IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「海っ、見えたぁっ!」
バスがトンネルを抜け、視界が開けると女子が声をあげた。今日から待ちに待った臨海学校だ。天気は快晴。海の波は穏やか。最高のロケーションだ。
「見ろよシャル!海だぞ!」
「う、うん?うん、そうだね」
テンションが高い俺とは反対にシャルは景色を見ずにずっと自分の左手首を見ている。正確には手首についている銀色のブレスレットを見ている。
「気に入ってくれたのか?それ」
「うん!とっても!瑛斗からのプレゼントだもん、すごくうれしいよ」
「そ、そうか。気に入ってくれたらなら、何よりだ」
シャルがつけているそれは、水着を買いに行った帰りにふらりと立ち寄ったアクセサリーショップで買ったものだ。買い物に付き合ってくれたお礼に俺がシャルにプレゼントしたのだ。
「うん、瑛斗からのプレゼント。えへへ・・・」
実を言うと安物なのだが、こんなに喜んでもらわれると少し申し訳ない気がする。
「おい、ラウラ」
「・・・・・・・・・」
呼んでも返事がない。
「ラウラ?おーい」
「うわぁっ!?か、顔が近い!」
どてっ。
俺が顔を覗き込むと鼻の頭をラウラに押され、俺はバランスを崩して尻餅をつく。
「いててて・・・・・・」
「す、すまん。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
俺はラウラに手をかしてもらって立ち上がる。心なしかラウラの顔が赤い。どうしたんだろう?今朝、合流してからというものずっとこの調子だ。もしかして具合でも悪いのだろうか?
「お前こそ大丈夫か?顔が赤いぞ?」
「なっ、なな、なんでもない!なんでもないぞ。心配するな」
「えっ、でも―――――」
ガスッ!突然俺の頭に衝撃が走った。
「席に着け。もうすぐ目的地に到着する」
振り返ると織斑先生が立っていた。持ってきてたんすね、その出席簿・・・・・。
「は、はい」
俺が席に着くと、間もなくして目的地の旅館に着いた。俺達はバスから降りて整列する。
「さて、今日から三日間お世話になる『花月荘』だ。全員、従業員に迷惑をかけないようにな」
「「「「「よろしくお願いしまーす」」」」」
俺達が挨拶すると、その旅館の女将さんのような人が丁寧なお辞儀を返した。
「はい、よろしくお願いします。今年の一年生さんも元気いっぱいですね」
その人は年齢は三十くらいだろうか?いや、もしかするともっと若いかもしれない。なんだろうか、エリナさんとは違う、大人の雰囲気があるな。
「・・・・・では、各員荷物を置いたら自由行動だ。ただし、あまり羽目を外しすぎないようにな」
おっと、そうこうしている間に説明が終わった。えーっと、海に行く人は別館で着替えるんだっけ?
「よし、一夏。俺達も行こうぜ」
「おう、そうだな」
俺と一夏は荷物をもって歩き始めた。
「おりむ〜、きりり〜ん」
うん?この声はのほほんさんか?振り返ると案の定のほほんさんがこっちにやって来た。しかし、尋常じゃない移動速度だ。眠たそうな顔は多分、素だ。バスでも完全に寝てたし。
「ね〜ね〜、二人の部屋ってどこ〜?一覧に書いてなかったから聞いておきたいな〜」
「ふむ、部屋割りか。部屋割り、部屋割り・・・・・う〜ん」
「そう言えば、俺達も聞かされてなかったな」
そんな会話をしていると
「織斑、桐野、何をしている。さっさと来い」
織斑先生に呼ばれた。もしかすると例の部屋割りのことかもしれない。
「じゃ、そういうことだから、また後でな」
「うん〜、またね〜」
そんなわけで俺と一夏は織斑先生に続いて旅館に入り、奥の方のブロックに着いた。
「では、お前ら二人の部屋割りを教える。織斑、お前は私と同じ部屋。桐野はその隣の部屋を一人で使え。部屋割りの都合でこうなってしまったが、まあ、上手くやってくれ」
「え」
「は、はあ」
一夏の部屋割りは分からなくはないが、どうして俺は一人部屋なのだろうか?・・・・・まあ、別にいいか。
「わかりました」
「よし、では私は少し用がある。お前たちも海に行ってこい。あまりはしゃぎすぎるなよ?」
「「はい!」」
そうして俺と一夏はそれぞれの部屋に入った。
「おお!スゲー!」
ドアを開けると、大きな窓から景色が一望できる立派な部屋だった。うん、IS学園の寮、いや、それ以上かもしれない。窓も東向きだから、朝日も最高だろう。
「いやぁ、こんないい部屋を一人で使わせてくれるなんて、気前がいいな」
俺は鼻歌交じりに荷物から小さなリュックサックを取り出し、中にタオルと代えの下着、そして水着を入れて部屋を出た。
「お」
「あ」
それと同じタイミングで一夏も部屋から出てきた。
「じゃあ・・・」
「ああ・・・」
「「行こうか!」」
俺と一夏は走り出したい気持ちを抑えながら更衣室のある別館に向かって歩き始めた。
「「「・・・・・・・」」」
俺と一夏は、途中で箒と合流した。それは良い。問題は俺達の足元にある、謎の『ウサ耳』だ。不思議だ。このウサ耳、見覚えがある。
「なあ、これって」
「ああ、箒―――――」
「知らん。私には関係ない」
そう言って箒はスタスタと行ってしまった。取り残された俺達はこのウサ耳をどうするか考えた。
「どうする?なんか『引っ張ってください』って張り紙もあるんだが」
「うーん、このままにしておくわけにもいかないだろ」
「それもそうだな」
そんなわけで俺と一夏は片方ずつウサ耳を持って、せーの、と腰に力を入れた。
すぽっ。
「のわっ!?」
「どわっ!?」
中にあの人が埋まっていると思って力を入れたのだがそうではなかった。ただ、ウサ耳のついたカチューシャのようなものが出てきただけだった。
「何をしていますの?」
「「ん?」」
見ると、セシリアが俺達を見下ろしていた。・・・これを変換すると、俺と一夏はセシリアを見上げている。ってことはつまり・・・・・。
「!? おっ、お二人ともっ!」
俺達は慌てて立ち上がって弁解する。
「す、すまん!不可抗力だ!」
「怒るなら俺達じゃなくウサ耳を怒ってくれ!」
「? 何をおっしゃって―――――」
キィィィィィィィィィン
うん?なんだ?空から何かが・・・・。
ドカーーーーーーーーーーン!
