真恋姫†夢想 弓史に一生 第二章 第一話外伝 |
〜芽衣side〜
太守である張超への拝謁後、聖様と二人で町を歩いていたんですが…。
「聖様…。」
「…。」
聖様はどこか怒っているような、それでいて悲しそうな、そんな微妙な表情で、宿への帰り道を歩いていました。
今の聖様から感じるのは憎悪…。
きっと、先ほどの張超とのやり取りが原因でしょう…。
あんなのが太守だなんて…この世が荒れてる理由が良く分かるものです。
ああいう太守のせいで、私の家族は…そして私のような人達は…。
そう考えると、怒りの感情を抑えれそうにありません。
そんな思考をしていると、つい顔に出るのでしょうか…。
「芽衣!? 大丈夫か?」
「へっ!? あっ、はい。大丈夫です。」
「何か考え事をしていたようだけど…。」
「えぇ、でも大丈夫です。お気になさらずに。」
「…そうか…。 よし!!ご飯食べに行こう!!」
「そう…ですね…。 はいっ!! そうしましょう。」
無理に笑顔を作ってらっしゃったのは分かってます。聖様はきっと、自分の表情を気にして、私が考え込んだと思ってらっしゃるのでしょう…。
そういう風に、自分のことが大変なときに、他の人を考えれる優しさ…。
それは、あの方の良いところであり、甘いところでもあります。
…まぁ、そういう所を好きになったんですけど…。
初めは尊敬…。
この方の志の高さ、器の大きさ、そして智、武に優れたまさに完璧なところに憧れて、一緒に居る事を望んでいました。
しかし、一緒にいることで、この人の弱さ、幼さ、そしてそれを痛感した時の無念さ…それを知り、それを共有したいと思いました。
そう、この方の能力ではなく、この人の人となり、人間らしいところを好きになってました。
聖様はいつも一人です…。
勿論、物理的には、私や奏が傍には居ます。
でも…聖様の心はいつも一人…だから、何かあれば自分で背負い込んで、そして自分で解決しようとする…。
そんなことを続けていれば、いずれ聖様が壊れてしまう…。
肉体こそあれ、精神が瓦解した聖様など、もう聖様ではない…。
そんなこと…あってはいけない…。
ならばどうすれば良いか…。
聖様の抱え込んでいるものを吐露してもらう。そしてそれを共有して、聖様の負担を減らすしかない…。
今は、私一人しか傍に居ない…。私がやらなきゃ…。
「…い…め…?…め‥い‥?…芽衣??」
「はっ!!」
「芽衣!? 大丈夫か??」
「はい、大丈夫です。どうかなさいましたか〜?」
「いやっ、さっきから何が食べたいか聞いてたんだけど…一切返事が無いから心配したよ…。」
「それは心配をおかけしました〜。そうですね…この辺は長江に面してるので、海産物が有名ですよ。」
「そう。じゃあその辺の店を探してみようか!?」
「はいっ!! そうしましょう。」
「じゃあ行こう!!」
そう言って、にこっと笑いながら手を差し出す聖様…。
やぁ〜ん!! その笑顔は反則!! 眩しい!!眩しすぎる〜!! 眩しすぎて、目が!!目が〜!!!
「あれっ? 今、ム○カ大佐が居たような…。」
「誰ですかそれ??」
「いやっ、こっちの話だよ。気にしないで!!」
私は、差し出された聖様の手を握る。
温かくて大きな手…。
顔が真っ赤になってるのが分かる…。
胸のドキドキが止まらない…。
このドキドキが見つからないように気をつけながら、私たちは店に入ってご飯を食べるのだった。
聖様は、食事中も笑顔だった。
その笑顔を見ていれば、ご飯もいらないくらいに、胸が一杯にはなったのだが、聖様に、「ご飯食べないと明日が辛いぞ。」と言われて食べることに…。
でも…。
「私の食べてる姿をじっと見つめるのはやめてください!!」
「だってさ、なんだかこういうのって見てたくなるじゃん!!」
「そんなこと言われましても…。」
「俺は気にしないから大丈夫だよ!!」
「私が気にします!!」
「なんでそんなに嫌がるんだよ…。」
「普通女の子は嫌がるもんなんです!!」
「ふ〜ん…。女の子って難しいんだな…。」
「そりゃ…。好きな男の人に見られてたら、恥ずかしいに決まってるじゃないですか…。(ボソッ)」
「えっ!? 今なんて言ったの??」
「…なんでもないです!!( ///)」
「何で〜?? 教えてよ。」
「教えません!! …馬鹿。」
この後聖様は、破顔しながら、「良いね〜萌えるね〜…。」と言っていましたが、何のことでしょうかね??
