インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#34
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[side:箒]

 

授業が終わってすぐ、私たちは空の部屋、副寮監室へと連行された。

なんとか逃げ出そうとした鳳はAICなのか空中に逆さ吊りにされた上での強制連行だ。

 

そして部屋に着くなりそれぞれの専用機が取り上げられ、この間はソバ屋と化していたリビングダイニングキッチンを通り過ぎた

その奥にある空の私室で―――

 

「―――と、言う事から専用機を持つという事は一人で相当の軍事力を持つという事でありそれ相応に責任が出てくるという事でもある。故に―――」

 

説教&『専用機持ちに課せられる責任と義務、及び専用機持ちの心構え』についての講義を受けさせられていた。

 

当然正座で。

 

ちなみに説教はつい先ほどまでの二時間。

講義が始まると同時に一夏がやってきたのは一緒に受講する為だろう。

 

但し、向こうは被害者なので胡座が許されており、なお且つ机代わりに卓袱台、更には飲み物まで出されている。

 

確かに、私たちのやった事は少々やり過ぎだったとは思うが、この扱いの差は………

 

 

「―――と、言う事。判った?」

 

「おう。」

 

「はい………」

 

判った?と聞かれて一夏は元気よく、私たちは力なく返事をした。

 

それを見て空はにっこりと、それはかわいらしく、まるで悪魔のように笑った。

 

「それじゃあ、正座を解いていいよ。」

 

そう言われて、私たちを覆っていた力場が消える。

「ひぐぅっ!」

 

実はAICで正座の姿勢を保持され続けていたのだ。

 

だたし、姿勢の維持以外の事はされていないので当然、足にクる。

姿勢保持の強制力が無くなり、微妙に体勢がズレた事であの何とも言えない苦痛な感覚に襲われる。

その衝撃に四人とも前に蹲って、まるで頭を垂れた土下座に近い体勢になっている。

 

私は正座慣れしているし、『正座で説教:二時間』とかはアキトさんや父にされる事もあったからそれほどでもないが、他の四人は今にも死にそうな位になっている。

 

『動きたくても動けない。』

そんな状況だ。

 

そこに、にっこりと笑った悪魔は追いうちをかけた。

 

否、かけさせた。

 

「大変そうだね。マッサージしてあげるよ。」

 

「え? こう言う場合は放置が一番―――」

 

「マッサージ、してあげるから、一夏は黙って。」

 

「―――ハイ。」

 

「ついでに箒は対象をしっかりと抑えておく事。いい?」

 

「…ハイ。」

 

許せ、みんな。

 

おそらく、コレも含めての罰なのだろうから…

 

「それじゃあ、最初はボーデヴィッヒさんから行ってみようか。」

 

「―――すまん、ラウラ。」

 

「き、気にするな…上官命令は、絶対だからな……」

 

息も絶え絶えなラウラが足を投げ出した状態で椅子に座らされる

 

そのマッサージ開始後に暴れ出さないように抑えるのが私の役目だ。

 

「それじゃ、いっくよー。」

 

「ひゃぐぅっ!?」

 

空の手がラウラの足に触れた途端に物凄い悲鳴が上がった。

 

「だ、大丈夫か?」

思わず私はラウラに尋ねた

 

「こ、この程度…軍の拷問耐性の訓練に比べれば………」

 

「どんどん行くよ。」

 

「あぁっ!、あっ、あっ!、あぐぅっ……!」

 

抑える私は物凄い罪悪感に襲われる。

 

そして、その拷問まがいな事を『正座を崩してしびれを少しでも回復させる』事も出来ずに眺める残りの三人は絶望に満ち満ちた表情を浮かべていた。

 

傍から見てるだけの一夏も、なんというか『冥福を祈る』という感じの様子になっていた。

 

 * * *

[side:一夏]

 

「――酷い目に遭いましたわ。」

「まったくよ。」

 

鈴とセシリアがぶつぶつとなにやら呟いていた。

 

そうか、お前らにとって俺を殺しかけた事は『正座で説教され、痺れ切った足をもまれる』という罰を受けるほどの大事じゃないってことなのか。

 

「だが、あのマッサージのおかげで快復は早かったぞ。」

「そうだね。すぐに歩けるようになったもんね。」

 

その代わりに物凄い苦しんでたけどな。

 

で、そんな中で唯一平然としていた…というか正座慣れしていたせいでそれほど痺れる事のなかった箒はというと…

 