「「「!?」」」
突然の飛来物に身構える俺達。土煙が晴れるとそこにあったのは・・・・・。
「「「に、にんじん?」」」
オレンジ色のコーン型、いわゆるにんじんだった。しかも特大。
「あっはっはっは!引っかかったね、いっくん!」
ばかっと人参が割れ、ある人が出てきた。そう、あの人。
「お、お久しぶりです束さん」
そう、ISの発明者、そして箒の姉。篠ノ之束博士だ。
「この前はミサイルに乗って来たんだけど、どこかの偵察機に危うく撃墜されそうになっちゃってね!私は日々進化を続けているのだ!」
「そ、そうですか」
一夏は抱きついてくる博士を相手ににオロオロしている。そう言えば箒と一夏は幼馴染なんだよな。なら博士と知り合いなのも納得だ。
「・・・・・!えっくん!?えっくんなんだね!?」
俺と目があった博士は勢いよく俺に飛び込んできた。
どたたっ。
「えっくんだ〜!生えっくんの匂いだ〜!すりすり〜」
「は、博士、すりすりしないでください・・・・・」
倒れている俺の胸にほおずりをしてくる博士を優しく押し上げ、なんとか立ち上がる。
「や〜、ツクヨミが崩壊したって知った時は私ショックだったよ〜!あまりのショックでえっくんたちのお墓を自作してしまうほどだったんだよ!」
「縁起でもないことしないでください・・・・・ってか自作ってあの墓ですか?」
相変わらず規格外のことをしてくれる人だ。一年会ってないのに全く変わってない。
「ところで箒ちゃんはどこかな?さっきまで一緒にいたよね?トイレ?」
「あ、あー・・・・・」
言いよどむ一夏。まあ、博士を避けてどっか行きましたとは言いずらいよな。
「まあでも!この箒ちゃん探索機があればあっという間に見つかるよ!待っててね〜、箒ちゃん!」
そういうと博士は俺達が引っこ抜いたウサ耳を装着。するとウサ耳はピコピコとダウジングマシンのように動き、その指し示した方向に博士はダッシュ。スゲー速い。ISかなにかつけてるんだろう。そしてどこかに行ってしまった。
「な、なんだったんですの・・・今の人は」
呆然とするセシリア。
「束さんだよ。箒のお姉さん」
「IS発明者の篠ノ之博士だ」
「え・・・、ええええええ!?あ、あの篠ノ之博士!?」
逆にそれ以外に誰がいるんだ?
「それにしても規則を破ってあんな堂々と来るとはな。ビックリしたぜ」
この臨海学校はただはしゃぐだけではない。様々な企業から送られてくる新装備、および新開発の武装の試験的運用もプログラムに入っている。二日目以降はそうした時間が増える。
それはそれとして、この武器たちは船でまとめて運搬され、部外者の立ち入りは禁止だ。まあ、それを破ってくるのはあの人らしいと言えばあの人らしい。
「さ、早く海行こうぜ」
「ああ、そうだな」
「あ、一夏さん!先ほどの約束、忘れないでくださいね!」
「お、おう」
そうして俺達はセシリアと別れて更衣室に向かった。何か約束をしていたようだがなんだったんだ?
男子の更衣室は一番奥にある。一番奥と言うことは女子たちが使っている更衣室の前を通り過ぎる必要がある。分かりやすく言うと、
「わ、ミカってば胸おっきー。また育ったんだじゃない?」
「きゃあっ!?も、揉まないでよぉ・・・」
「ティナの水着ってば、だいたーん」
「そう?アメリカでは普通だと思うけど」
ってな具合の会話がいやでも聞こえてきてしまう。男としては少し困ってしまう。そんな困難を乗り越えて、俺と一夏は無事更衣室に到着。そしてあっという間に着替えを終えて更衣室を出る。すると、
「わ、織斑君と桐野君だ!」
「ウソッ!?私の水着変じゃないよね?変じゃないよねっ!?」
「お〜、二人とも鍛えてるね〜!」
「ま、まあな」
「いつでも重力圏に行けるように体は鍛えておかないとってことでな」
「へ〜、あ、そうだ!あとでビーチバレーしようよ!」
「おう、良いぞ」
「わかった」
「じゃ、あとでねー!」
そんな会話をして、俺と一夏は夏の日差しが照りつける砂浜に向けて歩き始めた。いざ!海へ!
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やって来た臨海学校とやって来たあの人 | ||
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