IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
ここは―――どこだ―――――?
私、ラウラ・ボーデヴィッヒは暗い闇の中にいた。目を開けていても前が見えない漆黒の、闇。
私は―――力を望んで、それから――――――。思い出せないな―――――。
この闇は居心地がいい。今の私にはお似合いだな。
もう―――――、このまま―――――。
私が瞼を閉じた。
なんだ―――――? やけに―――眩しいな――――――?
すると、目を閉じていても感じるほどの強い光を感じた。私はうっすらと目を開けた。そこにあったのは・・・。
手―――――?
白い、手だった。何もない闇の中で、光を放つそれは真っ直ぐ私に差し伸べられている。
『俺はお前を救ってみせる』
誰の―――声だ?―――――ああ、あいつの声だ―――――。
私はその手にそっと触れた。温かく、優しい光を放つ、その手に・・・・・。
「う、うう・・・・・」
「気がついたか」
「ホントですか?」
ラウラはぼやっとした光が天井から降りているのを感じて目を覚ました。ラウラが目を覚まして最初に聞いたのは、自分が敬愛してやまない教官、千冬の声だった。
「私・・・・・・は・・・・・?」
「全身に無理な負荷がかかってたからな。筋肉疲労と打撲がある。しばらく動かない方が良いぞ?」
その横にいる瑛斗の声もラウラは聞き取れた。
「一体・・・・・何が?」
無理をして上半身を起こすと、ラウラは全身に走る痛みに顔を歪めた。だが、瞳だけは、千冬と瑛斗を真っ直ぐ見ていた。治療のためにはずされている眼帯の下の金色の瞳もだ。
「ふう・・・・・。一応重要案件である上に機密事項なのだがな」
「いいじゃないですか。当事者なんですし」
「わかっている。・・・・・VTシステムは知っているな?」
「はい・・・・・。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・・・・。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かアレは―――――」
「そう。IS条約ですべての組織、国家はその開発、研究を禁止されている」
「それがお前のISには積まれてた。巧妙に隠されていたがな。蓄積ダメージ、操縦者の精神状態。そしてなによりも操縦者の意志・・・・・。これらがそろえば発動するようになっていた。近々ドイツ軍には委員会からの強制捜査が入るだろうな」
二人の説明を聞いていたラウラは、眼下の虚空を見つめ、シーツをぎゅうっと握り締めた。
「私が・・・・・望んだからですね」
あなたになること、そう口にはしなかったが、千冬には分かったようだ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はいっ!」
いきなり名前を呼ばれて、ラウラは驚きと混ざって顔を上げる。
「お前は誰だ?」
「わ、私・・・・・は・・・・・」
その言葉の続きが出てこない。私がラウラであると今の状態では言えない。
「誰でもないなら、今からお前はラウラ・ボーデヴィッヒだ。何、時間が腐るほどあるんだ。何せこの三年間は学園に在籍しなければならないからな。その後も、まあ、死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ小娘」
「またそんな、無茶苦茶な・・・・・」
瑛斗が隣で苦笑すると、千冬は扉の方へ向かった。
「ああ、あと、そいつは話があると言ってたから連れてきたんだった。ちゃんと聞いてやるんだぞ?」
最後にニヤリと笑って千冬は保健室を出た。
「・・・・・・」
「あー・・・・・えっとだな・・・・・」
二人になって、ラウラにじっと見られている瑛斗はどう切り出せばいいか悩んだように目を泳がせた。だがすぐにラウラと向き合った。
「ごめん!」
「・・・・・・え?」
突然頭を下げられて、ラウラ自身もどうしていいか分からない。
「全部思い出した。確かにあの時、ツクヨミは技術の提供を拒否した。だけどそれは、お前のことを考えた結果だったんだ。でも、それがお前が俺達ツクヨミの連中を恨む原因なら、俺は生き残りの責任として謝らなくちゃならない。だから―――――」
「ふっ、分かっている・・・・・」
「へ?」
「確かに、私のこの目のことでお前たちを恨んでいた。だが、考えてみれば、この目が無かったら、私は教官と出会えなかったと思う。今の私があるのはあの人のおかげでもあるしな」
「・・・・・・」
「今はもう、恨みより感謝の気持ちの方が大きいよ」
ラウラの言葉を聞いた瑛斗は二ッと笑って椅子から立ち上がった。
「その言葉が聞けて良かった。やっと肩の荷が降りたよ。・・・ん?使い方間違ってるか?」
まあいいか。そう言いながら瑛斗は扉に向かった。
「一夏も、いきなり殴ってきたのは許すってさ。だから仲良くやっていこうぜだとよ。じゃあな」
そして保健室を出たと思うとバッ!と戻ってきた。扉から顔を出した瑛斗は言った。
「そうだ言い忘れてた。お前のその目、俺は・・・・・綺麗だ、と、思うぞ?」
そして最後に笑って今度こそ瑛斗は出て行った。
「・・・・・・」
一人残ったラウラは、窓の向こうで沈む夕日に目をやった。
―――――綺麗だ、と、思うぞ?
瑛斗から言われた一言を何度も頭の中でリピートしていると、ふと窓に映る自分と目があった。
「ふっ、ふふ・・・・・・ははっ」
何故おかしいのかは自分でも分からないが、ラウラは声を出して笑った。笑うことによって痛みが走るが、今のラウラはそんなことを気にしてはいない。
「そうか、そうだな」
自分は闇から光の手に引かれて出た。そう、
ラウラ・ボーデヴィッヒはここから始まるのだ。
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