天の迷い子 第四話
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Side 静護

 

この間からとにかく忙しい。

この間って言うのは文和に執務室に引きずり込まれて、政務の手伝いをやらされてからだ。

なんせ屋敷の掃除に洗濯、薪割りなんかの力仕事に仲頴・文和のお茶汲みなどなど、家人の仕事をこなした上で政務の手伝いもやらされるのだから、かなりしんどい。

まあ、解らないところは仲頴や文和が教えてくれるし合間に文字を教えてもらえるから悪いことばかりじゃないんだけどな。

 

ただこうして政務に携わっていると、この洛陽の官吏や宦官、果ては貴族・外戚に至るまで、とことん民から搾取しているって事が判る。

そりゃあ、仲頴達みたいにちゃんと皆のために公正な仕事をしている人達もいる。

けどそんな真面目にがんばっている人達が決まって損をする。

地方に左遷されたり、降格されたりいろいろだ。

それでも何とか街の人達の暮らしが楽になって来ているのは皆の頑張りのおかげなんだろうと思う。

街に買い物に行くと仲頴の噂を良く聞く。

彼女が来てからは市に安い食材が並ぶようになったとか、商人が訪れる頻度が多くなったとか、税が安くなったとか、彼女は自分たちの命の恩人だって言ってる人もいる。

友達が褒められるのはなんか嬉しくて、自然と顔がほころぶ。

 

今日も買出しを頼まれ、街に出ている俺。

ちなみに隣には雄姉が居る。

 

「おお、流騎か。……なに?これから買い物をしに市に行くだと?ふむ、これから私は警邏なのだが。よし!ついでに市まで護衛として付いて行ってやろう。」

という話になった訳だ。

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「そういえば、お前は霞に稽古をつけてもらっているそうだな。」

「ああ、うん、遼姉の時間が空いたときだけだけどね。未だに掠ることすら出来てないよ。」

「一月やそこらで一撃貰ってしまう様では、武の先達として恥ずかしいというものだろう。だが、霞が褒めていたぞ?どれほど実力に差があっても諦めず、常に相手に勝とうと、それが無理でも一矢報いようとする姿は好感が持てると。何より、昨日の自分より一歩前に進もうと常に工夫し、考えることをやめないその姿勢のおかげか、少しずつではあるが日に日に上達しているようだとな。」

 

うわあ、一歩ずつどころか半歩ずつぐらいしか進めていないって自覚してるのに、そんな風に言われるなんて恥ずかしいな。

 

「ほんと、ほんの少しずつだけどね。」

「だがそれでも前進は前進だ。全く前に進もうとせん輩よりは大分ましだぞ。………ふむ、そうだな、私も時間が空いたら稽古をつけてやろう。」

「いいのか?俺、てんで弱っちいからつまらないと思うけど。」

「かまわん、誰かに武の手解きをすることなど無かったからな。それはそれで面白そうだ。いつか私を打ち倒す日が来れば我が真名を預けてやっても良いぞ。」

にやりといっそ男前とも言えるような笑い方でこちらを見る。

「むっ、そこまで言われたら俺も男だ、絶対に強くなっていつか雄姉をびっくりさせてやる!」

「そうそう簡単に近づかせるつもりは無いぞ?精々精進するのだな、ふっふっふっ。」

 

しばらく雑談をしながら歩いていると、

 

「流騎兄ちゃん!」

 

そう呼び止められた。

振り返ると、四、五人の子供たちがこちらに向かって駆けてきていた。

 

「む?知り合いか、流騎?」

「ああ、この間街に来た時、せがまれて一緒に遊んだら懐かれちゃってね。…それで?どうかしたのか?ずいぶん慌ててるみたいだけど。」

「大変なんだよ!いいから早く来て!ヒョウが死んじゃう!」

「わかった、じゃあ走りながら説明してくれ!」

 

すぐに走り出す俺達。

そして、先頭を走る男の子、テンが事の顛末を教えてくれた。

 

「俺達さっきまで川原で遊んでたんだ。それで、いつの間にかヒョウの奴がいなくなっててさ。皆で探して見つけたんだけど、あいつ木に登って枝の先にある木の実取ろうとして降りられなくなってたんだ。仕方ないから俺が登って助けに行こうとしたら枝が折れて川に落ちちゃって。何とか石にしがみ付いたんだけど、流れが速くて俺たちじゃそこまで行けなくて…。兄ちゃん!ヒョウを助けて!」

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町外れの川原に着いた。

すると、川の真ん中に石にしがみ付いてはいるが、今にも流されてしまいそうな男の子。

やばい、早く助けないと!

