IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「よーし、じゃ、いくぞー」
「よし来い!」
土曜日、俺たちはシャルルを新たに加えて一夏の訓練に付き合っていた。午前中は授業があるが午後は完全に自由時間でアリーナも解放されている。今日は一夏が遠距離を得意とする相手との戦闘を想定した訓練だ。
「Gメモリー!セレクトモード!」
そんなわけで遠距離戦を得意とするものを選ぶことにする。
「セレクト!アレガルス!」
コード確認しました。アレガルス発動許可します。
G−soulの装甲がほぼ全身装甲(フルスキン)状態になり、右腕にはガトリングを一門、体のあちらこちらにはミサイルを内蔵する遠距離攻撃重視のアレガルスに姿を変える。
「っとその前に」
俺はすぅっと息を吸った。
「すいませーん!!少しスペースを開けてくださーい!!ミサイルが当たっちゃいますよー!!」
『・・・・・・・・・』
ささーっとスペースを開けてくれるその他大勢の女子の皆さん。ありがとうございます。しかし俺達男三人がいるということでここ第三アリーナは使用希望者が続出し今回のような訓練をする場合は危なくてしょうがない。自分も相手も。
「よし・・・行くぞっ!」
ギュン!一夏が突進してくる。俺は右腕のガトリングを一夏に向けて撃つ。
「ぐっ・・・!」
一夏はそれを旋回して避ける。
「甘い!」
俺は胸の装甲を開き、そこから小型ミサイルを数発放つ。
「く!」
流石によけきれず被弾する一夏。
「うぉぉぉ!」
しかしそれを気にせず瞬時加速(イグニッションブースト)で俺に肉薄する一夏。ふむ、中々やるな。
「だが!」
肩の装甲がスライドしホーミングミサイルが顔を出す。そして全て同時に点火する。
「うそっ!?」
ちゅどーん!至近距離でミサイルの集中砲火を浴びた一夏はそのままゴロゴロと地面を転がり大分距離が離れたところで止まる。
「おーい、大丈夫かー?」
俺はアレガルスを解除し一夏に近づく。
「うーん、やっぱり上手くいかないな」
ムクリと起き上がり一夏は首をコキコキと鳴らす。
「どうよ、シャルル先生?」
「うーん、一夏が射撃系統の武装に勝てないのはやっぱり武器が近距離用しかないからかな」
「ああ。俺もそう思う。近距離特化型は一発一発が強力だけど動きが単調で読みやすいからな」
「だよなぁ、瞬時加速も読まれてたみたいだし」
「でも攻撃を受けても瞬間加速でダメージを気にせず肉薄してくるのは良いアイデアだと思うぞ。相手の意表を突ける」
「そうだけど一夏の瞬時加速は直線的な移動しかできないから軌道予測で攻撃できちゃうからね」
「そこが難しいんところなんだよなぁ・・・・・」
俺とシャルルが一夏の戦術の改善点を議論しているとふと後ろからの視線に気づく。
「ふん。私のアドバイスをちゃんと聞かないからだ」
「あんなに分かりやすく教えてやったのに、なによ」
「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら」
一夏専属(自称)コーチ三人衆が後ろでぶつくさ言っている。文句言ってるがあいつらの説明は擬音しかなかったり、おおざっぱすぎたり、理路整然過ぎて素人には何言ってるか分からなかったりと問題点しかなかったりする。
「一夏の〈白式〉には後付武装(イコライザ)が無いんだよね?」
シャルルが一夏に話を振る。
「ああ。瑛斗にも調べてもらったけど、拡張領域(バススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理なんだってよ。な?瑛斗」
「ああ、俺のG−soulとは逆で全然拡張領域に余裕がない。極端な話今の状態がフルアーマーってわけ。ISの拡張領域がここまでないのは研究者としてはとても理解できない」
G−soulの拡張領域の多さもぶっちゃけた話良く分かってない。研究者としても使用者としてもこれは早く解明したい。
「そうだね。・・・多分ワンオフ・アビリティーに容量を使ってるんだよ」
「ワンオフ・アビリティーっていうと・・・・・えーと、なんだっけ?」
「ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のことだろうが。お前のあの『零落白夜』がお前のワンオフ・アビリティーだ」
使ったことがあっておいて覚えてないんかこいつは。
「でもそれは第二形態(セカンド・フォーム)から発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型のIS。オルコットさんのブルー・ティアーズや凰さんの甲龍の衝撃砲なんかがそうだね」
「なるほど。・・・・・ん?ってことは瑛斗のあの、Gメモリー?だったっけ?あれもワンオフ・アビリティーなのか?」
「いや、そうじゃない。あれは拡張領域の多さを利用して、装備をプログラミングしてその状況に応じて呼び出してるんだ。そうだな、例えば・・・」
俺はGメモリーを起動させる。
「セレクト!アトラス!」
G−soulの装甲をアトラスに変更する。
「このアトラスは近接戦闘に特化していて、装備は近接武器、主に剣だな。が七本、そのうちの一本の中に内蔵されてる小型ビームガンがこれの唯一の遠距離武器。あんまり使うことないけどな。それとどうして装甲が変化するのかって言うとだな―――――」
「分かった。もういいぞ」
ん。何故か説明を制された。今からが説明のミソなのに。
「じゃ、じゃあ射撃武器もためしに使ってみようか?」
そう言ってシャルルは一夏に五五口径アサルトライフル《ヴェント》を渡していた。
「え?他の奴は使えないんじゃなかったのか?」
「普通はね。でも所有者が使用許諾(アンロック)すれば登録してある人全員が使えるんだ。―――――うん、今一夏と白式に使用許諾を発行したから、試しに撃ってみて」
「お、おう」
一夏はそれを受け取ると銃を構えた。
「うん、鮮やかなまでに構えが素人だな」
「一夏、もっと脇を締めて。それと左手はこっち。わかる?」
「あ、シャルル、一夏の白式にはターゲットサイトとか出す機能はないからな」
「うーん、格闘専用の機体にも普通は入ってるはずなんだけどな」
「目測でやるしかないな」
「そうだね。じゃあ一夏、撃ってみて」
「じゃあ、行くぞ」
一夏はグッと引き金を引いた。
バンッ!!
