IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「う〜ん・・・・・! 疲れた〜!」
午前中の営業が終わり、午前中最後の客を送ってから俺は伸びをした。
「桐野君、織斑君、お疲れ様」
一組一のしっかり者、鷹月静寝さんが伝票をチェックしながら俺と一夏の労をねぎらう。
「どうだ? 売り上げの方は?」
「いやー! 最高最高! 申し分ないわ! この調子でガンガン行こうぜ!」
鷹月さんは満足げに売り上げ金額を書いたノートのページをトントンと指先で叩いた。
「どれどれ? おー、スゲー額!」
一夏と一緒にノートを手に取り売り上げを見る。
「凄いな。予定の倍はあるぜ」
一夏も売上金額を見てうんうんと頷く。
「ああ。頑張った甲斐があったぜ」
俺も頷く。シャルに呼ばれてからというもの、俺と一夏はまさしく引っ張りだこ状態だったのでこれだけの結果が出てくれるととても嬉しい。
「まさか楯無さんが途中で仕事ほっぽりだすとは思わなかったがな・・・・・」
「あー・・・、それは、まあ、ああいう人だから・・・・・」
シャルが言うには楯無さんは途中まではいい仕事っぷりだったのだそうだが、『生徒会の準備がある』と言ってそのまま行ってしまったようだ。なんつー無責任生徒会長・・・・・。
「それじゃ二人とも、お店の体勢立て直すまでしばらく時間あるから出かけてきていいよ」
「え、いいの?」
「マジで?」
俺と一夏は鷹月さんのサプライズな一言に顔を上げる。
「うん。一時間位なら問題ないかな。誰か女の子と一緒に行って来れば?」
「そ、そういうことでしたら一夏さん。まいりましょうか?」
「行くぞ瑛斗」
一夏はセシリアに、俺はラウラに腕を組まされた。
「待て!そういうことなら私も行くぞ!」
「ああっ!ずるいよラウラ!瑛斗、一緒に行こっ?」
ググイ!
「いででででで!?」
「裂ける裂ける!!裂けちまう!」
一夏は箒とセシリアに、俺はラウラとシャルにもの凄い力で左右に引っ張られる。
(このままでは綺麗に真っ二つ・・・・・! 何か妙案は・・・・・)
「!」
ふと俺の脳の電球が光った。
「そ、そうだ!一人ずつ三十分くらいで交代制でまわればいいんじゃないか!?」
「お、おお!瑛斗、ナイスアイデア!皆、それでどうだ!?」
俺と一夏が必死に訴えると、そういうことならと納得して、俺達を解放してくれた。
「じゃ、じゃあ順番をき―――――」
「じゃんけんぽん!」
ラウラとシャル、セシリアと箒はそれぞれの相手とじゃんけんをしていた。って、はやっ!
その結果・・・・・。
「えへへ♪」
「むう・・・・・」
「うふふ♪」
「くう・・・・・」
俺はシャルと、一夏はセシリアと最初にまわることになった。
「さて、シャルはどっか行きたいところとかあるのか?」
「うんっ。料理部のところに行きたいと思ってたんだ!」
廊下をシャルと並んで歩きながら、どこに行きたいかを聞く。
「料理部か・・・・・。お、意外とすぐそこに」
「ホントだ」
話をしたら、目と鼻の先に『料理部』と書かれた旗が置かれた教室が現れた。さっそく中に入る。
「いらっしゃいませー!あ!桐野君だ! そして一時期は男の子だったと噂のデュノアちゃんだ!」
するとエプロンと三角巾を身に着けた、いかにも料理部といった風貌の三年生の先輩が迎えてくれた。腕章をつけていることから部長さんということが分かる。
「ど、どうも」
「なになに? メイドと執事の逢引き? 逢引きって言っても鶏と豚の『合挽き』の方じゃないよ?」
ほう・・・・・、この先輩、中々良いセンスをしている。仲良くやれそうだ。
「瑛斗、今つまんないこと考えたでしょ?」
「さ、さあ・・・な?」
危ない危ない。ばれるところだった。いや、もうばれてるか。
「さあさあ試食していって!二人なら全部タダでいいよ!だからうちに投票して?」
おっと、さっそくの不正取引だ。
「いえ、ちゃんと払いますから」
さすがはシャル。常に公平平等だ。
「嘘嘘。投票はしてかなくていいから、試食していって」
「ま、まあそういうことなら。シャル、何がいい?」
「うーん、じゃあ肉じゃが下さい」
「はい、肉じゃがね」
部長さんは保温装置に大量に入った肉じゃがを底が深い小皿に少量注いで俺達に手渡した。
「お、美味い」
「おいしいね」
もらった肉じゃがはちょうどいい味の濃さで、俺好みの味だった。
(美味いなコレ。白米が欲しいぜ)
「あ、あの、コレどうやって作ったんですか?」