 

「雄姉!手伝ってくれ!」

 

雄姉の方に振り向く。

しかし、雄姉は下を向いたまま動かない。

 

「ちょっ!どうしたんだよ!早くしないと…!」

 

俺は雄姉の肩に手をかけようとした。

すると、ぼそりと雄姉は呟いた。

 

「…すまん、流騎。私は、実は、その、お、泳げんのだ…。」

 

マジでか!?まあ、いくら運動が得意な奴でも泳げない奴っていたから、雄姉がそうでも仕方ない。

なら…。

 

ビッ!ビビッ!ビリビリッ!!   ギュッ!ギュッ!

 

俺は服を脱ぎ、その服を裂く。

それをつなぎ合わせてロープ状にした。

 

「雄姉はこれで俺を引っ張り上げてくれ!泳ぎは得意だけどこの流れじゃ厳しいから!」

繋げた服を渡す。

「…おう!任せておけ!」

 

俺は反対側を持ち、川に飛び込む。

思っていたより流れが速い。

いくらか水を飲みながらも何とかヒョウのところまで辿り着く。

 

「ぷはっ!もう大丈夫だからな!もう少し頑張れよ!」

 

服をヒョウの腰に巻き縛る。

そしてヒョウを抱え、岸まで泳いだ。

何とか岸に辿り着き、ヒョウが岸に上がる。

よかった、無事で。

そう思い気を抜いた瞬間、

 

ずるっ!!

 

苔に足をとられて転んでしまう。

 

(やべっ!しくった!!)

 

そのまま川の流れに飲まれる。

 

瞬間、

 

「流騎!!!」

 

という声と共に雄姉が飛び込んだ。

 

(おい!あんた泳げないんだろうが!)

声にならない声を上げるが、雄姉は必死で俺に向かって手を伸ばす。

かろうじてその手が俺の手を掴み岸に引っ張り上げた。

 

(雄姉の手って暖かいんだな。)

そのとき俺はそんな事を考えていた。

 

「げほっ!げほっ!流騎、無事か!?」

「うぇっほっ!えほっ!な、なんとか。ってか雄姉、泳げ、ないのに、無茶しすぎ、だって。」

「ははっ、必死になれば、どうにか、なる、物だな。それに、可愛い弟分を、見捨てるわけにはいかんだろう?しかし、さすがに怖かったぞ、ははははっ。」

「はははっ、実は俺も、結構びびった。」

「「くくっ、あははははははははっ!!」」

 

心配して集まって来たテン達をよそに俺たちはしばらくの間笑い続けていた。

 

その後、着替えに屋敷に戻った俺達は、事の顛末を聞いた仲頴達にこっぴどく怒られたのだった。

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いやあ、大変な眼にあった。

仲頴って怒ると怖いんだなぁ。怒らせないようにしよう。

まだ目的の買い物も終わってないし、早くしないとな。

 

それでは、いざ買い物開始!

と、気合を入れては見たものの、フォンさんから「ゆっくりでいいわよ、また無茶されても困るし。」とありがたいお言葉を頂いたのでのんびり歩く。

色々見て回っていると、店の前で威勢のいい声を上げているおっちゃんやおばちゃんが声をかけてきてくれる。

ここの所毎日のように来ているので、すでに顔馴染みになっていたりするわけだ。

声をかけてくれる人達と話し込むこともしばしば、あらかた買い物を終わらせそろそろ戻ろうかと思っていると、饅頭屋の前で座り込んでいる何かを発見。

なにやらいやな予感もするが体調でも悪いのかも知れないので、声をかけてみることに。

 

「あの、どうかした?気分でも悪いのか?」

 

と話しかけるとぐるるぅうううううっと激しく腹の虫が鳴いた。

 

「…おなかへった……。」

ぴょこんと頭の触覚(アホ毛と言うやつか?)を揺らしながらこちらを振り向く少女。

褐色の肌に赤い髪、瞳の色も赤、身体には刺青が入っていて空腹のためか眉がハの字になっている。

 

(小動物っぽくて、なんてゆうか、こう、保護欲めいたものが)

