インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#22 |
[side:一夏]
シャルルが転校してきた日から五日が経った。
案の定というか、当然ながら同室となった俺はシャルルと意気投合。
日課であるISの訓練にもこうして付き合ってもらうようになった。
その日は射撃武装について――俺一人ではどうしようもなく、
擬音語満載な箒、精神論の鈴、複雑すぎる理詰めのセシリアの指導では理解できない部分をシャルルに教わっていた。
で、教官をお役御免となった三人はそれぞれ、自主練を行っている筈である。
………そういえばいつの間にか名前呼びになってたな。
うむ、男にとって『女』というのは本当に理解出来んものなんだな。
で、訓練として使用許諾をしてくれたアサルトライフルを撃っていた。
そしてちょうど一弾装分…十六発を撃ち終わった頃、
「ねぇ、ちょっとアレ……」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ。」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど………」
アリーナがざわつき始め、俺はその注目の的に視線を移した。
「………………」
そこにいたのはもう一人の転校生。
ドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
転校初日以来、誰とも一緒にいる姿を見た事が無い、孤高の女子。
俺に平手打ちをかまそうとして、避けたせいで羞恥心から顔を真っ赤にして手を振り回すという可愛い姿を晒しもしたが……
「おい。」
((開放回線|オープンチャンネル))で届けられる声は確かにラウラのものだ。
「………なんだよ。」
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い。私と戦え。」
俺が渋々返事を返すとラウラは言葉を続けながら飛翔してきた。
それにしても、行き成り『私と戦え』だなんて…((戦闘狂|バトルジャンキー))なのか?
「断る。俺はこの後授業の復習をしなきゃならないんだ。」
「貴様の都合など知ったものか。」
何故にラウラがこうも俺に食ってかかってくるのか………まあ、大体予想はついている。
第二回モンド・グロッソの時のゴタゴタだろう。
千冬姉が誘拐・監禁された俺を助けるために決勝戦を投げ出したあの………
「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を為し得ただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない。」
「でも、俺が誘拐されなければ千冬姉はドイツに借りを作る事も無く、ドイツで教導する事も無かった。違うか?」
それは矛盾だ。
偉業を為し得なかったが故に千冬姉の教えを受ける事になった。
言い方を変えれば、俺が誘拐された事で、教えを受ける事ができた。
つまり、『俺という存在を認めない』という事は『自分が教えを受ける事ができた((原因|りゆう))を否定する』という意味であるということ。
「………ッ」
どうやら、考えないようにしていたらしい。
とにかく『千冬姉の経歴に傷を付けた事が許せない』その一心で。
「それじゃあな。」
「ふん、ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!」
言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせ、左肩に装備された大型実体弾砲が火を吹いた。
「ッ!」
ギャンッ―――!
「ったく、危ねぇな!こんな密集空間でそんなバカでかい砲ぶっぱなしやがって。」
その瞬間、アリーナが凍った。
「い、一夏……何やったの?」
そんな中でシャルルが恐る恐ると言った風に尋ねてきた。
「ん?ああ。弾丸をたたっ斬っただけだ。」
最初は防御手段の一つとして練習してたんだが、ふと気がついた。
エネルギー弾には『零落白夜』を発動させれば対応できるが、連射された実体弾や散弾相手では切り払う意味が無い。
一発切りはらっても、他が命中する連射系とばらまかれる弾を喰らう散弾。
だから切り払いは諦めて普通に回避運動を選んだ。
……やりたかったんだけどな。
『踏み込みが足りんっ!』ってなんでも切り払うの。
セシリアのビットの時は無我夢中で言えなかったし、最近は切り払われてくれないし。
「これくらい、千冬姉は余裕で出来るだろうし、箒も少し練習すれば出来るだろうし………動体視力さえそこそこにあれば誰でも出来ると思うぞ?」
「いや、普通出来ないからね!?」
むぅ………
「ああ、アキ兄だったらマシンガンでも切り払えそうだな、撃たれる前に銃ごと。ちなみに狙撃銃だったら弾丸を斬り払い、すぐに狙撃手を狩ると思う。」
「なにそれこわい―――って、『アキにい』って誰!?ていうかホントに人間?」
失礼な。
「…………………」
俺たちが漫才同然の会話を繰り広げていると興を殺がれたらしくラウラが立ち去ってゆく。
「今日はもう上がろうか。そろそろアリーナの閉館時間だし。」
「そうだな。銃、ありがどな。色々参考になった。」
「それならよかった。」
にっこりとほほ笑むシャルル。
だが、問題はここからだ。
「えっと、じゃあ先に着替えて戻ってて。」
また来た。
そう、いつもこうなのだ。
シャルルは転校初日の一回以降、一度も俺と着替えをしたがらない、というかしない。
オマケに部屋でシャワーを浴びて上半身裸のままで出てくると『もっとちゃんとしなきゃダメだ』と怒る。
