IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「よっし着いたぁ!」
「うわ、時間ギリギリだな。早く着替えようぜ!」
「おう!」
ババッと俺と一夏は制服とシャツを脱いで上半身を裸にした。男の着替えなんて早いもんだ。
「わあっ!?」
シャルルが突然大きな声をあげて顔を覆って俺たちに背を向けた。どうしたんだ?
「荷物でも忘れたのか?ってなんで着替えないんだよ?」
「早く着替えろよ。俺たちの担任の先生はそりゃもう時間にうるさい人でな―――――」
「う、うんっ。着替えるよ!着替えるけど、・・・・・あんまりジロジロ見ないで?」
「お、おお・・・・・」
言われて俺と一夏はシャルルに背を向けた。なんなんだろうか。フランスでは男同士でも肌を見せ合っちゃいけない習慣でもあるんだろうか?・・・ん?視線を感じるぞ?
「「シャルル?」」
「なっ、何かな!?」
振り返るとシャルルがこっちに向けていた顔を壁に向けてISスーツのジッパーを上げていた。
「うわ、着替えるの超早いな。なんかコツでもあるのか?」
一夏がシャルルに聞いた。
「い、いや、別に・・・・・、って二人ともまだ着替えないの?」
「「あ」」
そういやまだ着替えの途中だった。俺と一夏は揃って、ISスーツを腰まで通したところで止まっている。
「これ、着るとき一回裸になんなきゃいけないのが面倒だよなぁ。引っかかって」
「まあそう言うなよ。こうじゃないと上手くISに動きを伝達できないからさ。でも確かに面倒だよな。引っかかって」
「引っかかって?」
「「ああ」」
「・・・・・」
急にシャルルが顔を赤くしたぞ。変な奴だな。おそらく一夏もそう考えているだろう。
「さ、着替えも済んだことだし、さっさと行こうぜ」
「ん?ああ」
「そ、そうだね」
俺が一夏とシャルルをドアの方に促した。更衣室を出て、グラウンドに向かう途中で一夏がシャルルのISスーツを見て言った。
「それにしてもシャルルのスーツって着やすそうだな。どこのやつ?」
ん、確かに見たことのないタイプだ。オーダーメイドだろうか?
「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品なんだ」
「デュノア社?どっかで聞いたな?」
おいおい、お前は。
「デュノア社と言えばIS生産で三位のフランス一の大手企業だろう?それくらい覚えとけよ。・・・デュノア?」
「う、うん。僕の父はデュノア社の社長なんだ」
「へえ!そうなのか!道理で!」
一夏が納得したような声をあげる。
「なんかそんな感じがしてたんだよ。なんかこう、良いところの育ち!って感じがする」
「いいところ・・・・・ね」
ん?シャルルの顔が心なしか暗くなった気がする。触れてはいけない話題だったのだろうか?
「それより、一夏と瑛斗の方がすごいよ。一夏はあの織斑千冬さんの弟さんで、瑛斗は宇宙ステーションでISの研究をしてたなんて」
「いやあ、そんなことねえよ」
「ハハハ、こやつめ!」
「へ?」
「ど、どうしたんだよ。急に・・・」
ちょっと面食らってしまう俺とシャルル。一夏はたまに妙なことを言うことがあるから困ったもんだ。
「あ、い、いや!なんでもない。まあお互い地雷を踏んで一機ずつ減ったってことで」
自分で言ってやっちまったって顔してやがる。そうなるとわかってんなら言わなきゃいいのに。
「・・・・・いやいや。それはマズイ。さすがにマズイだろ」
「「?」」
またなんか変なこと考えてたなこいつ。これに何年も付き合ってた箒と鈴はすごいな。
「・・・・・ゴホン。シャルル君、瑛斗君。物理の問題です」
「「なんで、君付け?」」
「いいから。高速下での運動のおける物体aが受ける抵抗力は?」
「「物体aの速度に二乗―――――」」
「そういうことだ」
だめだ。一夏が考えてることがさっぱり皆目見当がつかない。何を言ってるんだこいつは。
「・・・・・」
見ろ、シャルルだって黙りこくっちまってるぞ。
「ぷっ・・・・・あははっ!なにそれ。ふ、ふふっ、一夏っておかしいなぁ」
と思ったら急に笑い出した。もしかしてシャルルのツボにハマったのか?いやいや、それは無いだろ。
「同じ笑われるなら『ハハハ、こやつめ!』で返して欲しかったぜ・・・・・」
「もー拗ねないでよ。一夏のギャグセンス、褒めたんだから」
「おいおいシャルル。あんまり一夏を褒めるなよ?すぐ調子乗るから」
「俺は褒められると伸びるタイプなんだ!」
「はいはい。わかったわかった」
「遅い!」
第二グラウンドに無事到着、なんて上手いことは行かなかった。あーあ。やっぱりそうなるよな。鬼が腕組みして仁王立ちで立っている。
「さっさと並べ!」
バシーン!ご指導ありがとうございます。そんなわけで俺たちは一組の一番端の列に加わる。
「ずいぶん遅かったですわね?」
横からセシリアに声をかけられた。四月以降はやたらと俺や一夏に構ってくる。
「スーツを着るだけでそんなに時間がかかるものかしら?」
「道が混んでたんだよ」
「ウソおっしゃい。いつもは間に合うくせに」
なんだよ、なんか棘のある言い方だな。姉キャラポジションは一夏の場合は織斑先生で埋まってるぞ?
