IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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あれから数日経った。鈴は相変わらず不機嫌で、あからさまに一夏を避けている。時折すれ違うが、何故か俺まで睨まれる始末だ。しかし大変なのは一夏本人で、鈴の事を気にして気が気じゃないようだ。

 

「はぁ・・・」

 

教室で一夏が重いため息をついている。大分気が滅入っているようだ。どうにかしてやりたいが問題が問題だから俺にはどうしようもできない。

 

『一年一組桐野。至急職員室まで来い』

 

ん?呼ばれたぞ。この声は織斑先生だな。一体なんの用だろうか?俺は椅子から立ち上がり、職員室まで向かった。いつもなら女子がついてくるが、俺を呼んだのが織斑先生というだけあって誰もついてこない。まあ、その方が良いんだが。

 

「来たな。ついて来い。お前に客だ」

 

「客?」

 

織斑先生は俺が職員室に着くなり俺を寮の裏手の海辺に連れてきた。そこには見覚えのある輸送機の姿があった。

 

「ロウディ・・・」

 

俺の目の前にたたずんでいるその機体は大型の機械やISを高速で運搬できる輸送機、ロウディだった。

〈ツクヨミ〉の中にあった資料に書かれていたものと全く同じだ。

 

「で、先生。客っていうのは―――」

 

「あ!瑛斗!こっちこっちー!」

 

上部の操縦室からワイヤーを使って降りてきたのは懐かしい顔だった。

 

「エリナさん!」

 

声の主はエレクリットの技術開発者、エリナ・スワンさんだった。

 

「やー!やっぱり生きてた!三年ぶり?とにかく元気そうで何よりだわ!」

 

言いながら俺の手をブンブン振るエリナさん。相変わらず元気だなぁ。

 

「あー、ゴホン。スワンさん、要件は?」

 

織斑先生が咳払いし、話を進ませる。そうか、客っていうのはエリナさんのことか。

 

「あ!そうだった!瑛斗、早く乗んなさい!間に合わないわよ!」

 

「はえ?」

 

俺は全く話の内容が掴めない。

 

「ああもう!早く乗る!」

 

「へ?え?」

 

俺は何も言えないままロウディの操縦席の横の座席に放り込まれ、シートベルトを着けられた。何事?

 

「じゃ、今日一日この子借りますねー!」

 

エリナさんはそう言ってハッチを閉めて操縦桿を握った。

 

「行くわよー。舌噛まないでね!」

 

ゴウッ!とものすごい轟音と共にロウディは発進した。ああ、Gがめちゃくちゃキツイ・・・

 

 

「よし、自動操縦オン!」

 

それから数分後、ロウディを自動操縦に切り替えたエリナさんはシートベルトを外した。俺もそれに習ってシートベルトを外す。

 

「えっと、エリナさん。状況の説明をお願いできます?」

 

俺はずっと気になっていたことを聞いた。するとエリナさんは静かに答えた。

 

「今日はね・・・、〈ツクヨミ〉の犠牲者たちの追悼式典をエレクリットの本社で執り行うのよ」

 

「・・・・・・」

 

そうか。今日だったのか・・・。

 

「社長がね、瑛斗は来ても辛いだけだろうからって最初は呼ぶつもりはなかったの。でもそれじゃダメだと思って社長に無理言ってロウディを借りて瑛斗を迎えに来たの」

 

「そうなんですか。わざわざありがとうございます」

 

それこそ呼ばれなかったと後から知った方がよっぽど辛い。俺はエリナさんの厚意に感謝した。

 

「いいのよ、これ以上瑛斗に辛い思いはさせたくないから・・・」

 

「はあ」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「その、すいませんでした。あんまり連絡取れなくて」

 

「ああ、いいのよ別に。あなたの顔が見れてホッとしたわ」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

ヤベ、話が全然弾まねえ。凄く気まずい・・・。

 

「学園生活はどう?友達できた?」

 

エリナさんは俺に顔を向けて聞いてきた。

 

「はい。俺とは別の男でISを操縦できる奴とその幼馴染とあとイギリスの代表候補生ですね」

 

「ふふっ、面白い面子ね」

 

「そうなんですよ。後もう一人そいつの、一夏って言います。そいつの幼馴染がいるんですけどね、中国の代表候補生なんですけど、一夏がその幼馴染との約束忘れてて、その候補生が怒って未だに機嫌が悪いんですよ。こっちも八つ当たり食らっていい迷わ―――――」

 

見るとエリナさんの目に涙が浮かんで、ポロポロと零れ落ちていた。な、なんだ?俺なんか悪いこと言ったか?