妙に恥ずかしがるし……なんというか、感性が女寄りな気がする。
まあ、『シャルル・デュノアは女である』と言われた方が納得できそうだ。
実際、空という『男子と同じ格好をしていた女子』はいた訳だし。
でも、自己紹介では確かに『男だ』って言ってたな。
まあいい。
「おう。それじゃあ、また後でな。」
隠したい事があるなら無理に踏み込まないでおこう。
ただ、疑念として心の隅に置いておく事は忘れないでおくとしよう。
………さて、着替えるか。
着替え終わったすぐ後、山田先生がやってきて『大浴場が週二日、使用日ができた』と教えてくれた。
ついでに、白式の正式な登録書類の件も一緒にやってきたので、職員室へと連行になったが。
しっかし………つい山田先生の手をとって熱心にお礼を言ってしまったが、妙にシャルルが不機嫌だったな。
それも箒とかセシリアとか鈴とかが向けてくるタイプに似てる気がするのは気のせいだろうか………
* * *
「はー、終わった終わった。」
シャルルと別れて職員室で書類書きをしに行った俺だが、枚数自体は多いが名前を書くだけのものばかりだったので予想以上に早く終わった。
これで、俺は正式な白式の登録者となった訳だが、事務的な、書類上での意味しかないらしく、特に変わる事も無いらしい。
「よし到着。ただいまー―――って、あれ?」
部屋に戻ったら先に戻った筈のシャルルの姿が無かった。
シャワールームから水音がしてる。
成る程。シャワー中か。
―――そういえば、昨日シャルルが『ボディーソープが切れた』って言ってたな。
いつも俺が先に入るのでその時に補充すればいいと思っていたのが裏目に出てしまったか。
思い出した俺はクローゼットから予備――というか詰め替え用のボディーソープを取り出す。
使えるボトルがあるのにボトルごと買うだなんて、言語道断だ。
恐らく、現在進行形で困っているであろうから届けた方がいいだろう。
まず、俺は洗面所兼脱衣所のドアをノックする。
この間の空の一件以来、こう言うところには用心するようにしてるのだ。
反応がないし水音はまだ続いている。
なら大丈夫か?
そう思って俺は脱衣所へと入る。
「おーい、シャルル」
声をかけるが早いか否か、キュッという蛇口を閉める音がして俺は嫌な予感に脱衣所からの離脱を図ろうとした。
ガチャ、
………が、手遅れだった。
頑なに俺との着替えを拒否してきたシャルルなのだから、何かしら理由があって見られたくないのだろう。
それを見ないようにと思ったが、俺が脱衣所から逃げ出すよりもシャルルが脱衣所に入ってくる方が早かった。
「い、い、いち………か?」
「悪いッ!」
俺は慌てて『見覚えのあるような気のする金髪の女子』に背中を向けた。
「覗くつもりは全く無かった。ただ、代えのボディーソープを届けに来ただけだ。一応、脱衣所に入る前にノックはした!」
「あ、う、」
「ボディーソープはここに置いておくから、ボトルに詰めておいてくれ。無理だったらパックから使って、そのまま棚に置いておいてくれればいいから。」
「う、……うん。」
「じゃ、じゃあ、俺は出てく。」
可及的速やかに脱衣所を出て、俺はバクバクと音を立てる心臓と緊張で詰まっていた呼吸に深呼吸を繰り返した。
大体落ち着いてきたところで俺は考え始める。
おかしい。
先に部屋に戻ったのはシャルルだ。
つまりその前に部屋に入る事が出来るのはマスターキーを持つ寮監の千冬姉のみ。
あの千冬姉がマスターキーを無くすとか盗まれるハズはないから、あり得るとすればシャルルの持つ鍵が盗難されたパターン。
だが、それならば俺にも話は来るだろうし、鍵の交換をするとなれば俺の鍵も交換される。そもそもでシャルルが部屋に入れない。
だから、これも無いだろう。
それにシャルルはいつもぽやぽやしてるように見えるが意外としっかり者だ。
となると、一番可能性が高いのは………『シャルルが女だった』だろう。
突拍子もないように思えるが一番可能性が高い。むしろ、納得がいく。
『女子だから』男である俺と一緒に着替えようとしない。
『女子だから』男である俺の裸に顔を赤くして慌てる。
『男子にしては小柄』なのも『女子としては標準』になるのだから。
「でも、理由が無いな。」
シャルルが態々男だと偽ってくる理由が思い浮かばない。
強いて言えば俺の、『世界で唯一の男のIS操縦者』のデータだろうが、そんなのは別の方法でも手に入れる事は出来る。
確かに、男子と偽った方が近づきやすいし同室になるだろうから入手するチャンスも増える。
だが、『良くて退学、悪ければ偽証罪で逮捕』と、バレた時のリスクが大きすぎる。
しかも国の名前を背負った『代表候補生』が、だ。
確かに中途転入は代表候補生くらいしかできないが、俺がIS学園に入学するという話は昨年度末には公表されたも同然だった。
時期的にも微妙過ぎる。
「やっぱり、本人に聞くしかないか。」
情報が少なすぎる上に推測が多すぎて考えがまとまらない。
それに、深く考えると網膜に焼きついているさっきの裸姿が浮かんできてしまう。
今の所は『何故』を考えるようにして思い出さないようにしていたが、もう限界に近い。
うー、心頭滅却、煩悩退散ッ!
ガチャ―――
控えめながらも静寂に支配された部屋の中では大きく聞こえるドアの音。
「あ、上がったよ………」
「………おう。」
背中越しに聞く声は、やはりシャルルのものだった。
さっきの光景が目に浮かんできて再び高鳴る心臓。
可能な限りそれを意識の外に追いやって、俺は振り向いた。
そこにいたのは、紛う事無く女子だった。
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