IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「しかし、派手にやられたもんだなぁ。二人とも」
「うっさい・・・・・」
「余計なお世話ですわ・・・・・」
ラウラとの戦闘の数十分後、俺と一夏とシャルルは負傷した鈴とセシリアに付き添い、、保健室に来ていた。二人とも重傷で、打撲の痣や絆創膏が痛々しい。しかしそんなベッドの上の二人も一夏に返事をできるくらいの体力は取り戻している。
「だけど、あんなこっぴどくやられたんだ。今度のトーナメントは出ない方が良いぞ。体はもちろんだが、機体の方もだいぶ損傷が激しいんだからな」
「そうだぞ、二人とも。自分の体は大切にな?」
俺と一夏が忠告すると二人はガバッ!と起き上った。
「このくらい怪我のうちに入らな―――いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっている方が無意味―――っつうぅ!?」
・・・・・バカなのか?こいつら。
「アンタらに言われたくないわよっ!」
「一夏さんと瑛斗さんの方が大バカですわっ!」
心の声なのに反撃を食らった。ってか一夏もそう思ってたんだな。以心伝心ってやつかな?
「好きな人に格好悪いところ見られて恥ずかしんだよね?二人とも」
「「ん?」」
シャルルが飲み物を買いに行って戻ってきた。何か入るときに言ったみたいだがよく聞こえなかった。
「なななな何を言ってるのかささささっぱり分かんないわ!こここここれだから欧州(ヨーロッパ)人は困るのよねぇっ!」
「べべっ、別にわたくしはっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわっ!」
おや?どうやら聞き取れなかったのは俺と一夏だけらしい。鈴とセシリアは慌てている。シャルルは何を言ったんだ?
「はい、ウーロン茶と紅茶。二人とも飲むよね?」
「ふ、ふんっ!」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
そう言ってシャルルからひったくるようにペットボトルを取った二人はごくごくとそれを飲んだ。
「まあ、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってたから、しばらく休んだら―――――」
ドドドドドドドッ・・・・・・・!
気のせいか?地響きが聞こえるんだが。そしてもっと気のせいならこの地鳴り、ここに近づいてきてないか?
ドォォォンッ!
次の瞬間、保健室のドアが宙を舞った。いや、ホントだって。スゲーきれーな放物線を描いたそれを見てから、振り返るとそこには数十人の女子がいた。何事?!
「織斑君!」
「桐野君!」
「デュノア君!」
入ってきた、なんてものじゃない。まさしく雪崩れ込んできた。女子が。数十人の女子が。
「な、なんだ・・・?」
「どうしたんだ・・・?」
「ぼ、僕たち、何か悪い事でもしたのかな・・・?」
恐れおののく俺達に無数の手が伸びる。怖ぇよ。ツクヨミで見たホラー映画ばりの恐怖だよ。
「「「「「これ見て!」」」」」
「「「?」」」
誰かは知らないがその人の手には一枚のプリントが握られていた。なになに・・・?
「えー、『今月開催する学年別トーナメントはより実戦的な模擬戦闘を行うため二人一組のペアで参加すること。なお、ペアを組めなかったものはランダムに抽選でペアを』――――――」
「ああもうっ、そこは良いから!とにかく!」
また無数の手が伸びてきた。ひえぇ。
「私と組もう!織斑君!」
「桐野君!私と組んで!」
「デュノア君、お願いっ!」
なるほど、ここに来ている女子たちは俺達とペアを組みたくて来たわけだ。・・・・・さて、どうするかな・・・。
「あー・・・」
「えーと・・・・・」
「・・・・・」
言いよどむ俺、一夏、シャルルの三人。それもそのはず。シャルルは女の子だ。下手に他の女子と組んでシャルルの正体がバレると厄介だ。仕方ない、ここは俺が行こう!
「悪い!俺、シャルルとペア組むことになってんだ!他・・・、と言うか一夏の方に当たってくれ!」
ガッとシャルルの肩に腕を回す。シャルルと一夏も目を丸くしているが、行けるか・・・?
「「「「「・・・・・・・」」」」」
「・・・・・・」
いきなり黙り込む女子一同。やっぱり強引過ぎたか?
