IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「それは本当ですわね!?」
「ウソじゃないでしょうね!?」
月曜日の朝、俺達は廊下まで聞こえる大声に目をしばたたかせた。
「なんだ?」
「さあ?」
「わからん」
ちなみにシャルルはまだ男として通っているため男装バージョンだ。もっと言っちゃえば、昨日のことはまだ、というか、これからも言う気が無い。
「本当だってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末の学年別トーナメントで優勝すれば織斑君と交際でき―――――」
「俺が何だって?」
「「「きゃああああ!?」」」
一夏関連の話をしていたのだろうか?細かいところまでは聞こえなかったが一夏の名前が出ていた気がする。
「で、なんの話をしてたんだ?教えてくれよ」
「う、うん?は、話なんてしてたかしら?」
「さ、さあ?何のことでしょう?」
しらばっくれる鈴とセシリア。二人とも声が上ずってるぞ。
「じゃ、じゃあ!私はクラスに戻るから!」
「わたくしも席に着かなくてはいけませんわ!」
そしてそそくさと戻っていく二人、というか女子たち。まさに蜘蛛の子を散らすと言ったところだ。
「なんだったんだ?」
「さあ?」
「わからん」
俺達三人はただ首を捻るしかなかった。
「なあ、一夏」
「どうした?瑛斗」
「前々から思ってたんだけどさ・・・」
「うん?」
「・・・・・・トイレ、遠すぎじゃね?」
「ああ。そうだな」
翌日、俺と一夏は授業の合間にトイレに向かっていた。しかし、もともと女子校のここIS学園。俺達男子が使えるトイレは三つしかない。おかげでトイレに行きたくなったら授業終了のチャイムと共に全力疾走だ。でも途中で織斑先生に遭遇して、
『廊下は走るな!』
と指導を受けてしまうこともあったりなかったりする。
「もう少しトイレ増やしてほしいぜ!」
「まあ、文句言ってもしょうがないだ――――」
「なぜこんなところで教師などと!!」
「やれやれ・・・・・」
おや?聞いた声だな。ラウラと織斑先生か。ただならぬ雰囲気だな。何かあったのか?俺と一夏は足を止めて二人の会話に注意を向けた。
「何度も言わせるな。私には私の役割がある。それだけだ」
「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」
ラウラはいつになく声を荒げている。
「お願いです。教官、ぜひもう一度ドイツでご指導を。ここでは教官の能力は半分も活かされません」
「随分な物言いだな。何故そう言いきれる?」
うわ、先生も負けてねえ。絶対零度の声が聞こえる。
「ここの学園の生徒はISをファッションか何かと勘違いしています。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割かれるなどと―――――」
「その辺にしておけよ、小娘」
「っ!」
うぅ、一瞬背筋が凍ったぞ。おっかね〜・・・。
「少し見ない間にえらくなったもんだな?十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「いえ・・・・・自分は、そんなつもりでは―――――」
「だったら、この話はもう終わりだ。もうすぐ次の授業が始まるぞ?」
織斑先生はいつもの口調に戻り、ラウラに教室に戻るよう命ずる。
「分かり・・・ました」
流石のラウラも逆らえるはずもなく、足早に教室に戻っていった。・・・・・あ、ヤベ。
「さて、盗み聞きは良くないな。異状性癖は感心しないぞ?」
やれやれ、気付かれてたか。流石はブリュンヒルデ。その名前は伊達じゃないな。
「ふん、まあ良い。そら、さっさと教室に戻れ。授業に遅れるぞ?特に織斑、お前はしっかり授業を受けないとトーナメントは初戦敗退だぞ。勤勉さを忘れるなよ」
織斑先生が先生としてでなく、姉として一夏に話している。
「わかってるって・・・・・」
「よし、では行け―――っと、ああ、そうだ」
「「?」」
「廊下はバレないように走るなら構わんぞ」
「「はいっ!」」
あの人はたまにいじらしいことを言う。俺達はバレないように廊下を全力疾走した。
「「あ」」
時刻は放課後。セシリアと鈴は第三アリーナでバッタリと出くわした。
「あら、奇遇ね」
「ホント、奇遇ですこと」
あはは、うふふと笑う二人だが、お互いの胸中の言葉を引っ張り出すと
『なんで居るんだ・・・』
となる。しかも、お互いの野望・・・もとい願望は共通のものだ。そして、お互いの障害となる者同士が遭遇するとどうなるかは明白だ。
「折角だし、この前の実習のことも含めて、どっちが上かはっきりさせようじゃないの」
「珍しく意見が合いましたわね。良いですわよ。格の違いを見せて差し上げますわ」
お互いメインウェポンを呼び出し、構える。
「では―――」
ギュン!
