IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「おおおおおお!」
試合開始のブザーと同時に俺は左手にビームガン、右手にビームソードを構えてラウラに突進する。
「ふん。開始直後に突進か」
直後、俺の動きは完全に停止する。ラウラのAICだ。押しても引いてもビクともしないぜ。
「ああ。その通りだ。良く分かったな。褒めてやるよ」
俺はわざと挑発するように言う。するとラウラは不愉快そうに眉をひそめた。
「では、私が何をしようとしているのかもわかるな?」
ガコン!とリボルバーの回転する音が聞こえ、G−soulが警告のウインドウを表示する。
『敵ISの大型レール砲の安全装置解除を確認。初弾装填―――警告!ロックオンを確認!』
分かってるよ。慌てんなって。何も一対一ってわけじゃないだろう?
「させないよ」
シャルルが俺の頭上を飛び越えて現れる。そしてアサルトカノン《ガルム》でラウラに爆破(バースト)弾を浴びせる。
「・・・・・っち!」
射撃によってラウラの砲撃は俺の顔面スレスレを通り過ぎていく。そしてラウラは後ろに飛び退いた。
「逃がさない!」
シャルルは即座に銃身を正面に突きだした突撃体勢へと移り、左手にアサルトライフルを一秒とかからずに装備する。流石は『高速切替(ラピッド・スイッチ)』が得意なだけある。攻撃に隙がない。
「私も忘れてもらっては困るな」
すると横合いから打鉄を展開した箒が刀を振りおろし、シャルルを後退させた。そうだ。ラウラも強敵だが、こいつも忘れてはいけないな。
「じゃあ、俺も忘れてもらっちゃ困る!」
AICから解放された俺はビームガンを箒に撃つ。射線上にいるシャルルが宙返りでそれを躱し、ビームは真っ直ぐ箒に向かう。絶妙なコンビネーションだ。
「くっ・・・!」
箒はそれを実体シールドで防ぐ。ふむ、さすがは防御型IS。堅いな。だが!
「おらおらおらぁっ!」
俺はビームソードを両手に構え、箒と斬り合いを演じる。スラスターの出力を少しずつ上げていき、攻撃の威力を少しずつ上げてじりじりと箒を後ろへ後退させる。
「くっ!。このっ・・・・・!」
痺れを切らした箒が刀を大上段に振り上げた。―――――ここだ!
「シャルル!」
「うん!」
ビームソードをクロスさせて一撃を受け止める。刹那、俺の後ろに控えていたシャルルが二十口径ショットガン《レイン・オブ・サタディ》二丁を俺の両脇から箒目掛けて構える。俺のヘッドギア内蔵型のバルカンもセットだ。
「なっ!?」
蒼ざめる箒が見えたが、その時にはすでに俺達は弾丸を放っていた。
「邪魔だ」
「「「!?」」」
突如箒の姿が消えた。何だ!?どうしたんだ!?
ドゴォン!
「ぐっ!」
「うわぁっ!」
そして俺とシャルルは訳が分からないまま横からの衝撃で吹き飛んだ。今、俺達にぶつけられたのは、箒!?まさかワイヤーで牽引した箒をそのまま質量弾としてぶつけたのか!?なんて真似を!
「な、何をする!」
箒はラウラに抗議をする。しかし返ってきたのは冷たい返事だった。
「貴様を利用してやったのだ。ありがたく思え」
「なっ・・・!?」
ここまでに冷酷で非道。俺は背筋が凍った。
「私は叩きのめす。この男を。必ず!」
ラウラはカノン砲の照準を俺に合わせた。
「ガッ!」
放たれた砲弾は俺に命中し、手持ちのシールドを吹き飛ばした。
「瑛斗!」
シャルルが俺に近づいてくる。俺はプライベートチャンネルで話しかけた。
『大丈夫。シールドを吹っ飛ばされただけだ。やっぱり一筋縄じゃいかないみたいだ。あの作戦で行くぞ!』
『わ、分かった!』
短いやり取りのあと、俺とシャルルは散開した。そしてシャルルは箒と、俺はラウラと対峙する。
「お前の相手は俺だ!」
「ふん!元からそのつもりだ!」
ラウラはプラズマ手刀を構え、俺に迫ってきた。
「Gメモリー!セレクトモード!セレクト!ハルトゥス!」
コード確認しました。ハルトゥス発動許可します。
G−soulの装甲が肩から全体を包むカバーのようなフルシールドに覆われ手刀を受け止める。
「なっ!?」
「食らえ!」
俺はフルシールドを開き、ビームピストルでラウラに続けざまにビーム弾を浴びせる。ハルトゥスは射撃戦重視の装備。色々な射撃武器を装備している。ビームピストルは威力は低いが連射ができ、近距離射撃にもってこいだ。
「なめるなぁっ!」
ラウラは右手を突き出しAICで俺の動きを止めにかかる。
「その手は何度も通じな―――――」
AICの効果が及ぶ範囲から退避しようとしたが、動けなかった。足にワイヤーが!
