IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「う・・・うぅん」
目が覚めると俺は見知らぬ部屋のベンチで寝かされていた。どこだここは?西日が差してるってことはもう夕方か。
「気がついたか?」
「あ、織斑先生」
俺の前に担任の織斑先生が立っていた。
「あれ?俺どうしてこうなったんだっけ・・・?」
確か、BRFであの無人ISのビームを打ち消せなくて、流れ弾から鈴を一夏が庇って・・・。
「そうだ!一夏っ!」
バシッ!と立ち上がった俺の頭に織斑先生の出席簿が振り下ろされる。いつの間に出したんだ・・・。
「落ち着け馬鹿者。ここは保健室だぞ。それと織斑はあそこだ」
織斑先生は奥にあるカーテンで仕切られたベッドをあごでしゃくった。
「お前はバリアがあったから大事には至らなかったが、あの馬鹿は、バリアを消してビームを受けた」
「バリアを消した?そんなことできるんですか?」
「さあな。まあ、何にしても軽い全身打撲で済んだだけ良しとするか」
全身打撲が軽いって、どこが軽いんだ。
「それに、一人しかいない弟に死なれては困るからな」
「・・・、優しいんですね」
「ふっ、そりゃあ、私の弟だからな。では私は色々やらなければならない事があるから、後の事は任せたぞ」
そう言って織斑先生は扉に手をかけ、ピタと動きを止めた。
「ああ、騒がしいやつらが来るかもしれんが気にするなよ?」
「はあ」
騒がしいやつら?誰の事だろうか?そして織斑先生は出て行った。
「ん?うぅん・・・」
お、一夏が起きたな。俺は仕切りのカーテンを開けた。
「よう、気がついたか」
「瑛斗?」
「あっと、あんまり体を動かすなよ?軽い全身打撲だそうだ」
「全身打撲のどこが軽いんだよ?」
うん、俺もそう思う。
「あー、その、悪い。俺がBRFでビームを打ち消せなくてその打ち消せなかったビームの流れ弾を鈴から庇ってお前はそうなったんだ」
俺は一夏に謝る。もう少しBRFの活動時間が長かったらな。今度調整しないと。
「そうか、鈴は?」
「さあ?ここは保健室だからな。ここに居ないってことは無事だってことだろ?」
「そうか。よかった」
一夏はホッと息を吐いた。
「実はお前が昨日居なかった間に鈴と口喧嘩しちまってさ。早く謝りたいんだ」
なんだ。こいつも謝りたかったのか。
「どんな口喧嘩したんだ?」
「言うわけないだろ。そんなこと」
「ふーん。なあ、お前、どうやって絶対防御を解除させたんだ?」
俺が聞くと一夏はキョトンとした。
「え?絶対防御って解除できないシステム根茎じゃないのか?」
「そうだから聞いてんだろ?無人機と言い、それと言い、ここには興味をそそるものが多すぎる」
「お、おお・・・さすが元IS研究所の研究員」
「今も現役バリバリだぞ?」
俺が苦笑すると、わざとらしい咳払いが聞こえた。どうやら騒がしいのが来たみたいだ。
「よう、箒」
「う、うむ」
友人のファースト幼馴染は腕組みをしてふんと鼻息を漏らした。
「あ、あのだなっ。今日の戦いだがっ」
ん。そう言えばどうなったんだろうか。
「やっぱり無効試合か?」
「あ、ああ。それは当然だ。あのようなことがあってはな」
そうか。ま、そりゃそうだよな。アリーナ壊れたし。
「一夏、お、お前は何を考えてるんだ!」
「へっ?」
いきなり箒が一夏に怒鳴った。ど、どうしたんだ、いきなり。
「勝てたからいいようなものの・・・・・あのような事故は先生方に任せておけば良かっただろう!?過剰な自信は身を滅ぼすということを知らんのか!」
「悪い。知らん」
「お、お前と言うやつは・・・!」
ワナワナと震えだす箒。どうやらそろそろ引き際のようだ。
「じゃ、じゃあ俺は戻るぜ」
「あっ、そ、そうか」
俺は扉に手をかけて、ピタと動きを止める。織斑先生の真似だ。
「あ、そうそう。箒、一夏には隠せても俺にはお見通しだぜ?心配してたんだろう?一夏のこと」
「・・・・・ッ!?」
ボッと箒の顔が赤くなる。図星図星。
「じゃ、そういうことだから」
俺は保健室を出た。扉の向こうから聞こえてくる会話はあいつらのプライベートだから聞かないでおくことにしよう。
「よ。やっぱりここにいたのか」
保健室から出た俺は、昨日鈴と出くわした場所にやって来た。そこには案の定鈴がいた。
「瑛斗・・・。何か用かしら?」
鈴はつんとした態度で腕を組んでそっぽを向いた。こいつめ。
「別に〜?用ってわけじゃないけど、一夏が目を覚ましたぞ」
「! そ、そう?良かったじゃない?」
「・・・・・行かないのか?もう箒は来てたぞ?」
真っ先に来ると思ったんだがな。俺の予想が外れた。
「そ、そう。で、でも、アタシにはアタシのタイミングと言うか、心の準備と言うか、その・・・・・」
なんかモニョモニョ言ってるな。早く行ってやれっての。
「一夏も昨日のこと謝りたいってよ。お前ら、昨日口喧嘩したんだって?」
「うぐっ・・・」
すると鈴は自分の胸を押さえて呻いた。ははぁ・・・、そう言うことか。
「もしかしておま―――――」
ゴスッ!と鈴の鉄拳を受けた俺は宙を舞った。IS展開した状態で殴られなかっただけよしとするか。いや、全然よくないけども。
「変なこと考えるんじゃないわよ?アタシの衝撃砲がアンタに地獄を見せることになるわ」
「わ、わかったわかった・・・・・」
俺はムクと起きて、立ち上がる。
「ま、何にしても早く行ってやれよ?」
「うん・・・。あのさ」
「ん?」
「ありがと・・・・・」
「・・・・・」
なんだ。素直なところあんじゃねえか。今の殴りが無けりゃもっと良いのに。
「じゃ、じゃあね!」
鈴はタッタッタと走って林道の中に消えて行った。俺はそれを見送ってから携帯電話を取りだし、電話をかけた。
「あ、もしもし?エリナさん?」
『おー、どうしたの?』
通話の相手はエリナさん。少し技術開発者としてのあの人に用がある。
「なあ、エリナさん」
『ん?』
「無人で動くIS、ってあると思う?」
『・・・・・』
エリナさんは沈黙した。
『瑛斗、ISは無人じゃ動かないわ。それはあなたが一番よく分かってるんじゃないかしら?』
「そっか、やっぱりそうですよね。じゃ、仮に、仮に本当にあったとしたら?」
『妙にしつこいわね?まあでも、本当にそんなのがあったら人には扱えないような兵器、装備、その他の非人道的な任務なんかが可能じゃないかしら』
「そうですか。ありがとうございます」
『どうしたのよ?いきなり電話でそんなこと聞いて?」
「いえ、別にどうということはありませんよ。気まぐれです。それじゃ」
俺は電話を切った。人に扱えないような兵器や装備、はたまた非人道的な任務・・・ね。
「なんか、俺たちの知らないところで何かとんでもないことが起こってる気がする・・・」
俺は沈みかけた夕日を見ながらつぶやいた。
そうそう、あの後、無事、鈴と一夏は仲直りしたそうだ。よかったよかった。
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