IS『に』転生ってふざけんな! 第11話 |
一般的にISは、操縦者の肉体を安定した状態に保っているらしい。それと同時に、操縦者が気を失わないように維持する事もやっているんだそうで、篠ノ之束がどれほど人外な天才かを思い知らされたのは、つい最近の話だ。
そんな天才にかかれば、IS(オレ)にハッキングして、その生体維持機能を掌握、もしくは暴走させたりする事なんて、まさに赤子の手を捻るようなモノだったのだろう。つくづく、俺は自殺するよりも馬鹿な事をしたと思うよ。
そんな馬鹿な事に、何も関係の無いナターシャさんも巻き込んで、このままじゃ間違いなく地獄行きだ。
(………いや、違うな)
今俺がいるこの世界(・・・・・・・・・・)こそが(・・・)、地獄なのだ(・・・・・)。
俺が福音になってしまったのも、生前の吹けば飛んでしまうような、小さな悪行の積み重ねが招いた結果なのだろう。事実はどうか知らんが。
とにかく、そんな俺の償いで、ナターシャさんを死なせてはならない。絶対に、何があっても。
AM11:30………織斑一夏、篠ノ之箒の2人は、それぞれの専用機【白式】と【紅椿】を纏い、一夏の実姉でありIS学園教員である織斑千冬の命令通り、暴走した……いや、させられた【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】を討とうとしていた。
しかし、この第4世代機ペアの白い方こと白式を駆る一夏は、ある不安を抱えていた。
それは、紅椿に乗って間もない篠ノ之箒が、どこかこの緊急事態を楽しんでいるように思えたからだ。
一夏も、少ないながら死線を越えてきている。そんな彼だからこそわかるのだ。このままでは、取り返しのつかない事態が起こりかねない、と。
だがそんな不安を、今の箒に彼は何度も注意した。しかし、彼女は全く聞く耳を持ってはくれなかった。
そのまま、2人は大空へと飛び立った。1人は期待と希望に満ちた心で。もう1人は不安と心配でいっぱいの気持ちで。
そんな全く正反対の心境で、凄まじいスピードで飛んで行く紅椿の背中に乗る白式のセンサーが、超高速で移動している物体を補足した。
「(あれが福音か………)」
事前に目を通していた資料にあった、多方向同時攻撃がどのようなものかと考えながら、紅椿は福音との距離を縮めていく。
「加速するぞ! 目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」
「ああ!」
箒の言葉に短く返した一夏は、雪片弐型を構え、単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)である零落白夜を発動。一撃必殺を試みる。
瞬時(イグニッション)加速(・ブースト)を使い、紅椿から飛び出し、福音にエネルギー刃を振り下ろす。
―――――が、その刃は銀色の装甲に掠りもしなかった。
一夏の攻撃は読まれていたのだ。福音はいとも簡単にそれを避け、ものすごい速さで上に上がっていき、2人はそれを追って行く。
超音速飛行をしていると言えど、戦闘となればその速さは時速500キロから600キロにまで下がる。白式でも、福音に追いつけない事は無いのだ。
「箒! 援護を頼む!」
「任せろ!]
