インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#23
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[side:一夏]

 

「……………」

「……………」

 

それから一時間ほどの時間が沈黙と共に去った。

 

その間に俺はさっきの裸を思い出してしまっては振り払うを繰り返し、確認できたのは『彼女』がシャルルである事だけ。

 

ああ、もう!

黙りっぱなしだとどうにもならん

 

「茶、淹れてくる。」

 

俺がそういって立ち上がるとびくっ、と身を竦めるシャルルらしき女子。

 

電気ケトルで湯を沸かして急須へ注ぐ。

 

「……………」

「……………」

 

茶葉が開くまでの時間、また沈黙が続く。

 

俺はその沈黙を茶葉の事だけを考える事でなんとか乗り切った。

 

 

「…こんなもんか。ほれ。」

 

「あ、ありがと―――きゃっ!」

 

湯呑みを渡す時に指先が触れあい、シャルルは慌てて手を引っ込める。

 

「あちちっ!」

 

思わず落としそうになった湯呑みを握り直した反動で茶が手にかかる。

 

「水っ、水!」

 

急いで水道の所まで行き、だーっと流れる水で冷やす。

 

火傷は平気そうに見えて深刻な事になるからすぐに手当てできて何よりだ。

 

「ご、ごめん!大丈夫?」

 

「ま、まあ、大丈夫だろう。すぐに冷やしたから火傷にはならないで済みそうだ。」

 

「ちょ、ちょっと見せて。……ああ、赤くなってる。ゴメンね?」

 

軽くパニックに陥ってるらしいシャルルは俺の側に来ると強引に手を取って茶のかかった場所を痛々しげな表情で見つめる

 

「すぐ氷を貰ってくるね!」

「ま、待て!その格好で外に出るのは不味いだろ。後で自分で取ってくるよ」

 

シャルルの格好はいつも通り、部屋着として使っているシャープなラインのスポーツジャージだ。

今までは胸を隠す為のコルセットを使っていたのだが、俺にバレてしまった為に今は付けていない。

その結果、今のシャルルは一発で女子と判る格好になってしまっているのだ。

 

「でも―――」

 

「それより、その………さっきから、胸があたってるんだが……」

 

俺だって健全な十五歳男子だ。

気になって仕方ないのをなんとか抑え込んでいる状況は色々辛い。

 

「!!!」

 

言われて気付いたのか、シャルルは俺から飛び退くように離れると胸を隠すように自分の体を抱きながら俺を睨んできた。

 

女子特有の抗議の眼差し。

 

「……心配してるのに………一夏のえっち。」

 

「うぐっ………」

 

どちらかと言えば俺が『される』側だったのに何故か悪者扱いになっている。

役得と思わないでもないが完全に冤罪だ。

 

しかし……シャルルの眼差しは抗議だけではなくどこか恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな感じが混ざっているのは何故だろうか。

好きでも無い男に裸を見られたり触られたりするのが嬉しい女子はいないハズだ。いたらそれは間違いなく『変態』とかいて『しゅくじょ』と読む部類だ。

 

「ま、ここまで冷やせば問題ないか。―――それじゃ改めて。」

 

「う、うん。」

 

今度はちゃんと湯呑みを受け取ったシャルルは茶を一口、口にする。

 

俺も一口啜ると推論の一番の疑問点を聞いてみる事にした。

 

「なんで、男のフリをしていたんだ?」

 

「それは、その…実家から『そうしろ』って言われて…」

 

「うん?実家っていうとデュノア社の―――」

 

「そう。僕の父親がそこの社長。その人からの直接の命令なんだよ。」

 

実家の話を始めた途端に曇ったシャルルの表情。

 

…どうも違和感が拭えない。

 

「命令って……親だろ?なんでそんな――」

 

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ。」

 

「―――ッ」

 

シャルルの告白に、俺は絶句した。

 

それがどういう意味なのか判らないほど世俗に疎い訳でもないし、純情でもない。

 

「しかも、その事を隠そうとしてた。僕が『デュノア』を名乗るようになったのも、IS学園にくる事になってからなんだ。」

 

それから、シャルルは笑みを浮かべた。

 

但し、歪んだ、歪な、悲しみと苦しみに満ちた笑みを。

 

