IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G−soul〜
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「瑛斗、どうする?相手は模写と言ってもあの織斑先生だよ」

 

ラウラの体を飲み込んだVTシステムは初代ヴァルキリー、織斑千冬、一夏の姉で俺達の担任教師の姿を形どり、手には一夏の雪片弐型の前身、雪片を模した漆黒の刀を手にしている。

 

「ああ。簡単に倒せる相手じゃねえ。ここは同時攻撃だ!タイミング合わせろ!」

 

「うん!」

 

俺とシャルルは近距離は不利と分かっているので射撃で攻撃を始めた。シャルルはマシンガンを二丁。俺はビームガンを、それぞれラウラだったものに向けて撃った。

 

「・・・・・・・」

 

しかしそれはいとも簡単に躱され、そいつは俺に急接近してきた。

 

「なっ!?」

 

そいつのラインアイ・センサーが赤い光を放ち、俺に刀を振りかざした。

 

ガキィン!

 

咄嗟にビームソードで受け止めるが、パワーが段違いだ。ビームソードは弾かれ、徒手空拳になった俺は急いで後方に飛び退く。もはやシールドエネルギーは底をつこうとしている。俺の頬にはサッと切り傷が入った。

 

「瑛斗!」

 

「くっ!」

 

さらに追撃をかけようとそいつはまた一歩踏み込んできた。ヤバい!本当にやられる・・・!

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

ガキン!刀が振り下ろされる寸前、白式を展開した一夏が俺とやつの間に割って入った。

 

「一夏!?」

 

まさかまたアリーナのバリアーを『零落白夜』で突き破って来たってのか!?

 

「ふざけやがってぇぇぇ!!」

 

一夏は力一杯、雪片弐型に体重をかけ、そのままラウラだったものを押し切る。だが、やつは全く気にせず、迷いのない太刀筋で一夏を切り伏せた。

 

僚機『白式』シールドエネルギーを一著しく減少。エネルギー残量、イエローゾーンに突入。

 

G−soulがそんなウインドウを表示する。アイツは一人で突っ込むなんて何考えてるんだ!

 

「一夏!止まれ!そんな戦い方じゃ白式が―――――」

 

「うるせぇ!アイツは俺が!」

 

話を聞かず、一夏はまた一人で突っ込んで行く。

 

「ハアアアアアアッ!!」

 

もはや冷静さなんて言葉は存在しない。一夏はダメージを全く気にせず無謀ともいえる攻撃を続ける。

 

「いい加減にしろ!お前死ぬ気か!」

 

「落ち着け一夏!」

 

「ふざけやがって!千冬姉のデータなんか使いやがって!ぶっとばしてやる!」

 

回復した箒と共に一夏を止める。そうか、こいつはアレに織斑先生の真似をされてこんなにも怒っているのか!

 

「離せ!邪魔するんだったらお前らも―――――」

 

っ!こいつは!

 

ゴン!バキ! 俺と箒は一夏を殴り飛ばした。もちろんISの拳で。

 

「いい加減にしろっつってんだろうが!!」

 

「・・・・・!」

 

ふぅ、どうやら落ち着きを取り戻したようだ。しかしいよいよ無理が祟ったのか、白式は光と共に一夏の体から消えた。さて、向こうはこっちが攻撃しないと反応しないみたいだ。話を聞こう。

 

「一夏、一体どうしたというんだ。私にもわかるように説明してくれ」

 

「あいつは・・・。あれは千冬姉のデータなんだ。それは千冬姉だけのものなんだ。なのにあいつはそれを・・・・くそっ」

 

一夏は座り込むと悔しそうに右の拳を地面にぶつけた。

 

「お前は・・・・・いつも千冬さん千冬さんだな」

 

箒はどこか寂しそうな表情でうつむく。

 

(ヴォーダン・オージェ、ツクヨミ、VTシステム、ラウラ・・・・・・・・!)

 

「ふっ。ふふ・・・」

 

俺は思わず笑ってしまった。皆が俺に目を向ける。ああ、どうして忘れていたんだろう。俺の頭の中のパズルがようやく全てはまった。そうだ。あの時・・・!

