魔法少女リリカルなのは〜過去に縛られし少女〜 第十三話
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――遂に来たか。

 

頭に響く嫌な声。

 

――もう引き返せはしない。未来は一つに絞られた。

 

「何を、言って……」

 

――お前は選んだ。悲劇への道を。

 

「悲劇?」

 

――愚かなものだ。お前という人間は。

 

「貴方は、いったいなんなの……?」

 

――お前に恨みをもつものとだけ言っておこう。

 

「恨み……?」

 

そこである感覚が襲ってきた。

それは私の経験したことのあるものだ。

(夢から、覚める?)

まだ何も聞いていない。

大事なことを聞き出せてない。

にもかかわらず、終わりの時間は近付いてきていた。

 

――もうここで会うこともないだろう。

 

「どういう意味? 待って……」

 

そこで夢は終わりを迎えた。

 

 

 

眼が覚めて私が最初に見たものは、人の顔だった。

その人は心配そうに私を見ていた。

そしてその顔を見て私は咄嗟にこう言ってしまった。

「おねえ、ちゃん……」

「えっ?」

彼女は不思議そうな表情をした。

私は自分の迂闊な一言を後悔した。

「いえ、ごめんなさい。気にしないで。それよりどうしてここに?」

話のそらしかたがわざとらし過ぎるが、そんなの気にしたいる暇はなかった。

「あっ、そうでした。先程リリス副隊長と会話をした時、いささか顔色が優れないようでしたので、訪ねさせていただきました」

だから彼女が素直にこう返してくれたのは、正直助かった。

とりあえず話を続けることに専念することにした。

「どうしてこの部屋がわかったの? 教えてはいないはずだけど?」

「失礼ながら、高町隊長に教えていただきました」

「そう、だったんだ……」

「……もしかして、ご迷惑でしたか」

「そんなことない。ありがとう、心配してくれて」

「ふぅ、そう言ってくれると嬉しいな……あっ! いえ、嬉しいです」

咄嗟に出てしまった話し方。

それが彼女の本来のものだとすぐにわかった。

だから私は彼女に何の悪気もないのにもかかわらず、こんな思いを抱いてしまった。

(……どうして、お姉ちゃんと同じなの?)

口調も、安心した時にする仕草も、焦っている時に見せる表情も、何もかも同じ。

この人はお姉ちゃんじゃないのに、どうしてこんなに――

「あの、リリス副隊長?」

「どうして……?」

もう止まらなかった。

「はい?」

「どうして、同じなの……?」

きっとこの人は何を言われてるのかわからないし、これから言うことの意味もわからないだろう。

でも思いは止まらなかった……

「もう、死んだの。お姉ちゃんは、もうこの世にはいない…………なのに、どうして貴女は!」

私は彼女を床に思いっきり突き倒した。

「いたっ……」

「ねえ、どうして! お姉ちゃんとどうして同じなの!? 答えて、こたえてよ!!」

「リリス……ふく、たいちょう。どうして、泣いて……?」

「泣いてなんかない! ないて、なんか…………うぅ」

私は何をしているのだろう?

心配して見に来てくれた部隊の人にいきなり叫んだり、痛い思いをさせたり、挙句の果てには泣きだして、気を遣わせている。

本当に何をしているのだろう?

(……馬鹿だ、私)

心の中で自分を責め、そして私は泣き続けた。

どうして泣いているのか、自分でもわからない。

ただ涙が止まらないから、泣き続けた。

そしてどれだけ泣いたのだろう。

ようやく少し落ち着いた頃、私はそこでようやく気付いたことがあった。

私は、抱きしめられていたのだった。

相手の体温が、とても心地良いものに感じられた。

「落ち着けた、みたいですね」

「…………うん」

私の声はとても小さかった。

それは迷惑をかけてしまった、見苦しいところを見せてしまったなどの罪悪感を感じていたからだった。

(変な人だって、思ってるよね……?)

突然おかしくなった私を見たのだから、こう思われるのも仕方ないだろう。

……でも、それは嫌だった。

何もかも私が悪いのはわかってるけど、この人に変な眼で見られるのは嫌だった。

いや、この人に嫌われるのが怖かった。

だから――

「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい。ごめん、なさい……」

とにかく許してもらえるまでひたすら謝ることにした。

今の私にはこれぐらいしかできないから。

「いきなりこんなことして、不機嫌なのはわかってる。だから、本当にごめんなさい」

「あ、あの? そんなに、謝らなくても大丈夫です。私が何か気に障るようなことをしたんですよね?」

「ち、違う! そうじゃ、ないの。私が全部悪い。だから、ごめんなさい」

「えっと、それってどういう意味ですか?」

「貴女が、お姉ちゃんと似てたから……いえ、お姉ちゃんと……同じだったから。それが、信じられなくて…………」

「リリス副隊長のお姉さんと私が、同じって言えるぐらいに似ているんですか?」

「そう……でも、だから、信じられなかった。こんなにも、似ている人が、いることを……」

「……不思議、ですね。でも、私は嬉しいですよ」

一瞬、何を言ってるのかわからなかった。

わかった後は、ただ不思議だった。

どうしてそんなことを言うのか?