まぁ、褒められてる気がするので素直に喜んでおきましょう…。
夜、目が覚めたので水でも飲みに起きる。
その途中、ある部屋の前で立ち止まる。
…別に悪いことは無いよね…。
主君と臣下であって、主君の身の安全に努めるのが臣下のあり方だもんね…。
そう、これはあの人のため!!
そう言い聞かせて扉をゆっくりと開く。
通りに面した窓。
その窓から外を見ている一人の男の影…。
その人は、なんとも言えない顔をしている…。
その顔は、他の人を哀れむ顔をしながら、何も出来ない自分に対する怒りの顔…。
「そんな顔しないでください…。」
私は、扉を開ききってそう言った。
男は吃驚した様子だったが、すぐに笑顔になった。
「どうしたの、芽衣? 寝付けなかった??」
と優しく聞いてくる。
「少し目が覚めてしまいまして…。聖様もですか?」
「うん…。ちょっとね…。」
「…良ければ話してもらえませんか?」
「……。 今日のこの町を見て思ったのは、可哀想ってことだった…。 自分勝手な太守、それに対して何も言わない臣下たち…。 そんな人達の下で重税、飢饉、労役に苦しむ人々…。 可哀想で仕方なかった。そして、それに対して何も出来ない自分が悔しかった…。 力の無い自分が悔しい。見ていることしか出来ない自分が情けない!! …自信が揺らぐ…。 俺はこういう風にしないと思う…だが一方で、こうなるかもしれないと危惧している…。 怖いんだ…。 人の上に立つというのがこんな怖いものだとは思わなかった…。」
聖様は、窓の外を見ながらそう言った。
聖様の心の闇…。
その深い深い闇…。
その闇を少しでも払いたい…。
ただ、それだけの思いで聖様に後ろから抱きつく。
「っ!!」
「辛いときは泣いても良いんですよ…。 人は、泣くことで辛いことを流してきたんですから…。」
「俺は…俺は…。うっううう〜〜〜。あぁああああああああ〜〜〜!!」
慟哭…。
男の叫びだけが闇夜にこだまする。
「…聖様…。 全てを一人で背負い込まないでください…。あなたは一人じゃないんです…。私や…奏だって居ます。 だから…辛いことや悲しいこと、不安なことがあったら、私たちを頼って話してください。そうすれば、辛さや悲しさは半分に出来ます…。」
「…芽衣…。ありがとう。 俺は主として、みんなの上に立つものとして、弱みを見せちゃいけないと思ってた…。 でも、それは違うよな…。 皆に支えられて俺は立ってるんだ…。だから、皆を信頼して皆に頼らなくちゃならないんだよな…。ゴメンな…。」
「いいえ…最愛の人の役にたてるなら…。( ///)」
「……芽衣。」
「私は…聖様をお慕い申し上げています。この体、この心、全てをあなたに捧げます。」
聖様は、振り返って私を優しく抱きしめてくれました。
安心感…こうしていると暖かさと優しさが感じられる。
「…そこまでしなくても良いよ。俺を支えてくれれば…。芽衣…俺の傍に居てくれるかい? これからもずっと…。」
「もちろんです…。」
「ありがとう…俺も好きだよ、芽衣。」
そう言って優しく頭をなで、頬をなでる聖様。
自然と距離は近くなり、
「…ちゅ‥んむっ…ちゅ…。」
「…ちゅっ…ぷはぁ〜…可愛いよ芽衣。」
「ぷはっ…はぁ〜…聖様〜…。」
そして、聖様は私を、寝台の上に押し倒した。
「聖…様…。その…優しく…してください…。」
「分かってる…。愛する人を無碍に傷つけたりしないよ…。でも、保障は出来ないかも…。」
「えっ…。」
「だって、こんなにも愛しくて、可愛い人を前にして、理性を保ってられるか分からないからね…。」
その夜。
私と聖様は、主君と臣下という関係から、一人の男と女の関係になった。
