魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが 無印@ |
最後に一つだけ、と聞かれた。
――もし、こことは異なる世界があったら、君はどうする?
……どうすることもできんよ。
――その世界が、危機に瀕していて、君にはそれを覆す力があるとしても?
……人間の無力さ加減は、承知している。
――それでも、君は人間の弱さ以上に強さを信じている。
……いずれにせよ、私にはどうすることもできんだろうさ。
――なら、もしどうにかできるなら、君はどうする?
……そうだね。
一度くらい、人のために生きてみるのも、悪くはないのかもしれないね。
―――なら、行ってごらん。
―――救っておくれ。君の持てる全てを尽くして。
無印編第1話 自分を知りましょう
「――という夢を見たのだが……」
それは、夢の光景でした。
真っ白な空間に、自分が漂っている感覚がありました。自分でも驚くほど意識が澄んでいて、起きているのか夢なのか定かでない状況でした。
けれど、夢だと思ったのは、自分とまったく同じ姿をした人物が、目の前に立っていたからです。
その人は言いました。救って欲しいと。
だから答えました。一度くらいなら、やってみてもいい、と。
それが夢の出来事とはいえ、かなり軽率な発言だったと後悔することになるのでした。
「うん?」
思わず呟いた声が通常より幼く聞こえ、半分眠りかけていた意識を無理矢理起こしました。
見慣れない天井があります。見知らぬ部屋がそこにありました。
どう見ても、自分の居場所ではないと分かったのは、十秒後でした。
どう考えても、自分の体が幼い子供だと理解したのは、触れて確認してからでした。
「ほほう。最近の夢は都合が良いね。触感まで実にリアルだ」
半ば現実逃避した台詞でしたが、少女はすこぶる冷静でした。
近くにあった机から鏡を引っ張り出し、自分の姿を見て、少女は驚いた顔をしました。
「いかんな。寝癖がついてるじゃないかね」
どうでもいいことに気づきました。
さておき。
「私本来の身体ではない……」
そう、目覚めてみると、自分の身体が違っていたのです。なんということでしょう。これはびっくりなどと控えめな感想を抱いてる場合ではありません。ただ事ではないのです。
しかも、
「いかんな。知識はあるのだが、記憶が一部欠落しているようだね」
自分が本来ここにいるべき人間ではないことは分かっています。
けれど、かつて何をしていた人間なのか、イマイチ判然としませんでした。どうやらここに至るまでの間に記憶を失ってしまったようでした。
「かつての私は、もうちょっとこう、大人のエロスとバイオレンス溢れる身体だったような……」
記憶がないのをいいことに好き勝手推測しますが、事態は結構深刻です。
だというのに、
「まぁそんなことどうでもいいね」
少女はまず自分の状況を確認することから始めようと思いました。ご都合主義なんて言葉が吹き飛ぶ勢いでした。
ここはどこだろう。そう考えると、自分の頭の中から知識が湧いてきました。
「海鳴市……高町家の次女・なのは。それが私の名前、か」
何故か情報がすんなり出てくることに驚きを得ながら、少女はひとまず部屋から出ました。
リビングに向かいながら、その少女―――なのはは、頭の中で情報を整理します。
「高町家は五人構成。父・母・長男・長女・次女。
高町士郎。元要人のボディガード。引退済み。喫茶店のマスター。現在入院中。
高町桃子。性格温厚な女性、子供を甘やかすのを好む。パティシエ担当。
高町恭也。御神流を継ぐ真面目な青年。ただし重度のシスコンである。
高町美由希。大人しく読書好き。兄共々稽古を怠らない。突っ込み兼任。
以上。これが私の……否、『高町なのは』の家族、かね」
どこか寂しそうになのはは呟きます。それはそうでしょう。確かに身体は高町なのはになりましたが、しかしそれはこのなのはという少女のものなのです。今ここにいるなのはに宿る人格は、言わば横取りしたようなもの。元いた少女の人格はどこにいってしまったのでしょう? どうでもいいですがなんだかややこしくなって参りましたね。
なのはとなった少女は、多少なりとも罪悪感を抱きました。自分が夢の中でいい加減なことを言ったせいでこんなことになってしまったのかと。そのとばっちりを受けて、少女の精神は消滅してしまったのかと。
暫く悩み悩んで、消えてしまった少女のことを案じていましたが、
「まぁなるようになるだろうよ」
非常にいい加減な結論に着地するあたりにこの少女の元々の性格が垣間見えるのでした。
リビングに着くと、そこには誰もいませんでした。
これもまた後に発見される日記に記されてあったことから知ったのですが、父が仕事で怪我を負ってからというもの、母だけでなく兄や姉も仕事やそれの手伝いで多忙の身となり、家を空けることが多くなっているのでした。そのため、なのはは常々寂しい思いをしており、しかしそれを打ち明けることなく明るく振舞っているのでした。
が、そんなこと知ったこっちゃねぇ少女は、人がいないのをこれ幸いとばかりに家探しを開始しました。
「つまり合法的に何をしても許されると。最高だね?」
冗談でも言ってはいけない台詞をサラッと言ってのける少女がおかしいのは言うまでもありません。
とはいえ、なのはが探しているのは預金通帳や印鑑の類ではありませんでした。一応それらを発見して、通帳講座の番号などを把握し印鑑のコピーを粘土でとりました。なんという手際でしょう。絶対こやつ前世は盗人だったに違いありません。
まず必要だったのは、写真やアルバムなど、『高町なのは』の過去の情報です。今ここにいるなのはは、以前の記憶を当然ながら持ち合わせておりません。なので些細なことからボロが出る可能性も高いです。それが家族相手ならなおさらと言えるでしょう。
「しかし九歳の子供がいきなり人格変わっても偽物云々言われまい」
いけしゃあしゃあと言うなのはの顔はひたすらマジでした。
ともあれ、アルバムをゲットし、過去『高町なのは』が書いたと思しき日記も数点入手できたので、首尾は上々でしょう。これに費やした時間はわずか2時間です。その間に天井の染みの数どころか兄の部屋の18歳未満お断りな本まで全て網羅し尽くしました。恐ろしすぎる手腕です。四代目ルパンの襲名もチョロ甘でしょう。
夕方になると、兄や姉、母が戻ってきました。当たり前ですが家具の位置など全て元通りになっています。兄の本には張り紙として『イエスロリコン、ノータッチ』と置いといたので概ね良好でしょう。
しかし、自室にこもるなのはは思案顔でした。幾ら知識を得ようと、近しい者の感はなかなか侮れません。
「悩んでいても仕方あるまい。ここは一つ、思いきってみようではないかね」
さっきから思いきったことしかしてない人が言いました。
説明 | ||
「世界を救って……」「無理に決まってるではないか」しかし目覚めると見知らぬ世界、見知らぬ身体。異なる世界から意識を飛ばされ、しかも魔法少女の体に乗り移った主人公!失った記憶と肉体と尊厳、所持するものは知識のみ!諦めろ、魔法少女が許されるのは子供のうちだけだ……!「ダメだよなのは!魔法使って暴力沙汰はいけない……!」やかましい。「では行こう。まずは話し合いだ」ただし肉体言語的な意味も含めて。 ※注意:この作品では主人公を筆頭に原作キャラが一人残らず人格或いは外見の改変を受けており変態の巣窟と化しております。あらかじめご了承ください。 | ||
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