IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「今日はもうあがろっか。四時を過ぎたし、どのみちアリーナの閉館時間だしね」
「ああ。そうだな」
「おう。わかった」
大分日が傾き、一夏の訓練も一通り終えたので今日はこの辺にすることにした。
「えっと・・・・・じゃあ、先の着替えて戻ってて」
「・・・・・」
いつもこうだ。シャルルはなぜか俺達と一緒に着替えようとしない。というか一緒に着替えた記憶は、初日の実習の時が最初で最後だ。どうにもわからないのが、シャルルの部屋に戻った後の態度の急変ぶりだ。部屋に戻ると急にぎこちない態度をとる。この前も、
『あー、さっぱりした。シャルルー、シャワー空いたぞー』
『え、瑛斗っ。なんで服着ないの!?』
『? 着てるじゃん。ズボン』
『う、上も着てよ!そ、それと髪もちゃんと乾かさないと!』
『まあまあ、そう言うなって』
『い、言うよ!瑛斗はもっとちゃんとしないとダメだって!』
『良いじゃねえか。男同士なんだ。気を遣わなくたって』
『瑛斗がもっと気を遣わないとダメなの!ああもう、知らないっ!』
なんてやりとりをした。なぜ二人きりになるとあれこれ言ってくるんだろう?そりゃ、言いたい気持ちも分からなくはないが、それにしてもなぁ・・・。よし、ここは俺も少し意地を張ってみよう。
「たまには一緒に着替えようぜ」
「イ、イヤ」
「イヤってことは無いだろ。一夏も別に気にしてないよな?」
「ん?そうだな。たまには一緒に裸の付き合いってのも悪くないぞ?」
「はっ、裸の付き合い・・・!」
お、シャルルが動揺している。ここは後一押しか!?
「「なあ、シャル―――――」」
グイッ。
「はいはい。アンタらはさっさと着替えに行きなさい。引き際を知らないやつは友達なくすわよ?」
首根っこを掴まれた。く、苦しい。鈴、やめろ。やめろ、鈴。
「こ、コホン!・・・・・どうしても誰かと着替えたいのでしたら、そうですわね。気が進みませんが仕方ありません。わ、わたくしが一緒に着替えて差し上げ―――――」
「こっちも着替えに行くぞ。セシリア、早く来い」
「ほ、箒さん!首根っこを掴むのはやめ―――――!」
セシリアは箒にずるずると引かれて行った。お互いを下の名前で呼び合ってたな今。あいつらも仲良くなったもんだ。
ガンッ!
「暴力っていうのはこういうのを言うのよ」
うんうんと感慨にふけっていたらなぜか一夏が鈴に殴られていた。なぜだ?
「じゃあ、先に行ってるぞ」
「あ、うん」
シャルルにそれだけ言って、俺と一夏はゲートへ向かった。
「しかしまあ、贅沢っちゃ贅沢だな」
「確かにな」
がらーんとした更衣室。ロッカーの数は五十ちょっとだろうか。ISを装備した俺達が入ってきても全然スペースがある。俺と一夏は自分の機体を待機状態に戻すと、どかっとベンチに腰かけてISスーツを脱いだ。
「あ、瑛斗、腕は大丈夫か?」
「ん?ああ。少し赤くなった程度だから心配ないぞ」
「そうか。良かった。よし!着替え終わり!」
「俺も終わり!」
そう言って立ち上がるとドアの向こうから声が聞こえた。
「あのー、織斑君と桐野君とデュノア君はいますかー?」
「はい?えーと、織斑と桐野だけいます」
「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」
人はどうして遠くに呼びかけるときに語尾を伸ばすんだろうか。とか考えてるんだろうな一夏は。俺もだけど。
「ああ、着替え終わってるんで入っていいですよ?」
「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」
バシュッとドアが開く。圧縮空気の開閉音は今日もカッコイイ。とか考えてるんだろうな一夏は。俺もだけど。入ってきたのは山田先生だった。どうしたんだろうか?
「デュノア君はいないんですね?今日は織斑君たちと実習しているって聞いてましたけど」
「あ、まだアリーナの方にいますよ。もうピットに戻ってるかもしれませんが大事な話なら呼んできましょうか?」
IS関連の重要事項だったりしたら大変だ。
「ああ、いえ、そんなに大事な話じゃないですからお二人から話しておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので男子は週に二回の使用日を設けることにしました」
「本当ですか!」
一夏が感激のあまり山田先生の手を握った。そういや、この前も『あー、風呂入りてぇ』とかなんとか言ってたな。
「嬉しいです。助かります。ありがとうございます山田先生!」
「い、いえ、仕事ですから・・・・・」
「いやいや、山田先生のおかげですよ。本当にありがとうございます!ほら瑛斗も!」
「うおっ」
グイッと一夏に頭を押されてバランスを崩した俺は思わず山田先生の手をとった。
「そ、そうですか?そう言われると照れちゃいますね。あはは・・・・・」
なんだ?俺の第七感が何か良くないことが起こると告げているぞ?あれ?第六感?
