IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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放課後、夕暮れに染まる教室で、俺とシャルロットはふたり掃除をやらされていた。普段は用務員さんが床から天井に至るまでピカピカにしてくれるので、生徒による掃除は、もっぱら軽い処分とされている。今はそれを絶賛体感中だ。

 

「うーん、やっぱりいいな」

 

「え?」

 

「いや、ツクヨミでも俺が結構掃除してたからよ、こういうのもいいなって」

 

「え、そう?瑛斗は変わってるね・・・・・」

 

うん?変って言われた。でも大変なんだぞ?書類の片づけから部品整理まで、やること盛りだくさんだったんだから。まあ、やり終えたときの達成感はひとしおだがな。

 

「ん、んん〜〜!」

 

「おいおい、無理するなよ?机は俺が運ぶから」

 

ってかそれ、アレだろ?岸里さんの机だろ?教科書全てを内蔵した『フルアーマー机』だろ?

 

「へ、平気、だよ。一応これでも専用機持ちなんだし、体力は人並みに―――――」

 

そう言うシャルロットだったが、机の重さに負けて足を滑らせてしまった。俺は咄嗟にシャルロットの背中を支える。

 

「あぶねっ!・・・・・ったく、気をつけろよ?怪我したら元も子もないからな。ほら、俺が代わるって」

 

「う、うん・・・・・ありがとう・・・・・」

 

後ろ側に滑ったシャルロットを背中から支えたのでちょうど抱きしめるかのような格好になってしまっている。さすがにこんなことをされて落ち着かないのか、シャルロットは視線をさまよわせている。

 

「っと、悪い悪い。離れる」

 

「あっ・・・・・」

 

ん?なんだかシャルロットの声が妙に残念そうだが、・・・・・なして?

 

「別に・・・・・良かったのに・・・・・」

 

「うん?」

 

「な、なんでもないっ」

 

「そ、そうか」

 

今朝と言い、今と言い、おかしなシャルロットだ。

 

 

 

(わ、わ、心臓すっごくバクバクしてる・・・・・。顔大丈夫かな?変な顔してないかなぁ?)

 

ぺナルティとは言え、願ってもない二人きりだ。シャルロットの胸の高鳴りはどんどん増していく。

 

今の状況と夢の光景が重なって、シャルロットは顔を耳まで赤くする。

 

(ど、どうしよ・・・・・。何か喋らないと・・・・・。うう、でも言葉も話題も思いつかないよ)

 

「そういやさぁ」

 

「ひゃい!?」

 

「ど、どうした?変な声出して」

 

「な、何でもない。何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」

 

「ふーん、そうか。ふぃー・・・。やっと終わった」

 

机を運び終え、瑛斗は満足げに頷いた。

 

「で、先月から気になってたから、この際訊くわ」

 

「な、何かな?」

 

「『ふたりきりの時はシャルロットって呼んで』ってアレ、てっきりもう少し男のフリすると思ってたんだけど、いきなり次の日から女子に戻ったから何かあったのかな、と」

 

「あ、え、えっと、それは・・・あの・・・・・」

 

それに関してはシャルロットにはちょっとした事情がある。正直訊かれると痛いところなので、いつものはきはきとした答えもままならず、しどろもどろになっている。

 

「いや、良い。言いたくないならそれで良いさ。ただの好奇心だからな」

 

「こ、好奇心?」

 

「ああ。だって気になるだろ?」

 

「・・・・・・・」

 

そう言われたシャルロットは何度か瑛斗と窓の外を交互に見て、意を決したように口を開いた。

 

「その、ちゃんと・・・女の子として・・・・・ね」

 

かぁっと頬を赤く染めながらも瑛斗を真っ直ぐと見つめる。

 

「瑛斗に、見て欲しかったから・・・・・。ふたりきりの時だけ女の子っていうのも変って言うか、卑怯っていうか・・・・・。と、とにかく瑛斗が原因なんだよ?」

 

「そ、そうなのか、そりゃ、すまん」

 

「べ、別に謝られることでもないけど・・・・・」

 

ふいっと顔を窓の方に向けるシャルロットの頬は夕日のオレンジの中でも際立って赤く見えた。

 

「まあ、でも、俺はちゃんとシャルロットのことを女って見てるぜ?」

 

「えっ?それって・・・・・」

 

予想外の返事に胸をときめかせるシャルロット。―――――しかし、桐野瑛斗という男を甘く見てはいけない。彼もまた、唐変木・オブ・唐変木、織斑一夏と肩を並べるほどの鈍感っぷりを有しているのだ。人は彼をこう呼ぶ。『唐変木・ザ・唐変木、桐野瑛斗』と―――――。

 

「だって男じゃねえしな」

 

あほー、とシャルロットの後ろでカラスが飛んだ。いや、実際飛んでいるわけではないが、ぽかんを通り越してカラスの鳴き声だ。

 

(う、ううう〜〜っ!瑛斗って、瑛斗って!)

 

我に返ると心の中で地団太を踏む自分がいることに気づいたシャルロット。顔を先ほどとは違い、憤りによって赤くなっている。

 

(どうして、こう、瑛斗は僕をドキドキさせるんだろう・・・)

 

シャルロットにはそれは嬉しくもあり、歯がゆくもある。とても近くにいるのに、近づけば向こうもこちらが近づいた分だけ後ろに下がる。そんな感じだ。

 

「まーでも、アレだな?せっかくの呼び名が普通になっちまったら面白くねえ。そうだな、ここは新しい呼び名でも考えるか?」

 

「えっ、いいの?」

 

「お前が良けりゃな」

 

首を縦に振る以外にシャルロットに選択肢はない。

 

「う、うんっ。全然大丈夫っ。せ、せっかくだし、お願いしようかなっ?」

 

動揺と興奮が入り混じる中、シャルロットは必死に平静を装う。だが、彼女の心は現在お花畑状態だ。

 

(わ〜〜っ、い、いきなり瑛斗ったらどうしたのかなっ!?心の準備がまだ・・・・・、ああでもこれって瑛斗が少なからず僕のことをす、す、好きだ、って捉えていいのかな?いいよねっ!?)

 

心の中の盛り上がりがついつい口から出そうになる。それをゴホンゴホンと咳払いで誤魔化す。

 

「そうだな・・・シャル、なんてどうだ?呼びやすいし、親しみやすい」

 

「シャル。―――――うん!いいよ!すっごくいい!」

 

「そ、そうか。喜んでくれたら何よりだ」

 

「シャル、えへ、えへへ・・・」

 

それでは、ただいまのシャルロット・デュノアの心の中の状況をお知らせします。現在、シャルロットの心の中ではお花畑のど真ん中で三頭身のシャルロットが手を繋いで踊っています。テロップが流れるとすれば『しばらくお待ちください』となるでしょう。というわけで、しばらくお待ちください。

 

「―――――でな、シャル。頼みごとがあるんだが」

 

「うん?何かな?」

 

未だに幸福感MAXのシャルロットに対して、瑛斗はガシッと手を握る。

 

「?」

 

シャルロットの頭の上には上記のマークが浮かんでいる。そして、次の瑛斗の言葉を聞いて、

 

「付き合ってくれ」

 

「―――――え?」

 

シャルロットは世界が止まる音を聞いた。

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