

飛牙は胸から上をフェンスから出した形で寄っ掛かり、怜那は飛牙の後ろで直立していた。

 

「一般教科(ノルマーレ)か…。何の事だかさっぱり分かんなかったな」

 

一般教科(ノルマーレ)とは、世間一般の数学や国語(日本語)などの一般高校必修科目の事を指す。勉強に縁(えん)も縁(ゆかり)もない飛牙にとって現代語学系以外の教科は呪文に等しく、彼に興味を抱かせることは全くなかった。恐らく偏差値45のこの高校でさえ、彼は最底辺に位置する事になるだろう。

 

「いえ、私の理解の範囲内でしたので、特に問題はありませんでしたが。」

 

逆に、飛牙をサポートする立場の怜那は勉強に強かった。恐らく彼女は限りなく頂点に近い位置につく事になるだろう。

 

「…そうかよ」

 

ケッとつまらなくだるそうに空を見上げる。今日は晴天だった。全く俺達にゃ縁のねぇ色だな、と飛牙は思う。

 

そういや、と飛牙は怜那に話し掛ける。

 

「周知メール、朝に二年の男子がチャリにプラスチック爆弾(C4)仕掛けられたらしいじゃねえか。これって『武偵殺し』とやらの模倣犯…いや、本人だな」

 

武偵殺しとは、ここ最近起こっている武偵を狙った爆弾魔の事である。武偵の乗り物に爆弾を仕掛け、且つ短機関銃(サブマシンガン)を搭載した車両やらラジコンヘリやらで追い回す、たちの悪い連続殺人事件だ。

が、そんな事件も彼にとっては暇つぶしの対象でしかない。

 

「はい。私の情報だと、恐らく今朝の被害者は二年A組遠山金二です。」

 

ああ、と飛牙が返事をする前に彼女は自身が持つ情報をつらつらと挙げていく。

 

「被害者遠山金二は、今朝のバスに乗り遅れ自転車で登校。登校中に後方から接近してきたUZI搭載セグウェイにより彼の自転車に仕掛けられたプラスチック爆弾(C4)に気付いた被害者は、その後神崎氏によりパラグライダーで救出。体育館倉庫に突っ込んだ後、七機のUZI搭載セグウェイに囲まれるも被害者がこれを撃墜。この事件による負傷者は無し。犯人は現在捜索中との事です。」

 

まるで見て来たかのように、息をつく間もなく淡々と情報を並べる怜那。よく見ると若干、本当に若干だが、飛牙に対して無い胸を張っているように見えた。対する飛牙は若干呆れ顔で、ご苦労とだけ彼女を労った。

 

「つうか…、遠山は探偵科(インケスタ)のEランクじゃなかったか?」

 

「はい。ですが、彼は入学当初、強襲科(アサルト)のSランクです。」

 

成る程、と飛牙は暫し考え込み、やがてニヤリと笑い怜那に指示を出した。

 

「遠山と神崎の情報をリークしろ。出来ればマークも並列処理で頼む」

 

「………………。」

 

「アイツ等はすぐに面白え事の中心点になる。特に遠山の方はな」

 

彼は、異常と言っても差し支えない程勘が冴えていた。流石に隠し事が無意味に思えるほどまでとはいわないが、今回の勘は正確に的を得ていて、既にこれから起こる事件への介入を目論んでいるようだった。

 

「…了解。」

 

肩を震わせて笑う飛牙の後ろで、怜那は相変わらず表情の無い声で肯定の意を示した。

 

「さて…人の会話を盗み聞きとは趣味が悪ぃな遠山」

 

フェンスから体を離し、階段の物陰の方を向き、やや大きめの声で問い掛ける。その勢い足るや、まるで最初から分かってましたと言わんばかりだった。

 

「テメェは面白えな。日常は今みてえに気配も消せずに隠れるヘタレ武偵の癖しやがって、今朝の事件では別人みてえに敵を七発で全滅させやがった」

 

未だ姿を現さない、そもそも本当にいるのかどうかも分からないキンジに、彼は更に続ける。

 

「だがな、自分でこんな事を言うのも馬鹿げていると思うが、今のテメェからは覇気を感じねえ。ただのヘタレだ。つうことは、テメェ本気出してねえか出せねえかのどっちかだろ」

