■7話 洛陽に行く前に・前編■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜
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■7話 洛陽に行く前に・前編

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ドサッ

 

と、まだ気絶している一刀を適当に降ろす。運んでいて思ったのだが見かけ貧弱なのに結構筋肉が引き締まっていた。剣道で身につけたのだろうか? それとも曹操に身につけさせられたんだろうか? 見た所最初に会った時よりも自信がありそうだったし、恐らく後者だろう。

 

とりあえず一刀を転がした後先ほど見つけたかごめと綾が雑談している茶屋に入る。赤の布が椅子やテーブルにかけられており、テーブルの真ん中のグラスの中に花が活けてある。なかなか和を感じるオシャレな店だ。

 

だというのに人がいないのは足を休める為の茶屋だからなのか、それとも料理の味が微妙なのかはわからないが何故かこの店には((人気|ひとけ))が全くない。

まあ考えるに綾がいるってことは料理に問題はないはずである。なら戦が終わったばかりだからさして人がいないと言ったところだろう。

 

店の考察を終えるころには綾たちの待つ席に到着し、とりあえず茶を頼む。出てきた緑茶は深い味わいがあり、渋みが程よくある大人の味だ。つい甘いものが欲しくなってしまういい味をしている。

 

それを証明するように目の前の2人が菓子を食べながら茶を味わって飲んでいる。気分がいい所に無粋な話を持ち込むのは正直気が引けるが、離さないわけにはいかない。

 

茶を飲み終わった後一息ついて曹操と出会った一幕を語っていく、話したくない事ではあるが時雨が曹操に降る事もきちんと話していく。

2人の反応を見ながら話していたが、一瞬不機嫌な顔を綾がしたこと以外特に変わった様子もなく、相談もせずに決めたのだから怒られると思っていただけに少なからず驚かされることになった。

 

もちろん話はこれだけではなく、俺に付き合ってこれからも付いてくるつもりなら曹操に綾とかごめも降らなければならないという話もした。

 

「ん、わかった」

「わかっ…た」

 

結構緊張して話したというのに俺に付き合って一緒に曹操の元へ降る了承を2人はあっさりとしてしまい、あまりに簡単に返事をするのでちゃんと伝わっているのか不安になって再度確認の為質問する。

 

「2人とも怒らないの?」

「何で? 怒るったって私はその場に居なくて助けることも出来なかったのに、それに何処に行こうと時雨についていくつもりだもん。降ったって時雨と一緒に居られるなら構わないわよ、だから置いていかれたら怒るけどね」

「わたし…も……」

 

ちゃんと伝わっていて、尚且つ自分の事を想ってくれていることに感激しつつ頭を下げる。

 

「そっか……2人ともありがとな」

 

時雨は綾が言った発言が半ば告白じみていたことには全く気付かない。だから綾がジト目を向けてくるのにやっぱり怒ってるじゃんと苦笑しながらお詫びとご機嫌取りもかねて2人の頭を撫でてやる。

綾としては気づいてほしかったはずだが、今はもう撫でられたことに満足して微笑むだけだった。

 

「それじゃ、まだ一日ほどここに残って復興の手伝いしないといけないから。出る前に凪たちにも挨拶しなきゃいけないし。お前らも準備があるだろうから一旦ここで解散ね」

「はーい」

「ん………」

 

綾とかごめが頷いて店から出ていくのを見てこれからどちらに行くか考える。

 

今回曹操達が来た事で俺たちにプラスになった事と言えばこの街での滞在期間が短くなった事だろうか、曹操軍が街に来た時に黄巾党の殲滅が終わったことは既に発表されており、炊き出しの配給待ちの兵士達や、屋根を修理している人々の顔には既に笑顔が広がっている。

 

この茶屋もしばらくすれば作業で疲れた者たちが甘いものを欲しがってごった返すだろう。ともなればいつまでも1人で邪魔しているわけにもいかない。

 

復興の手伝いはすぐにでも出来るが出来る事なら凪達と楽しく一緒にやりたいものだ。恐らく真面目な凪は参加しているだろうし。

 

いるとすれば何処だろうか? やはり復旧作業が急務の場所にいると考えるのが妥当だろう。となると被害の一番出た西門に居る可能性が高い。

 

よし、と気合を入れて西門へと歩き出す。新しき友人と親交を深める事を楽しみに足取り軽やかに時雨は進んでいった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

