IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「お、お邪魔します・・・・・」
「「!?」」
突然大浴場に入ってきたのはシャルルだった。俺と一夏はあまりの出来事にシャルルを見て動けなくなってしまう。
「「な、なっ、なぁっ!?」」
俺と一夏のテンパり指数はメーターを振りきってしまっている。
「・・・・・あ、あんまり見ないで。二人のえっち・・・・・」
「ご、ごめんっ!」
「す、すまんっ!」
わあああ、何を謝ってるんだ俺は!?解らないけど、とりあえず謝っておこう!
慌ててシャルルに背を向ける俺と一夏。そんな俺達を見たシャルルは
「ぼ、僕が一緒だと、イヤ・・・・・?」
少し寂しそうな声を出した。
「いや、けしてそういうわけじゃない!」
「あ、ああ!そういうわけじゃない!」
「やっぱり、その、お風呂に入ってみようかなって―――――め、迷惑なら上がるよ?」
「い、いやいや、上がるなら俺たちが・・・あ!そうだ!サウナ!サウナ入ってなかったぜ!」
バッシャバッシャと水音を出しながら、一夏は湯気の向こうに消えてしまった。しかし、中々良い案ではあるな。よし。俺も―――――
「ま、待って!」
俺も一夏に続こうとしたが、シャルルに大声で呼び止められてしまった。
「その、大事な話があるんだ。大事なことだから、瑛斗にも聞いてほしいんだ・・・・・」
「・・・・・・・わかったよ」
・・・・・。もう、どうにでもなれってんだ。俺はシャルルに背中を向けて再び湯船に浸かった。
「その・・・・・前に言ったこと、なんだけど」
「前?お前の父親の話か?」
「う、うん。それで、僕、実はさっき、瑛斗が食堂に来る前に電話があってね。もう、男のフリをする必要はないって言われたんだ。どうしてだと思う?」
「どうしてって・・・・・そんなの分かるわけないだろ?」
俺はわざと知らないフリをする。
「実はね、数日前にISの第三世代型の設計図をもらったんだって。若い日本人のIS研究員からね」
「へ、へぇ〜・・・・・」
ばれる一歩手前だな。若い日本人のIS研究員って・・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そしてなぜか沈黙が訪れる。ダメだ。何を話せばいいのか分からない。
ぴちゃーん
「きゃあっ!?」
「どど、どうした!?」
いきなり可愛らしい叫び声をあげたので俺の声もひっくり返ってしまう。
「す、水滴が落ちてきてびっくりしただけ・・・・・」
「そ、そうか・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そしてまた沈黙が続く。水滴が落ちる音が妙に大きく聞こえる。
ちゃぷ・・・・・
「? シャルル―――――」
「こ、こっち見ちゃダメ!あっち向いてて!」
「わ、悪い!」
一瞬振り返ってしまった。湯気でおぼろげではあったが一メートルとない距離だ。シャルルがこちらに来るのが見えた。
(な、何するつもりだ?のぼせたかな・・・・頭がくらくらしてきた・・・・・)
しかしそのくらくらも一瞬で吹き飛んだ。
ぴとっ・・・・・と俺の背中にシャルルの手が触れた。
「お、おい、シャ―――――」
そのまま、手は俺を後ろから抱きしめた。背中に華奢な体が密着して、俺の心臓は飛び出しそうだ。
「瑛斗・・・・・。瑛斗は嘘が下手だね」
「え?」
「僕、わかってるよ。瑛斗があの日の朝、フランスに行ってたの」
・・・・・もうどうやら、ばれてしまったらしい。
「どうして、分かったんだ?俺だって」
「全部聞いたんだ。瑛斗がたった一人でデュノア社の本社に向かって、お父さんと交渉して、僕のことで怒ってくれたのも全部」
そう言ってシャルルは更に俺にきつく抱きついてきた。
「瑛斗は優しいね。僕の事で泣いてくれたり、僕のことで怒ってくれたり」
「お、俺はただ、その、なんだ・・・ほら、あの・・・・・」
ダメだ。自分でもどういったら良いか分からない。今思うと確かに無謀なことをしたかもしれない。
「でも、お父さんにビームガンを向けたって聞いた時はびっくりしたよ」
「あー、それは、すまん」
「いいよ。許してあげる。その代り・・・僕のことはこれからはシャルロットって呼んで?二人きりの時だけで良いから」
「シャルロット・・・それが?」
「うん。僕の名前。お母さんがつけてくれた、本当の名前」
「わかった―――――シャルロット」