「嬉しいって?」

「この私がリリス副隊長の支えになってあげられるかもしれないって、思えたからです。今はもういない、リリス副隊長のお姉さんの代わりに」

「……どうして、お姉ちゃんがいないってわかったの?」

「もうお姉ちゃんはいない、先程そう言ってましたから」

「あっ……」

そうだった。

すっかり忘れていたが確かにそんなことを言ってしまっていた。

気づくのも当然だった。

「リリス副隊長の様子を見た限りでは、お姉さんを失った悲しみは深いことはわかりました。だからこそ思いました。お姉さんの代わりに傍で支えてあげたいって」

「……やめて」

彼女の言いたいことはわかった。

お姉ちゃんとほぼ同じとも言える人が、傍にいてくれる。

これ以上の支えはないだろうし、とても素敵なことだと思える。

……でも、それはしてはいけないと思った。

「気持ちは、嬉しい。だけど私がそれを望んだら、貴女をアリエスさんという女性ではなく、お姉ちゃんとしてしか見れなくなる。それだけは、許されない」

きっと彼女は自分が伝えたことがこんな結果になることは予想してはいなかったのだろう。

だったら前もって言わなければならない。

彼女が言ったことは私にとって、アリエスではなく姉として見て、と言ったことと同意義だと言うことを。

これで彼女も考え直してくれるって思った。

「それはいけないことなんですか?」

だから彼女の反応に私は驚愕した。

「な、なにを!? 自分の言ってることわかってるの!?」

「はい。わかってます」

「だったら!」

「わかってるからこそ言っています。私はリリス副隊長の傍でアリエスとしてではなく、お姉さんの代わりとして支えてあげたいと」

今の彼女が本気ならとんでもないことだ。

なにせ彼女はアリエスという自分を捨て、私の姉の代わりとしていることを選んだと主張しているのだから。

「どうして、そんなこと言えるの? 貴女にだって大切はいるでしょ?」

「……いませんよ。一人も」

怖いぐらいに冷静で自然に答えていたからか、それが本当だと何となくわかってしまった。

ただ納得は出来なかった。

「そんなはずない! だって友達は大切でしょ? 両親だって」

「私に友達なんかいないですよ。それに両親は私が嫌いで一緒に住みたくないからって、ずいぶん前にいなくなっちゃいましたから」

「……えっ?」

友達がいない?

両親がいなくなった?

そんな辛くて悲しくて寂しい現実を生きているって言うの?

「だから私には大切な人なんかいないんです。ゆえに私はアリエスという自分を捨てることを、拒んだりしません。拒む理由が、ないですから……」

彼女は心に傷を抱えていることを私は知った。

そして彼女は自分というものを大切にしていない。

だからアリエスとしての自分を捨てることを躊躇わない。

きっとそれだけ不幸ともいえる人生を歩んできたのだろう。

……そんな彼女に私は何を言える?

自分を捨てるなんてことをこうも簡単に言えるのは、それだけ彼女は覚悟を持っているということだ。

ならば私はこんなことを彼女に伝えてあげるべきなのかもしれない。

――貴女をお姉ちゃんって呼んでいい?

これだけで終わりだ。

きっと彼女は私の望んだとおりのお姉ちゃんになってくれる。

きっと彼女も喜んでお姉ちゃんになることを受け入れてくれる。

でも本当にそれでいいのだろうか?

私は悩んでいた。

……いや、悩んでいると思いたかった。

(最低だ。私……)

彼女のために悩んでいると思えば、私はどんな選択をしようが彼女のためにした選択なんだと逃げることが出来る。

それが私の欲望を叶えるものであっても。

(……ごめんね、お姉ちゃん。私が選んだものは間違いなのかもしれない。それでも、許してくれると、嬉しいな?)

そして私は一つの選択した……

「あの、リリス副隊長? お話を聞いて――」

「……って、呼んで」

「えっ?」

「リリスって、呼んで。その代わり私も、お姉ちゃんって呼ぶから。ただしこの部屋にいる時はだけど」

「……わかった。リリス、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう。お姉ちゃんになってくれて……」

……この関係は、歪んでいるものなのかもしれない。

それでも私は後悔しない。

いつまでもこの関係を続けていきたいと今は思っている。

もしもこんな関係が終わる時がくるとすれば、それは私たち以外の誰かがこのことについて知った時だろう。

そうなればもしかしたら私たちの見る目が変わってしまうかもしれない。

彼女はわからないが私はそんなの耐えられそうにない。

だからこそ、「この部屋にいる時は」などと伝えた。

確実に関係を、続けていくために……

「お姉ちゃん。もう一度だけ言うけど、この部屋にいる時は、この呼び方だからね?」

「うん、わかったよ。それより話し方はこれで変じゃない?」

「それで、大丈夫。気にしないで」

それから私たちは他愛無い話をした。

本当にどうでもいいことばかりを話した。

でもとても楽しかった。

まるで本当の姉妹のようだった。

これからは私の部屋にいる時は、こんな気持ちでいられることが多くなるんだと思うと、嬉しいと感じた。

……だが、何故なのだろう?

少しだけ胸が痛む。

嬉しいはずなのに少し気分が晴れない。

どうしてなのだろう?

(……なんなの、これ? なんなの、この気持ち?)

僅かだけど、確実にある変な引っ掛かり。

それが何であるかはわからなかった。

結局それからアリエスさん…………いや、“お姉ちゃん”と話しててもその感じが無くなることはなかった。

そしてその感じは何なのか、どうして感じるのかもわかることはなかった……

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第十三話です。
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