英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 56 |
〜マノリア間道・森〜
「「「「「「「「「グルルルルル…………」」」」」」」」
「ひっ……!」
自分を囲んだ狼達は唸り声を上げながら飛び掛かる態勢になった狼達を見て女性は悲鳴を上げた。
「ガウ!」
「いやぁっ!(死にたくない!誰でもいいから助けて!)」
そしてついに狼達の中の一匹が女性に飛び掛かった。女性はそれを見て悲鳴を上げて自分の人生はこれまでかと思った。
「はっ!」
「ギャン!?」
その時、サエラブに跨ったエステルが棍を震って女性に飛び掛かった狼を攻撃した。棍に当たった狼は頭に当たった棍による痛みに悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
「えっ……」
女性はエステルとサエラブの登場に驚いて声を出した。
「大丈夫!?怪我はない!?」
「は、はい。」
「よかった……ってこの狼達は関所の時の!まだ仲間がいたのね……よ〜し、サエラブ!一網打尽にするわよ!」
(ああ。………フン、こやつら狼の癖に人間の匂いが強くするな。さては人間にしつけられたな。……しつけられた狼等もはや犬と同等!この我が本物の”獣”の恐ろしさを見せてやろう!)
「行くわよ!」
エステルの掛け声を合図に戦闘が始まった!
「はぁぁ、せいっ!」
「ガウ!?」
エステルの持つ棍の技の中でも急所を狙い、敵の溜め攻撃を無効化するクラフト――金剛撃に命中した狼は断末魔を上げて倒され
(燃えよ!)
「「ウオオオオオン……!!」」
サエラブが口から連続で吐いた火の玉に当たって体中が燃えた狼は悲鳴を上げながら消滅した。
「せいっ!……ふう、後少しね。」
棍に力を込めて震い、その震いでできた衝撃波ーー捻糸棍でまた一匹仕留めたエステルは残りの敵の数を見て一息ついた。
「オン!」
「やばっ!」
そして油断しているエステルに隠れていた狼が襲いかかった。狼の奇襲に気付いたエステルは防御の態勢に入ろうとしたが
「やぁ!」
「ギャン!?」
(フン!)
「ガッ!…………」
守っていた女性が矢を放って狼を撃ち落とし、撃ち落とされた狼の喉にサエラブは鋭い牙で噛みつき絶命させた。
「ありがとう、サエラブ!それにそこの人も!」
(フン、真の強者は目の前の戦いだけでなく周囲にも気を配るものだ。まだまだ修行が足りん。)
「力がなくなって、山の主様達の加護がなくても矢を放つことぐらいはできます!どなたか知りませんが、援護させていただきます!」
エステル達の登場と活躍に勇気づけられた女性はよろよろと立ちあがり、足元の木の根から弓の形をつくり、魔力でできた矢をつがえてエステル達の援護する態勢に入って言った。
「よ〜し、ヨシュア達が来る前に終わらせちゃいましょ!」
そしてエステルとサエラブは助けた女性の弓矢による援護を受けて、お互いの背後を守りながら、エステルは棍で、サエラブは素早い動きで狼達を翻弄しながら牙や爪で倒した。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
(滅せよ!)