「変だよね。二年前……お母さんが亡くなった時から、僕の事をテストパイロットとしてデュノア社に所属させておいて、娘だって認知したのはついこの間なんだよ?」

 

それから、シャルルは言いたくない事も健気に喋ってくれた。

俺は黙って聞く事に専念する。

 

「父に会ったのは二回だけ。それもテストパイロットになった時と、IS学園に行く事になった事を伝えられた時だけ。…会話は数回かな。」

 

俺の中で、ふつふつと理由の判らない怒りが込み上がってきて、それを堪えるために拳をきつく握り締めた。

 

「僕がテストパイロットになって少し経った頃にデュノア社は経営難に陥ったの。」

 

「え?だってデュノア社は量産機シェアの世界第三位なんだろ?」

 

「そうだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発には物凄くお金がかかるんだ。殆どの企業は国からの支援があってやっと成り立ってる処ばかりだよ。」

 

そうだったのか…

 

「フランスは((欧州|ヨーロッパ))の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防の事もあるけど、資本力で負けてる国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるんだよ。」

 

 

……そういえば、第三世代型の開発に関して、セシリアがいくつか言っていた事を思い出す。

 

『現在、欧州連合では第三次イグニッション・プランの次期主力機の選定中なのですわ。今の所トライアルに参加しているのは我がイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、それにイタリアのテンペストII型。今の所、実用化ではイギリスがリードしていますが、まだ難しい状況なのです。その為の実稼働データを取るために、わたくしがIS学園に送られましたの。第三世代型の基礎理論の発展のさせ方は国によって様々ですから、どこの国もデータ取りに必死ですわ。』

 

だからIS学園には((第三世代型|さいしんえいき))が集まっているのだろう。

ドイツからの転入生、ラウラの転入の事情もそのあたりが絡んできている筈だ。

 

「話を戻すね。それでデュノア社でも第三世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。データも時間も圧倒的に不足していて…なんとか形になりかけたと思ったら問題が発生して。結局、政府からの通達で予算は大幅カット。次のトライアルで選ばれなければ援助は全面カットで、ISの開発許可も剥奪するって話の流れになったんだ。」

 

「…なんとなくの話は判った。が、それがどうして男装に繋がるんだ?」

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに―――」

 

シャルルは俺から視線を逸らし、どこか苛立ちを含んだ声で続けた。

 

「同じ男子なら、日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータを取れるだろう……ってね。」

 

「それは、つまり―――」

 

「そうだよ。白式のデータを盗んで来いって言われてるんだよ。僕は、あの人にね。」

 

話を聞く限りでは、二、三腑に落ちない点があるが大方ではその父親がシャルルを利用しているとしか思えない。

 

だからだろうか。シャルルは父親の事を話す時はやけに他人行儀になっているのは。

 

「…とまあ、そんなところかな。でも、一夏にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ…つぶれるか他企業の傘下に入るか、どの道今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな。」

 

「………………」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今まで嘘をついていてゴメン。」

 

深々と頭を下げるシャルルを、俺は気が付いたら肩を掴んで顔を上げさせていた。

 

「いいのか、それで。」

 

「……え?」

 

「それでいいのか?いいはずないだろ。親が何だって言うんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろ、そんなのは!」

 

「い、一夏……?」

 

シャルルが戸惑いと怯えの表情をしている。

けれど、―――ああ、言葉が、感情が止まらない。…止められない。

 

「親がいなけりゃ子供は生まれない。そりゃそうだろうよ。」

 

『((I was born|私は生まれさせられた)).』

 

―――そこに、生み出された側の意思はない。

 

「でも、だからって親が子供に何してもいいだなんて、そんなバカな事があるか!生き方を選ぶ権利はだれにだってある筈だ。それを、親なんかに邪魔される言われなんてない筈だ!」

 

言っていて気付いた。

 

これは、シャルルの事を言ってるんじゃない。自分の事を言ってるんだ。

そして、その事で苦労した千冬姉やアキ兄の事を思わずには居られない。

 

「ど、どうしたの?一夏、変だよ。」

 

「あ、ああ…悪い。つい熱くなっちまって。」

 

「いいけど……本当にどうしたの?」

 

「俺は――俺と千冬姉は両親に捨てられたから。」

 