時雨と別れた後私は私の出来る事を探すことにした。

 

出会った時賊から助けられ、今回もまた一方的に助けられただけだった。北門で私はただただ信じることしか出来なかった。悔しかったし、ただ見ているだけというのが辛かった。だから戻ってきた時に真っ先に飛びついてしまって、子供っぽい自分を後で自覚して恥ずかしくなってしまった。

 

時雨に恩を返そうと思っているのに結局恩がどんどん増えていってしまう自分が嫌になる。

 

折角相談をもちかけられたと思ったらいつの間にか解決していたし、曹操さんとの話は既に終わった後で一緒に来るかどうかの確認しかされなかった。それでも私が付いてくるとわかった時の嬉しそうな表情は実りあるものだったけど、やはりそれだけでは全然足りない。

 

役に立ったことといえば剣舞を提案して上手くいった事ぐらいだろうか、けれどそれだって時雨の実力あってのものだったし、自分があの剣舞を見たいという欲求で提案したのだからあれは助けたとは言えない。

 

時雨の事を考えるに身近で助けるならやはり戦場だろう、雑兵と言えど私にも武器があれば少しは役に立てるはず。そう思い武器屋を見てみるけれどまだ幼い私に扱えそうな武器は見当たらない。

 

時雨が弓の鍛錬をしている時に話していた銃なるものは私にも扱えるかもしれないと思っていたのだけれど、あれは何処にあるのだろうか? 先ほどから渡り歩いている武器屋にそれらしきものはなかったし……。

 

そう物思いにふけりながら歩いていると自分の進行方向からやってきた真桜さんに声をかけられた。まだ出会ったばかりだけど、時雨を助けるために一緒に話し合った仲だ。既に人となりは知っていて真名も交換し合っている。

 

「あれ? かごめやないか、自分ひとりでなにしてるんや?」

「えっと…その、銃…探してて………」

 

やっぱり喋るのは苦手だ。あの話し合いの場で時雨と皆が真名を交換している時に私も交換してもらったのだが、その時も今みたいにきちんと喋ることが出来なかった。

 

時雨のおかげで賊から助けられた時から比べれば多少なりとも喋れるようになったとは思うけど、すらすらと喋るにはまだほど遠い……早く普通に喋れる様になりたいけどそれを意識するたびに思い出す「喋るな」と言う言葉と下卑た笑みが脳裏に蘇ってどうしても上手く喋れない。

 

時雨は精神的なものは時間が解決してくれると言っていたが一体いつになるんだろうか。

 

「銃? それってなんや? なんだかウチの絡繰り魂がうずいてんのやけど」

 

「えっと…その…、時雨に、聞いた」

 

断片的に聞こえる単語を正確に拾ってくれる真桜に感謝しながらゆっくりだが銃について時雨から伝え聞いたものを事細かに説明していく。

 

「なんやそれ、弩みたいなもんか? 初めて聞くけどなんやおもしろそうやな! よければウチが作ってみようか?」

「ぇっ! ……えっと、よろ…しく?」

「よろしくされたる! 待ってろや、今すぐ作ってやるさかい!」

 

興味がある事について喋ると止まらないのか、疑問が口から出来ない内に真桜がまくし立てた勢いで制作を依頼してしまった。そしてそのまま真桜さんはどこかへ走り去って行ってしまった。

後姿を見送った後で時雨が手伝う予定の復旧作業が終わり次第ここを発つことを話すのをすっかり忘れていたのに気付いた。後で沙和さんか凪さんに会えるといいけど……。

 

でももし私がここを発つ前に時雨の言っていた銃に近いものを真桜さんが作ってくれるのなら私も戦える。そう思うと嬉しくなって時雨の隣で戦う私を想像してしまう。

 

っ〜〜〜〜〜〜

 

想像に思わず1人悶えてしまう。子供らしい快活な笑顔に周囲の人は何か嬉しい事があったんだろうと笑顔を誘われていた。そんなことに気づかないかごめはひたすらに時雨の隣にいる自分を思い返して嬉しくなったり、恥ずかしくなったりで飛び跳ねていた。

 

ようやく落ち着いて凪達を探さなきゃいけない事を思い出す。思い出したところで凪達が何処にいるかもわからないので、とりあえず運が良ければ真桜に会えるだろうと真桜の走っていった道へとトコトコ歩き出す。

 

何でも凪達がかごめと会って話をした時かごめは終止笑顔だったらしい。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

