IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「桐野く〜ん・・・・・」
「織斑く〜ん、どこいったのぉ〜・・・・・」
IS学園一年生寮の廊下。そこは正気を失った女子たちが徘徊するカオスの現場と化している。
「瑛斗〜・・・・・」
「一夏ぁ〜・・・・・」
寮の外は同じく正気を失った箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが瑛斗と一夏を探して回っている。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
そして、瑛斗と一夏はISを解除し、茂みの中で両手に葉が茂った木の枝を持ちながらひっそりと息を殺して潜んでいる。
「どうする・・・?じきにここも見つかるぞ?」
「コアネットワークの所在特定信号もオフにしてるから目視じゃないと見つからないけど、向こうはIS使って空から探してるかもしれないからなぁ」
「二年とか三年の寮に隠れようにも、こんな時間に行ったら寮の担当の先生に絶対事情を聞かれるし、聞かれても、『篠ノ之博士の変な薬のせいです』なんて言っても信じてもらえるかどうか・・・・・」
幸い、被害は一年生寮だけなので、おそらくこの事件は二年生以上は知らないだろう。
「夜が明けるまでざっと6時間ってところか・・・・・」
「さすがに、ふわぁ〜・・・・・。さすがに眠いな・・・・・」
瑛斗が時間を確認し、一夏が欠伸をする。
「寝たら確実に見つかるからな・・・。今日は寝られないと思った方が良いな」
「まったく・・・束さんのせいでとんでもない夏休みのスタート―――――」
ジュンッ!
突然、一夏の左手に握られている木の枝が葉がついている部分から上が消滅した。
「うふふ〜・・・・・、見つけましたわぁ〜・・・・・」
「「!」」
見れば、ブルー・ティアーズを展開しスターライトmkVを構えているセシリアが前方に立っていた。
「くそっ!見つかった!逃げるぞ!」
「あ、ああ!」
瑛斗と一夏はG−soulと白式を展開し、茂みから飛び出す。
「逃がしませんわぁ〜・・・・・」
目をとろんとさせているセシリアがビットを分離させ、ふらふらした軌跡を描きながらビットが瑛斗と一夏に襲い掛かる。
「うわっ、なんだこのビットの動き!」
「多分セシリアの頭がぼーっとしてるから制御が上手くできないんだろ!ある意味チャンスだ!」
瑛斗はスラスターを噴かし、一気にセシリアと距離を離す。
「あ、おい!」
一夏も瞬時加速でそれに続き、何とかセシリアを振り切った。
「はあっ、はあっ・・・・・」
「なんとか・・・・・まいたか・・・・・」
膝に手をつき、肩で息をする瑛斗と一夏。しかし、これでは終わらなかった。
ザンッ!
ドゴォン!
「なっ!?」
「今度はなんだ!?」
前方から斬撃と砲撃が飛んできた。しかし、その斬撃はエネルギー刃で赤く光っていた。
「箒の雨月・・・・・!」
「ふふふふふ・・・・一夏ぁ〜・・・」
「見つけたぞぉ〜・・・・・嫁ぇ〜・・・・・」
夜の闇の中から現れたのは箒とラウラだ。二人とも頬を赤くし、目もとろんとしている。
「一夏ぁ〜・・・・・」
「おわっ!?」
ガキン!
突然斬りかかられ、一夏は雪片弐型で斬撃を受け止める。
「瑛斗ぉ〜・・・・・」
「くっ!」
バチィッ!
瑛斗もラウラのプラズマ手刀をビームソードで受け止める。
「こいつら・・・・・、手加減する気がないみたいだな・・・・・!」
「ああ。どうやら全力のみたいだ・・・・・。手強い」
相手は第四世代の専用機持ちとドイツの代表候補生。おまけに正気を失っている。厳しい戦いになる事は明白だ。
「Gメモリー!セレクトモード!セレクト!ニグラス!」
瑛斗は両手足に実体短剣〈シュグリス〉を装着した近距離格闘用のGメモリーを発動し、ラウラに脚での攻撃をかける。
「へへへ・・・・・」
しかし、攻撃は簡単に躱され、カノン砲の砲弾を浴びる。
「ぐあっ!」
「へへへへへ・・・・捕まえた・・・・・」
「!?」
ラウラは続けざまにワイヤーブレードを射出し、瑛斗を捕縛。じりじりと近づく。
「な、何する気だ?」
「・・・・・・・」
額に汗を浮かべる瑛斗に無言で近づき、ワイヤーブレードでの捕縛をやめ、両腕でがっちりと瑛斗を掴む。そして・・・・・。
「・・・・・・」
「うえっ!?」
「えっ!?」
瑛斗と一夏は驚愕した。
ラウラは目を閉じて、顔を瑛斗に近づけ始めたのだ。そう、まさにキスをしようとするように。
「ま、待て待て待て待て!お、おお、落ち着けラウラ!」
瑛斗が必死に止めるも、ラウラの接近は止まらない。ラウラと瑛斗の唇が重なり合わさりそうになったその時!