「くっ―――」

 

「ほらほら、刀ばっかりじゃ削り負けるよ!」

 

空の教師権限で利用時間終了後のアリーナを開けての模擬訓練戦闘をやっていた。

 

相手は空で。

 

当然ながら箒は俺を含めた専用機持ち全員の中で一番操縦経験が少ない。

故に、こんなことしてるんだが………

 

箒、心が折れないといいなぁ…

 

 

箒はさっきから、得意の剣術を生かす事も出来ず、ただアウトレンジからの射撃に封殺され続けている。

 

俺の白式とは違って箒の舞梅には腰にブラスター――エネルギー砲が付いている。

それに((拡張領域|パススロット))が空いてるからアサルトライフルなどの射撃兵装も量子変換されているので射撃戦もできるのだが……

 

「まだまだっ!」

 

箒は何とかの一つ覚えみたいに刀で勝負に出ようとする。

 

ああ、馬鹿。

俺が((瞬時加速|イグニッション・ブースト))に((短距離瞬時加速|ショート・イグニッション・ブースト))、スラスターの左右交互噴射といった回避・接近機動を駆使しても今だに一太刀入れられてないんだぞ?

 

そんなバカ正直に突っ込んで行ったら―――

 

キュボっ――

「ひぁっ!?」

 

その直後、舞梅は爆炎に包まれた。

 

 

「ああ、やっぱり。」

せめて((瞬時加速|イグニッション・ブースト))位は無いと接近前にやられてしまい接近前に撃墜が関の山だ。

 

「いつぞやのセシリアと鈴のやられ方と一緒だね。」

 

「あの時は二対一で足の引っ張り合いをするように誘導された結果で、アレは回避機動も自由な状況での直撃だがな。」

 

冷静なシャルロットとラウラ。まったく容赦のない。

 

ほぼ同時に撃墜された舞梅がぐしゃっ、と墜落した。

 

………大丈夫か?

 

そのすぐ後に箒は復活したが、『反省会』と称された国家代表候補生たち――要はセシリア、鈴、シャルロット、ラウラによる容赦ない指摘タイム(袋叩きとも言う)に突入し凹まされていた。

 

ちなみに俺も凹ませる側だったりする。

 

一応、刀一本での戦闘は俺の専門分野だからな。

 

 * * *

[side:箒]

 

辺りが暗闇に包まれる中、私は寮の屋上で一人佇んでいた。

 

 

見つめる先は左手首にある、待機状態の『舞梅』。

 

「私は……」

 

降って湧いたチャンスによって専用機を得た。得てしまった。

最新型ではなく、普及している第二世代型で、『やや接近向きな汎用機』という堅実かつ癖の少ない機体は私にとって好ましく思える。

 

―――IS操縦者としてみた私はただの素人に毛が生えた程度の私ですら、それなりに扱える位のいい機体だ。

 

しかし、そんな私が他の腕の立つだれかを差し置いてしまっていいのだろうか。

 

 

 

事実、今日の訓練でも、全く手も足も出ずに仲間たちから盛大に辛口な駄目だしをされてしまった。

 

あの、一夏にさえ。

 

そんな私が―――

 

「ああ、こんなところに居たんですか。」

 

能天気な声が聞こえてきて、振り返る。

 

そこに居たのは、声ですぐ判る。

 

「山田先生?」

 

「こんばんわ。篠ノ之さん。悩み事ですか?」

 

「―――まあ、そんなところです。」

 

「ちょっと横、失礼しますね。」

 

並んで、夜闇に埋もれた風景を眺める山田先生。

 

 

「…………」

「…………」

 

ただただ、沈黙だけが続く。

 

 

「舞梅、良い機体みたいですね。」

 

「はい。私なんかには勿体ないくらいです。」

 

「じゃあ、私が貰っていいですか?」

 

「え―――」

 

思わず固まった。

肯定の言葉を返そうとしたのか、困惑の声なのかは自分でも解らない。

 

 

 

その一方で、私は思う。

 

確かに、元は代表候補生だったという山田先生の手に渡った方がデータは良い物が集まるだろう。

 

元々舞梅は切ってあったハズのフィッティングが作動してしまったが為に預けられたモノだ。

 

一度、((初期化|イニシャライズ))する事によって蓄積データこそ喪われるがその前に吸い出しを行ってしまえば問題は無くなる。

 