俺が肉じゃがを食べていると、シャルが部長さんに何かを聞いていた。
「んー、圧力鍋でつくるところがポイントかな。調理時間もそうだけど、味のつき具合もそれに左右されるからね」
「圧力鍋・・・・・、ほ、他には何を?」
「んっふっふー♪それは料理部に入ったら教えてあげるよ。デュノアちゃんならいつでも入部オッケーだよ?」
「本当ですか!? ねえ瑛斗」
「うん?」
いきなり話を振られた。
「瑛斗は、僕が料理できたら嬉しい?」
「ん? そいつは嬉しいな。美味い料理を食べれるのは大事なことだと思うし、シャルは料理が上手だからな。これまで以上に美味いもんが作れるようになるんならいつでも食ってやるよ」
「そ、そう?そうなんだ。そっかぁ・・・・・えへへ」
「?」
シャルが料理部入部に意欲を見せたところで俺達はあまり仕事の邪魔にならないように料理部の教室を後にした。
料理部を出て、再び校舎内を歩いてまわる。
「次はどこ行こうかなー♪」
料理部を出てからずっとシャルは上機嫌だ。なんか、幸せオーラ的な何かが漂っている。
(何がそんなに嬉しかったんだろうか?)
首を捻っていると、ふと前を行くシャルが足を止めた。
「あ、これ可愛い!」
「?」
シャルが足を止めたのは美術室の前。そしてその扉に貼られたポスターには、
『君も爆弾を解除して、ペイヤくんを手に入れろ!』
とでかでかと書かれていた。
(ペイヤ君って、あの微妙なマスコットだよな・・・・・)
俺はエリスさんがゲットしたあのストラップを思い出す。
「ねえ瑛斗、僕これやりたい!」
「へ?え、あ、ああ。いいぜ」
(またやるのか・・・・・)
俺はシャルに背中を押されて数時間前に入った美術室に再び入った。
「やったね。二つももらっちゃった」
「そうだな」
そして無事にクリアし、俺とシャルはそれぞれ違うポーズのペイヤくんストラップをゲットした。
「全部で七種類だとよ。聞いた話だと一夏とセシリアもやっていったそうだ」
「もしかしたらコンプリートできちゃうかもね」
「はっはっは。できなくもないかもな」
そんなこんなでシャルとの休憩時間は終わった。
「遅い!」
教室に入ると、メイド服のラウラが腕を組んで待っていた。
「大体お前というヤツは時間にルーズすぎる!」
「そう言うなって。時間なくなっちまうぞ?」
「それは困るが・・・・・・」
「そいうや茶道部に行きてーって言ってなよな。早速行こうぜ」
「て、手を握るな!」
そう言って俺の手を振り払うラウラの顔は少し赤い。
「あ、ああ。すまん」
「い、いや、その・・・・・なんだ・・・・・。べ、別にお前がそうしたいのなら・・・・・」
「? 早く行こうぜ」
「・・・・・・・」
どすっ
「ぐふっ」
脇腹に手刀を食らった。何故?
「はーい。いらっしゃーい。・・・・・おお!桐野君だ!写真撮っていい?」
なんで皆そんなに寄って集って写真を撮ろうとするのだろうか。別に面白いわけでもないだろうに。
「茶道部は抹茶の体験教室をやってるのよ。こっちの茶室へどうぞ」
「おお、畳か。凝ってるなぁ」
さっきの料理部もそうだったが、どの部屋も設備面が非常にしっかりしている。さすがは世界中から入学希望者が殺到するIS学園と言ったところか。
「じゃあ、こちらに正座でどうぞ」
言われるがまま、俺とラウラは靴を脱いで畳に上がる。
「執事とメイドが抹茶っつーのも、なんかすごい絵だな」
「ふん、格好を気にするなど女々しい奴め」
「織斑先生に爆笑された時に俺の後ろで小さくなってたヤツの言うセリフかよ」
「う、うるさい!教官は特別だ!」
一度様子見ということで織斑先生がやってきたのだが、その時にラウラのメイド姿を見て思いっきり吹き出し、それからしばらく楽しそうにそれを眺めていた。
あんときのラウラって言ったらそりゃもう今まで見たことが無いくらい赤面してた。
「うちはあんまり作法に厳しくないから、気軽に飲んでね」
「あ、はい」
着物姿の部長さんはにっこりと微笑み、俺とラウラにお茶菓子をよこす。
それを受けとって一口食べと、甘い白あんが口の中にとけて広がった。
「美味いなコレ」
「うぅ・・・・・」
ラウラはお茶菓子に口をつけることなく、なにやら難しい顔をしている。
「こ、これはどうやって食べればいいのだ・・・・・・・?」
ラウラのとったお茶菓子は白あんでできた兎のかたちをしていた。
じっとラウラを見つめるようにしているそれは、『僕を食べて!』と言っているのか、はたまた『お、お情けを・・・・・』とでも言っているのか。
何にしても、ラウラよ。お前、本当に軍人か?
