IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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放課後、特にすることもなかった俺は自販機で飲み物を買おうとしている。

 

「最近、シャルもボケに走ることが増えてきたんだよなぁ。まいったなぁ・・・・・」

 

自販機に小銭を入れながらつぶやく。

 

えーと、何にしよっかな。お茶?それともジュース?まあ、そんなことより。

 

「・・・・・・・・・・・・。さっきから俺の後ろをついてくるアンタは誰だ?」

 

俺は振り返って声をかける。すると壁の陰から一人の女子が出てきた。

 

「お見事です。良く気付かれましたね?」

 

出てきたのは眼鏡をかけた『堅そーだが仕事はできる人』の雰囲気を漂わせる三年生だった。

 

「夜な夜なドイツ軍人の奇襲を受けてましたから。で、何か用ですか?」

 

俺は自販機のレバーを引いて小銭を回収する。その人は俺を見てニコリと微笑んだ。

 

「お迎えにあがりました」

 

「迎え?三年生に何か頼まれた覚えはないんだがな」

 

「いえ、私ではなく、会長が」

 

「会長?」

 

 

 

 

 

「なるほど。のほほんさんのお姉さんで」

 

「はい。妹がお世話になってます」

 

「いえいえ。こちらこそ」

 

俺は俺を迎えに来た人、布仏虚さんと話をしながらある場所へと向かっていた。

 

「しかしアレですね。姉妹でこうも違うなんてちょっと驚きました」

 

「うふふ、妹はアレだから」

 

「ええ。アレですからね」

 

俺はあのダルッダルの袖の制服を着て日向ぼっこしながら眠るのほほんさんを想像した。

 

「では、お入りください」

 

俺は虚さんが開けてくれたドアから生徒会室に入った。するとそこには先ほど話をしていたダルダル制服の布仏本音(さっき虚さんから名前聞いた)が机に突っ伏していた。

 

「あ〜、お姉ちゃん。お帰り〜」

 

のほほんさんは顔を向けずにダルダルの袖の右手を挙げて揺らした。どうやら虚さんだけ帰って来たと思っているらしい。

 

「のほほんさん、俺だよ」

 

声をかけるとのほほんさんはのそりと顔をこちらに向けた。

 

「きりりんだ〜。やほ〜」

 

「のほほんさんも生徒会の役員だったんだな」

 

「まあね〜」

 

「ほら本音。しゃきっとしなさいな」

 

虚さんがダラっとした姿ののほほんさんを諌める。

 

「む〜り〜。ね〜む〜い〜」

 

しかし当ののほほんさんは再び腕枕に顔をうずめる。再び眠ろうとしているのだ。仕事しないのか?

 

ゴン!

 

「きゃう!」

 

すると虚さんがグーでのほほんさんの頭を殴った。おぉ痛そ。

 

「しゃきっとしなさい。もうすぐもう一人のお客様もいらっしゃるんだから」

 

「む〜・・・・・」

 

「客?」

 

俺が虚さんに聞くとちょうどこの部屋に誰かが入ってきた。

 

「ん?一夏と・・・・・」

 

「おや?どうやらもう来てたみたいだね」

 

一夏と例の生徒会長。更識楯無さんだった。

 

「よう一夏。お前も連れてこられたのか?」

 

俺が聞くと一夏は肩を竦めた。

 

「まあな」

 

「ほらほら二人とも座って座って」

 

更識さんに言われて手近な椅子に座ると一夏はのほほんさんと目があった。

 

「あれ?のほほんさん?なんでここに?」

 

「おりむー。私もこの生徒会の役員なんだよ〜」

 

「ええ!?」

 

一夏のリアクション、間違っちゃいない。

 

「むむ?なにそのリアクション?私だってちゃんとするときはするんだよ〜」

 

「そう言われてもなぁ・・・・・」

 

「だよなぁ・・・・・」

 

俺と一夏は普段ののほほんさんしか見ていなかったからのほほんさんが生徒会に所属しているなんて夢にも思わなかった。

 

「もう!わたしだって怒るときは怒るんだよ〜!がお〜!」

 

のほほんさんは両腕を上げて襲い掛かるポーズをした。

 

「悪い悪い」

 

一夏が謝ると、虚さんが紅茶の注がれたティーカップを俺に手渡した。

 

「どうも。更識さんはどうしてこの二人を生徒会に?」

 

「堅い堅い!私のことは楯無さんでいいわよ?生徒会の役員は生徒会長が定員数まで好きに入れていいの。だから私は幼馴染の二人を生徒会に入れたのよ」

 

「幼馴染?」

 

「うん。三人ずっと一緒だったわ」

 

「ええ。私たちはお嬢様にお仕えするのが仕事ですので」

 

虚さんがそういうと楯無さんはくすぐったそうに笑った。

 

「もう、その呼び方好きじゃないって言ってるでしょ?」

 

「失礼しました。ついクセで」

 

そんなやり取りからなんとなく察しがつく。更識家、大層な家柄のようだ。

 

「織斑君もどうぞ」

 

「ど、どうも」

 

一夏も同様に紅茶を受け取る。こころなしか動きが固い。緊張してるのか?