「あ………」

 

恐らくは資料で知っていたであろう『両親不在』の意味を理解したらしく、シャルルは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

「その……ゴメン。」

 

「気にしなくていいさ。俺の血のつながった家族は千冬姉だけだけど、アキ兄もいたし、別に今更両親に会いたいなんて思いもしない。」

 

そもそも、俺に両親の記憶はない。

 

俺にとって、父親代わりは篠ノ之の小父さんとアキ兄、母親代わりは篠ノ之の小母さんだ。

特にアキ兄は俺が物心付いた頃まだ高校生だったというのに俺たちの面倒を見てくれた。

 

「それより、シャルルはこれからどうするんだよ。」

 

「どうって……時間の問題じゃないのかな。フランス政府もこの事の真相を知ったら黙っていないだろうし…僕は代表候補生を降ろされて、よくて牢屋とかじゃないかな。」

 

「それでいいのか?」

 

「良いも悪いも無いよ。僕には選ぶ権利がないから、―――仕方ないよ。」

 

そういってシャルルが見せた微笑みは、絶望さえ通り越した諦観に染まった、痛々しい微笑みだった。

 

俺は苛立っていた。

 

シャルルに、あんな顔をさせるあらゆる存在に…

何よりも、友人一人救えない自分の無力さに、腹が立っていた。

 

「……だったら、ここに居ろ。」

 

「え?」

 

「特記事項第二十一。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。」

 

コレは使える。

 

そう思うと途端に頭が冷えてきて、暗記していたテキストの文章が気持ち悪いくらいにすらすらと出てきた。

 

「つまり、この学園に居れば、少なくとも三年間は大丈夫だ。」

 

…所詮、コレは問題の先送りでしかないのは判っている。

 

「それだけ時間があればなんとかなる方法だって見つけられるさ。別に急ぐ必要はないだろ?」

 

今の俺じゃ、なにも出来ない。

出来たとしても白式のデータを渡す位が精々だ。

 

けど、誰かの力を借りれれば…あるいは………

 

「一夏。」

 

「ん、なんだ?」

 

「よく覚えられたね。特記事項って五十五個もあるのに。」

 

「……勤勉なんだよ。俺は。」

 

「そうだね。ふふっ。」

 

ようやく、シャルルが笑った。

 

その表情は屈託のない、年相応―十五歳の少女そのものだった。

 

俺は心臓の高鳴りを自覚する。

 

改めてみると、シャルルは顔立ちもいいし、優しげな雰囲気がある。

 

そのせいか、俺の目にはとても可愛く映ってしまって、今更ながらにその無防備さに心臓の鼓動が早くなってしまった。

 

「と、とにかく、決めるのはシャルルなんだ。考えてみてくれ。」

 

「うん。そうするよ。」

 

照れくさくなって早々に切り上げてしまったが、もうひと押しくらいしておいた方がいいのだろうか。

 

そう思う心に押されてシャルルに視線を向けると、ちょうど目があった。合ってしまった。

 

「ん?どうしたの?」

 

「あ、いや………」

 

俺の内心を知ってか知らずか、シャルルは身を乗り出して顔を覗き込んでくる。

 

無防備な襟元から僅かに見えた胸の谷間に心臓は益々早鐘を打つようになる。

 

 

「と、とりあえず、なんだ。シャルル、一回離れてくれ。」

 

「?」

 

「いや、その……胸元か……」

 

指摘されて、シャルルはかぁっと頬を赤らめた。

 

「い、一夏、胸ばっかり気にしてるけど……みたいの?」

 

「な、あっ!?」

 

予想外の展開に俺は妙な声を上げた。

 

「………」

「………」

 

そして、お互いに黙り込んでしまった。

 

さっきとは違った気まずさが漂う。

 

「そ、そういえばさ、一夏。」

 

「な、なんだ?」

 

耐えきれなくなったらしいシャルルがなにやら話を切り出してきた。

 

「一夏が『アキ兄』って言ってる人のフルネームはなんていうの?」

 

「『マキムラ アキト』だけど……それがどうかしたのか?」

 

シャルルはアキ兄のこと、知ってるのか?

