戦う技術屋さん 五件目 異動 |
カズヤの進言から部屋変えをする事になった医務室にいた六人は一路応接室へ。
そこでカズヤ、スバル、ティアナの三人が聞いたのは、四年前の空港火災時の事やそこに起因する、新部隊、時空管理局古代遺失物管理部対策部隊、『機動六課』設立の件であった。
『まあ、八神二佐の言い分もわかるわな。陸士隊同士で仲悪い所もあるから、陸士間連携って少し難しいし』
『縄張り意識っていうより、出世意識なんでしょうね。陸士ってだけで、出世チャンスなんて片手で数えられる程度しかないんだから。そういう場を誰かに取られるなんてそれこそごめん、って感じなんでしょ。災害担当からしたら、他と連携してなんぼって話だけど。って、カズヤ。ちゃんと話聞きなさい』
『……話が長いよ』
『スバルも』
話の大半が思い出話なのだから、念話で愚痴る位許して欲しいと、カズヤは思う。だが、根がまじめなティアナはそれには取り合わず、カズヤの言葉に同意したスバルも一蹴。
仕方が無く、そろそろ終わりに差し掛かった思い出話に耳を傾けていると、やがてその話も終わり機動六課設立の話は本題である引き抜きの話となった。
流石に引き抜きの勝手は知っているらしく、はやてが引き抜き時の常套手段である異動後のメリット、スバルなら憧れの高町なのは教導官の教導を受けられる事、ティアナなら執務官志望である事から、現役執務官であるフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官から色々と学べる事。カズヤなら本局の将来有望なメカニックやデバイサーと接する機会が増えるし、設備は局内でも最新鋭設備を自由に使える事を上げた。
『魅力的と言えば魅力的だけど……』
『何かなぁ』
話にかなりの喰いつきを見せているスバルを余所に、ティアナとカズヤはいたって冷静。というより、上手過ぎる話に疑いを隠せず、その場で返事が出来るかと言われれば当然否。
結局その場の話は、四日後の昇格試験後に答えを聞くと言うことで話は纏まり、カズヤ、スバル、ティアナの三人は再び場所を移しカズヤの居た医務室へ移動。其処で話が終わってから暫く、三者三様の過ごし方をしていた。
カズヤは上体を起こし、ベッドに備え付けられたテーブルを使って、スバルのローラーのメンテナンス。ティアナは今日の試験の見直しと明日からの講習内容の確認。スバルはカズヤが身を起こしている為、半分だけ開いたベッドを横断するようにうつ伏せになっていた。時々ふざけたカズヤが寝転がり、下敷きにされたスバルがわざとらしく「ぐえ」と、蛙のような声を出しては、ティアナが呆れた視線を向ける。
そんな時間を過ごし、カズヤとティアナが作業を終えたのを確認して、最初に口を開いたのスバルであった。
「ねぇ、ティアとカズヤはどうする?さっきの話」
「……さぁね。正直決めかねてるわ」
答えたのはティアナ。資料に目を落としたまま、誰の目も見ようとせずに答える。
「聞いた感じ、とんでも部隊じゃない。そんな所で、私がやっていけるとは思えないし」
「そんなことないと思うぞ?ティアは充分実力あると思う」
「じゃじゃ馬二人も相手にしててれば、子守スキルはつくでしょうけど。個人スキルは別」
「言われてるぞスバル」
「カズヤでしょ?」
「アンタ達よ!」
全くと呟き、溜め息をつくと、ティアナが顔を上げた。
「ま、端的に言えば自信がないのよ。話自体は魅力的だけどね」
その言葉に反応したのはスバル。姿勢は相変わらず寝転がったまま、ティアナの顔を見上げ拳を握る。
「大丈夫だよ、ティア!三人なら何でも出来るって!カズヤも言ってたし!」
「……そんな事言ったの?意外ね」
「何でも出来るとは言ってないが。大丈夫とは言ったな」
余計なことを言わんばかりに、スバルを下敷きにするカズヤ。今度は勢いがあったからか、わざとではなく、本気で「ぐえ」。そのまま頭の後ろで手を組み、カズヤは本格的に寝る姿勢になった。スバル暴れるも、きっちり重心を押さえられているのか、もがいても効果が薄い。
暫し抵抗し、無駄だと悟ったのか、大人しくスバルは枕に変わる。抵抗しなくなった事をいい事に、頭を落ちつけられる場所を探してから、改めて肩の力を抜いてリラックス。そんな二人を眺め、とりあえず両者の頭に拳を落としてから、ティアナは溜息をつく。
「……ま、カズヤの話も、三人ならの話でしょ。私とスバルのコンビなら、その限りじゃないでしょうが」
「え?」
その言葉に、頭にタンコブを携えたスバルが顔を上げ、首を傾げる。そんなスバルへ、「考えても見なさい」とティアナ。
「カズヤがあの話、受ける筈無いでしょう」
「……あっ、そっか。そうだよね」
「向こうの上げたメリットは魅力的だったけどな。正直あの場でスッパリ断っても良かったんだが。まあ、相手の顔も立てんと。……なんだ、スバル?落ち込んでるのか?」