「・・・・・二人とも、何してるの?」
ドキィッ!
ってなんだよ。シャルルか。驚かさないでくれ。
「まだ更衣室にいたんだ。それで、どうして先生の手を握ってるのかな?」
「「あ、いや。なんでもない」」
パッと山田先生から手を放す俺と一夏。山田先生もシャルルに言われて恥ずかしくなったのかくるりと背を向けた。
「瑛斗、先に戻っててって言ったよね?」
「あ、ああ。悪い」
シャルルの背中に蜃気楼のように淡く金剛力士像が見えるのは気のせいだろうか?しかしシャルルの表情はいつも通りなので俺の思い過ごしか?
「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」
「そう」
一夏の興奮気味の声にもほとんど無関心だ。そんなに悪いことをしただろうか?
「ああ、そう言えば織斑君と桐野君にはもう一件用があったんです。ちょっと書いてほしい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?お二人のISの正式な登録に関する書類なのでちょっと枚数が多いですけど」
「わかりました。そういうわけだ。シャルル、ちょっと長くなりそうだから先にシャワー浴びといてくれ」
「うん。わかった」
「じゃ、山田先生、行きましょうか」
「・・・・・・・・・。はぁっ・・・・・・」
ドアを閉めて、寮の自室に一人だけになったシャルルははき出すようにため息を漏らした。ストレスがたまっていたからだろうか、シャルルは自分でもそのため息の深さに驚いた。
(何をイライラしてるんだか・・・・・)
更衣室での態度が今になって恥ずかしい。きっと瑛斗も面食らっているに違いない。ますます落ち込みに拍車がかかる。
(シャワーでも浴びよう・・・・・)
シャルルはクローゼットから着替えを取り出しシャワールームへ向かった。
「結構な量だったな」
俺は肩をグルグル回しながらつぶやいた。書類の枚数自体は多かったが、どれも名前を書くだけのものだった。これでG−soulは正式に俺の専用機になったわけだが、特にこれといった変化はない。
「ただいまー。って、ん?シャルルがいない・・・」
と思ったのも束の間、水の流れる音が聞こえた。
(ああ、なんだ。シャワーか。あ、そう言えばボディーソープが切れてたな)
シャルルが言っていたことを思い出し、俺はクローゼットからボディーソープを取り出し、シャワールームに向かう。自分が先に使うとおもってたから、浴びるついでに取り換えればいいと思っていた。
(多分あいつ困ってるだろうしな・・・・・。よし、届けてやるか)
シャワールームは洗面所兼脱衣所とドアで区切られてるからとりあえず脱衣所まで持って行ってそこで声をかければいいか。そう思い俺は洗面所に入る。
ガチャ。
・・・・・ガチャ?おかしいな。ドアはさっき開けたから今またその音が聞こえるのはおかしい。ってああなんだ。シャルルがシャワールームから出てきたのか。
「丁度良かった。ほら、代えのボディーソー・・・・・プ・・・・・」
「え、瑛斗?」
目の前にはきれいな金髪を水で濡らした全裸の『女子』がいた。
「・・・・・・・・・・・・・へ?」
「きゃあっ!?」
ガチャッ!
その女子はまたシャワールームに駆け込んだ。
「えーと・・・」
「・・・・・・・」
返事はない。そりゃそうだ。
「ぼ、ボディーソープ、ここに置いとくからな?」
「う、うん・・・」
俺はささっと洗面所から出て、ベッドに腰掛けた。
(待て待て。待て待て待て。おかしいおかしい。どうして部屋に女子がいるんだ?)
俺の頭は理解不能な状況にオーバーロード寸前だ。
(だってシャルルだぞ?シャワールームにいるはずなのは。ってことは、まさかあれはシャルルってことか!?)
プシュー・・・。以前使ってたBRF発生装置のような音が俺の頭の中から聞こえる。
ガチャ
「どわはぁっ!?」
ドアが開いた音で驚いて素っ頓狂な声をあげる。
「あ、上がったよ・・・・・」
「・・・・・あ、ああ・・・・・」
女子が、そこにいた。
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