《インフィニット・ストラトス》〜二人の転生者〜 |
第二十四話 シャルルの秘密・その弐
その後一悶着あったが、シャルルに前に病院で撮った写真を見せると解決した。
「……さてと、じゃあ話を戻したいんだが、いいかな?」
「うん」
シャルルは俺の正体がわかったことに少し安心したのか、さっきよりかは幾分か心の数値も上がったようだ。しかしまだ罪の意識にとらわれているようで何処影が見える。
「さっきの話の最後に《命令》っていわれたな……誰からの命令だ?」
「……それに関して知ってることは?」
「いや、全く知らない。俺が情報を知った方法はフランス政府のメインサーバーに侵入して知り得た情報だけだからな。それには命令に関してのことは全くといっていいほど書いてなかった」
俺がそう言うとシャルルは少し悩み、自分の考えに一度頷いてから話し始めた。
「うん、わかった……その命令は実は僕の父さんからなんだ」
シャルルは一言、そう言っただけだった。暫くしても続きが出ないのでもしかすると話しにくいことなのかもしれない……さて、聞くべきかどうか……
「…………気を悪くするかもだけど、俺は出来ればシャルルの事情を全て知りたい。例えそれが言い難いことだったり、辛いことだったりするかもしれないが、話して欲しい。古傷をえぐるようなことで申し訳ないが……」
俺は結果的に聞くことにした。ここまで来たんだ。中途半端で終わらせたくはない。それにシャルルのことは全部知っておいた方がいい。たとえこの後どうするにしても……
「……秋……実を言うと僕は、愛人の子なんだ……」
シャルルの重い言葉が一気に俺にのしかかったような気がした。勿論それは錯覚で、事実一瞬遅れたが理解できた時にその重さも消えた。しかし愛人の子、か。俺だって前世ではあれだったがこの世界では世間一般(?)の男子だ。その言葉の意味ぐらいは理解できる。しかしシャルルのお母さんの性格や容姿からしてそんな風には見えなかったが……いや、見た目で人はわからないか……またあとで少し調べないといけないかもしれない、少し気が引けるけど。
俺がそんなことを考えているとは露知らず、シャルルは続きを話していく。
「引き取られたのは二年前。秋がフランスを去った後に僕の母さんは死んだんだ。そして丁度母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適応が高い事がわかってね、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやってたんだ」
「一旦そこまででいい。少し聞きたいことがあるし、一気に喋るとどんどん気持ちが沈む。それは良くないからな」
「そうだね。で、聞きたいことって?」
「検査とテストパイロットに関することだ。要はどういう事をやったのかを知りたい。シャルルに負荷のかかった検査やテストとかはあったか?」
「ううん、検査は普通に健康状態や体のことを調べるものだったし、テストも基本は新装備のテストやシステムの調整とか……そういう基本的なことだったよ。なんで?」
シャルルは俺の質問に少し不思議そうな感じで聞いてくる。
「ん?ん〜、まあシャルルがそういう面でも辛いことにあってないか心配になってね。ほら、フランスから戻った後のことは知らないからな、友達としては聞いておきたいんだ。それじゃあ続きを頼む」
俺がそう言うとシャルルは続きを話し始めた。
「父にあったのは二回くらい。会話は数回ぐらいかな。普段は別邸で生活してるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あのときはひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」
シャルルは笑うが恐らく誰が見ても無理に笑ってるとしか思えない。俺はそれを見ながら息を吐きながら言う。
「……恐らく教えなかったんじゃなくて、教えられなかったんだろう」
「え?」
俺の言葉にシャルルは疑問で返してくる。