「うん」
シャルル・・・じゃなかった。シャルロットは嬉しそうに返事をした。その声から、あの屈託のない表情がすぐ想像できた。
「なあ、シャルロット。さすがにそういつまでもこの体勢だといろいろマズイことが起こりかねないんだが?」
さっきまでは全く気にしなかったが、改めて気が向くと、俺の背中に確かにやわらかいふくらみが当たっている。気になってしょうがない。
「あ、ああ!うん!そうだねっ!ぼ、僕先に体洗ってくるね!」
そしてシャルロットは湯船から上がった。
「の、覗いちゃダメだよ?」
「覗きゃしねえよ」
「・・・・・覗いてもいいのに」
ん?最後の方が聞こえなかったが、まあ良いか。そうして、俺達の長いようであっという間だった風呂タイムは終了。サウナで目をぐるぐるさせていた一夏も無事回収して俺達は大浴場を後にした。
翌日。朝のホームルームにシャルロットの姿はなかった。『先に行ってて』と食堂で言われたので別れたんだが、一体どうしたんだろうか?ちなみにラウラもいない。負傷のためだろう。
「みなさん・・・・・おはようございます・・・・・」
うお、すげーどんよりした感じで山田先生が入ってきた。
「織斑君、何を考えてるのかはわかりませんが、私を子ども扱いしようとしてるのはわかりますよ。先生、怒っちゃいますよ。はぁ・・・・・」
一夏を山田先生が注意するが、全然覇気がねえ。
「今日は、ですね。みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでにみなさん顔なじみだと思います」
クラス全員の頭の上に『?』のマークが浮かぶ。この時期に転校生?顔なじみ?どういうことだ?
「それでは入ってくださーい」
「失礼します」
そう言って現れたのは・・・
「「へ?」」
「シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
スカート姿のシャルロットだった。俺を始め一夏やクラスの女子たちは口をぽかんとさせている。
「ええと、デュノアくんはデュノアさんでした。はぁぁ・・・また寮の部屋割りを組み直す作業が始まります・・・・・」
なるほど。山田先生の落ち込みはそこから来てるのか。・・・・・って、ちょっと待てよ?
「え、デュノア君は女・・・・・?」
「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね!」
「ちょっと待って!昨日は確か、男子が大浴場を使って―――――」
ドカーン!突如教室の入り口に穴が開いた。そしてそこから現れたのは甲龍を展開した鈴だった。どうやら衝撃砲でドアを吹っ飛ばしたらしい。危ねー。もう少しで当たるところだった。
「一夏ぁっ!!!」
鈴の体からは怒りのオーラが立ち込めている。
「死ね!!!」
鈴は再び衝撃砲の発射体勢になった。照準は俺の斜め後方に座っている一夏。っておい待て!その射線上には俺がいるん―――――!
ズドドドドォンッ!!
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
髪の毛を逆立てて肩で息をしている鈴。って、あれ?俺、生きてる?俺生きてる!
「・・・・・・・・・」
間一髪だったのかどうかは知らんが、俺と鈴の間に割って入ったのは―――――なんとラウラだった。ラウラが専用IS『シュヴァルツェア・レーゲン』のAICで衝撃砲を止めたのだ。だがよく見ると肩のカノン砲は無くなっている。
「た、助かった。ありがとな。ってかお前のIS、あの状態から修理できたんだな」
「コアは辛うじて無事だったからな。予備パーツで組みなおした」
「なるほど―――――なっ!?」
いきなりだ。
いきなりだった。ラウラにぐいっと胸倉を掴まれ、引き寄せられた俺はなんと唇を奪われた。
「!!!???」
驚天動地。ビックリ仰天。一体何がどうしたんだ?クラス一同、鈴も含めてあんぐりとしている。誰もがしている。俺もしてる。すると、ラウラはビシッと俺を指差し、頬を赤くしながら高らかに告げた。
「お前は私の嫁にする!これは決定事項だ!異論は認めん!」
「よ、嫁?婿の間違いじゃないのか?」
うーん、我ながら冷静かつ的確なツッコミ。
「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故にお前を私の嫁にする」
よし、そいつを連れて来い。ボルクラ叩き込んでやるから。・・・ん?