「ふっ、無防備だな」
ラウラはワイヤーブレードで俺に襲い掛かった。
「ぐぁぁぁっ!」
シールドエネルギーが減少していく。だがここは耐えるしかないっ!
「終わりだ!」
ラウラはカノン砲を俺に向けた。来い!シャルル!
「おまたせ」
ガキン!と砲弾がシャルルのシールドに防がれる。危なかった〜・・・。
「チッ!」
後退するラウラ。俺は体勢を立て直した。
「箒は?」
「お休み中」
見るとアリーナの端で悔しそうに呻きながら膝を折る箒の姿があった。打鉄の損傷度から見てシールドエネルギーは0だな。
「よし。上出来」
「後は君だけだよ?」
俺はG−soulをノーマルモードに戻す。そしてビームガンを構えた。シャルルもショットガンとマシンガンをそれぞれ両手に構えた。
「ここからが本番だね」
「ああ。見せてやるぜ。俺達のコンビネーション!」
「・・・・・さない」
突然ラウラは動きを止めた。どうしたんだ?
「私はお前を、いや、お前たちを許さない!」
ラウラは自分の左目の眼帯を取った。
「「!?」」
その眼帯に隠されていた目は金色に輝いていた。あの目は一体・・・?
「あの時!あの時貴様らが!ドイツの技術開発に協力していれば!私のこの『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』はこのような形にはならなかった!」
ヴォーダン・オージェ?一体何のことだ?しかし、その金色の瞳は怒りに燃えている。激しく、どす黒い、怒りの炎に。
「貴様らがぁぁぁぁぁ!」
「なっ!?」
今までとは比べ物にならないスピードで接近したラウラはプラズマ手刀で切りかかってきた。咄嗟にビームソードでそれを受け止めるが、ものすごく重い一撃だ・・・!
「瑛斗!」
シャルルがラウラを俺から引き剥がそうと攻撃を仕掛ける。ラウラはギロ!とシャルルの方を見た。
「邪魔をするなぁぁっ!」
ドォン!ドォン!
「ああっ!」
「シャルル!?」
カノン砲の砲身をシャルルに向けて2発を至近距離でシャルルに撃った。直撃を受けたシャルルは大きく吹き飛ぶ。
「ぐぁっ!」
一瞬、シャルルに注意が向き、俺はラウラの蹴りを諸に受けてしまった。マズい。エネルギーが残り少ない!
「許さない!絶対に!」
ラウラはワイヤーで俺の手足の動きを止めた。そしてカノン砲を俺に向ける。やられる・・・!
「・・・へっ、なーんつってな」
ビシュッ!!俺は4発分のエネルギーを使ってビームガンを斜め前に撃つ。
「?」
ラウラは俺が何をしたのか分からないというような顔をしている。
「へへ。驚くなよ?」
ドォオン!
「!?」
ラウラは突然の後ろからの攻撃に驚いた。振り向くが誰もいない。そりゃそうだ。シャルルはそっちには吹っ飛んでない。ただ、そこにあるのは、
「なっ・・・!?」
BRFが発動している俺のシールドがあるだけだ。
「種明かしだ。BRFはな、ビームを偏光、屈折、消滅させることができる。出力を調整すればトリッキーな弾道でビームも撃てる」
「いつからそんなものを!?」
「あの時だよ。お前が箒をそのまま俺達にぶつけて、俺にカノン砲を直撃させてシールドを吹っ飛ばした時」
「!」
「最初は気付かなかったんだけどよ、たぶん落下のショックで起動したんだろうな。最低出力でBRFが発動してた。ま、最低出力って言ってもビームを曲げるくらいなら楽勝だぜ」
「く・・・ッ!」
「あ、そうそう。もう一つお知らせだ。ただいま、お前を倒す最後の攻撃が接近中」
俺はゆるくなったワイヤーをほどき、後ろを指差す。
「!?」
「ハアァァァッ!」
そこには瞬間加速でラウラに突進するシャルルの姿があった。まさか瞬間加速で来るとは。呑み込みが早いな。
「これで決めるよ!」
シャルルの大型実体シールドが弾け飛び、中からリボルバーと杭が一緒になったような武器が姿を現した。六九口径パイルバンカー《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》。またの名を―――――
「『盾殺し(シールド・ピアース)』・・・・・!」
AICを発動しようとラウラは手を伸ばす。瞬間加速で接近してきたんだ。全身停止は間に合わない。やるならばピンポイントで当てるしかない。だけどな。
「させねえよ」
ビシュッ!ビームガンを一発撃ち、AICを中断させる。これで『盾殺し』は直撃確定だ。
「ハアアアアッ!」
ズガァン!