エステルが放った旋風輪で傷を負った残りの狼達をサエラブは炎を纏って突進して倒した。
「チョロい、チョロい!」
ようやく戦闘が終了して、エステルは棍を自分の目の前で廻して勝利のセリフを言った後、武器をしまって女性の方を見た。
「あはは、助けるつもりが助けられちゃったね。」
「そんな!助けられたのは私のほうです!危ない所を助けていただき本当にありがとうございました!」
「えへへ……あれ?あなたの足、どうなっているの??木の根が絡み付いているようだけど……」
女性にお礼を言われたエステルは照れていたが、女性の足元を見て首を傾げて尋ねた。
「えっ、あ、その……(どうしよう……この子、この世界の人間のようだけど、木精(ユイチリ)を知って怖がらないかな……見たところ、幻獣もつれているから大丈夫かな……?)」
エステルに尋ねられた女性は戦闘が終了し安心したのか、本来の臆病な性格が出てエステルが自分の正体を知って怖がることを恐れておどおどした。
(……そ奴は人間ではない。森に住まう木の妖精――”ユイチリ”だ。)
「へ!?サエラブ、この人の事を知っているの!?」
サエラブの念話に驚いたエステルは聞き返した。
(我はこの者の事は知らぬ。……以前話していた我が友――ウィルに力を貸して共に戦っていた戦友の中で双子のユイチリ達がいたから、そ奴の正体がわかっただけだ。)
「そうなんだ……じゃあ、あなたはパズモと同じ、妖精なんだ!……でも同じ妖精なのにパズモとは全然違うわね……?念話を使わずあたしとこうやって話せるし、見た目もあたし達と変わりないじゃない。」
「私達ユイチリは木々の願いによって生まれ、同じ森に住むなじみ深い種族であるエルフを元に形成していますから……あれ?私の事、怖くないんですか?」
「?どうして、あなたを怖がるの?」
「だって、私の姿はあなた達人間とは姿が違いますし。特にここは異世界ですから、私の姿を見慣れてないあなた達が私を見て魔物といっしょの扱いをすると思ってたんです……」
「あ、あのね〜!どこをどう見たらあなたが魔獣に見えるのよ!?それにパズモと契約しているあたしがあなたを怖がるわけないでしょ!?」
女性の答えにエステルは呆れて溜息をついた。
「あの……さっきから気になっていたんですが、そこにいる幻獣の主はあなたなのですか?」
(勘違いするな。我は力を貸してやっているだけだ。人間に従う犬に成り下がった覚えはない!)
「ひっ!す、すみません!」
怒ったように聞こえたサエラブの念話に女性は怖がった後、謝罪した。
「エステル――!どこにいるんだい!?」
そこにエステルを追って来たヨシュア達の声がした。
「あ、ヨシュア達も追いついてきたんだ。……お――い!あたしはここだよ、ヨシュア!」
「……エステルさんの声があちらからしました。急ぎましょう!」
自分を呼ぶ声に答えるかのようにエステルは大きな声で呼び返した。するとエステル達を見つけたヨシュア達も森の中から姿を現した。
「エステル!無事だったんだね!一人で向かったから、心配したよ……」
「もう、ヨシュアったら心配性ね〜……サエラブもいるんだからあたしが魔獣ごときにやられる訳ないでしょ?」
エステルの無事な姿を見て安堵の溜息をついたヨシュアにエステルは苦笑しながら答えた。
「あ、あなた達は!」
一方リフィアとエヴリーヌの姿を見て、女性は驚いて声を出した。
「あれ?そいつ、どっかで見たような……?」
「む?確かに余もそこのユイチリに見覚えがあるぞ。……ユイドラの時のユイチリ達は双子だったから違うな。……そこのユイチリ、お前の名は?」
女性を見てエヴリーヌは見覚えのある顔に首を傾げ、リフィアも頷いた後少しの間考えたが思い出せず、女性に尋ねた。
「テトリです!邪龍との戦いにいっしょに戦った仲なのに、忘れるなんて酷いです!……うう、ご主人様が私を忘れた事といい、私って影が薄いんでしょうか……」
女性――テトリはリフィア達が自分の事を忘れていた事に怒った後、以前かつての主に会いに行った時主の従者は自分の事を覚えていたが、肝心の主は忘れていた事を思い出していじけた。
「……そう言えば、そんな奴いたね。」
「おお、セリカの使い魔のユイチリか!久しぶりだな。なぜ、こんな所にいる?」
「…………その………森出です。」
少しの間いじけていたテトリだったが、リフィアの疑問に言いにくそうに答えた。
「森出?何それ??」
テトリの言葉がわからずエステルは首を傾げた。
「あなた達人間にわかりやすくいうなら、家出です。」