バシャアッ!
「・・・・・へ?」
瑛斗はラウラと共に水を被った。
「やれやれ・・・、少し頭を冷やせ。馬鹿者」
「「!?」」
するとラウラの後ろからバケツを持った千冬が現れた。しかし、ほかの女子たちとは違い、特に変わったところは見られない。どうやら薬の効果を受けてないらしい。普段と違うところと言えば、服装がスーツではなくシックな寝巻にブラウスを羽織っているところくらいだろう。
バッターン!
「ラウラッ!?」
突然ラウラが仰向けに倒れた。そしてISの展開も解除される。
「ラウラ!しっかりしろ!おい!」
瑛斗がラウラの体を揺すると、
「くー・・・・・くー・・・・・」
「寝てる・・・・・?」
ラウラは瑛斗の腕の中で寝息をたて始めた。
「先生、これは?」
「あー、これはだな・・・・・。その―――――」
「ち、ちーちゃぁん・・・・・。お、重いよ〜・・・・・」
千冬が説明をしようとすると、今度はその後ろからこの事件の原因、束が現れた。水が入ったバケツも肩にかけている。
「博士・・・・・?あ!シャル!鈴!」
見れば、束の背中にはシャルロットと鈴が。二人とも制服姿だがびしょ濡れだ。
「おー、束。さて、説明だが、何かが墜落した音が聞こえたから外を覗いたら、こいつが地面にめり込んでたってわけだ」
「なるほど・・・・・ってそっちじゃなくてですね!どうして水かけたらこうなったのかっていうのを―――――」
「それは束さんが説明するよー!」
瑛斗と千冬の間に束が割って入った。
「ちーちゃんに事情を説明したら、部屋のなかに箒ちゃんみたいになった女の子が入ってきて、それにちーちゃんが『頭を冷やせ』って言って頭から水をバッシャー!ってかけたの!そしたらー、こんなかんじになったんだよ」
束はそう言って眠っているラウラを指さした。
「そんな対処法が・・・・・」
「おーい!千冬姉!こっちもどうにかしてくれー!」
一夏が箒と鍔迫り合いながら千冬を呼ぶ。
「わかっている・・・・・。おい、束」
「え〜、またやるの〜?」
「お前の撒いた種だろう。さっさとやれ」
「へ〜い。じゃいくよ〜。うりゃあ!」
バシャアッ!
束が一夏もろとも箒に水をかけた。
「うわっ」
「ふにゃぁ〜・・・・・」
水を頭から被った箒は紅椿の展開を解除しそのまま一夏の方へ倒れ込む。
「おっと、ふぅ・・・・・」
箒を受け止め、一夏はため息をつく。
「そう言えば、千冬姉は薬の効果は受けなかったの?」
「ん?ああ、なぜかは良く分からないが、何ともない」
「きっとちーちゃんが鈍感だから―――――」
「束、何か言ったか?」
「な、なんでもないよ〜?」
「さて、あとは―――――」
瑛斗が振り返ると、先ほど振り切ったセシリアがやって来た。
「うふふ〜・・・・・見つけましたぁ〜・・・・・」
「じゃ、博士。水を」
瑛斗が束の方を向くが、
「あ〜・・・。ごめんえっくん。箒ちゃんので水、なくなっちゃった」
「え!?」
束は笑いながらバケツを逆さにして振った。
「また取ってくるしかないな。一夏」
「?」
一夏は千冬から空のバケツを投げ渡された。
「お前の瞬時加速で水を汲みに行け。桐野はその間にオルコットの相手を」
「わ、分かりました。一夏、頼むぞ」
「あ、ああ!」
一夏は箒を近くの木にもたれさせ、瞬時加速で水道のあるところまで向かう。
「一夏さぁ〜ん・・・・・」
「おっと、悪いが、お前の相手は俺だ」
一夏の後を追おうとするセシリアを止め、瑛斗はBRF搭載シールドを左手に持ち、ビームソードを構える。
「うふふふふ・・・・・」
セシリアがスターライトmkVからレーザーを発射する。
ビシュッ!
「食らうかっ!」
バチィ!
BRFシールドでそれを防ぎ、ビームソードで切りかかる。
ガキィンッ!
