IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
合宿二日目。今日は丸一日を使ってISの各種装備試験運用とデータ収集を行う。俺個人としてはそれなりに楽しみなプログラムだ。
「ようやく全員集まったな。―――――おい、遅刻者」
「は、はいっ」
織斑先生に呼ばれて身をすくませてるのは、ラウラだった。おや珍しい。
「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明しろ」
「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています。これは広大な宇宙空間の―――――」
さて、ラウラがコアネットワークの説明をしている間に現在地の説明をしよう。ここはIS試験用のビーチで、ちょっとしたシークレットビーチのようになっていて、四方を切り立った崖に囲まれている。どこか学園のアリーナを彷彿とさせるここには、さまざまなISと新型装備が配置され、そのテストを行うのがこの合宿の本来の目的だ。
「―――――よし。いいだろう。これで遅刻の件はちゃらにしてやろう」
お、そうこうしている間に終わったみたいだ。ラウラがほっと息を吐いた。そんなに怖かったのか。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備実験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速にかかれ」
はーい、と一同が返事をする。さて・・・俺の専用パーツはっと・・・・・。
「桐野、お前はこっちに来い」
織斑先生に呼ばれた。なんだろうか?
「なんですか?」
「お前のG−soulの専用パーツはこれだ。エレクリットから送られてきた」
「はあ」
見ると、そこにはシールドのようなものが置かれている。これがそうだろうか?
「後、これがそれの説明書だ」
「あ、どうも」
俺は織斑先生から説明書を受け取り、目を通す。
「えーと、なになに?『19連装ビーム砲搭載シールド』広域殲滅型武装の実験装備。装備法は・・・・・」
俺はG−soulを展開し、それを手に持つ。
カチャ、ウィィィィィ・・・・・ン
G−soulのバイオコンピューターが最適化を始め、あっという間に最適化は終わった。
「なるほど・・・、シールドに19連装のビーム砲を搭載。一対多の戦闘時の使用がベスト、か」
エリナさん、近接武器の次は遠距離武器を開発したのか。流石はエレクリットの技術開発者だ。いい仕事をする。
「・・・・・そろそろあいつが来るころだな。篠ノ之、来い」
「?」
あいつ?誰のことだろう?すると先生は箒を呼んだ。
「篠ノ之。今日から専用――――――」
「ちーちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
ずどどどどど・・・・・!と土煙を上げながら人影が走ってくる。速い。めちゃくちゃ速い。たぶん、ISっぽい何かをつけてるのだろうと思うんだが、問題がその人影が―――――
「・・・・・束」
だ、ということ。立ち入り禁止もなんのその。今日も今日とて我が道を行く篠ノ之博士がやって来た。
「やあやあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ―――――ぶへっ」
飛びかかった博士の顔面を片手で掴んで指を食い込ませる織斑先生。あの人は手加減と言う言葉を知らない。
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬ・・・、相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」
そしてその拘束から抜け出す博士も只者ではない。
「やあ!」
「・・・・・どうも」
こちらに体を向けた博士が妹である箒に声をかける。しかし箒の態度は素っ気ない。
「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年振りかな?おっきくなったねぇ、箒ちゃん。特におっぱいが」
がんっ!
「殴りますよ?」
「な、殴ってから言ったぁ。しかも日本刀の鞘で殴った!ひどい!箒ちゃん!ひどい!」
頭を押さえた涙目の博士。仲がいいんだか悪いんだか・・・・・。
「え、えっと、この合宿では関係者以外は・・・・・」
「ほう?実に珍妙奇天烈なことを言うね君は。ISのことに関して、最も関係してるのはこの私だと思うけど?」
山田先生の言葉を一蹴する博士。山田先生は微妙に涙目だ。やれやれ・・・・・。
「束、自己紹介くらいしろ。うちの生徒が困っている」
織斑先生、あなたの隣で困って涙目の先生がいますよ?
「えー、めんどくさーい。私が天才の束さんだよ。はろー。終わり」
クラス一同の『ぽか〜ん』に拍車をかける博士。しかし、今の博士の一言でようやく状況が飲み込めた一同はザワザワと騒がしくなる。
「はぁ・・・・・、もう少しまともにできんのか、お前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視して続けろ」
「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ」
「うるさい。黙れ」
そんな二人のやり取りになんとか回復しておずおずと割って入った山田先生。大丈夫だろうか。
「あ、あのぅ・・・、こういった場合は私はどうすれば?」
「ああ、こいつは基本無視して構わない。山田先生は各班のサポートに回ってくれ」
「は、はい。わかりました」
「むむ、ちーちゃんが優しい・・・。束さん、激しくじぇらしぃ。このおっぱい魔神め!たぶらかしたな〜!」
いきなり山田先生の胸をむんずと鷲掴みにする博士。突然の行動に驚く山田先生。
「きゃあああっ!?や、やめてくださいぃ!」
「よいではないか〜よいではないか〜」
この人、何しに来たんだ?
