IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
時刻は午前十一時半。
七月の空はこれでもかと晴れ渡り、陽光が容赦なく照りつけている。
「じゃ、じゃあ、頼むぞ箒」
「うむ、男が女の上に乗るなどプライドが許さないが、今回は特別だぞ」
「お、おう」
作戦の内容上、一夏の移動はエネルギー節約の為に箒が一任している。つまりは一夏が箒の背中に乗る形になっている。
「Gメモリー!セレクトモード!セレクト!ゲイルス!」
コード確認しました。ゲイルス発動許可します。
俺はその横でGメモリーを起動し、ゲイルスを発動。高速巡航モードに移行して、エンジンを温め始める。作戦の内容は俺が先発援護で二人に追従することになっている。後のシャル達は後発援護として五分後についてくる。
『一夏、分かってるな?』
『ああ』
俺は箒に聞こえないようにプライベート・チャンネルで一夏に話しかける。
『箒は博士がフィッティングとパーソナライズをしたと言っても紅椿を使い始めてから一日も経ってない。いざって時は俺達がフォローに回る必要がある』
『分かってる。俺達がしっかりしないとな』
紅椿を受け取ってからの箒はどこか様子がおかしい。浮かれているというか上機嫌というか、とにかくそんな感じなのだ。
(俺達がしっかりしないと・・・・・)
一夏が言った言葉を反芻し、気を引き締めると織斑先生がオープン・チャンネルで話しかけてきた。
『三人とも、準備はいいか』
「「「はい!」」」
俺達は揃った返事を返す。いよいよだな・・・・・。
『では、はじめっ!』
―――――作戦、開始。
それと同時に俺達は一気に高度三百メートルまで飛翔する。
(凄い・・・!ゲイルスでやっと追いつけるなんて・・・・・!)
驚愕する俺をよそに紅椿はさらに加速する。一夏が乗っていることなど関係ないかのように、ものの数秒で目標高度の五百メートルまで到達した。
「暫時衛星リンク確立・・・・・情報照合完了。―――――一夏、瑛斗。一気に行くぞっ!」
「お、おう!」
「わかった!」
言うなり、箒は紅椿の脚部と背中の展開装甲を開き、そこから強大なエネルギーを放出する。俺は危うく引き離されそうになりながらもなんとかついていく。
(これが、展開装甲・・・・・!)
俺は無意識のうちにビームランスを握る手に力を込めていた。
「見えたぞっ!二人とも!」
「「!!」」
箒の声を聞いて前を向く俺と一夏。すると前方に銀色に輝くISの姿があった。
「なるほど、確かに『銀色の福音』の名前は伊達じゃないな。箒!お前はできるだけの援護をすればいい。攻撃は一夏、防御は俺がやる!」
「了解した!一夏、目標との接触は十秒後だ!行くぞ!」
「よしっ!」
そして箒はさらに加速する。俺はG−soulをノーマルモードに戻し、援護の体勢に入りながら福音に接近する。
「うおおおおおおおっ!」
一夏が箒と離れ、零落白夜を発動。そして瞬時加速を行いながら福音に突進する。
(届くか!?)
一瞬そう思ったが、福音は高速移動しながら反転。一夏の攻撃を避け、こちらに体を向けた。
「敵機確認。迎撃モードに移行。『銀の鐘(シルバー・ベル)』稼働開始」
機械音声が聞こえ、福音は頭部の光の翼の一部分を一夏と箒に向けた。
(マズイ・・・・・!)
俺はBRF発生装置内蔵シールドを起動し、一夏達のもとへ急行する。
「なっ!?」
一夏が驚きの声をあげる。福音の特殊装備の翼、アレは砲口だったのだ。砲口から光の弾丸が斉射される。
「おおおおおおっ!」
バリバリバリバリバリ!
激しいスパーク音を轟かせ、俺は間一髪で一夏の前に立ち、エネルギー弾を打ち消す。
(連射数が多すぎる・・・・・!これじゃ動けねえ!)
「箒!一夏ぁっ!」
「ああ!箒!左右から攻撃を仕掛ける!お前は左から!」
「了解した!」
一夏と箒が左右から福音に攻撃を仕掛ける。だが、それはいとも簡単に躱され、福音は俺達と距離を取った。
「これが銀色の福音・・・」
「強い・・・・・」
「ああ。だけどもうすぐシャル達の援軍も来るころ―――――」
すると突然オープン・チャンネルが繋がった。
『瑛斗・・・・・ザザッ!こっち側に・・・・・敵機・・・・・ザザッ!』
「シャル?どうした!?ノイズが激しくて聞き取れない!」
『敵機・・・・・ザッ!交戦中・・・・・そっち・・・・・ガー!・・・・・行けない・・・・・・』
「シャル!?おい!応答しろ!おい!」
しかしノイズしか聞こえない。一体向こうで何が・・・・・!?
