魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが 無印A |
さて、現状を未だ完全に把握しきれないなのはは、まず誰かに聞こうと思い至り、誰にするか考えます。
まずは知るべきこと、それは、この肉体の持ち主となる少女『高町なのは』についてです。
家族を避けるわけにもいきません。なので、今のうちから少しずつ、慣れて行こうという算段でした。えらく計画的です。もし仮に違和感に気づかれても、成長期の子供故の複雑な心境や大人へと近づく少女の乙女心のせいと判断されるでしょう。
「便利なものだな、女というのは」
そう言って笑うなのはの顔はR15レベルでした。
とはいっても、いきなり「なのはってどういう人?」と若干哲学入った問いをしても、「君は君だ、それ以外の何者でもない」とキザで真理な返答が来ることはあり得ません。子供らしい理屈のない問いに微笑ましく思われるか、ちょっと頭が足りないのかと判断されます。この年代で後者はないでしょうが、肉体と精神の年齢は必ずしも一致するとは限らないという真理がここで証明されております。
なので、事は慎重に運ばなければなりません。
そして白羽の矢が突き刺さったのは、一番チョロそうな……もとい、(自分にとって)優しい兄でした。
「お兄ちゃん、なのはに大事なことを教えて欲しいの……」
潤んだ上目遣いでそんなSAN値直葬モンのセリフを言うもんだから、ロード・オブ・シスコンの名を欲しいままにする恭也なんぞは脊髄反射のレベルで即答しました。
「ハハハ任せろ! 言っておくが、保健体育はいけないぞ! なのはにはまだ早い……!」
わざわざ大声で叫んだものですから、廊下にいた美由希がNFLでもお目にかかれないパワーチャージで扉を粉砕して入ってきました。
「恭ちゃん! なのはになんてこと教えようとしてんのよ!」
「誤解だ美由希! 俺はやましいことなど何一つしていない……!」
犯罪者は皆そう言うのでした。
結局、恭也は美由希に美しい三日月を描くバックドロップをキメられ、どこかへと引き摺られていきました。
「ふむ。なかなかままならないものだね、現実というのは」
十歳にも満たない子供が額を押さえてそう呟く様は実にシュールでした。
「困った時にはお友達に頼るのが一番なの〜」
体良く使われる友人に同情が寄せられそうな言い草でした。
友達の名前は机の中に合った日記に書いてあったんで、すぐに解りました。
アニサ=バニングス、月村すずか。
この二人が生贄……もとい、友達なようです。それも、親友と言っても差し支えない関係らしく、ほぼ毎日彼女らのことについて書かれてありました。
「いかんな……彼女らには感づかれるやもしれん」
いざバレたらどうするべきか。割と真剣に考える辺り真面目そうに見えるなのはでしたが、
「話せばわかる」
いい加減な結論に至る辺りさすがでした。
私立聖祥大学付属小学校、というのが『高町なのは』が籍を置く学園で、そこの3年1組に所属している模様です。
送迎バスも出ているようですが、なのはは敢えて徒歩で行きました。こうすることで自分の支配下を拡張し――街への見聞を広めようというわけです。
いざ迷子になった際に見たこともない場所ばかりで困りました、では済まされませんからね。
余談ですが、身体が弱い(というより体力がない)なのはを案じた恭也が仕事そっちのけでストーキンg―――同行を申し出ようとしていましたが、口を開いた瞬間に美由希の華麗なドロップキックが炸裂してなのはの視界から消滅しました。悪は滅びるがサダメ。
てくてくと道を歩く制服姿の小学生はこの辺でも評判なようで、ときたまジョギングする男性や井戸端会議に盛り上がる主婦たちがにこやかな笑みを見せてくれます。
そのたびに、なのはは手を振って応えています。意外なことにこの少女、マメでした。そこには悪意どころか何の謀めいたものもない、普通の笑みがありました。
「子供とは便利なものだな」
そういう余計なひと言がなければ完璧でしたが。
道を歩きつつ、問題が一つあることを思い出します。
件のアリサやすずかも同じクラスなので、なのはは盛り上がって、否、危機感が増してきておりました。
「ここは普段通り、純粋無垢たる私のありのままの姿をさらすべきだな」
かなり厚かましい台詞を道のど真ん中で白昼堂々言うのですから、通りすがったおばちゃんが目を剥いていますがなのはは気づきません。気づいてもスルーしていたことでしょう。
学校に到着しました。
廊下を歩きつつ、さて、どういった挨拶をかますべきか、と扉の前で腕組みします。