「さて、メンバーは全員揃ったな。それでは実戦訓練を始める」
織斑先生がそう言うと、
『はい!』
と気合の入った返事が返ってきた。まあ、一組と二組が合同で訓練することもあるからだろうが。
「今日は戦闘を実演してもらう。ちょうど元気な十代女子もいることだしな。凰!オルコット!」
「ええっ!?」
「な、なぜわたくしまで!?」
突然名指しされて驚くセシリアと鈴。そう言えば鈴は二組だったな。
「専用機持ちはすぐに始められるからな。ほら、さっさと前に出ろ」
「くぅ・・・」
「なんで私まで・・・・・」
渋々前にでるセシリアと鈴。すると織斑先生が二人の肩に腕を置いてなにやら耳打ちをした。
「やはりここはイギリス代表候補のわたくしの出番ですわ!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よねっ!専用機持ちの!」
おお?急にやる気を見せるセシリアと鈴。一体織斑先生は何を言ったんだ?
「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんが相手でも構いませんが」
「ふんっ!返り討ちにしてやるわよ!」
「慌てるな。相手は――――」
織斑先生が何かを言おうとした瞬間、
キィィィィィィン!
と風を切る音が聞こえた。
「きゃあああ!ど、どいてくださいーっ!」
「ぐふっ!?」
「げはっ!?」
突如飛来した何かに吹っ飛ばされる俺と一夏。結構飛んだな。
「ふぅ、G−soulの展開がもう少し遅かったらヤバかったぜ」
むにゅ。
「ふぅ、白式の展開がもう少し遅かったらヤバかったぜ」
むにゅ。
「「・・・・・むにゅ?」」
はて、この手にある感覚は一体?それにしても地面ってこんなに柔らかいものだったか?
「あ、あのう、二人とも・・・・・ひゃんっ!」
ま、まさか・・・。俺と一夏はおそるおそる手の方を見る。
「そ、その、ですね。困ります・・・・・こんな場所で・・・。いえ!場所だけじゃなくてですね!私と織斑君と桐野君は教師と生徒の関係でですね!こういうのはちょっと・・・。そっ、それにですね!私には三角関係はまだ・・・・・」
山田先生。山田先生だった。正確には山田先生の胸に俺と一夏は手を添えている。だが、問題は俺達の体勢だ。一緒になって吹っ飛んで、ゴロゴロと転がったおかげで、山田先生を俺と一夏が押し倒しているような体勢になっているのだ。それとさっきの『添えている』は間違いだ。はっきり言うと、俺達は山田先生の胸を鷲掴みにしている。
「っ!す、すいません!」
俺は慌てて手を離す。は、初めて触ったぞ。女の人の胸なんて・・・!柔らかかったなぁ・・・・・。って、何考えてるんだ俺は!
「・・・・・」
「おい一夏!なにボケッとし―――――」
「うわっ!」
刹那、さっきまで一夏の頭があったところを見覚えのあるレーザービームが通り過ぎた。
「ホホホホホ・・・・・。残念です。外してしまいましたわ・・・・・」
振り返るとスターライトmkVを構えたセシリア(大逆鱗バージョン)がひきつった笑いを浮かべていた。こ、怖い。泣いてない子供も一度泣くけど一周回って黙り込むほどの形相である。
「・・・・・」
ガシーン、と何かが連結する音が聞こえた。うーん。俺の記憶が正しければこれは、鈴の武器の大型剣の〈双天牙月〉を連結させて巨大な青竜刀の薙刀を形成したときの音だ。確かアレは投擲武器としても使えて・・・、そうそう。あんな感じに振りかぶって―――
「「おわああっ!?」」
俺と一夏に投げられたそれはなんの躊躇いもなく首を狙ってきていた。おそらく二人の狙いは一夏だろう。ってことはなにか?俺巻き添えじゃん!