 

くっ…と物陰で息を呑む音が聞こえた。

図星だな、飛牙は更に語を繋げた。

 

「テメェが本気の時…是非一度やり合ってみてえもんだな!アヒャヒャヒャヒャ!」

 

影に向かって自己完結をした途端、タイミング良く始業五分前を告げる鐘が鳴る。

 

「その時が…楽しみで仕方ねえぜ…。行くぞ怜那」

 

クックックと肩を揺らしながら、飛牙は階段を降りていく。後ろに続く怜那は、陰に向かって一礼すると飛牙を追従して姿を消した。

 

後に残ったキンジは、飛牙の威圧感に休息も忘れ冷や汗をかいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

武偵高には、任務(クエスト)と呼ばれる単位修得用の活動がある。東京武偵高での単位は、授業以外にもこの任務(クエスト)で得る事が出来る。

 

飛牙と怜那は、教務科(マスターズ)から出された任務(クエスト)を怜那の電子端末越しに確認していた。任務(クエスト)は基本E〜Sまである武偵ランクで分けられており、難易度の高い任務(クエスト)程得られる単位及び報酬は多い。

 

「チッ…。つまらねえのしかねえか」

 

強襲科(アサルト)に所属し、武偵ランクSの判定を得た彼を満足させるような任務(クエスト)は、残念ながらなかった。始業式のあったその日に高ランク任務(クエスト)を望むのはなかなかに無茶な事だったのだろうか。

 

「そうですね。あなたに合った制圧系の任務(クエスト)は無いようですし、またの機会にしましょう。」

 

狙撃科(スナイプ)に所属し、こちらもSの判定を得た怜那は、飛牙より返してもらった電子端末に目を通し、飛牙を宥めるように語を紡ぐ。

 

「…ケッ、帰るぞ。怜那」

 

「了解。」

 

マントを翻して教室を出る飛牙と、それに追従する怜那。端から見れば飛牙が傍若無人に振る舞っているようにも見え、だが校内の噂は男女関係は見た目通りとの定説が広まっていった。

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

「武偵高初日、お疲れ様でした。」

 

家のガレージにバイクを入れ、飛牙は溜め息を、怜那は労いの言葉を掛ける。

 

「初めての学校生活はどうでしたか。」

 

「……面白そうだが面倒臭ぇ……」

 

てかお前も居ただろと飛牙は突っ込み、怜那はさっさと玄関(ガレージ口)へ向かう。単純に怜那は背中のL96A1を下ろして夕食の用意をしたいだけなのだが、何の反応もなく家へ向かった彼女に飛牙は少し不機嫌になり、舌打ちをして家に入った。

 

この家は飛牙と怜那(金銭を管理していたのは怜那なので、実質的には怜那)が買った家で、かなりの豪邸だ。

 

だが、玄関から地下から排気口につくまで厳重なセキュリティーが施されており、監視カメラを始め赤外線センサーに衝撃、体温、音、その他様々な防衛システムを装備、しかもそれぞれに自動迎撃装置が施されている。

 

「何で学校ってモンは戦場より疲れんだよ…。俺は寝る。飯ができたら呼べ」

 

「…了解。」

 

エレベーターの中で怜那と別れ、彼の階である三階へと向かう。くあ…、と欠伸をし、自室のベッドの上に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……が。飛牙。」

 

殆ど抑揚のない声で、怜那はベッドの上で寝ている飛牙の体を揺らす。先程から全く起きる気配を見せていないが、しかし彼女はただひたすら飛牙の体を揺らしていた。

 

「……んあ゛?」

 

間の抜けた声と共に、目を開く飛牙。怜那も体を揺らすのを止め、一歩後ろへ下がる。

 

「おはようございます。貴方がここまで眠るなんて珍しいですね。」

 

怜那の声に、漸く飛牙も頭が冴えてきたらしく、ベッドから体を起こし、怜那の方を向く。

 

「ああ…何だったんだあの夢は…?」

 

睡眠時、彼は奇妙な夢を見ていた。舞台は恐らくフランスだろう、貧しい家族の夢だ。働かずに酒ばかり飲む夫にそれを止める妻。飛牙はそれを低い位置から見ていた。

 