意外性を求めて美由紀直伝のショルダータックルをかますものや、奇声を上げながら突撃するものもありますが、ここはやはり、大きな声ではっきりと挨拶するべきだという結論に至りました。フツーが一番です。当たり前です。
「みんな、おはよ〜!」
純度百パーセント、蓋を開けるとどす黒い策謀が渦巻いてそうな爽やかな笑みを携え突撃しました。直前まで腕組みしてブツクサ呟いていた姿からは想像もできません。この変わり身の早さを見た者がいたら彼女のKUNOICHIと疑うこと山の如しです。
元気いっぱい、不敵さ全開のなのはが入ってくると、教室の真ん中で雑談に興じていた二人の少女が振り返りました。一人は金髪の美しい、勝ち気そうな女の子。一人は濃紺の髪を持つ、大人しそうな女の子です。対照的とはまさにこのことを指すでしょう。
金髪の子は、アリサ=バニングス。通称「ツンデレちゃん」。
紫髪の子は、月村すずか。通称「地味っ子ちゃん」。
「なのは、今アンタ失礼なこと考えなかった?」
「なんのことー?」
すっとぼけるなのはの嘘度はオオカミ少年ばりでした。
少々不機嫌になったアリサと違い、すずかは、
「おはようなのはちゃん」
とちゃんと挨拶を返してくれるので、この子は真面目なのだなとしみじみ思うのでした。誰かこいつをなんとかしてください。
それからしばらくは、年相応な会話を楽しみました。二人にばれぬよう気を使いつつあれこれと会話していて、なのはは思いました。
(ふむ。どうやら私に違和感を抱いていないようだな)
聞く前に解決してしまった、と少々肩すかしを喰らった気分でした。
少なくとも現状、普段通りと思しき反応です。なのはが何か言い、アリサが怒ったように反応し、すずかがそれを諌めるといった具合です。成程、となのはは思います。三人が自然と一堂に会するのは至極当然の成り行きなのでした。
二人では上手く回らなかったであろう話のやり取りも、三人揃うことで回転するだけでなく、より一層盛り上がるようになったのです。だからこそなのはは二人と親友になれたのでしょう。
なのはは少しだけ、元々いたであろう『高町なのは』という少女に罪悪感を抱きましたが、
(まぁそれはそれ、これはこれということだね)
二秒でポイ捨てするのですから人でなしここに極まります。
放課後になりました。
三人は私立の生徒らしく塾に通っているようで、勉強のことについて触れながらそれぞれ帰路に着きます。
勉強など我が障害に足りえずとばかりに全力全壊、もとい、全開でやり遂げたは良いのですが、国文系を苦手とする『高町なのは』がいきなり満点をとったことに驚いたアリサに、
「アンタまるで別人のように勉強できるようになったわね」
などと言われ瞠目してしまいました。
しかしこの程度でめげるなのはではありません。
「認めたくないものなの。人の、若さゆえの過ちというものは」
使いどころを間違えたいい加減な台詞でごまかすのでした。
人間、努力すればなんとかなるものです。アリサは近頃頑張っていたなのはの努力を察したようで、あまり深く追求しませんでした。良い子ちゃんです。
すずかは純粋に羨ましがっておりました。そういう邪気のない眼を向けられると困ってしまうなのはでした。邪悪な者ここに天敵と見なす。
さて、公園の近くを通り、家まであともう少しというところで、
『助けて……!』
と、切実なる悲鳴のような声が聞こえてきました。
『誰か……助けて……!』
再び、絞り出すかのような声が聞こえてきました。
再び、ソウルフルなシャウトが聞こえてきました。
大事なことなので二度言いました。
「ふむ。空耳かね」
平常心という言葉がまったく揺るがないなのはでした。
しかし、気になったのも事実ですので、声に導かれるまま進んでみることにしました。
公園の林の奥、そこから声が届いたようです。
なのははちょっと戸惑い気味……に見えて今にも鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で突き進みます。
すると、そこにはフェレットのような動物が倒れており、それに襲いかかろうとしている、妙なケモノがおりました。ケモノとしか形容できません。ケダモノといってもいいかもしれません。淫獣といってはいけません。
動物は怪我をしているのか、血を流しています。
ただ事ではない、なのははそう思いました。彼女にしては真面目な思考でした。
助けに行くべきかもしれない、けど、あの危ない場所に行けば自分も狙われる、けど結局次は自分が狙われるかもしれない、そうしたら……と、普通なら戦々恐々とするでしょうが、