セシリアもスターライトの先端部分の銃剣、〈インターセプター〉で受け止め、鍔迫り合いを演じてみせる。
「瑛斗っ!」
「おうっ!」
一夏の声を聞き、瑛斗は後ろに飛び退く。
「ごめんっ!」
一夏はセシリアに詫びながら水をかけた。
「ふぁ〜・・・・・」
見事に頭から水を被ったセシリアはそのまま眠ってしまった。
「ふぅ〜・・・・・。なんとか片付いたな」
「疲れたぜまったく・・・・・」
一通り片付いたことを確認した瑛斗と一夏はどかっと地面に座り込んだ。
「・・・・・あ!寮の方がまだ終わってなかった!」
気づいた一夏が顔を上げる。
「ああ、それなら今頃―――――」
「あ、見つけました!みなさーん!」
千冬が何かを言おうとすると一年一組副担任の真耶が走ってきた。やはり真耶も寝巻姿だがいささか子供っぽい水玉模様のパジャマである。
「お、そっちも終わったか」
「はい!消火用シャワーで一網打尽です!」
「山田先生!無事だったんですね!」
「いえ、実は私も篠ノ之博士の薬のせいで変になってたんですけど、織斑先生に水をかけられて、たたき起こされました」
「そ、そうだったんですか・・・・・」
瑛斗は苦笑いを浮かべた。
「よし、じゃあ後はそいつらをなんとかするだけだな。寮に戻るぞ」
そう言って千冬は寮の方向に歩き始める。
「う・・・うぅん?」
「あれ・・・・・?」
するとシャルロットと鈴が目を覚ました。
「お、シャル」
「鈴、気がついたか」
「瑛斗?あれ?なんで僕こんなところで寝てるんだろ?」
「うわ、びしょ濡れじゃない!なんで!?」
シャルロットと鈴は首を捻っている。
「シャル、お前覚えてないのか?」
「へ?何を?」
「鈴は?」
「何にも覚えてないわ。何があったの?」
「・・・・・あー・・・うん」
「まあ、アレだ・・・・・」
瑛斗と一夏は説明に困った。自分たちのズボンのベルトを外しにかかってきた、なんてどう説明すればいいだろうか。
「? 束のやつはどこ行った?」
「あ、それなら・・・・・あれ?」
振り返れば居るはずの束は遥か後方にいた。
「はっはっはー!今日はこのくらいにしといてあげるよ!さらばー!」
まさに脱兎のごとく、束はダッシュで去って行った。一同はぽかーんとするしかない。
「まったく、束のせいでいらん疲れが出てしまった」
頭を掻きながらぼやく千冬。
「あ、それならこれどうぞ。職員室に置いてあったものです」
真耶がパジャマのポケットから栄養ドリンクらしきものを差し出した。
「おう、助かる。まったく束のやつは・・・・・」
千冬はそれを受けとり、ぶつくさ言いながら蓋を開けて一気に飲む。
「・・・・・ふぅ」
「あ、ビンもらいますね」
ビンの中身を全て飲み干した千冬から真耶はビンを受け取ろうとする。しかし・・・・・。
「・・・・・・・」
「? 織斑先生?」
千冬は動かない。
「ど、どうしたんですか?」
心配になった真耶が顔を覗き込むとバッと千冬は顔をあげた。そして、静かに笑い始めた。
「へ、へへへ・・・・・・」
「織斑先生?」
「あはははははははは!!たぁぁぁぁぁぁぁぁばぁぁぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「きゃあっ!?」
「千冬姉!?」
千冬は束を追うように猛スピードで走り出した。
「ど、どうしたんだ?千冬姉」
「さあ?大方、そのビンの中身があの薬の原液だったんだろ」
瑛斗はG−soulを解除し、真耶が持っている空のビンを指差す。
「えっ!?」
真耶は驚いて手に持っていたビンを落とした。パリンと乾いた音が響く。
「それって、結構ヤバいんじゃぁ・・・・・?特に束さんが」
冷や汗を浮かべる一夏とは対照的に瑛斗は欠伸をしながら答えた。
「まあ、良いんじゃね?自業自得ってことでさ。ほら、お前も箒おぶれ。寮に戻るぞ。さすがに眠い」
「あ、ああ」
一夏は、これでいいのか?と思いながら箒を背負い、瑛斗たちの後を追った。
時は同じく、逃亡を図った束は走りながら考えていた。
「むー、あの薬は服薬した直後に考えていた人を激しく意識するようになってたんだけど、箒ちゃん、束さんじゃなくていっくんに走るなんて!」
当の箒に関したら、まず絶対にありえないことを想定するあたり、ある意味天才なのだろう。
ドドドド!
「?」
後ろから何か来ていることを感じ取り、振り返る。
「!?」
「束ぇぇぇぇぇ!!」
振り返ると、千冬が猛ダッシュで追いかけてきた。
「ち、ちーちゃん!?わあっ!」
ドタタッ!
近くの茂みに倒れ込んだ二人。当然千冬が束に覆いかぶさる形だ。
「ち、ちーちゃん?」
「ふへへ・・・・束ぇ〜・・・・・」
ふと、自分の服のポケットに触れた束。そしてハッとする。
「あの薬の原液が入ったビンがない!?まさか!?」
「へへへへへ・・・・・・」
「だ、ダメッ!ダメだよちーちゃん!あ、あ、らめえええええええっ!」
夏の夜の空に、一人の女の悲鳴があがった。
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番外編! IS学園ドキドキパニック! B | ||
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