 

っと、なんかいつの間にかこの子を見てほっこりしてた。気を取り直して。

 

「えっと、お腹が空いたけどお金が無くてへたり込んでたって事でいいのか?」

「………。(コクッ)」

 

おっ、頷いた。正解って事かな。

 

「おばちゃん、肉まん二つ頂戴。………これ御代ね、ありがと。≪タッタッタッ≫はい、どうぞ。」

「………?…………?……??」

 

俺と肉まんを交互に見て首を傾げてる。やばい可愛い。

 

「一つあげるよ。一緒に食べよう。」

「………いいの?」

「おう、お腹空いてるんだろ?俺も腹減ったし丁度いい。一緒に食べたほうが美味いしな。」

「……(コクッ)それは正論。一緒に食べる。……ありがとう。」

 

どういたしましてと返し二人で肉まんをかじる。

おっ、表情が緩んでるな。気に入ったみたいだ。

ん?足元になにやらもこもこした物体がすりすりと。

 

「どうした?ワンコ。お前も食べたいのか?」

 

聞くと、ワン!と元気に答えるお犬様。

少女がそのワンコを見て「セキト」と言った。

 

「あれ?この子君の?」

「セキト。…恋の家族。」

 

へえ、っと相槌を打ちつつ肉まんをちぎって与え、わしゃわしゃと撫でる。

おお、気持ちよさそうだ。

 

「……ぃ〜〜〜ん………ゅう〜〜〜〜〜……」

 

あれ?何か聞こえる。何だろう、近づいてくる。

 

「………きぃいいいいい〜〜〜〜〜〜っく!!!」

「≪ズドボォォオオッ≫げぶぉあ!!!」

 

腹にいきなり衝撃が来た!

地面に倒れるが肉まんは死守!落とすなんてそんなもったいないことできるか!

 

「えほっ、ごほっ、な、何が起こったんだ!?」

「お前ぇええ!恋殿を誑かそうなど許さないのです!そこになおれなのです〜!」

 

むくりと起き上がり、顔を上げるとそこには薄緑の髪をお下げにして、大き目の文官服を着た小さな女の子が居た。

なにやら両手を振り上げてぷんすか怒っている。

 

「この陳宮の目の黒いうちは恋殿に指一本触れさせはしないのです!この!この!」

「≪ドスッ!ドスッ!≫あだっ!いたっ!待て!やめろって……っの!」≪ガシッ!≫

 

ご立腹らしい女の子の蹴りを回避すべく、両脇に手を差し込んで持ち上げる。

手足をバタバタさせながらう〜う〜唸っている。

何が彼女をここまで駆り立てるのか、などと無意味なことを考えているとぽかりという音と共に赤い髪の少女の手が女の子の頭に落とされる。

 

「蹴っちゃだめ。……肉まんくれたいい人。」

「れ、恋殿ぉぉおお!」

 

叱られた事がこたえたのか、がっくりと項垂れる。

いや、そこまでへこまんでも。

何とか女の子を宥め、話が出来る様にすると、早速自己紹介。

 

「まあ、とりあえず自己紹介からだな。俺は流騎、よろしく。」

 

すっと手を差し出す。

 

「…何なのですか?この手は。」

「ん?握手。せっかく縁が有って出会ったんだから、仲良くしたほうが楽しいだろ?要は、友達になってくれって事。」

「何故恋殿を誑かしちんきゅうを陥れた奴と友達にならなければならないのです!」

「…仲良くするのはいい事。…呂布。……よろしく。」

 

キュッと手を握る。何となく口元が緩んでる気がする。

それを見て、俺も笑い返すと、ふんわりした空気が流れた。

 

しかし、この子が呂布か。

曰く、天下無双。曰く、万夫不当。かじった程度の三国志の知識の中でも評価は同じ。

しかも、確か裏切りを繰り返し、非業の最期を迎えたとかって聞いたけど、この子にそんな雰囲気はないよな。

むしろ、純粋で素直な印象だ。やっぱり、俺の知ってる歴史とこの世界は全くの別物みたいだ。

 

「うん。よろしくな、呂布。」

「≪ふるふる≫……恋。」

「…えっ?それって真名だろ?そんな簡単に教えて良いのか?」

「そ、そうです、恋殿!こんな奴に真名を預けるなど…!」

「……いい。わかる。流騎いい人。…それに、セキト、悪い人には懐かない。」

「≪…カァッ≫……そ、そっか、じゃあ俺の真名も預けないとな。俺の真名は静護だ。…んで、そっちの君はなんて名前なんだ?」

 