 

「本音。冷蔵庫からケーキ取ってきて」

 

虚さんがのほほんさんに声をかける。するとケーキというフレーズに触発されたのかのほほんさんは起き上った。

 

「は〜い。目が覚めた私はできる子だよ〜」

 

本当かよ・・・・・・。足がフラフラだけど?まだ眠そうだ。

 

「おりむー。きりりん。ここのケーキはちょおちょおちょおちょ〜〜お美味しいんだよ」

 

のほほんさんは素早い動きでショートケーキを俺達の前に置くと、早速自分のケーキのフィルムを剥がしてそこについているクリームを舐めはじめた。

 

「ちょ、本音やめなさい。布仏家の常識が疑われるわよ?」

 

虚さんがあわててそれを止めようとする。だがのほほんさんは止まらない。

 

「だいじょうぶだいじょぶ。うまうま♪」

 

フィルムをペロペロとなめ続けるのほほんさん。

 

ゴチンッ!

 

再び姉の鉄拳制裁を食らう。音が容赦ねえ。

 

「やめなさい」

 

「は、はい」

 

シュンとなってのほほんさんはフィルムを置いた。

 

「さ、食べて食べて。味は保証するわ」

 

「は、はあ」

 

「いただきます」

 

そんなわけでお茶会がいつの間にかスタートした。

 

 

 

 

 

「で、どうして楯無さんはあんなことを?」

 

俺は全員がケーキを食べ終わったのを見てから楯無さんに聞いた。

 

「あんなこと?」

 

「とぼけないでください。あの俺と一夏を部活動同士で奪い合うっていうアレです」

 

一夏も楯無さんに顔を向ける。

 

「ああ、学園祭のこと。ちょうど話そうと思っていたわ」

 

楯無さんはハンカチで口を拭くと扇子を取り出した。

 

「今回の争奪戦の理由はね、苦情が来たのよ」

 

「「苦情?」」

 

「全ての部活動から『どうしてあの二人を入部させないんだ』って苦情がもう殺到しちゃって。だから生徒会として二人を部活に入部させなきゃいけなくなっちゃったの」

 

なんつーはた迷惑な話だ。俺は部活よりISの研究をしていた方がずっと楽しい。それに一夏だってISの操縦訓練で忙しいはず。部活に行く暇なんてさらさら無いだろう。

 

「で、その交換条件として、どちらか一方。そしてもう片方は一日入部ってことになったの。これでも私たち生徒会はあなたたちを守る側だからね」

 

「そ、そうですか」

 

「あ、ありがとうございます、なのか?」

 

できればもうちょい頑張ってほしかったなぁ。

 

「で、そのかわりと言ってはなんだけど、一夏君は私が鍛えてあげる。IS操縦も、心も体もね」

 

「遠慮します」

 

「そう言わないで。ね?」

 

「どうして楯無さんが鍛えてくれるんですか?」

 

一夏はストレートに聞いた。

 

「それはね、君達が弱いからだよ」

 

「な・・・・・・・」

 

ストレートに返されて一夏は面食らう。俺もヘルプに回るとしよう。

 

「ちょっと待ってください。一夏は一年生の中では十分能力はあります。それに俺やほかの連中がこいつに訓練をつけてますからもう一夏のコーチは間に合ってます」

 

「一年生の中、ではね」

 

「?」

 

「あなたたち、この学園で一年生のトップに立つだけで満足?」

 

「どういうことですか?」

 

「あなたたちはすでに本当なら一年生じゃ歯が立たない相手と闘ったことがある」

 

「「!」」

 

思い当たる節はある。クラス対抗戦での無人機の襲来。銀色の福音との戦闘。確かにどれも一筋縄じゃいかなかった。

 

「でもあれは皆と力を合わせて―――――」

 

「皆と・・・それは『一人では弱いです』って認めたってことで良いかな?」

 

「・・・・・!」

 

「私はね、一年生の能力の底上げを考えているわ。一人一人の実力が高ければ高いほどそれを合わせた時の力は絶大。それに一人の力が上がれば他の人の競争心に火がついてさらに全体の能力は上がる。どうかしら?悪い話じゃないと思う」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

一夏は沈黙する。楯無さんの話は的を射ている。個々の実力を考えると悪くない話であるのは確かだ。

 

「楯無さんの言いたいことは分かりました。でも『弱い』っていうのは許せません」

 

一夏は立ち上がり、楯無さんを指差した。

 

「勝負しましょう!俺が勝ったら今の話はなかったことにしてください」

 

「負けたら?」

 

「その時はあなたに従います」

 

「うん。いいよ」

 

楯無さんはあっさり承諾した。

 

「おい、勝算はあるのか?」

 

俺は一夏に耳打ちする。

 

「わからない。でも俺だって弱くないつもりだ」

 

一夏ははっきりと答えた。

 

「・・・・・・・・・ふふっ」

 

楯無さんは笑っている。まるで悪戯が成功した子供のように。

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