「少し冷静になって考えればわかることだ。シャルルの母さんが死んだのはまだ俺やシャルルが中学の時だ。しかも自分がもうすぐ死ぬとわかって絶望の淵にいるシャルルに更に絶望に追い込むことはしたくなかったんだろう。精神的にもまだまだ完成してない年齢だしな」
「……そっか……そうだね」
シャルルはそう思いながら再び笑う。今度はさっきよりか幾分かいい笑顔だった。
「さてと、話をまとめると《シャルルの母さんが死んで父のデュノア社の社長が迎えに来た。しかしシャルルの母さんは社長の愛人であり、シャルルはその愛人の子だったため社長夫妻からほぼ虐待同然の扱いを受けていた。体を検査してる内にIS適性が高くて極秘にだがテストパイロットをしていた。しかしデュノア社が経営危機に陥り、八方塞がりだったが幸か不幸か日本で男のIS操縦者が発見。その専用機の情報を盗むため、男装してIS学園に潜入》とこんな感じか?」
「うん、あってるよ……で、秋は結果的に僕をどうするの?」
「……それはお前が決めろ」
「え?」
俺は立ち上がりながら言う。
「お前の人生はお前のものだ。親からの命令がどうのこうのとか、俺がどうのこうと言う義務はない。それに口出しして責任をふっかけられるのも嫌だしな。人一人に対して一度きりの人生、もう俺に命令は全てバレてしまったんだ、いい機会だからどうしたいかは自分で決めろ。俺はこれから髪を染め直して来るからその間に決めとけよ」
「で、でも僕には秋みたいな力や知識があるわけじゃない……もう、何も出来ないんだよ?」
俺は何も言わず洗面所に向かい、ドアノブに手をかけた所で付け足す。
「……言っとくが、判断はシャルルに任せるが判断した上で俺の力が必要だったら遠慮なく言え。全力で手助けしてやるよ…………それから、出来れば俺は……友達のお前がそばに居てくれると嬉しいかな」
俺はそう言ったあと、静かに洗面所の中に入っていった。
僕は暫くして体をベッドに横たえた。
僕のお母さんが死んで絶望の縁にいた時、父に引き取られ本妻の人に酷い仕打ちをされた時、テストパイロットとしての毎日を過ごしていた時、僕はいつも秋のことを考えていた。
彼は今どこで何をしているだろう、と。だから僕は偶然目にしたTVのニュースで報道されている時は驚いた。髪の色は違うし、顔に巻いていた包帯も、怪我の痕もない、それでもよく似た人物を見たときは……そしてその後この命令を出された時、あまり気が進まなかったけど、内心は嬉しかった。たとえ別人でもよかった。日本に行けば会えると思ったから……でも来てみたら秋がその人で……
「会えてよかった……嬉しかった……」
いつの間にか、僕の瞳には涙が流れていた。
最後に泣いたのは母が死んだ時……それ以降はどんなに辛くても涙一つ流さなかった。そしていつの間にか泣き方すら忘れていたのに……こんなに簡単に泣けた。
「僕は……秋と、ずっと一緒にいたい……」
僕の気持ちは、もう決まっていた。
「う〜ん、やっぱり今週末にでも美容院に行くべきだろうか……」
俺は洗面所の鏡に映った俺の顔を見ながら言った。正確には髪なのだが、中学の最後辺りから散髪に行くのが面倒になってきて、IS学園入学が決まってからは色々ゴタゴタしてて結果、跳ねてたりはしないのだが枝毛がチラホラとあり更には髪の長さが腰を過ぎそうなのである。当然それだけの量の髪を染めるのも一苦労なわけで……いっそ染めるのやめて開き直ろうか?と思うほどだ。いや、寧ろ長髪やめて一夏みたいに短髪にしてもらおうか?
そんなことを思いながらも何とか黒髪に戻せたので洗面所を出て部屋に戻る。
「シャルル、どうだ?決まったか?……って、泣いてたのか?」
俺が部屋に戻るとシャルルはベッドに横たわっていた体を起こし、目を擦る。若干だが頬に涙が伝った跡がある。
「あ〜……俺、なんか泣かせるようなことしたかな?……」
恐る恐る聞いてみる。そりゃそうだ。例え男子の恰好をしてても中身は花も恥じらう齢15歳の純情な美少女なのだから……美少女なのだから。うん、ここ重要。
「あ、ううん!し、秋のせいじゃないよ!!」
シャルルはそんな俺の言葉に慌てて首を振る。う〜ん、でもなんか罪悪感を感じるのは何故だろうか?