 

「あの・・・エリナさん?」

 

恐る恐る聞くと、エリナさんは俺をギュッと抱きしめた。

 

「良かった・・・本当に良かった・・・!あなたが落ち込んでるんじゃないかって、ずっと心配してたわ・・・・・。でも楽しそうにやってるみたいね。本当に良かったわ・・・」

 

「エリナさん・・・」

 

そんなに俺の事を思っていてくれてたのか。なんか、こう、照れくさいっていうか何と言うか・・・。

 

「元気そうでよかったわ。所長も喜んでるわ」

 

涙を拭い、笑いながらエリナさんは言った。

 

「さ、しばらく時間があるから、あなたのISの事も教えてちょうだい?」

 

「ああ、分かりました」

 

それからエレクリットの本社のあるアメリカに着くまで、俺はエリナさんとG−soulのデータを分析した。

 

 

 

 

「瑛斗、瑛斗ったら。起きなさいって」

 

「う、うぅん?」

 

「もう。ほら、もうすぐ学園に着くわよ」

 

夜、式典を終えた俺は、エリナさんの操縦するロウディに乗って学園に戻っていた。式典と言っても、エレクリットの社長が『彼らの遺志は我々が―――――』とか何とかのスピーチををして、献花をして終わりだった。ひょっとすると俺個人がみんなの墓標の前にいた時間の方が長いかもしれない。

 

「やっぱり・・・、辛かった?」

 

エリナさんが覗き込むように俺を見ながら言った。

 

「いや、別に・・・。辛いってことは―――」

 

ない、と言えば嘘になるな。やっぱりみんなの事を思い出すと胸が締め付けられる思いがする。

 

「正直に言ってくれていいのよ?その方が――――――」

 

prrrrrとエリナさんの携帯電話が鳴った。

 

「はいもしもし。・・・・・ええ!?今から!?そんなこと言われても・・・。分かったわ。すぐ向かう」

 

ピッと電話を切り俺に向き直ったエリナさんはシートベルトをつけた。

 

「瑛斗、ごめんなさい。急いで本社に戻らないといけなくなっちゃったの」

 

「はあ・・・」

 

「だからね、島の上空に着けるから、あとはIS使って自分で戻ってくれる?」

 

「へ?」

 

この人は何を言ってるんだろう?

 

「うんとね。分かりやすく言うと、ここで降りてってこと」

 

てへっ、ってそんな可愛い感じで笑われても・・・。

 

「じゃあ、そこにIS用のスーツがあるからそれに着替えて。服はその鞄に入れていくといいわ。準備ができたら言ってちょうだい。コンテナの方のハッチ開くから」

 

そう言ってコンテナへの移動用の通路の扉を開き、指差したエリナさん。しょうがないか・・・。

 

 

「準備いいですよー・・・・・」

 

俺はG−soulを展開し、通信回線でエリナさんに報告する。ちなみに俺の手にはアタッシュケースのような鞄が一つ握られていている。

 

「本当に!ほんっっっっとうにごめん!今度また会いに行くから!それじゃね!」

 

カタパルトから射出され、俺は自由落下に入った。あーあ、いつかもこんなシュチュエーションあったな。デジャブ?

 

「・・・・・・・」

 

しかぁーし!そんな俺も進歩はしてる。今度は不時着なんかしないぞ!俺はぐんぐんと加速し、急降下の体勢に入った。

 

「ひゃっほーっ!」

 

俺は寂しさを振り切るように声をあげて、地面すれすれで急停止した。

 

「ふっ、我ながらなかなかの操縦技術」

 

一人でドヤ顔をしてみる。まあ、誰も近くにいないんだけどね。そう思ったのも束の間、人の足音が聞こえた。

 

「? ・・・!」

 

俺はその来訪者の顔を見てさっと身をかがめた。その来訪者とは鈴だった。

説明
輸送機からスカイダイビング
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