IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「よう」
「ん?おお、一夏か」
俺は入学式の会場でもう一人の男のIS操縦者、織斑一夏と再会した。見た限りでは元気そうだ。
「大変だったな。家にIS関係者がぞろぞろ来たんだって?」
「そうなんだよ。千冬姉が来てくれなかったらヤバかったぜホントに」
一夏はそう言って肩を竦めて苦笑した。
「実はさ、千冬姉がここで働いてるってお前と会う少し前に知ったんだ。びっくりしたぜ。まさか俺とあの・・・・・、なんて言ったっけ?」
「山田先生?」
「そうそう。俺と山田先生から少し離れたところで試験の監視官をやってたなんて想像もしなかった」
「え、お姉さんの職業知らなかったのか?弟なのに?」
「いや、教師をやってるっていうのは知ってたんだけど、どこの学校かは教えてくれなかったんだ」
「怪しいとは思わなかったのか?」
「千冬姉は俺の一人だけの家族だからな。最初の頃は怪しいと思ったけど、しつこく聞いたら『黙れ』って言われて、そっから十分ちょっとの記憶が全くないんだ」
「へ、へ〜・・・・・」
初代ヴァルキリー、実の弟にも容赦なしか・・・・・。恐ろしい。
「あ、そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺は瑛斗。桐野瑛斗だ。よろしくな」
「瑛斗か。改めてよろしく頼む」
俺と一夏は握手した。同じ状況に置かれている身として、こいつとは仲良くなっておきたい。
「きゃ!見て見て、本当にいたわ!」
ふと見ると、俺と一夏は大量の女子の新入生の視線を浴びていた。そ、それにしてもすごい数だ。本来ここ、IS学園は女子生徒しかいない。ISの操縦ができるのは女性だけだからだ。そんな学校に放り込まれた男二人。格好の注目の的になるのは自然の理というやつなのだろうか。
「一夏、そろそろ始まるぞ」
俺は時間を確認して一夏に言った。入学式開始まであとそう何分もない。
「あ、そ、そうだな」
俺と一夏はそそくさとパイプ椅子に座った。それと同時に入学式開始のアナウンスが聞こえた。
IS学園は学園とついているがIS操縦の技術向上の為のでも機関である。ISを操縦できる人間を政府が保護、という形でこの学園は成り立っているのだ。そんな機関であるからか、入学式の後には普通に授業があった。
「あ、お、織斑一夏です」
しかし今は一SHRをつかった自己紹介タイムの真っ最中である。出席番号中なので、俺より大分先に一夏が自己紹介することになっている。同じクラスとは有り難い。さて、29人の女子を前にどんなことを言うのか?
「え、えーと、あの・・・・・」
目が助けを求めるように漂っている。まあ確かにこの『まだ何かしゃべるよね?』的な空気にさらされれば無理もないか。ん?俺のことをじっと見ているぞ?悪いがお前をこの状況から助けるのは無理だ。
他をあたってくれ。
「あ、以上です」
がたたっ、と数人の女子生徒がずっこけた。ふっ、ドンマイ一夏。さあて、俺も腹くくるか。
「えっとじゃあ、次は・・・桐野君」
少々サイズがあっていない眼鏡をかけた山田先生がついに俺の名前を呼んだ。ちなみに先生は副担任である。担任は誰なのかまだ通知は出ていない。
「あーこほん。初めまして。桐野瑛斗です。先日崩壊した宇宙ステーション〈ツクヨミ〉から地球に降下してきました」
お、くすくすと笑いが出た。掴みは上々だろう。しかし嘘は言っていない。
「そこのIS研究所で研究員としての仕事をし―――――」
ズッパァァン!と頭に突然、衝撃が走った。一体何が起きたんだ?っ痛ぁ!?なんだこの痛みは!?