「瑛斗!どうしたんだ!?シャルロットたちがどうかしたのか!?」
「わからねえ!だけど敵機がどうとか、こっちには行けないとか・・・・・、まさか!?」
「シャルロットたちの方にも敵が!?」
「そんな!」
しかし、福音は待ってはくれなかった。
「瑛斗!」
「くっ!」
福音の蹴りをスレスレで躱し、ビームガンで牽制しながら距離を取る。
「どうやら・・・・・、状況は最悪らしいな・・・」
俺はゴクリと唾を飲み込んで呟いた。
時刻は戻って瑛斗たちが出発して七分ほど経ったころ。シャルロットたちは瑛斗たちの後発援護として目標地点に向かっていた。
「・・・・・? 全員止まれ!」
「「「?」」」
ラウラが突然止まるように指示した。それに従いシャルロットたちは止まる。
「ラウラ?どうしたの?」
「海の様子がおかしい・・・・・」
「海?」
眼下に広がる海を見下ろす。
ザバァッ!
「「「「!!」」」」
突如、海中から何かが飛び出してきた。
「あれは・・・IS?」
鈴が呟く。だがそれをセシリアは否定した。
「いえ・・・、あれは、あの時の・・・・・!」
ドオォォォン!ダダダダダ!
海中から飛び出したISらしき機械たちがバズーカやマシンガンをシャルロットたちに向けて打ち放った。
「あの時の作業用ロボットの改造機ですわ!」
「あの時・・・・・、あの、一夏が話してたクラス代表決定戦の時のバスジャック事件の?」
それらを躱しながら鈴は衝撃砲を発射体勢に移行した。
「それなら誰も乗ってないのね?だったら!」
キィィィ・・・・・ン・・・ドオォン!
衝撃砲が放たれる。しかし―――――
「うそ!?」
それはいとも簡単に防がれた。赤いロボが電磁フィールドのようなものを発生させ、バリアを形成したのだ。そしてその後ろから青いロボが大出力のビームを放つ。
「な、なんですのアレは!?あんなのは以前の戦闘では確認してませんわ!」
「じゃあ新型なんでしょ!」
ビームを何とか避けて凌ぐセシリアと鈴。
「どうやらここを通す気はないらしい。各員!迎撃態勢!まずは雑魚を始末して、四人であの赤と青を潰すぞ!」
「「「了解!」」」
ラウラの指示通り、シャルロットたちは緑色の装甲を身に着けたロボを撃墜する。
「はああっ!」
鈴が双天牙月をブーメランのように投げて同時に四機撃墜し、
「食らいなさい!」
セシリアがビットを操作してロボを破壊。
「行くよっ!」
シャルロットがマシンガンを両手に持ち、トリガーを引き続ける。
「これでっ!」
ラウラがプラズマ手刀とワイヤーを巧みに操りロボを細切れにする。
そして、残すはあの赤と青のロボだけになった。
「大分時間をロスした。シャルロット、瑛斗に連絡を」
「うん」
シャルロットがオープン・チャンネルで瑛斗に話しかけようとしたその時。
シュウゥゥ・・・・・
赤いロボが突然粒子のようなものをばら撒いた。
「一体何を・・・・・?」
「あれ?おかしいな」
「シャルロットさん?どうしました?」
「回線が、繋がらないんだ。あれ?瑛斗?聞こえる?」
「・・・・・・・まさか、ヤツが今撒いたあれが!?」
「そう考えるのが妥当だな。さっさと片付けて、援護に向かうぞ。シャルロット、援護を頼む」
「わかった!」
ギュン!と赤いロボに肉薄したラウラ。プラズマ手刀とシールドから伸びたビームソードがぶつかり合う。
「鈴さん!わたくしたちはこっちを!」
「わかったわ!」
セシリアと鈴は青いロボに接近し、衝撃砲とレーザーを放つ。しかし、それは赤いロボが放った円盤状のビットのようなものから発せられたバリアによって防がれる。そして大出力のビームが再び襲い掛かる。
「くっ!この二機、連携がとれてるじゃない!」
「そういうコンセプトで作られてるんですわ!」
「ここはこの二機を分断する必要があるな。お前たち二人はその青いのを!私たちはこちらの赤いヤツを相手にする!」
そして、鈴とセシリア。ラウラとシャルロットのコンビで各個撃破の作戦を取ることになった。
(何だろう、この、嫌な予感・・・。瑛斗、大丈夫、だよね・・・?)
ラウラに追従しながらシャルロットは一人、言い知れぬ不安に駆られ、トリガーを持つ手にわずかながら力を入れた。
(大丈夫だよね、きっと・・・)
しかし、彼女の予感は的中することになる。
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銀色の福音 〜奏でるは戦慄の旋律〜 A | ||
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