鈴白なぎさにキスをしよう |
No side
「なぎさっ」
「どうしたの龍一?」
それは学園での何でもない一コマ。少年、『皇樹 龍一』が現在恋仲である少女、
『鈴白なぎさ』の名前を呼んだだけ。
「えっと、その・・・・・・」
「? 龍一?」
話しかけてきたのは龍一の方だというのに何やら言いあぐねている様子。
だが、言いだす決意が固まったのか、少年龍一は行動した。
学園の一コマという日常をぶち壊す行動を―――
「大好きだよ」
「―――」
突如、龍一がなぎさを抱きしめた。大勢のクラスメイトが見ているこの状況でだ。
「「・・・・・・・・・・・・」」
『『『・・・・・・・・・・・・』』』
唖然。離れて見ていたクラスメイトは当然のこと。
2人のすぐ傍で話していた『里村 紅葉』、そして彼女と会話をしていた少年『芳乃 零二』
は普段の2人をよく知っているからこそ、余計に反応せざるをえない。
だが、この状況で誰よりも驚いているのは抱きしめられたなぎさ自身だ。
彼女はピクリとも動かずただ龍一の腕の中にすっぽりと納まっている。
「(ば、馬鹿ーーー!!)」
いち早く回復した零二が心の中でツッコミを入れる。いくら普段ツッコミを担当している彼でもこの状況下で叫んでツッコミを入れるという荒業は出来ない。
例え彼が人知を超えた『召喚せし者』だとしても、だ。無理なものは無理なのだ。
「ば、」
「ば?」
ようやく回復したなぎさが絞り出した一言。それに龍一は疑問を浮かべる。
「龍一の・・・・・・馬鹿あああぁぁぁっ!」
何時ぞやと同じようになぎさの右アッパーが龍一の顎に入り、
そのまま龍一はノックアウト。
「うわぁ〜んっ!」
顔を真っ赤に染めてなぎさは教室を飛び出してゆく。
「あ、ちょっ、なぎさ!」
ようやく回復した紅葉がなぎさを追って教室から出て行く。
「お〜い、生きてるか〜?」
シャーペンで仰向けに倒れている龍一をツンツン突きながら零二は自分の親友に
何があったのか頭を巡らせるのだった。
そんな龍一がこんな奇行に至ったのには訳があった。
龍一 side
「それじゃあ、また明日ね」
「うん。また明日」
いつも通り、今日も恋人のなぎさを家に送り届ける。『最終戦争』の後、
ようやく落ち着いた環境での恋愛が出来るようになった2人だったが―――
「また・・・・・・出来なかった・・・・・・!」
―――そう、キスをしていないのである。
普段の2人をよく知っている人たちから見れば手をつないだりするだけで驚きなのだが、
やはりそこはこの2人なのか、キスをしていないのである。
以前も鈍感だの朴念仁だの色々言われてきたが、もうそんな不名誉な呼び方はされたくない。
僕だって、なぎさの彼氏なんだから。彼氏らしいことをしないと!
しかし、如何せん僕は恋愛については素人。誰かに教えを乞うのが一番だろうな。
となると、ここはやはり―――
「零二、ちょっといいかな」
僕は朝のSHRが始まる前に早速零二に声をかけることにした。
「ああ。別にいいぜ」
「ちょっと話し辛いから、屋上へ」
「わかった。(屋上って、そんなに話し辛いことなのか?)」
「あぁ! りゅーいち、アタシのれーじ持ってかないでよ」
「ごめん、出来るだけ早く済ませるから」
「で、何だよ龍一。俺に話って」
「零二、単刀直入に言うよ―――キスを教えてほしい」
「・・・・・・・・・・・・(引きっ)」
「どうして後ずさるんだ零二」
「ば、馬鹿。来るな。来るんじゃない! 俺にそんな趣味は無い!」
「?」
零二は何を言っているんだ? そんな趣味って何だ?
「零二。冗談を言っているんじゃないんだ。僕はキスを教えてほしいんだよ。
なぎさとするために」
「・・・・・・あぁ、そういうことか」
「で、どうすればいいと思う?」
「どうするもこうするも、お前は鈴白の彼氏なんだろ? だったら普通にキスすればいいじゃねぇか」
「それが出来ないから苦労しているんじゃないか! 僕が口下手なのは知っているだろう? キスしようにも、何か気恥ずかしくて・・・・・・///」
「キモいわっ! 俺の知っている龍一はそんなんじゃなかったぞ!