照れくさくなってもう一人の女の子に話を振る。

 

「ちんきゅ、名乗らないのは失礼。」

「むぅううう!陳宮、字は公台!仕方がないからよろしくしてやるです!」

 

睨みながらも、握手を交わす。

 

「ははは、そうツンツンすんなって。よい、しょっと!」

 

隙を見て、陳宮を抱き上げる。

 

「ひぁ!な、何をするのです!」

「ん?肩車。」

「う〜!陳宮は子供ではないのです!は〜な〜せ〜!離すのです〜!」

 

ぐいぐいと頭を掴んで左右に揺らされる。

 

「痛い!痛い!やめろっての!…くそう!かくなる上は!とりゃ〜!」

 

陳宮を肩車したまま走り出す。恋とセキトも一緒に三人と一匹で。

最初は暴れていた陳宮だが、いつもより高い視線で風を切って走っているのが楽しくなってきたのか、しばらくするとはしゃぎ出し、「何をしているのです!もっと速く走るのです!」などと大いに楽しんでいる模様。

まあそれを指摘すると、頭をぼこぼこ叩いて暴れられるわけだが。

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散々走り回った末、たどり着いた町外れの広場。

現在、俺たちはそこで寝転がって昼寝の体勢に入っていた。

 

「…お前はおかしな奴なのです。ねね達は、“流騎”の事は董卓殿から聞いていたのです。もちろんお前も、同じようにねね達の事を知っていたはずです。それなのに、呂布殿の名を聞いて怯える事も無ければ、媚びる事もしなかったのです。≪ぼそっ≫…それにねねを子供だ、チビだと馬鹿にして苛める事も………な、なんでもないのです!い、一体お前はどういう積もりだったのですか?!」

「どういう積もりも何も無いんだが。確かに、“呂布”の噂は色々聴いてたけどな。天下無双・万夫不当・果ては黄巾賊3万を一人で屠った鬼神ってのもあったな。でも、結局それは他人の評価だろ?だから、何の積もりと聞かれれば、二人のことを知りたかったってだけだ。怯えたり媚びたりなんかしてたら見えるものも見えなくなる。まあつまり、二人と友達になりたかったんだよ。」

 

セキトを撫でながらそう答える。

 

「と、友達?!お前はねね達と友達になりたいのですか?!」

「最初に言ったでしょうよ、友達になってくれって。確かにまだまだ互いを知る必要も有ると思うけど、いつか友達だって胸張って言えるようになる為に、仲良くしよう。」

「むうぅ。…悔しいですが、恋殿はお前を信用しているのです。その信用を裏切らないと誓うなら、と、と、と、友達になってやらないこともないのです!」

「≪ぱあぁっ≫ありがとう!≪きゅっ≫改めて、これからよろしくな!」

 

陳宮の手を握って感謝を。

お?なんだか陳宮の顔がどんどん赤くなって…

 

「ななななな、何をするですか〜〜〜!!」

「≪ズドムッ≫…っ!!」

 

み、鳩尾、いや、水月に入った…。あっ…目の前が暗く………≪がくっ≫

 

目を覚ましたころにはもうすでに日は落ちていて、俺が起きるまで待っていてくれた恋と陳宮、そしてセキトと一緒に帰路に着く。

途中、ギャースカ文句を言う陳宮を宥めるためと、「おなかへった…」と涙目で見つめてくる恋のために、月・詠も含めた全員に料理を振る舞い、恋からはさらに懐かれる事になるのだが、それは別の話。

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あとがき

 

華雄さんと恋・ねねコンビとの初対面を書いてみました。

 

華雄さんのキャラとか口調が全然わからん!!

 

無印でも真でも萌将伝でも不遇の扱いで、ほとんど出番が無い華雄さん。

うまく出来ればかなりいい味の出る人だと思うのですがねぇ。

 

なんとかかんとか書き上げたのでうpします。

 

ではでは、また次話で。

説明
ド素人の暇つぶし第四話です。
思ってたよりペースが早い。
とりあえず書けるとこまで書こうと思っておりますので、よろしければお付き合いを。
それでは、どうぞ。
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