頭で組んでいた手を伸ばし、スバルの頭に乗せる。災害担当としてハードワークをしていても、女の子だからか、それなりに手入れされたショートヘアの髪を梳くように暫く撫でてから、ポンポンと数度、軽く頭を叩く。カズヤが幼いころに誰かにされた撫で方。誰にされたのかをカズヤ自身が覚えていないものの、カズヤにとっては自分が出来る一番の愛情表現。示す愛情は親愛や友愛が主なのだが。
「別に今生の分かれって訳じゃないだろ?」
「でも……」
「まあ、俺としてももう少し一緒にいられるとは思ってたから、残念ではあるけどさ」
「だったら――」
「いいんだよ。高町一尉の教導を受けられるなんて、滅多な機会じゃないか。だったら、俺なんかに時間割くより、その分を二人に割いて欲しいんだ。目指す物がある二人に」
「カズヤ……」
スバルの頭を撫でるのを止め、カズヤは上体を起こす。調整の終わったローラーをスバルに返し、視線をティアナへ。
「ティア。生憎と俺の貧困な語彙じゃありきたりな事しか言えないけどさ。ティアなら大丈夫だ」
「随分椀飯振舞ね。今日一日で、二回もカズヤの大丈夫を聞くなんて思わなかったわ。ま、一回目は直接聞いてないけど」
「茶化すなって。本気で言ってんだ」
ティアナが向けられる視線は真剣そのもの。向けられる視線にこそばゆそうにしながら、ティアナは思わず視線をそらす。カズヤはそんなティアナにベッドの上でにじり寄り、その顔を両手で掴んで自分の方に向き直らせる。未だに視線は真剣そのもの。自分を見つめるその視線に、限界が来たのかティアナはカズヤの頭をカズヤ同様に両手で掴むと――その顔面にヘッドバッドを決めて見せた。
「離しなさい!!」
「へブッ!?」
「カズヤ!?」
勢いのままベッドへ倒れるカズヤ。慌てたスバルがベッドから体を起こしカズヤを見れば、カズヤは自分の鼻頭を押さえている。手の隙間がら覗く赤い物。間違う事無く、血であった。
「カズヤ、鼻血出てるよ」
「だろうな。スバル、ティッシュとって」
「うん」
少し手を伸ばした所にあったティッシュを箱ごとカズヤへ渡し、受け取ったカズヤはとりあえず鼻を押さえながら、それを一枚とって、そのまま鼻の穴へ詰める。余った分はちぎり、顔やら手やらを拭いて。鼻にティッシュが詰められている事を除けば、先ほどまでのカズヤと相異なくなった。
「何するか、ティア」
「アンタが悪いのよ!」
「理不尽!何ゆえ!?」
「そっぽ向いた人の顔、無理矢理掴んで引き戻して、間近で覗き込むな!恥ずかしいでしょうが!」
「相手に想いを伝える時は、相手の目を見た方がいい。てか、普段から話す時は相手の目を見た方がいい、ってこの前386に来たギンガさんに言われたんだ」
正確には怒られた。どうしてもやらねばならなかった作業があったので、その作業をしながら、おざなりにギンガの相手をしていたせいである。
「……分かったわよ。アンタが本気って言うのは良くね」
「ならいいが……。本当に分かった?」
「分かったってば」
「ティアからすれば、カズヤに見つめられて、内心ドキドキ。おまけにティアなら大丈夫なんて言われて、天にも昇る気持ちだったりして」
「そうなのか?」
「……アンタ達ねぇ!」
その後、騒ぎを聞き付けた医療スタッフによって止められるまで、医務室はティアナのプロレス技によって阿鼻叫喚の絵図と化したのだった。
***
四日後。
ティアナ、スバルの両名は無事に陸戦Bランクへと昇格。
その後のはやてとの対談では、事前に話していた通り、二人は機動六課。カズヤは386部隊への残留の意思を示した。
「……本気なんやな」
「ええ。すいません。僕は386部隊で頑張りたいので」
はやてが見つめる先。カズヤの視線はぶれない。意思は揺るがないであろうことを察し、はやては気付かれないように溜息を一つ付く。
「分かった。ほんなら、スバル、ティアナは後日。改めて機動六課について説明。ならびに異動の手続きをしてもらう」
「「はい!」」
「じゃあ、これから頑張ってな」
そういうはやてへ頭を下げ、三人は部屋を出る。相変わらずギプスが外れないカズヤは松葉杖をつきながらスバルとティアナの後を追うように歩く。
「これからはティアと二人か〜」
「不満?」
「そんなこと無いけど。やっぱり寂しいなって」
「まだ言ってんのか?」
「分かってる。今生の別れってわけじゃないんだし、同じミッドなら、少しくらい時間作れるって。だけど……」
「ったく」
開いている手でスバルの頭を撫で、カズヤは笑みを浮かべた。
「あんまり考えるなよ。前を見ろ。差し当たり、お前らにはもしかしたら災害担当以上のハードワークが待っているんだろうからな」
「そうね。カズヤがどうこうなんて言ってられなくなるかも」
「結構厳しいって聞くもんね。なのはさんの教導」
「だから頑張れよ」
頷くスバルの頭を再び撫でて。三人はカズヤの病室へと戻って行く。
それからさらに三日経ち、カズヤは無事に退院。退院と同時にギプスも外れ、職場に復帰。
一週間ぶりとなる386部隊の隊舎にあるトレーニングスペースで、リバビリがてらランニングマシンの上を走りながら、これからは386トリオって呼ばれる事もないんだなぁと思っていれば、舎内放送が響き、カズヤは災害担当部の配置課へと呼び出された。