時雨やかごめちゃんと別れてしばらくぶらぶらしていたら点心を片手に頬張りながら歩く季衣ちゃんに会った。私に気づいてパタパタとかけてくる姿が愛らしい、もし妹がいたらこんな感じなんだろうかと思ってしまう。

かごめも幼い容姿をしているがそれについては見た目が幼いだけで結構大人な思考をしているし、時雨に関して言えばいわばライバルだ。妹とは呼べないが親友と言ったところだろうか。

 

綾が季衣とかごめについて考察している間に季衣は綾の目の前に辿りつき最後の点心をぺろっと平らげる。丁寧に指についた食べかすを舐めとってから綾に話しかけた。

 

「綾姉ちゃん!」

「あれ? 季衣ちゃん曹操さんのとこにいなくていいの?」

「あ、それはね。華琳様が街の復興に1日ほど従事するらしくて、その間はボクは自由なんだ」

「へー、曹操さんがねぇ……」

 

ッシュタ

 

「華琳様に何か不満があるのか貴様!」

 

季衣に少しばかり疑問をぶつけて感心した所に突然と言っていいほど急に現れる夏侯惇。そういえばこいつには一度負けてるし、今回の時雨のこともある。勝手に誤解をして怒っているあたりちょっと好きになれないかもと思ってしまう。

 

「別に感心しただけだよ、それにあなた何処から沸いて出てきたの……」

「む、それならばいいが。沸いて出てきたなどと、私は普通に歩いてきただけだぞ!」

「春蘭さま、さすがにそれは……」

「ん? 季衣まで何をいう。私は普通に歩いていて華琳様の悪口が聞こえたような気がしたからここへと足を向けただけだ」

 

なんて忠誠心なんだろう。そしてなんという規格外な行動。時雨も結構そういう規格外なところあるだけど、この人も出鱈目だ。

きっと時雨にそんなことを言えばお前の幼馴染の勘の方が規格外だと返されること請け合いだ。

 

「それでお前たちはなにをしていたのだ?」

「いや、さっき会ったばかりで特に何も……」

「ぉお! それは丁度良かった。出来ればつきあってほしいのだが!」

 

私はだらしなく口をあけて驚かざるを得なかった。いきなり何? 付き合って? やっぱり曹操軍ってそういう集まりなのだろうか……、いや待って何もないから付き合ってってのは何か用事に付き合ってほしいって事じゃないだろうか?

 

「おいおい、姉者。いきなりつきあってではわかるまいよ…実は荀正殿にも我らの買い物に付き合って欲しいのだが……」

「またいきなり…いったいどうやって出現してるの」

「なに、姉者あるところに私はいる………ただそれだけだ」

 

格好よく言ってるけどそれも出鱈目ですよね? 何なんだろうこの人たち……百合の結束ってここまで凄い効果を発揮するのだろうか。

そんな馬鹿げたことを考えつつ、夏侯淵が言っていたことについて深く尋ねる。

 

「買い物って、何に付き合えば?」

「えっとそれはだな…その……」

 

何でもハッキリ言ってくる夏候惇にしては珍しく言いよどんでいる。そしてあからさまに季衣ちゃんを気にしてちらちらと見ている。

 

「あ、ボクお腹すいちゃったから食べ歩きしてきますね! 春蘭さま」

 

さすがに夏候惇の事が好きなだけはある、きちんと空気を読んで引き下がる季衣ちゃん。戦闘で突っ走ってしまった理由も聞いたが本当にいい子である。

 

「あ、ああ。そうだなお腹が減っては力が出せないからな!私たちは気にせず食べてくるといいぞ」

 

そんな季衣ちゃんの気の利いた発言になんともわかりやすい動揺っぷりで答える夏候惇。それが少し微笑ましくもあると同時にそれほど動揺する買い物っていったいなんなの! と不安を隠せない。

 

「それで、何を買いに?」

 

もちろん不安など顔には出さず、季衣ちゃんが何処かに去った後きちんと聞く。何もわからずに付き合ったら怖すぎる。

 

「実はな……服を買うのに付き合って欲しいのだ」

「服?」

 

ただの服? 夏侯惇さんのだろうか? でもどうしてそれだけであそこまで動揺するのだろう……もしかしてすごくやばい服なんじゃ!?