 

―――だが、

 

『舞梅のこと、よろしくね。』

 

軽い一言ではあったが、私は舞梅を任され、託されたのだ。

 

教師相手とはいえ、舞梅を譲ってしまうのは『篠ノ之箒』を信用して託してくれた人に対する裏切りになるのではないだろうか。

 

 

「やだなぁ、冗談ですよ。冗談。」

 

私があまりに真剣に考え込んだからだろうか。

山田先生は苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。

 

「篠ノ之さん。専用機を持って、一番最初に想った事ってなんですか?」

 

「?…思ったこと、ですか?」

 

思い返してみる。

 

初めて舞梅に乗った時は、訓練機と同じく((最適化|フィッティング))が切られているのに『妙に馴染んだ』。

 

それは切られていた筈なのに働いた((最適化|フィッティング))のせいだとしても、妙にしっくりくる。

 

まるで、私の為に設えたかのような感覚に陥りそうになるくらいに。

 

 

そんな舞梅が私の専用機として託されると知った時、歓喜した。

 

これで、私も同じ位置に立てる…と。

 

「―私の時は、これなら『何でもできる』って思ったんです。まあ、そのすぐ後に((織斑先生|センパイ))にぼこぼこにされましたけど。」

 

「山田先生も、ですか?」

 

「専用機を初めて持った人への洗礼…みたいなものですかね。専用機を持って、その力に溺れないようにするための。」

 

「力に、溺れる……」

 

私の中で、何かがざわめいた。

 

 

―――あれは、何時だったろうか。

 

剣道の大会に出て、相手をぶちのめすだけぶちのめして優勝して、その後で千冬さんに叩きのめされたのは。

 

そうだ。小学一年生になってすぐのころだ。

 

一夏が道場に通うようになって、みるみるうちに強くなって、気がつけば追い越されてて。

勝てない事が腹立たしくて、大暴れしたんだ。

 

単なる八つ当たり。

 

確かあの時、千冬さんはこう言っていた。

 

『力を全て振り絞るは良い。だが、振り回されるくらいならそんな力、捨ててしまえ。』

 

その時はムカッときて、無謀にも挑んで、見事にボロ負けして。

 

後になって聞いた話だと千冬さんも小学生の時に同じ事をやらかして、アキトさんが同様に叩きのめして諭したらしい。

 

 

それ以来、剣を取る時は無心になるように心掛けた。

 

『そこに勝ちも負けも無く、ただ自分と相手が居る。』

場所によっては『明鏡止水』と言われる、無我の境地。

 

 

その心を、どこに置き忘れてしまっていたんだろう。

 

「ありがとうございます、山田先生。」

 

「はい?」

 

「吹っ切れました。」

 

私は深く礼をして、部屋に戻る事にした。

 

勝てないなら、勝てるように修練を積めばいい。

その為の格好の目標ならすぐそばにいる。

 

 

「先ずは、一夏。お前からだっ!」

 

ぐっ、と拳を握りしめ―――

 

 

「ん?呼んだか?」

 

「いいいいいい、一夏ぁっ!?」

一気に抜け落ちた

 

 

「何、そんなに驚いてんだよ。」

 

「い、いや、突然出てこられたら驚くだろうが!」

 

「そ、そっか。悪い。で、どうしたんだ?」

 

「少し、夜風に当たっていた。あとは決意表明だ。」

 

「決意表明?」

 

「すぐに追いこしてやるからな、首を洗って待っていろ。一夏。」

 

そう、私が宣言したら一夏はキョトンとしたあと、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「おう、受けて立つぜ。俺も、そうやすやすと負けてやる気はねぇぞ。」

 

「当然だ。全力でなければ、意味が無い。」

 

それに対して、私も笑い返す。

 

好敵手を前にした、武人としての笑いを。

 

 

 

一夏と別れ、すぐに私の頭は『いかにして、一夏に勝つか』を考え始めた。

 

―――やはり、零落白夜は凶悪だ。

『近づかない、近づかせない』を柱にしないと、如何に優勢でも偶然の一撃が命取りになる。

 

「……剣の腕は拮抗している。見切りや体術は一夏に一日の長がある。となると…銃か―――」

 

それなら、空はもちろん、シャルロットか簪、あるいはラウラでもいいだろう。

 

早速明日にでも、教えを請うとしよう。

 

一夏に、勝つために。

 

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#34:『力』と『心』
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