 

 

 

                    〜数年前〜

 

『・・・・・すから、そこを・・・・・』

 

『・・・・・ども言ってるでしょう!』

 

「?」

 

俺はツクヨミでたまたま会議室の前を通りかかり、ある会話を耳にした。一方が所長の声だったので、俺は好奇心で会議室のドアを少しだけ開けて中を覗いた。

 

「こんな操縦者の安全を考えれない技術に手を貸す気なんてないわ!人を実験動物みたいに扱って!こんなことが許されるとでも!?」

 

所長は怒っていた。話し合い相手は数刻前に来ていたドイツの男性技術者だ。俺も正直あの人にはいい印象は持っていない。

 

「我々ドイツが総力を挙げて国力増強を行おうと言うのです!その為ならどんな金額でもご用意いたしましょう!」

 

「国力?軍事力の間違いじゃないかしら?第一、こんな子供に、しかも女の子にそんなことをして、あなたは何とも思わないの!?」

 

「C−〇〇三七は最高の実験体です。あなた方の技術力があればアレは更に上を行く存在になる!」

 

女の子?アレ?あの男は人を『アレ』と呼んだのか。それが所長をキレさせたようだ。

 

「人の・・・・・人の命をなんだと思ってるの!たとえ実験体でも人は人よ!そんな狭い視野しか持たないあなたに渡す技術なんてないわ!帰って頂戴!」

 

まくし立てられ、男はそのままドアの方へ歩いてきた。俺は咄嗟にドアから離れ、今通りかかった風を装う。

 

「・・・・・ふん」

 

俺を一瞥した後、男はそのまま地球帰還用のシャトルが待機しているエリアへと歩いて行った。

 

「・・・・・所長?」

 

扉をそっと開けて会議室の中に入る。そこには肩で息をしている所長がいた。

 

「瑛斗・・・。聞こえちゃったかしら?」

 

「うん。バッチリ聞こえた。それで一体何の話を?」

 

聞くと所長は近くにあった椅子に腰かけ、資料を俺に見せた。

 

「『越界の瞳』・・・?」

 

「ISの適合性向上の目的でナノマシンを目に移植する計画だそうよ。それも十分問題があるけど、もっと危険なのはそれの次よ」

 

「次?」

 

俺は資料の二枚目を見る。そこにはISのコアに様々なプログラミングを施す行程が書かれていた。

 

「『VTシステム』?これって・・・」

 

「そう。全世界で開発研究が禁止されている禁断のシステム。発動すれば無敵の力を誇れるでしょうけど、それはそのISを使った本人に多大なダメージを与えるわ」

 

「これが一体?」

 

「あの男がその二つに技術的な面でツクヨミに協力を要請してきたの。でもこんな非人道的な計画には協力できないって突き返してやったわ」

 

「ふーん・・・。ん?所長、この子は?」

 

ページをめくった俺は銀髪の女の子の写真を見つけた。その横にはその子のバイタルデータらしきものが書かれている。

 

「遺伝子強化試験体C−〇〇三七?」

 

「ドイツが人工的に生み出した試験管ベイビーよ。その子に今の二つをやらせようってことだったの」

 

「そんな!そんなことをして許されるのか!?」

 

「許されないわ!でもドイツはその計画を極秘裏に進めていたの。権力を傘にしてね」

 

「・・・・・・・」

 

「そして、この子の名前はね、―――――――よ」

 

 

 

「・・・・・一夏」

 

「何だよ?」

 

全てを思い出した俺は一夏の前に立った。

 

「お前、さっきアイツをぶっとばすって言ってたけどよ、それ、俺にやらせてくれねえか?」

 

「え?」

 

「お前やシャルルよりかは、上手くできる自信があるぜ。それに・・・・・」

 

「それに?」

 

「俺はアイツを救ってやらなきゃいけないんだ。頼む。俺にやらせてくれ!」

 

「瑛斗・・・・・」

 

俺は一夏の目を真っ直ぐに見る。すると一夏は二ッと笑って拳を突きだした。

 

「よしわかった!俺の分も一発かましてきてくれよ!」

 

「ああ!任せてくれ!」

 

俺と一夏はISの拳と人の拳を、コン、とぶつけ合った。

 

「だが、どうするつもりだ?お前のエネルギーももうないだろう?」

 

「ぎくっ・・・」

 