今後所属の小隊の件かな?と首を傾げつつ、トレーニングウェアから制服に着替え、時折すれ違う隊員達へ頭を下げながら、一人配置課応接室へ。ノックの後、扉を開ければ配置課所属の、優しげな表情の眼鏡の男性がソファーへ腰を下ろしていた。
「失礼します。災害担当部突入隊所属、カズヤ・アイカワ二等陸士であります」
「待っていたよ、アイカワ君。足の具合はどうかな?」
「おかげさまで、もうこの通り」
「なら結構。さあ、座って」
「はい」
男の言葉に従い、対面のソファーへ座る。男はソファーの肘かけに肘を置き、顔の前で指を組みながら、眼鏡越しにカズヤを見つめる。カズヤからすればどうにも居心地が悪かった。配置課と言う事もあり、入隊初日を始め、何度か男と言葉を交わした事はあるが、それでもカズヤが感じるこの雰囲気は初めてのことだった。感じた事がある者なら、なんとなくこの後に言われる言葉に想像もついたであろう。ある者なら望み、ある者は望まないであろう通知。
「アイカワ君」
「はい」
「此方の独断で悪いんだが、君には陸士108部隊捜査部捜査課へと異動して貰う」
「……は?」
人事異動である。
「い、いや。待ってください。今、なんとおっしゃいました?」
「だから異動だよ。本日付で、君は陸士108部隊の捜査部捜査課だ」
「なんで急に?」
「向こうから、人手が足らないから、一人有能そうなのを送ってくれと頼まれてね。恩を売る意味を兼ねてね」
「何で僕なんでしょう?有能なのは他にもいますよね?」
「スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士が異動したからね。君の優秀さは分かっているつもりだけど、元々トリオだった分、一人だと扱いづらいから」
「……厄介払いと?」
「悪いがこれが仕事だ」
「……」
溜息をつき、カズヤがソファーの背もたれへと体を預け、天井を仰ぐ。
元から二段構えだったのだろうかと、つい疑ってしまうのは、カズヤからすれば仕方がない事である。
すなわち、機動六課へ引きぬけないのであれば、友好的な部隊へ置き、何時でも使えるようにしておくということ。それが正解かどうかは分からないが、もし正解なら――。
(あの狸、次にあったら狸汁にしてやる)
とカズヤは物騒な事を考えて、思考を切り替える。自然と精神は諦めの境地へ。恐らく手まわしも十分してあって、もしかすれば自分のデスクへ向かっても、既に何も無いのかもしれないとそう考えれば、もうどうにでもなれと言った気分であった。
「分かりました。カズヤ・アイカワ。本日付で陸士108部隊捜査部捜査課へ異動します」
立ちあがって敬礼しながらの言葉に、「よろしくお願いします」と男。その後一礼挟み部屋を出て。自分のデスクへ向かえば、恐らく個人の物がまとめられたのであろう段ボールが、机の周囲に積み重なっていた。
こんなに荷物あったか?と悩んでいると、「カズヤ」と背中から声をかけられた。振り返れば、其処にいたのは陸士386部隊技術部主任、通称『親方』。カズヤも何度となく世話になった相手であった。
「親方。どうしました?」
「お前が異動するって聞いてな。餞別だ」
「餞別って……なんです?」
「其処の段ボールの中に入ってる。なかなか手に入らねぇ、デバイスのパーツとかだよ。それなら、少なくともハズレはねぇだろうからな」
「あ、ありがとうございます!」
異動の祝いにデバイスパーツってどうなんだと言った話だが、当の本人が喜んでいるので、問題無いのだろう。今すぐにでも荷物を開けたそうなカズヤに苦笑しながら、親方は先程預かった伝言をそのままカズヤへ。
「とりあえず、お前は身一つですぐに108に向かえ、だそうだ。荷物は後で送ってやるから」
「了解しました」
「しっかりやれよ」
「はい!」
一礼。その後簡単な挨拶回りをすませて、カズヤは386の隊舎から外に出た。
最後にその隊舎へ一礼し、カズヤは新しい職場へ向けて歩き始める。文字通りの意味で。
説明 | ||
六件目→http://www.tinami.com/view/454781 四件目→http://www.tinami.com/view/447741 とりあえず、ストックはありますが、最新話を書き上げるごとに一話、という形にします。なので、以前から知ってる人には物足りないかもしれませんが、一応加筆なり修正した作品なので、修正箇所を探す間違い探しののりで読んで頂ければ。 初めての方の為の一件目→http://www.tinami.com/view/446201 |
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カズヤはもうちょい怒ってもいい気がする(tiruno9) | ||
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