「うお!?」
火薬の炸裂音に驚く一夏。
「どう?」
「お、おう。なんか、アレだな。とりあえず『速い』っていう感想だ」
中々抽象的な表現をするな。まあでも初めて銃を使ったってこともあるし、いい経験か。・・・お、良いこと考えた。
「じゃ、これも使ってみろよ」
「え?いいのか?っていうか使えるのか?」
ズシッっと一夏の手渡したのはアレガルスのミサイルポッド(肩に装着するタイプ)だ。
「基本はオートだけど、手動でも撃てるから、何事も経験経験!」
「お、おう。わかった。やってみる。・・・こうか!」
ドォオン!ひゅるるる〜・・・ビシュッ!ビシュッ!ドゴォォン!!
一夏が放ったミサイルはヘロヘロとした軌道を描く。それを俺がビームガンで撃ちぬき地表への被害はゼロで済ませた。
「良く分かった。これ、危ない」
「一夏、それは誰が見てもそう思うんじゃないかな?」
やっぱり一夏は射撃には向かないな。下手に使って味方にまで当たったら洒落にならない。
「・・・そう言えばシャルルのそのISってラファールの発展機なのか?見たことがない型だが」
「ああ、僕の専用機だからかなりいじってあるよ。正式なこの子の名前は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムU』。基本装備(プリセット)をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてある」
「倍!?そりゃまた凄いな。俺に分けて欲しいぜ」
一夏が倍と聞いて驚く。
「なるほど。ってことは武装は二十位か?もはや武器庫だな」
「ねえ、ちょっとアレ・・・・・」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」
「本国でトライアル段階だって聞いてたけど・・・」
振り返るとそこにはもう一人の転校生で一夏の頬を張り、俺を投げ飛ばしたドイツのラウラ・ボーデヴィッヒが立っていた。
「おい」
ISの開放回線(オープン・チャンネル)でラウラの声が聞こえてくる。
「・・・なんだよ」
「なにか用か?」
気は進まないが無視するのもなんだ。返事をすると言葉を続けながらラウラがこちらにふわりと飛翔した。
「貴様らも専用機を持っているようだな。ならば話は早い。私と戦え」
「断る」
「イヤだ。理由がねえよ」
俺と一夏は即答する。
「戦え?悪いがこっちには戦う理由がない。まあブン投げられたのは腹立つがな」
「貴様らにはなくても私にはある」
「・・・・・」
一夏は黙り込む。こいつもこいつで何か心当たりがあるんだろうか。
「貴様が」
ラウラは一夏を指差して口を開いた。
「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を―――――貴様の存在を認めない」
「・・・・・」
一夏は反論せず黙ってそれを聞いている。
「そして貴様!」
おおう、俺には肩の低反動砲を向けてきた。物騒だなおい。
「貴様らの研究所があの時あんなことをしなければ私はもっと違う形で教官と会うことができた!それを貴様らは!」
「待て。お前はツクヨミの研究員を恨んでいて、そしてそのツクヨミの生き残りが俺しかいないとなった今、その恨み全てを俺に向けてる。そうだな?」
「そうだ!」
「俺もお前の顔には見覚えがある。だが・・・悪いが俺はお前に何をしたのか覚えていない。俺は、―――――いや、俺達は一体お前に何をしたんだ?」
「―――っ!貴様ァァァァァッ!」
激昂したラウラは俺にプラズマ手刀を振りかざしてきた。
「くっ!」
キィィィィン・・・・と言う機動音とともにBRF発生装置内蔵型シールドのBRFが発生する。BRFの力で雲散霧消したプラズマ手刀はラウラのただの手刀になった。
「ハァァッ!」
だがそれを意に介さずラウラは手を振り下ろした。ガキン!とシールド自体にラウラの手刀がぶつかる音がアリーナに響いた。
「そこまでだよ」
カチャ、と六一口径アサルトカノン《ガルム》を構えたシャルルがラウラの真横に立ちラウラの頭に照準を合わせている。
「こんな人が大勢いるところで戦う気?ドイツ人はそんなに熱くなりやすいのかな?それに―――――」
『そこの生徒!何をしている!クラスと名前を言え!」
突然、スピーカーから怒鳴り声がアリーナに響いた。担当の先生だろうか。
「今の君は圧倒的に不利だよ?」
「・・・・・ふん。今日は引こう」
そう言ってラウラはアリーナゲートへ去って行った。おそらく怒り心頭の先生も無視していくだろう。
「瑛斗、大丈夫?」
「ああ、大丈―――――」
ズキンッ、と言いかけた俺の腕に突然痛みが走った。
「瑛斗?どうした?」
一夏が話かけてきた。
「相当怒ってるな。あいつ」
「?」
「見ろよ」
俺は一夏とシャルルにラウラの手刀を受け止めたシールドを見せる。
「「!?」」
「どうやら、俺達ツクヨミのIS研究員はあいつにとんでもないことをしたみたいだ」
シールドは手刀がめり込んだように凹み、ヒビが入っていた。
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