 

「姉者の服ではないぞ、実は華琳様のなんだが。我々とは違った視点のものから意見が欲しくてな……ちゃんとした服を着ているそなたならと思ってな」

 

この2人が曹操を慮って行動しているだけで特にこれと言って恥ずかしがる理由はないように思うのだが、何故季衣ちゃんには内緒にするのだろう。そして何で曹操さんは連れていないんだろうか? 疑問をぶつけるなら後者だろうか、なんだか複雑そうな事情がありそうだしあまり首を突っ込むのもまずいと思うし。

 

「? ……曹操さんと一緒に選ばないの?」

「華琳様は忙しいのだ! だから私たちがこうして出向き、華琳様にあう最高の服をさがしているのだ」

 

何を興奮しているのか無意味に夏侯惇が息を荒げる。でもそれだったら適任は私じゃないのは確かなので買い物付き合いは勘弁してもらう。。

 

「そういうことなら時雨に頼めばいいと思いますよ、なんだかんだ言って私の服とかごめの服は時雨に選んでもらってますから」

「ふむ、そうか。なら紀霊に聞きに行くとしよう! いくぞ秋蘭」

「待て姉者、今行っても気まずいだけだろう。さきほどあんなことがあったばかりだ」

「むぅ……それじゃどうすればいいんだ!」

「今は荀正殿と一緒に探そう、紀霊殿といつも一緒に居るのだから大丈夫でしょう」

「そうだな、それじゃそうしよう!」

 

どうやら時雨を生贄に召喚するのは無理だったしい、有無を言わせず両手を掴む2人、抵抗を試みるも恐ろしい程の連携でそれも無効化されてしまう。

 

「え、ちょっとまって……私役に、た、助けっ………」

 

不満の声を上げることも許されず助けを求めても周りはさわらぬ神に祟りなしとばかりに見ないようにしている。私の抵抗虚しく結局は夏侯惇達に引きずられていく……。

 

引きずられて行った先の服屋に到着してからさっそく目を輝かせて物色し始める夏侯惇。まるで子供の様だ。

 

「これなんかどうだ?」

 

そういっては夏侯淵と私に服を見せてくる、夏候惇に似合っているとは思うが曹操に似合うかどうかは良くわからない。

 

「可愛らしいがいまいち荒いな」

「えっと…可愛いと思います」

 

一体私に何を求めているんだろう、この2人で十分の様な気もする。

夏侯惇が探し、夏侯淵と私でそれなりに意見を出していく、そんなことを繰り返しながら時間は過ぎて行って、厳選に厳選をかけた服を何着か選ぶとそれを夏侯惇が買ってくる。

 

「なかなか掘り出し物があってよかったぞ」

 

ほくほく顔の夏侯惇がなんだか可愛いと思えてしまって何だか悔しい思いをしてしまう。

 

「姉者、そろそろ戻らねば」

「そうだな…えっと、荀正? だったか。今回は助かったぞ」

「えっと夏侯惇さんと夏侯淵さんのお役に立てたのなら良かったです」

「私のことは春蘭と呼べ!」

「え?」

「そうだな、一緒に華琳様の服を選んだ仲だ……私のことも秋蘭と呼んでくれ」

 

服を選んだっていっても半ば強制だったし私は感想しか行ってないのだけれど、それでも結局私も楽しんでいた気がするし、いいのかもしれない。

 

「それなら私のことも綾と呼んでくれて構いません」

 

「わかった、綾だな! 今度は手合わせお願いするぞ……それじゃあな!」

 

元気に声を張り上げ、春蘭が服を持って走り去っていく。手合わせ……リベンジもかねてそれはやっておきたい。

 

「綾殿、紀霊殿によろしくお願いする。今度買い物にいけるよう取り計らってくれると助かるが……」

「ぇ? はぁ……別にいいですけど」

「そうか、それはよかった。私もそろそろ行くとするか、待ってくれ姉者ーーーーーーー!」

 

台風の様な姉妹だったが……思ってたよりずっと面白くて可愛い人たちだった。最初は悪印象しかなったけど曹操の元に降るのもさほど退屈しなくて良さそうだ。といってもまだ当分先になるんだろうけれど

 

これからの予定も考えつつ私も凪ちゃん達に挨拶行ってた方がいいかなと思い、綾は当てもなくとぼとぼ歩き出した。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

凪たちを探していると街の外壁付近を曲がって西門からすごい勢いで走り寄ってくる真桜の姿が見えた。

 