箒は紅椿の種装備である2振りの刀、【雨月】【空裂】を構え、福音の正面から斬りかかる。
この武器は中距離攻撃もできるのだが、無駄にエネルギーを使いたくないと思ったため、そのまま近接武器として使用したのだ。慣れない攻撃をするより、普通に攻撃した方が自分の能力を発揮できると判断した事と、紅椿の高性能さに溺れていたというのもあるだろう。
福音はその攻撃を避けるが、箒の刀を使った戦闘の技術が高いために鍔迫り合いのような形に持ち込まれる。無論、福音は手の甲の装甲で防御している。
箒の狙いはそれだった。今ならば福音は次の攻撃を避ける事ができない。彼女は初めから、一夏の零落白夜を当てるために判断、行動していたのだ。
「うおおおおお!!!!」
その箒が強引に作り出した隙を見逃すほど、一夏は素人ではなかった。福音に肉薄しながら雪片弐型を上段に構えている。
―――――だがそんな2人の連携を、福音は逆手に取った。
箒の握る雨月と空裂の鍔を、手を反転させて強く握りつつ、頭から生えた多方向推進翼を巧みに使って、まるで逆上がりするように回って箒と紅椿を一夏の方へと投げ飛ばしたのだ。
一夏は雪片弐型を後ろに下げ、左腕を広げて箒を受け止める。それほどまでにギリギリのタイミングで、一夏達はしてやられたのだ。
無論、その程度で終わらせてはくれなかった。
一夏が目を離したすきに、福音はすぐに距離を取り、身体を捻り始めた。
――――――刹那、福音の360度全方位に放たれたエネルギー弾。
すでに箒は姿勢を立て直し、高度な回避技術を用いて雨のように降り注ぐエネルギー弾を掻い潜りながら福音に近づき、もう一度動きを止めた。
彼女も伊達にIS学園に通っていたわけではない。2度も同じ手を受けるとは考えにくかった。
つまり、これは福音を獲る絶好の好機。それは、一夏もわかっている。
だが一夏は、福音とは反対方向にむかって瞬時加速をしてしまう。
それは、密漁船を守るため。そんな犯罪者でも、彼は見殺しにできなかったのだ。
飛び交うエネルギー弾を消滅させつつ、密漁船を守っていた時、ちょうど一区切りした辺りで白式のエネルギーが切れた。
そこに、畳みかけるようにしてエネルギー弾が飛来する。箒と闘いながら、福音は翼を広げるように多方向推進翼を一夏にむけ、撃ったのだ。
避ければせっかく守った船に当たる。一夏は避ける事ができなかった。
だが、そんな一夏を箒は守った。
すぐさま福音から離れ、エネルギー弾を追い抜き、それを防御したのだ。
「馬鹿者! 犯罪者などを庇って……。そんなやつらは――――」
「箒!!」
「ッ―――!?」
「箒、そんな―――そんな寂しいことは言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱いヤツが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」
「わ、私、は……」
箒の顔には、誰が見ても明らかなほど、動揺の色が見える。
装備を手放し、頭を抱えながら嘆く彼女の下では、捨てられた2振りの刀が光の粒子となって消えていった。
それは、具現維持限界(リミット・ダウン)―――――つまり、エネルギー切れということだ。
そして、福音は初めからそれが分かっていたかのように――――全方位攻撃・《銀の鐘(シルバー・ベル)》のモーションをし始めていた。
一夏は刀を捨てて、箒と福音の間に瞬時加速で割り込む。
そして、放たれた光弾から自らを盾にして箒と密漁者を守ったのだ。
「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」
「ぅ……ぁ………」
弱々しい声を上げながら、一夏と白式は海へと真っ逆さまに墜ちていく。
そして、叫ぶ箒の背後には――――――静かに、福音が立っていた。
福音には、分かっていたのだ。一夏が箒と密漁者を庇い、攻撃を受け、箒が戦意を喪失する事、その全てが。
福音は箒の頭を鷲掴みにし、殴った。
1回では終わらない。2回、3回と数を重ねていく。10回に達するか否かというところで、次は膝で後頭部を打ち続けた。何度も何度も、繰り返し。
合計で何回殴られただろうか。箒は福音に首根っこを掴まれ、力無く四肢を垂らしていた。
そして、ようやくその手を放した福音は―――――
――――――ボゴォッ!!
箒の背中を、思い切り蹴り飛ばした。そこは装甲の無い部分であるため、箒の身体はそのまま海へ落下。空に佇むのは福音だけとなり、その福音も、どこかへ飛び立ってしまった。
説明 | ||
これは、米国の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に憑依転生してしまった少年と、その操縦者であるナターシャ・ファイルスの噺である。 | ||
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