“それ”が終わって、寝台の上、裸の二人が抱き合いながら眠る。
私は寝たふりをして、聖様が寝た後その寝顔を見ていた。
その寝顔は、まるで子供のよう…。その無邪気な寝顔がかわいらしい…。
「聖様…。大好きですよ…。私は何があってもあなたの傍を離れませんよ…。」
そう言って聖様の胸にキスをする。
まるで、自分のものであるかのような証として…。
「勿論…。“何”があってもね…。」
そう言うと、聖様がぶるっと震えたのですが、果たして聞こえていたのでしょうか…。
まぁ、今はそんなことを考えるより、聖様に抱かれてる時間を楽しむほうが良いと思い、眠りにつくのだった…。
次の日、歩きにくさに耐えながら、私は待ち合わせ場所に行く。
聖様が門兵と話していて、そこで馬をくれた。
赤馬、白馬、黒馬。
乗る馬は、それぞれの申告により、赤い馬を聖様、白い馬を私、黒い馬が奏用となった。
私は、馬の名前を光華(こうか)と名づけた。
それこそ、光のように透き通るような白い体に由来して…。
聖様は、この名前を気に入ってくれたと思う。「芽衣らしい」は褒め言葉だろう…。
聖様の馬は陽華(ようか)と名づけられた。
どうせなら三馬共と言うことで、奏の馬は影華(えいか)と名づけられた。
聖様は、「黒い馬と言ったら黒王号だろ〜…。 そして馬の上で『わが人生に一片の悔いなし』って言わなきゃ…。」と良く分からないことを言っていたので、O☆HA☆NA☆SHIさせて頂いたら快く納得してくださいました。
奏は、「影華か…黒い毛並みと良い感じに合ってる気がするよ。」と褒めてくれました。
こういうところは、女の子の方が感性が合うんですね…。
旅立つ直前。
聖様が、門兵と最後の話をしている中、
「芽衣〜? なんか良いことあったか? えらく今日ニコニコしてんな。」
「えっ!? そ…そんなことありませんよ…。いつもどおりじゃないですか…。」
「お頭にはバレないかもしれないけど、私には分かるんだよ…。 大方、昨日の夜“ナニ”したんだろ。」
「そ‥そんなこと…。」
「歩きにくそうにしてるから分かるよ。(ニヤッ)」
「うっ…。」
「抜け駆けは、あんまり褒められたもんじゃないね…。」
「ううっ…。」
「じゃあ…次は私の番だねぇ〜。」
「うううっ…それは…。」
「や・く・そ・く・だろ。」
「うぅ〜…。」
奏には、隠し事が出来ないなと痛感した、今日この頃なのでした…。
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 今話は第二章第一話で語らなかった外伝です。張超のところに行った後、果たして何があったのか…。 しかし…今話は18禁をかけるほどではないにしても、少しソッチ系で書いてあります。嫌いな方は、本編には大きく関係はないので読み飛ばすことをお勧めします。 また、コメントを残してくださりありがとうございます。ここでは、良い予想ですね。とだけ言わせていただきます。 |
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コメント | ||
>彼方さん コメントありがとうございます。 現代日本と外史の違いに本当の意味で気づいた瞬間、聖さんは自分の思い違いが悔しくて辛かったのです。軟弱と言われても仕方ないかもしれませんが、別の視点からでは痛みを知る者として映ってくれると幸いです。(kikkoman) おり主の性格軟弱すぎる(阿修羅姫) |
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