IS『に』転生ってふざけんな! 第18話 |
―――真っ白な光に包まれた私達はあの後………どうなったのか、分からない。
ただその直後に、私はどこかの床の上で点滴を打たれながら寝かされていた。
いや、私が寝かされているのは床ではなく、確か日本などで古くから使われている“布団“と呼ばれる物だった。
福音(あのこ)が何をしていたのかは、断片的になら私にも見えていた。でも、意識は無かったせいで何もできなかった。
私の心には、恨み、憎しみ、辛み、苛立ち……そんな負の感情だけが、あの子からひしひしと伝わってきた。
最後にどうなったのかは見えなかったけれど………それでも、重傷を負ったことは間違いない。
「………………」
私は、溢れる涙が止まらなかった。枕もぐっしょりと濡れていて、寝ている時も流していたのだと実感した。
――――なぜ、あの子があんなに苦しまなければならなかったのか――――
悲しみは怒りへとその姿を変貌させ、私の中で膨れ上がっていく。その矛先は、あの子を暴走させた人間へと向けられた。
その怒りの先が福音と闘っていた子供達に向かなかった事に、私は近い未来きっと安堵するだろう。
彼ら(・・)は自分の役目を全うしただけ。あの子の暴走を、身体を張って止めてくれた。
それを攻めるのは、愚かなこと。だから私は代わりに、その元凶を追って――――報いを受けさせる。
「(あの子の仇は……私が―――――!)」
そう強く決心しながら私は起き上がり、左腕に刺さっていた点滴の注射針を引き抜き、ISスーツの上からなぜか枕元に畳んであった私の服を着た。
そして寝かされていた部屋の襖(ふすま)を開けて外に出ると―――――
「随分と深く眠っていたな」
その声の主に、私は憶えがあった。でも、そっちには振向かない。
「あなたがいると言う事は、ここはやはり、日本なんですね」
「その通りだ。ここはIS学園の臨海学校で、私はその教師。暴走した福音を撃破したのは私の教え子達だ」
「……優秀な生徒達ですね」
「まだまだひよっ子さ」
皮肉そうに言った私の言葉に、隣に立つ彼女―――織斑千冬(ブリュンヒルデ)は嬉しそうにそう答えた。
「それより、身体の方はいいのか?」
「ご心配なく。私はあの子に守られていましたから」
自分の身がどうなろうとも、あの子は私を守ってくれていた。私を守るために、あの子は望まない闘いへ身を投じて行った。
「あの子は私のために――――自分の世界を捨てた」
――――他でもない、私のせいで――――
「……あまり無茶な事はするなよ。これから査問委員会もある。しばらくは大人しくしていた方が身のためだ」
「ご忠告感謝します。ブリュンヒルデ。それから、生徒さんらにお礼を伝えておいて下さい」
私は彼女に背を向けて歩きだした。
「あいつが、それを望んでいるのか?」
彼女の言葉に、私は思わず前に出し始めたばかりの足を止めた。
「私の自己満足じゃ、いけませんか?」
そう。これはただの自分勝手な自己中心的な行為にしかならない。あの子もこれを望んでいるのかは、今となっては分からない――――いいえ、きっと望んでなんかいない。
それでも私は―――――許せない。
「………無理はするなよ」
―――――結局、私たちは目を合わせる事もないまま別れた。
「………私はお前達が、本当に羨ましいよ――――」
旅館を出ると、そこにはアメリカ政府の人間とイーリが私を待っていた。この服は、きっとイーリが持ってきたのだろう。
車に乗り込み、空港へと向かう。私は福音で飛んできたのでパスポートを持っていないが、事情が事情なので特に問題は無いだろう。
「銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の凍結処分が決定されました」
男の一人がそう言ったとき、私はなんとも言えない感情に襲われた。
この時私は知らなかったのだが、福音はコアも僅かに損傷していたらしい。ISの損傷は自動で回復されるが、コアのそれは直るかどうかがわからない。誰も、貴重なコアを使って実験したくないからだ。
とにかく私は――――色々と声をかけてくるイーリを適当にあしらいながら、アメリカに飛んだ。
すでに福音はアメリカへと渡っており、凍結の準備が進められていた。
場所はあの“地図にない基地(イレイズド)”。すでに準備は完了し、あと数時間で福音は完全に凍結される。
そう。凍結(・・)されるのだ。つまり――――【死】ではない。
彼はこのままだと半永久的に眠り続ける。放っておいたら目覚めることはない。夢の無い眠りを存分に味わいさせられるのだ。
今の彼は待機状態ではなく、一番初めのあの状態。空っぽの甲冑の様に、ただ無言でそこに座っている。周りには誰もおらず、完全に彼1人の状況であった。
……と、そんな彼に近づく初老の男性がいた。
「興味深い。実に、興味深いよ――――」
以前、福音の【兵器】としての可能性をただ1人見抜いた、あの男であった。
彼はこう思った。『福音は、世界最強のISになれるコアを持っている』と。
もちろん、最強のISとはその性能(スペック)も必須条件だろう。だが他にも条件はある。
そのうちの一つが《稼働率》だった。
たった数日で、たった数回の戦闘で、たった数時間の稼働で操縦者との同調(シンクロ)ができた例などなかった。つまりこれは、前代未聞の出来事だったのだ。
そもそもISが開発されてからまだそれほど時間は経っていないのだが、それでも各国はISというまったく類を見ない圧倒的な兵器の分野で他国を出し抜こうと努力してきたのだ。
その甲斐あってか多くの国で第3世代機が開発研究されている今となったら、それに関する情報は大量に存在する。その記録を塗り替える大挙を、さも当然のように福音は彼らに見せてくれた。
このコアを初期化する前は、これはどこにでもあるありふれたISコアだった。だが福音として生まれ変わった時、それはまったく別の物へと変化した。
その正体を彼は知るはずないのだが、その答えに彼は誰よりも早く気づいていた。天災と呼ばれた天才、篠ノ之束よりも。
その答えとは―――【心】―――。
人の感情は、時として理論では証明できない力を引き出してくれる。それが起こした奇跡、それこそが操縦者・ナターシャとの同調による機体の性能(スペック)以上の能力(ポテンシャル)を発揮したのだ。
彼はキーボードを叩き、何かのプログラムを起動させる。
壊されたあの多方向推進翼(マルチスラスター)は現在ではすでに修復され、外観は完璧な状態で眠っている福音。
そもそもなぜコアごと凍結なのか。貴重なコアを1つ無駄にするのには、理由があった。
実は福音のコアは元々、イスラエルの物だったのだ。なのでもし福音の開発計画がこのまま終ってしまえば、このコアはイスラエルに返還せざるを得なくなってしまう。
たった1機で国家戦力の地図を書きかえるISは、たとえ1つでも失いたくはない。
来るべき戦争(・・・・・・)に備え、アメリカ側としてはコアも福音も自国に残しておきたかった。先方には『暴走した経緯があり、危険だから』などと言い、軍事力で反論を押しつぶした。
なので福音はいつでも出撃できるように万全の状態に修復されているというわけである。
しかし、それを今まで通りに扱うのは危険と言うのもまた事実。よって完全に動かなくなるように政府は“凍結”という処置を取ったのだ。
「……これで、いいだろう」
いつの間にか終っていたプログラミング。彼は福音を見ながら、静かにこう呟いた。
「この後どうするかは、君次第だ。精々儂らを驚かせてくれ」
この先に訪れる事象を、まるで予見しているかのように……彼は、その場から姿を消した―――――。
説明 | ||
これは、米国の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に憑依転生してしまった少年と、その操縦者であるナターシャ・ファイルスの噺である。 | ||
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