「それで博士、今回は何しに来たんですか?」
話が進まないので俺が博士に話す。すると博士はバッ!と天を指差した。
「アレだよ!」
アレ、と言われても良く分からない俺達は上を見上げる。
ズズーンッ!
「どわっ!?」
いきなり巨大な金属塊が降ってきた。銀色のそれは瞬時に正面らしき壁が外れ、その中身を俺達に見せる。
「じゃじゃーん!これが箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISと一線を画す束さんお手製ISなのだー!」
そこには陽光を反射し、赤い装甲が眩しく輝くISが鎮座していた。箒専用機、しかも最新鋭機の最高性能機ってわけか。博士も妹思いだな。
「さあ!さっそくフィッティングとパーソナライズを始めよう!私が補佐するからすぐに終わるよ!」
「・・・・・それではお願いします」
そうして紅椿の調整が始まった。その間に俺は研究員として観察をした。
(見たところ、近接攻撃をメインに置いたような機体だな。白式と似てるな・・・・・)
「よっし!あとは自動調整処理に任せれば万事OK!さ、いっくん、白式見せて。えっくんもちゃんとG−soul見せてね?束さんは興味津々なんだよ」
「あ、はい」
「わかりました」
一夏は白式を呼び出し、俺は一歩前に出る。
「データ見せてね〜、うりゃ!」
言うなり白式とG−soulにコードをブスリと刺す博士。するとディスプレイが空中に浮かび上がった。
「ふむふむ、なるほど。不思議なフラグメントマップだね。なんだろ?見たことがなタイプだね」
独り言のように呟きながら博士はディスプレイの操作を続ける。
「やや、Gメモリー・・・。これは・・・!あははは、これは面白いなぁ」
うん?Gメモリーがどうかしたんだろうか?
「あの、束さん?」
「うん?どしたのかな?いっくん」
「どうして俺や瑛斗は男なのにISを動かせるんですか?」
ん、そう言えば俺もそれは気になる。
「ん、ん〜〜〜〜、それは私にもさっぱりさっぱりだよ。ナノ単位まで分解すれば分かると思うけど、していい?」
「「いいわけ無いでしょ・・・・・」」
「にゃははは、そういうと思ったよ。まあ、ISは自己進化するように作ったからね。そういうこともあるよ」
まったく回答になってなかった。博士にも分からないなんて意外だな。
「あ、あのっ!篠ノ之博士!」
ふと誰かが博士に声をかけた。声の主はセシリアで、やはり博士が有名人と言うこともあるからなのだろうか、目がキラキラしている。
「博士のご高名はかねがね承っておりますわっ!よろしかったらわたくしのISも見ていただけないでしょうか!」
おお、がっつくなぁ。しかし、博士の返答をひどく冷たかった。
「はあ?誰だよ君は。今私が忙しいの見て分からないのかなぁ?それに私に金髪の知り合いはいないよ。今は箒ちゃんやちーちゃん、いっくんえっくんとの感動の再会シーンなのにどうしてそう、しゃしゃりでてくるかなぁ君は。っていうか誰だよ君は」
「うっ・・・・・」
「わかったらさっさとどっか言っちゃいなよ。邪魔だから」
そう言われ、すごすごと後ろに下がるセシリア。なんか、可哀想だ。
「なあ、おい」
「ん?」
俺は一夏を肘で小突いて耳打ちで話しかける。
「博士って、昔もあんな感じだったのか?今の話し方が俺と初めて会った時と変わらないんだが」
「ああ、どうかな。昔よりマシになったかも知れない。昔は自分が興味ない人にはとことん無視を貫いてたから。千冬姉が叩くようになってから返事くらいはするようになったかも」
「そ、そうなのか・・・・・」
俺も初めて博士と会ったときは少し怖いイメージがあった。なんか他人を寄せ付けないオーラというか何というか、そういうものがあった。
「お、三分経った。そろそろ箒ちゃんの調整が終わるころだね」
博士がそんなことを言い、見れば、紅椿を展開したたずむ箒の姿があった。
「ではでは!さっそく試運転といこうか!まずは飛んでみよう!」
「はい!」
ギュォオン!