「家出〜!?なんでそんな事したの??」
テトリが説明した言葉の意味がわかったエステルは声を上げて尋ねた。
「聞いて下さいますか!みんな、酷いんですよ!私の初めてを奪ったご主人様は邪龍との戦いが終わって、力を失くしてしまったので契約を解除しのですが、久しぶりに会いに行ってみたら完全に私の事を忘れているし、山の主様は力が戻ったというのに何度も勝手に許可もなく私に憑依するし、あげくリタさんやナベリウスさんは私の死後、冥き途の門番にするとか私の意思も聞かず面白半分で提案するんですよ!?しかもタルタロス様まで2人の提案に賛成してましたし!いくら温厚な私でも怒るし、傷つきます!……だから傷心を癒す旅代わりに住んでいた森を出て、監視の目を苦労して掻い潜って山の主様の影響もない木々が噂していた異世界に来たんです!」
「あはは……よくわからないけど、色々あったみたいね……」
勢いよく事情を話すテトリを見て、エステルは苦笑いをした。
「……ハァ……ハァ……」
「!?どうしたの!?」
元気に見えたの急に顔色を悪くして崩れ落ちたテトリを見てエステルは駆け寄って声をかけた。
「……やはりこの世界の魔力と合わなかったようですね……特に世界の魔力で存在を保っている精霊がこの世界で生きるのは厳しいのに戦闘をして、さらに力を使ってしまったようですね……エステルさん、まず魔力を供給してあげましょう。」
「う、うん!」
倒れたテトリを見て原因がわかったプリネの答えにエステルは頷いて、プリネと共に自分の魔力を供給した。
「フゥ……助かりました……ありがとうございます。」
魔力が供給され、力が戻って顔色が良くなったテトリは立ち上がってお礼を言った。
「気にしないで。困った人を助けるのがあたし達、遊撃士の仕事なんだから!それよりこれからどうするの?」
「はい。…………あの、もしよろしければ私をエステルさんの使い魔にしてくれませんか?」
「へ!?」
「ほう、何故じゃ?お前はセリカに仕えていたのではないのか?」
テトリの申し出にエステルは驚き、リフィアは不思議に思って尋ねた。
「エステルさんには助けていただいた恩がありますし、しばらく元の世界には帰りたくないんです。……それとさっきも言いましたがご主人様との契約はもう解除されちゃいましたから……ご主人様が私を覚えていたら新たな契約を申し出なかったかもしれませんが、見事に私の事を忘れていましたからね……ですからご主人様の事はもういいんです。」
前の主の事を言われたテトリは寂しそうに笑って答えた。
「テトリ……わかったわ!ぜひ、あなたの力を貸して!弓の腕も凄かったし、ぜひお願いするわ!この世界のよさをあたしがいっしょにいて、教えて上げるわ!」
「急な私の申し出を受けてくれてありがとうございます。……では両手を出してくれませんか?」
「うん。」
テトリの言葉通り、エステルは両手をテトリの目の前に出した。そしてテトリはエステルの両手を握り、両手から伝わるエステルの魔力に溶け込むように消えた。
「……サエラブの時とはやり方が違うね。エステル、また新たな力を感じるのかい?」
「うん。……なんだろう、根強い大地の力を感じるわ。……テトリ!」
少しの間、自分の両手を見た後、エステルは新たな仲間――テトリを召喚した。召喚されたテトリは光の中から地響きのような音と共に光の中から出て来た。
「これからよろしくね!」
「はい!母なる大地の力、エステルさんを助けるために役立てます!」
「ありがとう。そうだ、テトリの前の主の事、教えてくれないかな?」
「え?どうしてですか?」
前の主の事を聞かれたテトリは首を傾げた。
「だって、その人契約を解除したとはいえテトリの主だったんでしょ?同じ契約主として精霊が力を貸してくれる事がどれだけありがたい事とテトリがどれだけ傷ついたかを思い知らせるために、その人に会ったら今のテトリの主としてブッ飛ばしてあげるわ!」
「あわわ……私のためにそんな寿命を縮めるような事をしなくていいです!」
「っぷ。ぷっくくく……神殺しをブッ飛ばすか。お前は余も予測できないことを言うから、本当に面白いな……っぷっくくく!」
エステルの言葉にテトリは慌て、テトリの前の主の事を知っているリフィアは声を押し殺して笑った。そして新たなる仲間と力を手に入れたエステルはヨシュア達と共に次なる目的地、ルーアンに向かって進み始めた……
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