「あ、あ、あ・・・・・・!」
鈴がワナワナと震えている。あれ?嫌な予感。
「アンタねえええええっ!!!」
「なんで俺ええええ!?」
俺は咄嗟にG−soulを展開し、シールドで衝撃砲を受け止める。
「アンタ!ホント、アンタはああああっ!」
ダメだ!鈴の奴、気が動転してる!相手をしてる場合じゃない!俺はドアと一緒に吹っ飛んだ壁の穴から廊下に出た。
「Gメモリー!セレクトモード!」
俺はGメモリーを起動する。
「セレクト!シェラード!」
コード確認。シェラード発動許可します。
俺はシェラードのステルスフィルムを発動させ、完全に景色と同化しながら走り出す。そう、俺が感じている嫌な予感は鈴じゃない。もっと恐ろしい、その予感の正体は―――――
ぺシャぺシャッ!
・・・・・ぺシャ?何の音だろう?サクルースと左腕に当たったような・・・?俺は左腕に着いたピンク色の粘着物質を手に取り、匂いを嗅いだ。こ、これは・・・!
「ぺ・・・ペイント弾・・・・・!」
模擬戦なんかでよく使われるアレである。これで俺の居場所は分かってしまう。そして、それを撃ってきたのは・・・・・。
「あ、瑛斗、偶然だね?」
ニコニコと微笑をたたえ、専用機の『ラファール・リバイヴ・カスタムU』を展開している、シャルロットだった。だがその笑顔の後ろには、金剛力士像がはっきりと見える。うっすらとじゃねえぞ。はっきりとだ。
「あ、ああ。ホント、偶然・・・・・」
俺は苦笑いを浮かべながらG−soulをノーマルモードに戻す。もうシェラードは使えない。
「今なら、辞世の句を言わせてあげるよ?」
そう言いながら、シャルロットはシールドの装甲をパージさせた。そう。その中にこそアイツの最強の武器が装備されているから。『灰色の鱗殻』。通称―――――
「『盾殺し(シールド・ピアース)』・・・・・!」
「・・・・・・・・」
ものすごい勢いで突進してくるシャルロット。ヤベ、足がすくんで動けん。
「は、ははは、はは・・・・・」
ツクヨミで見た映画のワンシーンでこんなセリフがある。
『人間ってのはな、本当に追い詰められるとなぜか笑えてくるんだ』
その通りだと、思います。
「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
この日、俺と一夏の悲鳴は天高く轟いた。
『では、お前はこの一件には何も関わっていないんだな?』
「むー、ちーちゃんは疑り深いなぁ、でもそういうところも大好きだぜぃ!」
『・・・・・ではな』
ぶつっと電話は切れた。ここは箒の姉で、ISの開発者、篠ノ之束の秘密ラボ。ここがどこにあるのかは束にしかわからない。先ほどまで暇つぶしでナノサイズのISプラモを作っていたのだが、突然千冬からかかってきた電話でVTシステムのことを聞かれた。だが、その研究所は二時間ほど前に完全に地上から消滅したのだ。
死傷者は0。
この数字の原因はこれまた束にしか分からない。何故かを聞いても彼女は答えようとはしないだろう。
そして、また束の携帯電話に着信が入った。しかし、それは今まで一度もかかってきたことのないものだった。しかし、束には誰からの電話なのかすぐに分かる。
「やあやあやあ!久しぶりだねぇ!ずっとずーーーーーーーーっと待ってたよ!」
「・・・・・姉さん・・・」
「うんうん。用件は分かっているよ。欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、オルタナティヴ・ゼロの箒の専用機が。モチロン用意してあるよ。ハイエンドにしてオーバースペック。そして白と並び立つもの。その機体の名は
『紅椿』――――――――」
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