「どうしましたか。まさか私と共になる夢でも見たのでしょうか。」

 

は?と怪訝な顔を向ける飛牙。そんな事より、と怜那は続ける。

 

「夕食の用意が出来ました。一階の広間に来て下さい。」

 

「…ハイハイ」

 

踵を返して部屋を出て行く怜那を見ながら、先程の夢について考えた。夢というのは起床後そう長く記憶に残る物ではないが、今回の夢は鮮明に脳裏に焼き付いていた。

 

「あれは…一体?」

 

 

 

 

夕食は、久々に食べるフランス料理だった。怜那は料理の腕も良く、和洋中多くの料理を作ることが出来る。戦場という限られた物資の中でいかに兵のストレスを解すかを考えられて作られたメニューが多く、塩分の高いスタミナのつくものを好む傾向があるが、物資が豊かなここ日本では料理店を開けるレベルの料理を作ることが出来る。

そんな料理が並べられた夕食の席で、飛牙は品無く、怜那は黙々と料理を口に運んでいた。

 

 

 

沈黙を破ったのは怜那の方だった。

 

「そう言えば、遠山氏と神崎氏の調査が完了しました。」

 

音をたてずに食器を置くと、懐の電子端末を開き目当ての資料を探す。果たしてそれはすぐに見つかり、必要事項のみを抜き出して壁に投影、飛牙に伝える。

 

「遠山金二。東京武偵高二年A組所属。探偵科(インケスタ)のEランク。江戸の町奉行、遠山金四郎景元の子孫。入試の際に驚異的な成績を叩き出し強襲科(アサルト)のSランクに格付けされるも、『武偵殺し』事件で兄が行方不明になり武偵に見切りをつけ、現在一般高に転校申請中です。携帯武器は違法改造したベレッタM92Fとバタフライナイフ。入試の際に見せた超人的な動きについては詳細が解明されておらず、更なる調査が必要です。」

 

ふう、と怜那は一息つき、続く資料を壁に投影する。

 

「神崎・H・アリア。東京武偵高二年A組所属。強襲科(アサルト)のSランク。ミドルネームのHはHolmes(オルメス又はホームズ)の略で、彼女はシャーロック・ホームズ四世です。過去にロンドン武偵局で活躍し、彼女の名は世界的に有名のようです。携帯武器は二本の小太刀と、ステンレスモデルとスチールモデルのコルト・ガバメントが一丁ずつ。双剣双銃(カドラ)の異名を得ているようです。」

 

一通り結果を出し終えると、投影していた画像を消し電子端末を懐に仕舞う。その姿は、やはりどこか誇らしげだった。

 

「毎度毎度仕事が早いな…。まあ、ご苦労だった」

 

夕食を食べ終えた飛牙は、先程のデータを自分の端末にも送るよう頼むと、食器を一つに纏め始めた。

 

「…調査の段階で、気になる事柄がありました。」

 

ふと、夕食を食べ終えた怜那が飛牙に追加報告する。

 

「神崎氏の曾祖父…シャーロック・ホームズ一世のライバル、アルセーヌ・リュパン一世の曾孫も東京武偵高二年A組に所属しています。」

 

「………………」

 

「貴方にとってリュパンは憧れの人の親友兼パートナーのモデルですが、今代のリュパンは…。」

 

俯き、陰りをつける怜那。飛牙はあのクラスに憧れの親友のモデルである人物の子孫がいることにやや頭を痛めながらも、続きを促す。

 

「……峰理子(みね りこ)。本名理子・峰・リュパン四世です。」

 

峰理子…。飛牙の記憶にあるのは、朝のSHRでアリアの行動に馬鹿みたいに過剰に反応し、やれフラグだのやれ恋だのと馬鹿みたいに騒ぎ立てていた金髪の女子と言うこと。

 

あれかよ…と頭を押さえ、はあと深い溜め息をつく。

 

 

 

この時飛牙は、理子はただのアホだとしか思っていなかった。

故に、飛牙は既に彼女が面白い事の引き金を引き続けているとは考えもしなかった。

説明
2話です。これから急速に速度が落ちます。
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緋弾のアリア 非ハーレム 銃火器 

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