「まあいいか。で、答えは決まったか?」
「う、うん……ぼ、僕は…………秋と……」
俺の問いにシャルルは顔を赤くさせながら俯いていく。
「秋と、ずっと一緒にいたい!!」
…………はい?
「秋と、ずっと一緒にいたい!!」
うわー、うわー、言っちゃったよ。僕言っちゃったよ……何やってるんだろう!!ぜ、絶対変だって思われたよね!?
僕は内心パニック状態だった。それもそのはず、秋は僕に今後のことを聞いたのにそれが行き成り告白紛いの返答だったのだからかなり変だと思ってるはず。
で、でも間違ってはないはず!!僕は実際に秋と一緒にいたいし……その……け、け、け結婚っ……とか!?いや、さすがに早いか……でも恋人同士とかになれたらとか……
「……くっくっく……はっはっはっはっは……」
秋の笑い声に僕は顔を真っ赤にしながらも秋の顔を見る。
「も〜……笑わなくても……」
「いや……ごめん、ごめん……でもまさかそういう答えが返ってくるとは……」
秋はまだ少し笑いながらも僕の隣に座ってきた……と、隣って!?
「ちょっ……ち、近いよ!?」
「あのな、あんなこと言っといてそれを言うか、普通に考えて?」
「……た、確かに」
な、何を言っちゃってるんだろうね!僕は!
「さてと、しかしシャルルからも告白されるとは思わなかったぞ」
「そ、そうだよね!やっぱり僕なんかとかじゃ釣り合わな……ん?からも?」
え〜っと……からも、っていうことは……秋はもう誰かから告白されちゃってて……え、ええっ!!??
「しゅ、秋って、もう誰かと付き合ってるの!?」
「アホか!!お前はおれの体の状況知ってるのによくそんな言葉が吐けるな!!」
「か、体って!!もうその人とそんな関係に!!」
「ちょっと落ち着けお前は!!明らかに話がへんな方向に行ってるぞ!!」
――数分後――
「……つまりは二組の凰鈴音さんからも告白されたんだね」
「そ。で、まあ断りはしたんだが……アイツのことだ。未だに好意を寄せてるだろう」
「なんで?だって対抗戦は一夏の勝ちだったんでしょ?」
俺はため息をついて話す。
「いや、俺が言ったのは要約すれば《付きまとわないでくれ》ってことだから絶対に付き合わないとは言ってないんだ。実際に満更でもなかったしな。まあシャルルと鈴、どっちか選べって言われたらシャルル選ぶけどな」
「え、じゃ、じゃあ僕と付き合って……」
「だから無理って言ってるだろ?俺は五体満足じゃないんだぞ?いくら義肢でごまかしてもその事実は変わらないし、その副作用でいつ俺がどうなるかわからないんだぞ!?」
「……関係ないよ」
俺が自分の体のことを離しても動じなかった。いや、寧ろより決意は固まった感じだった。
「たとえ秋がどんな体になっても、どんな事になっても、僕はずっと一緒にいたい……例え秋が僕より先に死んじゃうなら尚更だよ」
シャルルはそう言いながら俺を見てくる。俺はため息を吐きながら立ち上がる。
「……考えとくわ」
俺はそれだけ言うと部屋の外に出ながら言う。
「それより飯、行こうぜ?急がないと食堂しまっちまうし」
俺は懐中時計を見ながら言う。結構話し込んでたみたいで、あと数十分で食堂が閉まってしまう時間だった。
「まあ今後のことは飯食い終わってから考えよう」
「うん!」
シャルルは少し笑って俺についてきた。俺はそれを見ながら頭を掻く。まったく、一体どうしたもんかね?
説明 | ||
どうも、菊一です。 え〜前回から二週間も立ちました……早いものでもう七月です……学生の皆さんはそろそろ夏休みということでウキウキ状態なのか期末テストで地獄状態なのか……自分は社会人なので関係無いですが。 そんなこんなで最新話、ではどうぞ〜 夏休みがあったら小説もっとかけるのにな〜……orz |
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