「ま、それもそうか」
「織斑君がいるからいいか」
「男同士ってのも中々、乙なものですな。絵になる・・・げふんげふん・・・」
そう言って納得してくれる女子たち。ふぅ、何とかやったか。
「そんなわけで・・・」
ぐりん、と女子たちが一夏に顔を向ける。全員、オオカミの目をしていた。
「「「「「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
「ぎゃあああ!?」
よし、誘導も成功した。我ながら良い作戦だ。
「一夏っ!」
「一夏さん!」
見ると鈴とセシリアまで一夏争奪戦に参加していた。だからお前らはダメだって言ってるでしょうに。
「いけませんよ。お二人とも」
ふと、ドアが無くなった入口の方から声が聞こえた。
「お二人のISの損傷度はダメージレベルがCを超えています。当分は修理に専念しないと、今後重大な欠陥を招きますよ?ISを休ませる意味でもトーナメントの参加は許可できません」
そう言って入ってきたのは山田先生だ。ふむ、先生の言っていることは正しい。
「なあ」
「? 何?」
俺は近くにいた女子一人に声をかけた。ごめんな。名前覚えてやれなくて。
「少し俺達だけで積もる話があるからみんなに部屋から出るように言ってくれないか?」
「え?でも・・・」
「一夏を狙うチャンスを山ほどあるんだぜ?ここは頼む。なっ?」
トドメにウインクをしてやったら、
「は、はいぃっ!」
と、ものすごく手際よく女子たちは保健室から出て行った。ふぅ、やっと静かになる。
「さて、山田先生も行ってた通り、今のお前ら二人のISの状態で無理にでも展開しようとすれば、機体の損傷はさらに激しくなる。だから、お前らはトーナメントに出るな。これは俺、個人の忠告じゃなくて、一研究者としての忠告だ」
俺がさらに言うと、二人は折れた。
「・・・わかったわよ・・・」
「非常に、非常に!不本意ですが、トーナメントは辞退しますわ・・・」
なんだ。もう少し駄々をこねて俺達を困らせるかと思ったが、やけにあっさり受け入れたな?
「それにしても、どうしてラウラと戦ってたんだ?」
「そ、それは・・・・・」
ん?言いにくい理由でもあるんだろうか?妙に歯切れが悪い。
「ま、まあ何と言いますか・・・その・・・・・女のプライドを侮辱されたから、ですわ」
「ふぅん?」
シャルルがクスと笑ったように見えた。
「もしかして一夏の―――――」
「あああああっ!いつも一言余計ねっ!デュノアは!」
「そ、そうですっ!まったくですわ!おほほほほほ!」
何かを言おうとしたシャルルの口を二人掛かりで抑える鈴とセシリア。
「ま、まあ言いにくい理由なら無理には聞かねえよ。だからシャルルを放してやってくれ」
俺は鈴とセシリアをなだめて、シャルルを解放させた。
「けほっ、けほっ・・・。そ、それじゃあ僕たちは戻ろうか?」
「ん?ああ、そうだな。行くぞ一夏」
「おう。それじゃ二人とも、ちゃんと休むんだぞ?」
そして俺達は保健室を出た。
「さて、どうしたもんかな・・・・・」
俺は夕飯まで少し時間があるので、IS整備の為にある部屋でG−soulの整備をしているんだが、さっきから十分ほどパソコンの画面と睨めっこ中だ。
「どうしてさっきボルケーノクラッシャーが出なかったんだ?」
ラウラとの戦闘の時にボルケーノクラッシャーを使おうとしたが、不発に終わった。エネルギー分配、放熱シークエンス、様々なデータを調べるが、特に異常は見つからない。原因がさっぱりわからないぞ。
「エリナさんも電話に出ないしなぁ・・・」
あの人は仮にもエレクリットの技術開発者。そうほいほいと電話をかけることも難しい。
「やっぱりもう一度見直そう」
そうして伸びをすると後ろから突然声をかけられた。
「やあやあ、お困りのようだね。きりりん?」
「どわあっ!?」
ガシャン!と驚いて勢い余ってひっくりかえってしまった。痛い。腰打った・・・・。
「の、のほほんさんか」
「ぴんぽーん。そだよ〜」
だるだるの裾の制服を着て、手を振っているのはクラスメイトの、のほほんさんだ。名前は・・・、ダメだな。あだ名で覚えてるからいまいち覚えられてない。
「さて、いったいぜんたいどうしたんだい?」
「あ?ああ。これなんだけどな」
俺はパソコンの画面をのほほんさんに見せる。まあ、見せてどうこうなるものじゃあるまいしな。
「ふむふむ、なるほどなるほど・・・」
のほほんさんは画面を見ながらぶつぶつ呟いている。
「そだね〜。このボ・・・ボル・・・ボルケーノクラッシャーは通常時のきりりんのISには不適合だね」
「不適合?そんなバカな。どこもシステムには異状は無いんだぞ?」
「これ自体に異常はないよ〜。ただエネルギー伝達が遅れてるから、ボルクラはその真価を発揮できないんだよ〜」
む、中々的を射ている。こいつも相当ISに詳しいな。ってかボルクラって・・・。略すなよ。
「なるほど。ありがとう。参考にするよ」
「うんうん。お役に立てて光栄なのだ〜。じゃ〜ね〜」