 

「ねぇ、どんな人だったか教えて」

 

「んーとな……一言で言えば『父親』だな。親に捨てられた俺たち姉弟の面倒を見てくれたし、箒や束さんの事も可愛がってたし。」

 

「そっか〜」

 

にへら、と笑うシャルル。

 

「なあ、どうしてアキ兄の事を?」

 

「昔ね、僕がまだ小さくて、お母さんと暮らしてた頃に日本から来た学生のホームステイを引き受けた事があったんだ。」

 

ふむふむ。

 

「でね、その時に来てくれた人が『手の焼ける、それでもって優しい弟が居る』って。その人の言ってた人物像がなんだか一夏の事みたいだなって、今思い出した。」

 

へー。

 

「で、その人の名前も『マキムラさん』だったから、もしかしてって思って。ねぇ、その人は今どうしてるの?」

 

屈託のない表情での問。

 

今度は俺が表情を曇らせる番だった。

 

「―――――多分、死んでる。俺が小学三年の時に、フランスに行って、それっきり帰ってこなかったんだ」

確か、前にアキ兄が行ったホームステイ先に後輩の受け入れをお願いするのに同行したんだっけ。

 

 

「あ………ゴメン…そういえばこの間の昼休みに言ってたよね………行方不明だって…」

 

シャルルの表情に後悔が混ざった。

そんな気がした。

 

「いや、いいんだよ。―――なぁ、そっちにいってた時のアキ兄のこと教えてくれないか?」

 

「え?大分昔だからあやふやになってる部分もあるけど…いいの?」

 

「ああ。覚えてる範囲でいい。」

 

「そう?それじゃあ……」コンコンコン、

 

シャルルが話し始めようとした時、部屋の扉がノックされた。

 

「っ!シャルル、布団の中に入ってろ。」

 

「う、うん。」

 

バタバタと慌てて布団にもぐりこむシャルル。

 

ドアの側に背中を向けて居ることを確認してから俺はドアを開けた。

 

そこにいたのは、セシリアだった。

 

「よ、よお、セシリア。なんだ、どうした?」

 

「ごきげんよう、一夏さん。――デュノアさんは?」

 

「ああ、シャルルなら今日は疲れてるからもう寝るって。」

 

「そうですか。――好都合ですわ……ところでご夕食はもうとられましたの?」

 

途中、なにやら呟いているようだがうまく聞こえなかった。

 

「いや、まだ。これから行こうかなって思ってたところだ。」

 

「あ、あら、そうですの?では、わたくしもちょうどまだですしご一緒しましょう。」

 

セシリアは急に上機嫌になった様子でシャルルの方に割り振られる注意は無きに等しくなった。

 

「さあ、一夏さん。参りましょう。」

 

「ちょっと待てって。鍵閉めないと。」

 

セシリアに腕をとられそうになり俺は慌てて回避する

『シャルルが中で寝ている』という設定なのだ。施錠しておかないとな

 

ガチャリ、と錠の落ちる音を確認してセシリアの方に向き直った処で、するっと腕をとられた。

 

セシリアに抱かれるようなかたちになった俺の腕。

そこに伝わってくる感触の事を俺は頭の中で素数を数えて考えないようにした。

 

 

部屋の前から移動し、階段を降りたところで叫び声と出会った。

 

「なっ、なっ、何をしている!?」

 

廊下の端からずんずんと早足でやってくるのは箒だ。

そして箒が居た辺りにはルームメイトである簪さんが取り残されて呆気にとられていた。

 

「あら、箒さん。これからわたくしたち一緒に夕食ですの。」

 

妙に『一緒に』を強調するセシリア。

 

…女子間でなにか意味のある暗号かなにか何だろうか。

 

「それと腕を組むのとどう関係がある!?」

 

「あら、殿方がレディをエスコートするのは当然ですわ。」

 

俺、てっきり強制連行されてるのかと思ってた。

 

…ああ、箒がこっち睨んでるよ。

 

「一夏っ!お前もお前だ。私が食堂で待っていたというのに、どういう事だ!?」

 

「どうもこうも……待つ前に連絡の一つでも寄越してくれないとどうしようもないぞ?」

 

そうでもなきゃ、勝手に動くだろうで自分のペースで動くのが普通だ。

 

「ともかく、わたくしたちはこれから夕食ですので失礼しますわね。」

 

「ま、待て!それなら私も同席しよう。ちょうどこれから夕食だったのでな。」

 

ん?そうなのか?