「「!?」」
突如、二人の間を高速の弾頭が横切った。二人が弾頭が飛来した方向を見つめると、そこには
「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・・!」
漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を駆る、ドイツの代表候補生ラウラが立っていた。
「どういうつもり?いきなりぶっ放すなんて良い度胸してるじゃない?」
鈴とセシリアはラウラと対峙するように体勢を変える。
「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』・・・。ふん、カタログで見たときの方が強そうだったな」
ラウラは余裕の笑みを浮かべて二人を見据える。
「それ、挑発と受け取っていいかしら?」
「それ以上言うと、許しませんわよ?」
「ほう?この私に挑むか?面白い。二人まとめてかかってこい。所詮一と一を足しても二にしかならないのだ。貴様らなど私の足元にも及ばない」
「やれるものなら!!」
「やってみなさい!!」
鈴とセシリアはラウラに向かって突進した。
「お?アリーナの方がえらく騒がしいな?」
「そうだね?誰か模擬戦でもしてるのかな?」
「行ってみようぜ!」
「あ、待て!一夏!」
放課後、俺、シャルル、一夏、そして道中であった箒は第三アリーナに向かった。そこで複数の生徒がざわつきながらモニターを見ているのが見えた。
「すごい人混みだな、はいはい、通るよ通るよー」
俺は人混みをかき分けながらモニターを見に行き、そしてとんでもない映像を見た。
「なっ・・・・!?」
「瑛斗?一体どうし―――――!?」
「そ、そんな・・・」
「一方的すぎる・・・!」
俺達四人が見たのはラウラに蹂躙される鈴とセシリアの姿だった。機体の損傷度から見て、もう二人と機体維持警告域(レッドゾーン)超えているはずだ。下手をすれば操縦者生命危険域(デッドゾーン)を迎えているかもしれない。
「チッ!止めに行くぞ!」
「ああ!」
「あ、二人とも!」
シャルルは瑛斗と一夏を追いかけようとしたが、ふとその場に立ちすくんでいる箒に目が行った。
「・・・篠ノ之さん?」
「・・・・・・・・」
箒はただ一点、ラウラの姿だけを見ていた。
「鈴!セシリア!」
俺と一夏がアリーナに使われているバリアーの前に立つと、すでに二人は地面に倒れ伏していた。
「あいつは!?」
ラウラの姿を探すが、見当たらない。どこへ行った・・・!?
「がっ・・・!」
「!?」
見ると、鈴がラウラに蹴り飛ばされていた。ラウラのあのスピード、まさか!?
「瞬時加速!?」
一夏の十八番、それをラウラは簡単に扱い、その勢いで鈴を蹴ったのだ。衝撃は想像し難い。そして、ラウラがセシリアの頭を踏み、愉悦に浸った笑みを浮かべると、俺の何かがトンだ。
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」
一夏が白式の零落白夜でアリーナのバリアーを消滅させ、俺がビームガンを一度に四発分使う最大出力の威力でラウラに放ち、ラウラがバランスを崩したところでセシリアを救出する。一夏はそのまま瞬間加速で鈴のところまで飛び、鈴を抱きかかえる。
「セシリア!しっかりしろ!」
「鈴!おい!鈴!」
二人の返事はない。だが息は辛うじてしている。何て惨いことを・・・!