そう言ってのほほんさんはそのままノソノソと遅い動きで部屋を出て行ってしまった。
「さて、どうすればいいかは分かった。久々にやるか・・・」
俺は気を引き締めてGメモリーのデータの新規開発を始めた。
「あ、あのね。瑛斗」
「お、おう?」
夕食後、部屋に戻ったシャルルが唐突に話しかけてきた。
「あの、遅くなっちゃったんだけど・・・その、助けてくれてありがとう」
ギクゥ!ま、まさかバレた!?なんてこった。妙なことしたって知られたら、何言われるか・・・!あわわわわ・・・・。
「・・・・・瑛斗?」
「はぅ!?べ、別にっ!?お前に礼を言われるようなことしたか?俺」
「ほら、保健室でトーナメントのペアを言い出してくれたの、すっごく嬉しかったよ」
「あ、ああ。なんだ。そんなことか。別に気にしなくていいぜ?」
ふ、ふぃ〜・・・。別のことだった。一安心だぜ。
「事情を知ってるのは俺と一夏だけだし。一夏には他言無用と言ってあるからサポートするのは俺らの役目だろう?」
「そんなことないよ。それが自然にできるのは瑛斗や一夏が優しいからだよ。それに誰かの為に自分から名乗り出るなんてすごく素敵なことだと思う。僕はすごく嬉しいよ」
「そ、そうか?そう言われると、照れるな・・・」
流石はブロンドの貴公子。そう真っ直ぐに俺の顔を見てそんなこと言われたら照れちまうよ。
「・・・なあ、シャルル?」
「なに?」
「その、なんだ・・・。俺や一夏と二人きりの時は男の口調じゃなくていいんだぞ?」
我ながら無粋なことを言っただろうか。シャルルの顔をチラとうかがってみる。
「う、うん。僕―――――私もそう思うんだけど、『正体がばれないように』って無理矢理覚えさせられたんだ。やっぱり、変・・・だよね?」
あの野郎・・・、やっぱり一発ぶち込んでやりゃ良かったかな。いや、そんなことをしちゃいかん。自分の為に怒るのと、他人の為に怒るのは訳が違う。
「いや!そんなことないぞ。シャルルはそのままでも十分―――――」
「・・・・・十分?」
「か、かわ・・・可愛いぞ?」
うう、初めて人に面と向かって『可愛い』なんて言ったぞ。しかし、おもわず出てしまったからしょうがない。
「か、可愛い・・・・・?瑛斗、ウソ、ついてない?」
「ついてないさ。本当のことだ」
「そ、そう・・・なんだ。じゃあ、このままでも、いい・・・かな?」
「もちろん!」
バカ。なんで語勢を強めてんだ、俺。バカ。俺のバカ。こういうときは話題を変えよう。それが一番!
「そ、そう言えばまだ着替えてなかったな。着替えるか」
「う、うん」
そう言って同じタイミングで立ち上がる。そして俺はドアに向かう。
「じゃ、俺は外で着替えるから」
「えっ?どうして?」
「どうしてって、そりゃあ、俺がいたら着替えられないだろ?」
「そ、そんな気を遣わないで!瑛斗もここで着替えてよ!うん!そうしよう!ねっ!?」
「え?あ、ああ。わかったよ・・・」
妙にグイグイ来たな。それに何となくシャルルの頬が赤い。
「じゃあ、シャルルから着替えてくれよ」
「あ、うん。わかった」
そう言ってシャルルはボタンに手をかけ、ピタと動きを止めた。
「え、瑛斗、その・・・そんなに見られたら着替えられないよ」
「す、すまん・・・」
俺はくるりとシャルルに背を向けた。すると、良い香りが漂ってきた。
(こ、これが女の子の匂い・・・。良い匂いだ。って、何を考えてるんだ俺はぁぁぁ!!)
頭の中で呆けていた自分を殴り飛ばす。
(無心!こういうときは心を落ち着かせるんだ!無心無心無心無心無心・・・・・)
「え、瑛斗?」
「無心!?」
「ひっ!?」
「あ、ああ。すまん。どうした?」
「き、着替え終わったよ?」
「お、おう・・・」
俺は頷いてシャツを取りに向かう。
「あーあ、パソコンと格闘してたら肩凝ったぜ」
俺はつぶやきながらシャツを手に取る。
じー。
ん?後ろから視線?
「シャルル?」
「なっ、何かな!?」
「? いや、別に・・・」
シャルルに限ってそんな俺の裸を凝視するなんて真似しないだろう。気のせいだな。早く寝よ―――――
じー。
「覗きはダメだぞ?」
「ふぇ!?みっ、見てない!見てない。見てないよ僕はそんなっ―――――きゃんっ!」
「シャルル!」
激しく動揺したシャルルがズボンに足を引っ掛けて、転びそうになったのを助けようと手を伸ばす。しかし・・・
どたたっ
シャルルがそのまま回転し、四つん這いになってしまい、俺もその上に覆いかぶさるように倒れ込む。
「てて・・・。シャルル?大丈夫か?」
「いたた、こ、転んじゃ・・・・・た・・・・」
「?」
シャルルが見ているところに視線を向ける。そこには俺の手があった。しかし、その俺の手はシャルルのパンツに引っかかり、結構下までずり降ろしていた。・・・・・・・え〜っと・・・?
「わああああああああっ!?」
ゴスッ!
シャルルの反射的な頭突きが俺の顎にクリーンヒット。そのまま俺は意識の深淵へ・・・がくっ。
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