箒が言ってることはごもっともだ。正直言うと、いつG−soulが解除されてもおかしくはない。

 

『非常事態発令!トーナメントは全試合中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のために教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐ避難すること!繰り返す!』

 

いよいよヤバいようだ。アリーナは一気に喧騒に包まれる。

 

「瑛斗」

 

シャルルが話しかけてきた。

 

「ん?」

 

「もうすぐ先生たちが事態を収束させてくれる。だから―――」

 

「だから無茶する必要はない、か?シャルル、これは俺がやらなきゃいけないんだ。ここでやらなかったら、俺は一生後悔する。だから止めるな」

 

虚勢を張るが、さすがにもうエネルギーがマズイな・・・

 

「・・・・・ふふ。そう言うと思ったよ。瑛斗、僕のリヴァイブの力を使って。この子はコア・バイパスでエネルギーを移せるんだ」

 

「おお!本当か!?さっそくやってくれ!っていうか、それがあるなら最初からそう言えばいいんじゃないか?」

 

「瑛斗の覚悟を聞いたんだよ。それじゃ、始めるよ!」

 

シャルルがラファールを操作すると、ラファールから発せられた光が俺に降り注いだ。見るとG−soulのエネルギーが回復している。

 

「・・・ふぅっ。完全とはいかないけど、これならなんとかなると思うよ」

 

「ああ!これならやれる!」

 

「瑛斗、最後に一つだけ」

 

「ん?」

 

「約束して。絶対に負けないって」

 

「・・・ああ。任せてくれ。もし負けたら、お前の言うこと聞いてやるよ」

 

「本当?じゃ、負けたら瑛斗は明日から女子の制服だよ?」

 

うお、絶対に負けらんねえな、こりゃ。俺はシャルルに笑って見せて、あらためてVTシステムに飲み込まれたラウラを見る。絶対、助けるからな・・・!

 

「Gメモリー!セレクトモード!」

 

様々なウインドウが表示される。今度こそ使ってみせる!

 

「セレクト!ボルケーノ!」

 

コード確認しました。ボルケーノ発動許可します。

 

G−soulの装甲が変化し、俺の右手にはあのボルケーノクラッシャーが備え付けられている。のほほんさんの助言をもらったあと、俺はボルケーノクラッシャー発動時専用の装備を開発した。それがこれだ。設計上の問題で通常時はただのISのアームのそれと変わらない。だが調整は完璧だ。背中の放熱ウイングが開き、日輪のような光を放つ。

 

放熱ウイング、正常駆動を確認。エネルギー分配異状なし。ボルケーノクラッシャー発動可能です。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

俺は目標に向けて突進する。AICを失っているから、動きを止められる心配はない。あとは、あの刀をどうやって躱すかだ。俺がヤツに触れる直前、刀が振り下ろされる。間に合え・・・・・!

 

「いっけええええええええええ!!!」

 

バリバリバリ!

 

激しい閃光と共に俺の右の五本の指は輝きを増す。ヤツの胴部分に触れたボルケーノクラッシャーはビキビキとヤツの腹にヒビを入れた。

 

「!」

 

剥がれ落ちたその間から見えたのは人の、ラウラの左手だった。

 

「瑛斗っ!」

 

「あぶないっ!」

 

おそらく最後の抵抗だったのだろう。ヤツは刀を振り下ろしてきた。

 

「おおおおおおっ!!」

 

俺はボルケーノクラッシャーでそれを受け止める。そして俺は左腕を伸ばし、ラウラの手を掴む。握りつぶさないように展開は解除している。

 

ズボォッ!

 

掴んだ手を決して離さず俺はラウラを引き抜いた。一瞬、ほんの一瞬金色のラウラの瞳と目があった。ひどく、さびしそうな目だった。ラウラを抱えて中身がいなくなったISと向き合う。するとギギギ・・・とぎこちない動きで手を伸ばしてきたが、そのまま雲散霧消し、シュヴァルツェア・レーゲンはラウラのレッグバンドに戻った。

 

「・・・・・一夏。予定変更だ。ぶっとばすのは勘弁してやろうぜ?」

 

俺がそう言うのと同時に突入してきた先生たちがやって来た。やれやれ、遅いっつーの。

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憎しみを砕く紅蓮の拳
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