「馬鹿者。おいそれと情報を流出するんじゃない」
あ、織斑先生だ。そう言えば俺がここに来た時も一夏にお見舞いしてたな。出席簿チョップ。
「お、織斑先生、いきなりそんな・・・・・」
山田先生が困ったように言う。しかし織斑先生は全く意に介さず俺たち一年一組に向けて告げた。
「私が諸君の担任を務める、織斑千冬だ。お前たちを使い物になるIS操縦者に育てるのが私の仕事でもある。よって、指導は厳しく行うぞ。指導を受けたい者は名乗り出ろ。いつでも相手になってやる」
な、なんという暴力発言。そう言えば一夏が姉にぴったりのBGMはターミネーターかダースベーダーだと言ってたな。なんとなく分かるぞ。
「きゃあーーーー!千冬様よ!本物の千冬様よ!」
「ずっと憧れてました!」
「ああっ!織斑先生の指導・・・受けてみたぁい!」
な、なんだなんだ?女子たちが一気に沸き立ったぞ?しかしこれはチャンスだ。俺は気付かれないようこっそりと自分の席に戻った。
「やれやれ、毎年毎年よくもまあこんなに集まるものだ」
織斑先生はため息をついた。
「静まれ!これから一時間目の授業を始める。全員、授業の準備をしろ!」
織斑先生の一喝で全員速やかに授業の準備を整える。一時間目は、確かISの基礎知識とかだったか?まあ、俺は散々研究所で教えられたからな。そこらへんはバッチリだ。
「うぁー・・・・・」
一時間目が終わった休み時間。うめき声を上げているのは一夏だ。専門用語が多すぎて頭が完全に混乱しているようだった。
「大丈夫かおい?」
俺が声をかけると一夏は机に突っ伏したまま答えた。
「ヤバい・・・・・」
ふむ、やっぱりISの『ア』の字も知らないやつには酷だったかな?と思っていると大量の女子が俺と一夏に詰め寄ってきた。
「織斑君!織斑君って千冬様の弟さんなの!?」
「桐野君!宇宙ステーションから来たって本当なの!?」
「二人とも、今ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」
す、すごい気迫だ。何か後ろでは整理券みたいなの配ってる商魂逞しい人もいるぞ。すると一夏の前に一人の女子が立った。
「・・・・・箒」
一夏がポツリとつぶやく。箒、と言うのは名前だろうか?はて、どこかで・・・・?
「・・・話がある」
箒と呼ばれて女子は、一夏を連れて教室を出て行った。・・・待てよ?一夏が居なくなったってことはつまり・・・・・?
「「「「「桐野君!」」」」
ああ、やっぱり・・・・・。
「―――――であるからして、ISの基本的な運用には現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ―――――」
二時間目、山田先生がISのごくごく基本的なことを教科書を見ながら述べている。ふわぁ、おっと欠伸が出ちまった。全部ステーションで所長が教えてくれたことだ。しかも8年間、ほぼ毎日と言っていいだろう。俺は退屈なのでちらと悪戦苦闘している一夏の方を向いた。大変そうだなぁ。事前勉強とかはしてこなかったんだろうか?
「え〜と、織斑君、桐野君。どこかわからないところはありますか?」
「いえ、ありません」
「全部わかりません」
ワーオ、一夏。全部と来たか。流石の山田先生も顔を引きつらせてるぞ。このあと、織斑先生が俺が一夏にISについてしっかり教えるようにと言ってきた。別に構わないが、なぜ俺?