糞真面目な龍一ならハッキリと今自分の思っていることを言って、
その流れでキスしちまえばいいじゃねぇか。その場の流れっているのは、結構大事だぞ」
「なるほど。ありがとう零二。さっそく試してみるよ」
「おう。まっ、頑張れよ」
流れ、か。つまり意訳すると、『今の僕の抑えきれない気持ちに従えってことか』。
そして時は元に戻る。
「こんの馬鹿! 幾らなんでも馬鹿正直すぎるだろ! あと時と場所を考えろ!
お前はTPOってもんを知らないのか!」
そして場所は再び屋上へ。
「ごめん零二。確かにアレは迂闊だったかもしれない」
おかしいな。確実にいけると思ったんだけれど。
「迂闊すぎるわ!」
「でも、零二でもダメとなると一体誰のアドバイスを受ければいいんだ」
「俺のアドバイスは失敗ではなくお前のストレートさを想定しきれていなかっただけだ」
「心外だな。それでは僕が馬鹿みたいに聞こえるじゃないか」
「そう言ってんだよ。ってか、そもそも何で俺に聞いたんだ?」
「そんなの、親友で女性経験が豊富だからに決まっているじゃないか」
僕の観察眼的には最高のアドバイザーだったはずなんだけれど。
「・・・・・・だったら、俺よりずっと適任者がいるじゃねぇか」
零二よりずっと適任な人?
零二が言う俺よりずっと適任な人それは―――
「義父さん!」
「龍一か」
零二の父であり、僕の育ての親でもある『芳乃 創世』さんだ。
この人は先の『最終戦争』の首謀者にして元最強の『召喚せし者』、オーディン。
今は妻の桜さんと零二たちとは別居しているらしい。
「どうしたんだ龍一。そんなに慌てて」
相変わらず大人びていて、僕達とは別次元の存在であるかのような雰囲気を
醸し出している。創世さんは僕なんかよりもずっと大人で、結婚もしているんだ。
この人なら、この人なら、きっと僕の最高のアドバイザーになってくれるはずだ!
「お義父さん、単刀直入に言います」
「何だ」
「キスをする方法を教えてください」
「・・・・・・・・・・・・」
長い長い沈黙。おかしいな。僕の『戦略破壊魔術兵器』に時間停止の能力は無かった
はずだけれど。
「いいか龍一?」
僕の『戦略破壊魔術兵器』に時間停止の能力もあったのかと錯覚するほどの時間の後、
創世さんは僕の肩に手を置き言った。
「―――」
「ありがとうございました」
お辞儀をして僕は家を出た。あれから僕が明日にでも『予言の巫女』に配属されてもいいくらいの『戦略破壊魔術兵器』に関する情報を得られた。
だが、その情報の中には肝心のキスについてのことが無かった。
僕は人選をミスしたようだ。
しかしどうしたものか。そうなると他に恋愛経験豊富(キスの経験)な僕の知人がいない。仕方ない。こうなったら手当たり次第に聞いて回るしかない。
後日から僕は学園中とは言わず、島中の女性に聞いて回った。しかし、有力な情報は得られなかった。しかも何人かは顔を赤らめて「す、すみません心の準備が!」などと言って逃げられてしまう始末。なんということだ。このままではなぎさの彼氏失格だ。
今日も成果なし。放課後の時間全てを使ったというのに何て様だ。家に着くと玄関の前には愛しの彼女、なぎさの姿があった。
「なぎさ、どうしたの?」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
何故かなぎさはご立腹だ。肩をプルプル震わせている。そのまま勢いで僕の方に大股で
寄ってくる。まずい、また何時ぞやのように殴られる・・・・・・!
身構えていた瞬間、唇に柔らかい感触があった、
「―――なぎさ?」
「・・・・・・・・・・・・龍一、芳乃君から話は聞いたよ」
「―――っ!?」
「キスがしたいんだったら、今度からいつでも言ってね?」
「う、うん・・・・・・」
「そ、それだけだから! また明日!」
照れ隠しをするようになぎさが走っていく。僕はまだキスの感触が残る自分の唇に触れて、
ガッツポーズをしていた。
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最終戦争後の龍一となぎさです。 | ||
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