「「いっ!?」」
避けた反動で仰向けにひっくり返った俺と一夏は絶望的な光景を目にした。ブーメランの要領で双天牙月が戻ってきたのだ。
「ヤベッ!?」
俺はビームガンを使って軌道を変えようとするが、何せ鈴が全力で投げた武器。そう簡単に軌道を変えることはできない。
「はっ!」
ドン!ドン!と短い火薬音が二つ。弾丸は的確に牙月の両端に当たり、見事軌道を変えてくれた。
「・・・・・・・」
俺は助けてくれた人の顔を見て呆気にとられた。助けてくれたのはなんと山田先生だった。いつもの、あのアワアワとした様子は感じられず、落ち着き払っている。
「・・・・・」
どうも驚いたのは俺だけでは無いらしく、一夏や鈴、セシリア、ほかの女子も皆呆気にとられていた。
「ふっ、お前たち、いつまで呆けている?というわけで凰とオルコットの相手は山田先生だ。こう見えても山田先生は代表候補生だったんだぞ」
「む、昔のことですよう。それに候補生止まりでしたし・・・」
織斑先生が何事もなかったかのように進行をしようとする。山田先生もすっかりいつもの山田先生に戻り、照れたように顔を赤くしている。
「え?あの、二対一で・・・・・?」
「いや流石にそれは・・・・・」
セシリアと鈴が難色を示す。まあ、フェアに戦いたいっていうプライドがあるんだろう。
「安心しろ。今のお前らでは絶対に勝てないからな」
ムカッ、と音が聞こえた。
「では、はじめっ!」
織斑先生の合図とともにセシリアと鈴は飛翔し、それを確認してから山田先生も空に舞った。
「手加減はしませんわ!」
「さっきは本気じゃなかったしね!」
「い、行きます!」
言動こそ山田先生だが、目は先ほどと同じように冷静な目をしている。
「・・・さて、今の間にデュノア。山田先生の使っているISについて説明しろ」
「はい。山田先生が使っているのは〈ラファール・リバイブ〉です。第二世代最後期に生産され―――」
シャルルが説明を始めていたが、俺は散々ツクヨミの資料で見たのでじっくり山田先生と鈴、セシリアペアの戦闘を見た。思いのほか決着は早かった。
ヒュルルル―――ドッゴォォン!
盛大な土煙を上げながら鈴とセシリアは地上に落下した。
「ぐっ、うう・・・。まさかこのわたくしが・・・・・」
「あ、アンタねぇ、何面白いように誘導されてんのよ・・・・・」
「鈴さんこそ!あんなに簡単に攻撃を躱されて!」
「なによ!」
「なんですの!」
うぐぐぐといがみ合っているセシリアと鈴。やめなさいって。皆くすくす笑ってるぞ?
「さて、これでお前たちもIS学園の職員の実力がよく分かっただろう。以後は敬意をもって接するように」
・・・もしかして、最後の一言は山田先生に対する生徒の態度のことを言ったのか?そうなら、なんて部下思いの良い教師なんだ。やっぱりなんだかんだ言ってあの人は優しいところがある。
「専用機持ちは織斑、桐野、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」
「織斑君!一緒に頑張ろう!」
「桐野君、分かんないところ教えて〜」
「デュノア君の操縦技術見たいなぁ」
「ね、ね、私もいいよね?同じグループに入れて!」
何と言うか、すごい繁盛っぷりだ。沢山の女子が押し寄せてくる。
「この馬鹿共が・・・・・。出席番号順に一人ずつ入れ!順番はさっき言った通り。次もたつくようなことがあれば今日はIS背負ってグラウンド百周させるからな!」
織斑先生の一喝でさっきまで点々バラバラの動きをしていた女子たちが統率のとれた動きを始めた。
「やったぁ・・・織斑君と同じグループだぁ・・・・・」
「桐野君とグループが同じだなんて・・・ラッキー・・・」
皆ぼそぼそと言っているが
「・・・・・・」
ただ一班だけ、ラウラの班は誰も会話しようとはしていなかった。やはり気になる。なぜ俺はあいつの顔に見覚えがあるんだ?一体どういう理由であいつを見たんだ?
ガスッ!と頭に出席簿が振り下ろされた。
「女をジロジロ見るな。疑われるぞ」
「は、はい」
疑われるって、何をだよ・・・。そして俺は訓練機の中から打鉄を選び、班員と訓練を始めた。途中一夏が箒にいわゆるお姫様抱っこをしていて、それをせがまれたが普通にスルーした。
「よし。では午前の授業ははここまでとする。午後は今回の訓練に使用したISの整備を行うので各人格納庫で判別に集合すること。専用機持ちは自機と訓練機の両方を整備すること。以上!」
そんなこんなで午前の練習が終わり、片づけを終えて俺と一夏はシャルルのところに向かった。
「シャルル、着替えに行こうぜ。俺達はまたアリーナの更衣室に向かわないといけないしよ」
「あー、腹減った」
「あ、そうだ。瑛斗、俺達屋上で昼食うけど来るか?」
「お、行く行く。シャルルはどうする?」
「えっ?あ、ごめん。僕ISの微調整があるから先に着替えてお昼食べてて。時間がかかるかもしれないから、待ってなくていいよ」
「別にそんなの気にしな―――――」
「い、いいからいいから!僕が気にするから!ね?先に戻っててね?」
「お、おう・・・」
「わ、わかったよ」
妙に気圧されて言われた通り俺と一夏は更衣室に向かった。
「そうだ。一夏、部屋割りどうする?お前も一人部屋になったんだろ?」
着替えながら一夏に聞く。
「ん?ああ。そうだなどうする?じゃんけん?」
「いいぜ」
「じゃあ・・・じゃん!」
「けん!」
「「ぽん!」」
俺がパーで一夏はグー。俺の勝ちだ。
「うし。じゃあ部屋は俺とシャルルってことで」
「う〜ん、まあ、俺がそっちの部屋に遊びに行けばいいだけか。分かった。そうしてくれ」
というわけで俺とシャルルが相部屋になった。しかし俺はまだ知らなかった。まさかあんなことになるなんて―――――
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