「あれ? 真桜そんなに急いでどうしたんだ?」

「ん? 時雨はんか……ちょっと面白い絡繰りを思いついてな! これから作りに行くねん!」

「ふむ、俺たちは復興作業を手伝うから後1日程度でここを発つつもりだけど話してる時間はありそうか?」

「それを聞いてしもたら、尚更急がなあかんやん。すまんけど話はまた今度にしてやー」

 

一時足を止めて話をしたかと思うとすぐさま同じ速度で走り去って行ってしまった。

もうすぐ街を出ると言った辺りで顔色が変わったからもしかすると俺たちが明日発つのと関係してるのかもしれない。とりあえず挨拶はしたわけだし、後は凪と沙和かな? 季衣は曹操軍だったはずだし、色々聞かされてるだろうから合い辛いし。

 

西門に付いてから適当にそこらの兵へ声をかけ凪が居ないか聞いてみる。傷の目立つ女の子と言えば大体通じるが本人の前ではあまり使わない方がいいかもしれない。

 

兵士に聞いた話によるとどうやら凪は沙和と共に鍛錬しているらしい。兵士から教えてもらったその場所へと足を向けると気合いの入った声が聞こえてきた。

 

「っはぁぁぁあああああ!」

 

ガキンッ

 

「ちょ、ちょっと凪ちゃん待ってなのー」

「戦場で敵は待ってくれないぞ沙和!」

 

真面目に打ち込む凪に余裕のない様子で辛うじて攻撃を捌いていく沙和。3人の中では沙和が一番武力が低いように思える。

 

「それはわかってるなのー、ただちょっと休憩を……」

「問答無用!」

 

やり取りから察するに怠け癖も3人の中で一番かもしれない。まあ彼女はオシャレについて話している時が一番イキイキしているし、そこら辺は仕方ないかもしれない。

 

「ちょ、凪ちゃーん!」

 

ドォーーーーン! と周囲に凄まじい音が響きわたってゆく。

 

幾度となく響き渡る音の原因を探ろうと見つめる。凪の周囲の空気が揺らめいたかと思うと同時に沙和が真剣な顔をして凄まじい速さで凪の攻撃の直線状から逃げだした。その不可視の攻撃は沙和の前の地面に音の元凶であるクレーターを作り上げ、その威力を物語っていた。

どうやって作り出しているのかいまいち理解しきれない攻撃だが格好良すぎて思わず興奮してしまう。

 

「な、凪! 今の何だ!」

「え? っへ? し…時雨さんいつからそこに……」

 

俺がいきなり現れたことに驚きを隠せない凪だが、少し頬を染めながら沙和の放った「隙ありなのー」と言う攻撃を華麗に避けて訓練を一時中断していたのは流石と行った所だろうか。

 

「ついさっき来たところだよ。それよりも今のだよ! 一体どうやったの?」

「さっきのというのは……気のことでしょうか? えっと、時雨さんさえよろしければ教えますよ」

 

そんな簡単に教えてもらっていいのかは分からないが教えてくれるというのなら教えてもらうしかない。俺も使ってみたいし、それにしてもどうして凪は俺に対して遠慮がちに言うのだろうか。

 

まあ今それを問いただして気を教えてもらえなくなってしまうのも嫌なのでここはスルーあるのみだ。

 

「ぉお! 本当に? それはとてつもなく嬉しいけど、一体どうやって?」

「えっとですね、まずはお腹を力むようにして集中してみてください」

 

指示通りにやってみるとなにかを感じるって……あれ? この慣れ親しんだ感じのものは俺の気配じゃないだろうか、まさか気って気配の事なのだろうか?

 

「ねぇ、これって気配?」

「気配とは言いえて妙ですが、まさかもうわかったのですか?」

「わかったっていうか、そのなんていうか。まずやってみるから見ててくれ」

 

そう言って瞬時に気配を消してみせる。不運家に伝わる『存在を消して不幸の遭遇率を減らそうその@』で覚える技だ。他にも縮地の方法が載っている『素早く動いて不幸を避けよう』や『不幸の気配を探れ!』といった全方面の気配の探り方等色々取り揃えてある。

 

「すごい、これほどまでに気を操れるなんて! それに気の量も質もすごくいいです。誰かに教わったりしていたのですか?」

 