盛大なスラスター音を轟かせ、箒は上空に飛んだ。
「は、はえ〜・・・・」
俺は思わず呟いてしまった。何だあの加速性は。今の一瞬だけで軽く二百メートルは飛んだぞ。ウインドと同じ、いや、それ以上か?それにしても特殊な装甲だな。
「おやおや?えっくんは紅椿の装甲が気になるようだね」
「あっ、まあ、はい」
「教えてあげようあげちゃいましょう!紅椿にはね、『展開装甲』の完成型が装備されていてね、両肩と両足、そして背中についてて、エネルギーソード、エネルギーシールド、スラスターに変形が可能なんだ!いっくんの雪片弐型も展開装甲の試験的運用で私がねじ込んだんだよ」
つらつらと説明する博士。
「しかぁーも!紅椿には『無段階移行(シームレス・シフト)』システムがあって、戦闘のたびにパーツ単位で自己進化をするのだ!まさに第四世代型の真髄だね!」
「だ・・・・・第、四?」
なんてこった。いろんな企業が第三世代型の開発に躍起になってるのに、もう第四まで博士は開発してしまっている。周回遅れもいいところだ。
「ささ、説明はこれぐらいにして、今度は武装の方を使おう!」
博士が上空の箒に指示を出し、空中に指を踊らせて武器データを送ると受け取った箒は慣れた手つきで二本の刀を抜き取る。
「右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。まずは『雨月』からだよ。雨月は対単一仕様の武器で、打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出。連続して敵を蜂の巣に!する武器だよ〜。射程距離はまあ、アサルトライフルくらいかな。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫。以上!束さんの親切丁寧説明コーナーでした!」
博士の開設に合わせてかどうかは知らないが、箒が試しとばかりに突きを放つ。ふむ、さすがは実家が剣道道場だけのことはある。鋭い突きだ。そして雨月から放たれたレーザーは目の前に浮かぶ雲を文字通り蜂の巣にしていた。
「次は空裂ねー。こっちは対集団使仕様の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利。そいじゃえっくん」
「はい?」
「えっくんのGメモリーの中に実弾ミサイル豊富なバリエーションはあるかにゃ?」
「あ、ああ。ありますよ。Gメモリー!セレクトモード!セレクト!アレガルス!」
俺はアレガルスを発動し、ミサイルラックを全て開放する。
「おおー!じゃ、箒ちゃんにそれ全部撃って」
「はい!・・・・・って、ええ!?」
いきなりそんなことを言われて驚く俺。
「全部って・・・軽く五十発は超えますよ?」
「いいからいいから!さ、どーんとやっちゃってよ!どーんと!」
「わ、分かりました・・・・・。はぁ、箒ー、やるぞー」
「来い!」
オープン・チャンネルで箒の自信に満ちあふれた返事が聞こえる。うーむ、第四世代ってこともあるから、手加減する気にもなれんな。ならば!
「いけぇっ!」
ズドドドドドドド!!
無数のミサイルが箒に襲い掛かる。
「箒っ!」
一夏がたまらず声を上げる。うーん、やりすぎたかもしれない・・・。
「やれるっ!この紅椿なら!」
しかし、箒は右脇下に構えた空裂を一回転するように振るった。すると博士の言葉通りあの赤いレーザーが帯状に広がり、見事すべてのミサイルを撃墜した。
「はは・・・、マジか。結構本気だったんだけどな」
「すげえ・・・・・」
爆炎をバックに堂々たる姿の箒に、皆圧倒されている。博士もすごいが、これをすぐに扱える箒もなかなかのモンだ。
「・・・・・・・・・」
うん?どうして織斑先生はあんなに忌々しそうな顔をしてるんだ?
「たっ、大変です!お、おお、織斑先生!」
いきなりの山田先生の声に織斑先生は怖い顔をやめて振り返った。
「どうした?」
「こ、こっ、これをっ!」
渡された小型端末の、その画面を見て先生の顔が曇る。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし・・・・・・」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼動をしていた―――――」
「しっ、機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみません・・・・・」
「専用機持ちは?」
「ひ、一人欠席してますが、それ以外は」
なにやら先生二人が小声で何かを話している。二人の緊張から、なにやらただ事でないのは察することができた。
「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」
「了解した。―――――全員、注目!」
山田先生が走り去った後、織斑先生はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。
「現時刻より、IS学園教員は特殊任務行動に移る。今日の稼働テストは中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内で待機すること。以上だ!」
「え・・・・・・?」
「中止って・・・・・・・?」
「状況がさっぱり分からないんだけど・・・・・」
不測の事態に困惑する女子たち。しかしそれを織斑先生は一喝した。
「とっとと戻れ!以後許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!」
「「「は、はいっ!」」」
そして一気に慌ただしくなる女子たち。接続したいた武装解除。ISを起動終了させてカート乗せる。その動きは明らかな怯えが見えた。
「専用機持ちは集合しろ!織斑、桐野、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――――それと、篠ノ之も来い」
「はい!」
妙に気合の入った返事を寄越したのは今し方一夏の横に降り立った箒だ。だよな、これで箒も専用機持ちって訳だもんな。
「一夏」
俺は歩きながら隣の一夏に話しかける。
「どうした?」
「嫌な予感がする。箒が無茶しないように気を配らないと・・・・・」
「ああ。それは俺もわかってる・・・・・」
一夏も、俺と同じように言い知れぬ不安に駆られているようだった。
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