「いや待て。まずは様子見すべきか。いやいや、獲物に夢中になってるうちにとっとと逃げるが吉かもしれない……!」
外道な考えが真っ先に浮かぶこの少女は平常運転でした。
が、さすがに殺されそうになる動物を見過ごすのは少しばかり後ろ暗いので、隙を見て走りこみ、動物を抱き上げました。
「き、君は……そうか、魔導師の才能があるのか……」
何故かしゃべりだす動物の言葉を無視して、とりあえずといった風に言いました。
「別にアンタのためにここに来たわけじゃないんだからねっ!」
じゃあ何のために来たんでしょうね。
しかも何故かアリサ風のリアクションでした。
原理は分かりませんが、動物はしゃべれるみたいです。
なので、なのはは問いかけました。
「アレは何? 怪我してるの? 魔導師って? 何故君はしゃべれるの? 私はどうすればいいの? ここは危ないよ? 逃げた方がいいんじゃない? 一緒に走れる? ところで昨今の日本経済についてどう思う?」
瀕死の相手に質問攻めする気概は天下一品でした。
「お、お願いだ……僕の代わりに、アレを封印して欲しいんだ……!」
なのはの発言を総スルーして動物は息切れしながらも言いました。
無視されてカチンときたなのはですが、さすがに動物相手に弱肉強食を叩きこむほど落ちぶれてはいませんでした。
しかしこの動物、僕と契約して、魔法少女になってよ! と言わない辺り、なかなか真面目さ加減マックスです。死にかけなんだから当然と言えばそうですが。
「ふ、ふぇ〜っ!?」
さも驚いたようなリアクションをするなのはでした。実際たいして驚いてないのは言うまでもありません。
むしろ驚いたのは、
(む! このリアクション、意外と汎用性が高い……使えるな!)
子供らしい言動をゲットした! と内心ガッツポーズするのでした。どうでも良いことでした。
動物は無言の肯定と受け取ったようで、力を振り絞るように言います。
「じゃあ、僕の言葉を復唱して……!」
「分かったの!」
いらんほど大きな声で返事しましたがそのせいでケダモノに目をつけられております。
「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は空に、そして不屈の心はこの胸に。この手に魔法を!」
彼なりに必死になって伝えているのでしょうが、初対面の幼い子供に延々と長ったらしい呪文を伝授するのは些か無理のある話です。
が、ここにいるのは常識がマッハで昇天する九歳児なので、
「我、使命を以下省略っ!」
全て端折りました。なんですかこの設定デストロイヤー。今更でした。
「「レイジングハート! セットアップ!!」」
声を一つにし、叫びました。
するとどうでしょう! 洗っても洗っても全く落ちなかった頑固な油汚れが! あっという間に落ちていって! まるで新品同様の輝きを取り戻したではありませんか!
……ではなく、日曜の朝から展開されていそうな光に包まれ回転しつつフリルがあしらわれた衣装が形成し、最後に杖が手の中におさまりました。
無論、【18禁】や【18禁】の箇所にはきちんと光の帯やら不自然な発光現象やらで隠されていました。残念無念。
「魔法少女、高町なのは! 参上っ!」
この少女、割とノリノリでした。
「気をつけて、まだ慣れない魔法だ。僕が誘導するから、言った通りにしてみて……!」
「ようがす!」
ようがす=分かりました
なんでそんな変な言葉知ってるのでしょうか。答えは戦いの後でわかるでしょう。少年は。
初めての魔法。初めての戦い。見知らぬフェレットに導かれ、危ない状況に巻き込まれても、少女はその瞳に、いつもの不敵な感情を宿しています。
自分は待っていたのかもしれない、こういう普段とは違うモノを。
さぁ行こう。なのははニヤリといつもの、しかしどこか違う感情を含めた笑みを携え、叫びました。
「なのは、行っきま〜す!」
キャラが違います。
説明 | ||
「世界を救って……」「無理に決まってるではないか」しかし目覚めると見知らぬ世界、見知らぬ身体。異なる世界から意識を飛ばされ、しかも魔法少女の体に乗り移った主人公!失った記憶と肉体と尊厳、所持するものは知識のみ!諦めろ、魔法少女が許されるのは子供のうちだけだ……!「ダメだよなのは!魔法使って暴力沙汰はいけない……!」やかましい。「では行こう。まずは話し合いだ」ただし肉体言語的な意味も含めて。 ※注意:この作品では主人公を筆頭に原作キャラが一人残らず人格或いは外見の改変を受けており変態の巣窟と化しております。あらかじめご了承ください。 | ||
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