教わっていたけれどこれは前いた世界の両親からだし…ここまで完全に出来るようになったのはここに来てからだ。そして凪の様に攻撃に転用する方法は書物にはなかったのでどうしたらいいやらわからない。

 

「両親からちょっとな」

 

誤魔化す必要もないので最低限の事実を伝える。すると感動したように目を煌めかせて詰め寄ってきた。

 

「おー、ご両親に! これほどの技を教えるとは、さぞや高名な人なのでしょうね!」

 

ああ、仙人とかそういうのを想像していらっしゃるんじゃないだろうか、そういった事は別にない不運の塊の様な親なのだが、いや、ある意味悟りを開いていたかもしれないが。

 

「しがない凡夫なんだが」

「え? それは本当ですか? だとするとやはり世界は広いものですね」

 

この子は疑うという事を知らないのではないかと思うほど言った通りに物事を受け止める。感慨にふける凪を見ながら少し心配になってしまう。

まあ今はそんな心配よりも感動して頬を染め、妄想にふけっている凪を鑑賞する方が重要だ。

 

暫く見ていたが全く飽きない、可愛いものはやっぱりいいものだと再認識する。本当もっと鑑賞していたいがさすがに復興の手伝いをする時間が差し迫っている。気の操り方をご教授して頂かないといけない。

 

「それよりさ、これでさっき凪がやっていたみたいなことが出来るの?」

「あ、そうですね。あれは気を集めて体の外へと出すのですけど、気は色々なことに応用できますよ。例えば私のように武器にまとわせて……」

 

両親に聞かないの? とかそういった野暮な事は言わずに丁寧に凪が気のレクチャーをしてくれる。気配は消せるものの、武器に気を纏わせるとか始めからそううまく行くはずもなく……気配を消す以外に使えるという気の運用法は初めてのことばかりで俺は大いに混乱しまくった。

 

「今はこんなところですね。このまま鍛錬していけば時雨さんならすぐに扱えるようになるはずですよ」

「そ、そうかな? あまり自信ないけど」

「あれほど見事に気を操って気配を消したのですから、大丈夫ですよ!」

「ん、ありがと」

 

何が嬉しいのかさっきからずっと笑顔のままの凪、沙和と訓練していた時はあれほど真剣な顔をしていたというのに、それほど俺の筋がいいんだろうか?

まあ笑顔で訓練してくれるならこちらとしても多少厳しくされたところで癒しの方が多いから別に構わない。

 

とりあえずお礼をしようと思うのだがこれからの旅で使うお金は上げられない。なのでいつも綾やかごめにやっている様に頭を丁寧に撫で、髪をすいていく。

 

その過程でどんどん顔を赤く染めていく凪は相変わらずと行った所だろうか、可愛いからこれからも変わらないでいて欲しい、素直にそう思う。可愛いものを愛でたいから。

 

「ああ、凪ちゃん卑怯なのー」

 

疲れ切っていた沙和はある程度体力が回復したのか意地の悪い笑顔を浮かべながら凪にそんなことを言ってのける。

 

「ひ、卑怯ではない!私は時雨さんに気を教えていただけだ……それにこれはご褒美というかなんというか……ゴニョゴニョ」

 

沙和の意地悪に律儀に反応してもじもじする凪、正直最高です! この光景を作ってくれた沙和にありがとうと目線を向けるとどういたしましてとばかりにウインクしてきた。

さすがに目線だけではあの可愛さには失礼なので沙和も凪と同じように撫でていく。抵抗するそぶりは見せずに目を細める。

 

「これは危険だけどやめられないなのー」

 

沙和は満足そうな顔をしてそう言ってくれるのでやってる方としても嬉しくなってしまう。

そこまで俺の撫で撫でで喜んでくれるならずっとしててやりたいけど、遠くに綾とかごめを確認して2人の頭から手を離す。綾は結構嫉妬深いし本当に1日中撫でるまめになりそうなのだ。

 

とりあえず綾とかごめが合流するのに立ち話もなんだと思い、どこか美味しい店を探すことにしたのだった。

 

 

 

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■後書き■

今日は竜巻注意報で午前休。のんびり編集しております。

 

●時雨が黄巾党の男に一度は言ってやりたいセリフ●

お前に足りないのはッ! 情熱思想理想思考気品優雅さ勤勉さ!

そして何より――

 

萌 え が 足 り な い ! 

 

―元ネタ、スクライド:ストレイト・クーガーの名台詞―

説明
編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします。
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