「そう言えば、さっきの箒って誰なんだ?」
俺は二時間目の終わった休み時間に一夏に聞いた。
「箒は俺の幼馴染でな。フルの名前は篠ノ之箒っていう」
「篠ノ之・・・・・、篠ノ之ってまさか!」
俺は近くにいた箒の前に立った。
「君が篠ノ之博士が話してた妹さんか!いやぁ、話は聞いてる!」
「え、な?」
突然のことに箒は一歩たじろいだ。そして一夏の方をジロリと睨んでから俺に向き直った。
「あ、姉を知ってるのか?」
「知ってるもなにも!彼女は一年前に俺のいた研究所に来てたんだよ!最初はなんか冷たい感じがしたんだけどさ、IS関連の話になって武装のアイデアを見せたらすっかり意気投合しちゃって、博士は?元気?」
「そ、そうまくしたてないでくれ。それと姉とは・・・一年間連絡を取ってない・・・・・」
箒は顔を曇らせた。どうやら気に障ったらしい。
「そ、そうだったのか。ごめん・・・・・」
「あ、いや、謝ることは無い。だが、なるべく姉の話はしないでほしい・・・・・」
ううむ、少し雰囲気が暗くなってしまった。どうにかしなければ。そう思っていると後ろから
「ちょっと、よろしくて?」
と声をかけられた。振り向くとロールがかかった金髪が鮮やかで、白人特有のブルーの瞳がややつり上がった状態で俺と俺越しに一夏を見ている女子がいた。ちなみにIS学園は多国籍の生徒を受け入れなくてはならないため、外国人なんて珍しくとも何ともない。
「なにか用か?」
一夏がそう答えると彼女はわざとらしく声をあげた。
「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけれらるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
うぉ、面倒なタイプだな。心からそう思った。
「悪いけど、俺、君が誰なのか知らないし」
俺も頷く。
「ああ。はっきり言おう。誰?君?」
「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」
へー、セシリアって言うのか。イギリスの代表候補生か。ふーん。
「なあ、瑛斗」
「なんだ?一夏?」
俺は話しかけられて一夏の方を向く。
「代表候補生って何?」
俺は危うく卒倒しそうになった。まさか・・・ここまで知らないとは・・・!
「あ、あ、あ・・・・・」
ん?セシリアがワナワナ震えだしたぞ?
「「『あ』?」」
「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」
爆発寸前のセシリアをスルーし、俺は一夏に説明する。やれやれ、参ったぜ。
「いいか?代表候補生っていうのはその国の国家代表IS操縦者の事で、その候補生っていうのが代表候補生ってわけだ。まあ、分かりやすく言っちまうとその国のIS操縦のエリートってことだ」
説明を終えると一夏はポンと手を打った。
「なるほど。エリートか」
「そう!エリートなのですわ!」
セシリアがもとの口調に戻って、俺の鼻に着きそうなくらいビシッと俺の顔を指差す。
「全く・・・ISを操縦できる男と聞いて少しは知的さを感じさせると思ったら、とんだおバカさん達ですわね」
ちょっとまて。俺はちゃんと分かってたぞ?なぜ俺も含めるんだ。
「大体、そこのあなた!織斑さんでしたっけ?あなたそんなにISのことを知らなくて良くこの学園に入学できましたわね。まあ、唯一教官を倒したわたくしに、泣いて頼めば教えて差し上げないこともなくってよ?」
とセシリアは一夏に向って言った。つくづく面倒なヤツである。
「ん?入試ってもしかしてIS動かして戦うやつか?」
一夏が言うとセシリアは目を細めた。
「それ以外になにがありますの?」
「ああ、それなら俺も倒したぞ?」
ほう、凄いな一夏。入試の内容をクリアしたのか。・・・・・って、え?
「それでそのあとすぐに流れ星みたいなのを見つけて、それが人の形をしてたから落ちて行ったところに行ったら、瑛斗がいたってわけだ」
ああ、それはおそらくビームシールドを最大展開したG−soulを装着した俺だ。やっぱり誰かに見られてたんだな。
「今はそんなことどうでもいですわ!わたくしが言いたいのは―――――」
キーン、コーン、カーン、コーン。
話に割って入ったチャイムの音に話の腰を折られたセシリアは
「ああ、もう!この話はまた後ですわ!逃げないでくださいね!よくって!?」
と言いながら自分の席に戻った。それと同時に織斑先生が入ってきた。
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