 

「あらあら、箒さん。一日四食は体重を加速させますわよ。」

 

「心配は無用だ。あまりにも一夏が遅いので迎えに行くところだったのだ。それにカロリーも運動で消費しているからな。」

 

ああ、あの殆ど顔を出してなかった剣道部か?

 

先輩、泣いてたぞ。『全国レベルの新入生なのにまったく練習に来ない』って。

泣いてるついでに泣きつかれて、週に二度、俺が剣道部に顔を出すようにすることで箒を部活動に誘導することになってしまった。

 

まあ、生身での剣さばきの訓練になるし基礎体力も維持できるし、何よりも好きでやってるけど。

 

「それに、実家からこれを送ってもらった。今日もあとで居合の修練をするから何も問題は無い」

 

そう言って箒が見せてきたのは――――日本刀だった。

 

「名は緋宵。かの名匠、明動陽晩年の作だ。」

 

その刀は鞘に入っているが確かに見覚えがある。

 

世にも珍しい『女性用』の刀で『相手よりも早く抜き放ち、その最速の一太刀を以って必殺と為す』をコンセプトにした、居合に向いた刀だ。

 

刀身が細長く、鞘の滑りと体の円運動、それに踏み込みが組み合わさる事で通常の刀よりも早く抜刀し一撃を加える事が出来る―――と、いうものだった筈だ。

 

それはそうと、帯刀は立派な銃刀法違反なのだが………ここはIS学園で相手は箒だ。どうにでもなってしまう気がする。

 

「で、では行くとするか。」

 

何故か俺の隣にやってくる箒。

 

って、おわぁっ!?

なんでお前まで腕を絡めて来るんだ?

 

「……箒さん、何をしてらっしゃるのかしら?」

 

「『殿方がレディをエスコートするのは当然』とは、誰の言葉だったかな?」

 

「ぐっ………」

 

エスコートって………寮の食堂に行くだけだぞ?

 

左腕をセシリア、右腕を箒にとられている俺は相当に通行の邪魔になっているだろう。

 

ああ、ほら注目を集めてるよ

 

「ああっ、いいなぁ………」

「両手に花ってやつね。」

「幼馴染ってズルイ。」

「専用機持ちってズルイ。」

 

………あれ?

箒とセシリアに向かってる羨望の視線ばかり?

 

「あのだな。」

 

「なんだ?」

「なんですの?」

 

「………やっぱりいい。思い違いだった。」

 

すっごく歩きにくいのだが、それを素直に言ったらかなり危険な事に気がついて辞める。

 

腕をとられているという事は俺は二人にわき腹を見せているという事だ。

そこを痛打されたら流石に俺も悶絶してその場で崩れ落ちる自信がある。

 

「そうか。今日の焼魚定食は鰆だ。美味だぞ。」

 

右側でむにゅ。

 

「洋定食は半熟玉子のカルボナーラと聞いて居ますわ。一夏さんもどうかしら。」

 

左側でもむにゅ。

 

「あ、ああ。うん、そうだな。どっちもいいな。」

 

表向きそうは応えるが―――本音はどっちでもいいし、それどころじゃない。

 

三人横一列歩行は通行の邪魔、といことで二人とも俺に身を寄せて歩いている。

 

その結果、その一歩一歩ごとに、その――――女子特有の柔らかい膨らみがあたって、考えまいとして素数を数え続けても意識してしまう。

 

「どうした、一夏。」

「どうしましたの、一夏さん。」

むにゅ、むにゅん。

 

二人揃って俺の顔を覗き込んできて、また密着度が上がった。

 

その体の間で服越しの胸が形をゆがめるのを、腕が生々しい感触を受け取っていた。

 

「ななな、なんでもない。なんでもないぞ。何でもないんだ。何でも無いに違いない。なんでもないにきまってる。」

 

活用して急速に剥離してゆく理性をなんとか繋ぎとめる。

いや、なんか間違ってるな。一応五個あるけど。

 

 

その日の夕飯は、味どころかメニューさえうろ覚えだった。

説明
#23:告白/疑念
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