「うぐぅぅ・・・!」
絶対防御が発動するがシールドエネルギーはごっそり削られる。そしてシャルルは容赦なく第二、第三弾と続けて撃った。
ズガン!ズガン!ズガン!
(詰んだな)
俺は勝利を確信した。だが、そこから異変は起きた。
(負ける?私が?こんなところで?)
攻撃を受けながら、私は自問していた。確かに相手の力量を見誤った。それは認めよう。だが―――――
(負けられない!負けたくない・・・!)
ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前だ。だが、正確に言えば本当の名―――記号は、遺伝子強化試験体C−〇〇三七。人工的につくられ、鉄の子宮から生まれた私はただ戦いの為だけにつくられた。教わったのは如何にして人を攻撃するか。どうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。ただそれだけだった。
格闘を覚え、銃を習い、あらゆる兵器の運用において、最高の成績を収めた。だが、すべてISが現れてから一変した。その適合性向上の為の処置『ヴォーダン・オージェ』によって異変が生まれたのだ。
『ヴォーダン・オージェ』というナノマシン移植処理を施された私の左目は黄金色に変色し、常に稼動状態のままカットできなくなったのだ。そしてこれによって私はISの操縦においてほかの隊員に後れをとるようになった。そしてトップの座から転落した私を待っていたのは隊員からの嘲笑と侮蔑。
私はそれ以来あまり人と接しなくなった。そんなあるとき、私はある技術者からこんなことを聞いた。
―――――君のその目はツクヨミの研究員たちが技術面の協力を拒み、我々ドイツだけの技術でナノマシンを開発したからだ―――――
私はそれから宇宙ステーション〈ツクヨミ〉のIS研究所の研究員に恨みを募らせた。いつか、いつか必ずこの手で―――!という強い強い憎しみを、空っぽの心に抱えて。
そして今、その研究所の生き残りがここにいる。私をこんな体にした、私の敵が・・・!倒す!倒さなければならない!
(力が、欲しい・・・)
ドクン・・・。私の心で何かがうごめく。そして、そいつは言った。
『願うか・・・?汝、自ら変革を望むか・・・・・?より強い力を欲するか・・・・・?』
言うまでもない。力があるなら、それを得られるのなら、私など―――空っぽの私など、何から何までくれてやる!
さあ!力を・・・・・比類なき最強を、唯一無二の絶対を―――――私によこせ!
Damage level・・・・・D.
Mind condition・・・・・Uplift.
Certification・・・・・clear.
《Valkyrie Trace System》・・・・・・・・boot.
「ああああああああっ!!!」
突然ラウラが身が裂けんばかりの悲鳴を上げた。そしてシュヴァルツェア・レーゲンから強い電流が走り、シャルルが吹き飛ばされる。
「い、一体何が・・・!?」
そして俺とシャルルは信じられない光景を目にした。ラウラが、ISから噴き出した黒いドロドロした物体に飲み込まれた。あれは・・・まさか!
「おい・・・・・。嘘だろ・・・!」
「瑛斗!あれは!?」
「全世界で、開発、設計が禁じられている禁忌のシステム。VTシステムだ・・・!」
「VT・・・・システム?」
「歴代ヴァルキリーの戦闘データをコピーして、そっくりそのままの動きをほかのISでやろうっていうマッドサイエンティストの妄想だ。理論上は可能だ。だが、常人にはとてもじゃないが扱えない。しかも、こいつのデータはとんでもないぜ・・・」
ラウラの体を飲み込んだ物体はあるものを・・・ある人をかたどった。それは―――――。
「最初にして、最強のヴァルキリー。織斑千冬の戦闘データだ」
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