「てめえ!鈴とセシリアがお前に何したって言うんだ!」
一夏が激昂し、ラウラに吠える。
「別にどうということは無い。ただ力の差を見せてやったまでだ」
「力の差を見せる?ならここまでする必要はないだろう!?」
俺と一夏はセシリアと鈴をアリーナの端に寝かせ、ラウラと対峙する。
「ふん、やっと戦う気になったか」
「ああ。絶対に倒す!」
「加減なんてきかねえぞ!」
「さあ、来い!」
俺はラウラに接近し、ビームソードを抜く。
「おらぁっ!」
「ふんっ!」
バチバチバチ!とビームソードとプラズマ手刀がぶつかりスパークする。
「うおぉ!」
背後から一夏が〈雪片弐型〉で切りかかる。だが、それは左腕のワイヤーで絡め取られ、そのまま振り回して俺にぶつけてくる。
「やろぉっ!」
吹き飛びざまにバルカンを撃つ。するとラウラは右手を突き出し、弾丸を止めた。
「何だアレ!?あいつも何か仕掛けを!?」
「ATCだ!ツクヨミの資料で見たことがある!」
「AIC?」
「わかりやすく言うと、アレに捉えらると動けなくなるんだよっ!」
「じゃあどうすればいい!?」
一夏は起き上りながら攻略法を聞いてきた。AICの弱点は・・・・・。
「一夏、タイミング合わせてくれ」
「ん?」
「俺が『行け』って言ったら、ラウラに瞬間加速で接近してくれ」
「あ、ああ。わかった!」
「頼むぜ!」
「どうした?作戦会議は終わりか?」
「ああ。その通りだよ。Gメモリー!セレクトモード!」
ウインドウに様々な画像が映し出される。
「セレクト!グルディア!」
G−soulの装甲が変化し、肩に二門の低反動砲を装備し脚部にホバー付きの推進器が装備される。
「食らえっ!」
ドォン!ドォン!と砲弾を二発放つ。
「くっ!無駄なことを!」
ラウラは一つを自身のカノン砲で撃ち落とし、再びAICを使い、もう片方の砲弾の動きを止めた。そいつを待ってたんだ!
「よっと!」
俺はグルディアを解除し、ノーマルモードでビームソードを手に突進する。
「今だ!一夏!」
「おおおおおっ!」
俺と一夏の同時攻撃、避けられないはずだっ!
ドゴォォン!
「やったか!?」
一夏が振り返りながら言う。
「・・・・・!いやまだ―――――」
ドンッ!と激しい衝撃を受けて俺は吹っ飛んだ。ラウラのカノン砲の直撃を受けたようだ。
「瑛斗!」
「大丈夫だ!それより・・・」
土煙が晴れ、ラウラの姿が露わになる。
「・・・無傷かよ」
ラウラ本体のダメージはゼロと言っていいだろう。さて、どうする・・・。
「・・・・・・・仕方ない。使ってみるか新装備!」
俺は背中のウイングを展開する。そして手の装甲がスライドし、小手が上にせり上がる。
「食らえ!ボルケーノクラッシャー!!」
超高速でラウラに接近する。
「ふん、何をしてこようがこのAICで――――!」
ドンッ!ラウラの背中に衝撃が走った。
「!?」
「・・・・・・ハァッ、ハァッ・・・どうよ?少しは・・・効いた?」
鈴が最後の力を振り絞り、衝撃砲を撃ったのだ。注意がそれた為AICは不発に終わる。これで!
「おらぁっ!」
俺はボルケーノクラッシャーでラウラのシールドを掴む感覚があった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
しかし、何も起こらない。
「・・・・・・・それがどうした?」
「えっと〜・・・・・・・・、あれ?」
「やはりお前も私の前では有象無象の一人に過ぎん。消えろ」
無言で俺にカノン砲を向けるラウラ。って、ヤバい!ワイヤーで掴まれて避けれない!
「くっ!」
やられる!そう思ったが、砲撃は来なかった。
「そこまでだ。馬鹿共」
見ると、織斑先生がIS用の剣を振りおろし、乱入してきたのだ。って、ええ!?
「その剣、生身で振るうってどんだけの力を―――」
「黙れ馬鹿者!貴様らが模擬戦をやるのは構わんが、アリーナを破壊されるとなると流石に教師とて、黙認できんぞ」
織斑先生は淡々と続ける。
「貴様らが派手に暴れたおかげで、アリーナはこのありさまだ。少しは考えて行動しろ!」
「は、はい・・・」
ここは素直に謝っておくに限る。出席簿ならまだしも、ISの剣で頭叩かれるのは御免だ。
「しばらくこのアリーナは使えん!そして今後もこのようなことがあった場合トーナメントを中止せざるを得ない。それは貴様らもいやだろう?よってトーナメントまでのアリーナの使用を禁ずる!異論は認めん!以上!解散!」
織斑先生の一喝でこの戦いは終息した。
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