言うと絶対に怒るから言わないでおく。
「ラウラ」
「な、なんだ!?」
「それ食わないと抹茶に辿り着かないんだが」
「う、うぅ・・・・・ええい! はむ」
あ、一口で全部食べやがった。どうやら変に歯型が残ってしまうのが嫌だったらしい。
「・・・・・んぐ。うむ、やはり和菓子は美味い」
さっきまでの葛藤はどこに行ったんだろうか。ラウラは満足げな顔をしてお茶菓子を味わった。
「どうぞ」
そして俺達の前に抹茶が出される。
「お点前、いただきます」
一礼してから茶碗を持ち、二度回してから口をつける。
抹茶独特の苦みが口の中に残った白あんの甘い味わいを流していく。
すっとした喉ごしは心地よく、俺とラウラは飲んだ後に、ほぅ・・・・・っと一息ついた。
「結構なお点前で」
締めの台詞を言って、俺とラウラは再度一礼する。
本当なら茶碗を拝見するのだが、さきほど言われた通り、あくまで『抹茶をいただく』のがメインの体験教室だったらしい。
「よかったらまた来てねー」
部長さんに見送られながら俺とラウラは茶室を出た。
「結構良かったな」
「うむ、そうだな。やはり日本の文化は興味深い」
「全くだ」
宇宙にいた俺と、ドイツで軍人やってたラウラ。お互いに日本の文化には興味がある。
「日本の文化と言ったら、ラウラは和服とか着ないのか?」
「わ、和服か。着たことがないな」
ラウラの和服姿を想像する。流れるような銀の長い髪を結った和服姿は中々に似合う気がした。
「見てみたいか?」
「そうだなぁ、一回くらい見てみたいな」
「そ、そうか!」
珍しくラウラの表情がぱあっと明るくなった。それに気づいてかそのまま俺に背を向ける。
「き、機会があればな」
「ああ」
「つ、次はどこに向かう?」
照れ隠しなのか、ラウラは次に向かうところの話をし始めた。
「次は・・・そうだな・・・・・ん?」
俺はふと足を止める。
「どうした?」
「いや、あっちの方に人だかりが」
俺の指差す方向では、大量の女子がキャイキャイとはしゃいでいる。
「行ってみようぜ」
「う、うむ」
俺達は人だかりに向かって歩き出した。
「さあさあさあ!芸術は爆発だ!次にこの『時限爆弾解除ゲーム』に参加するのは誰だー!? クリアすれば限定ストラップをプレゼントですよー!」
「・・・・・・・・・」
人だかりの正体は美術部の時限爆弾解除ゲームの発展したものに白熱していた女子たちだった。
「きゃー! 赤? 青? どっちどっち?」
「あっ! 失敗した!」
「やったやった! ペイヤくんゲーット!」
見事クリアしてペイヤくんストラップをゲットして大喜びする女子と、失敗してひどく悔しがる女子。
(何なんだ?もしかしてアレの可愛さが分からないのって俺とエリスさんだけなのか?)
女子たちの食らいつき度についそんなことを考えてしまう。
「・・・・・・しいぞ」
「え?」
「・・・・・欲しいぞ」
「ら、ラウラ?」
「あれが欲しい! なんとしても手に入れるぞ!」
(うそーん・・・・)
ペイヤくん、見事ラウラのハートを射抜いたようだ。
(なんなの? 俺たちだけなの? やっぱり俺とエリスさんだけがあれの可愛さが分からないの?)
自分の可愛いものの基準に自信を無くしてしまう。
「行くぞ瑛斗っ!」
「わ、ちょっ―――――」
ラウラに手を引かれ、美術室に入る。
「あ! 桐野君だ!」
入室した俺めざとく見つける部長さん。
「待ってたわよー! 二度もクリアされちゃったらこっちのプライドにも傷がつく! 桐野君にはこれだ!」
部長さんが持ってきたのは、明らかに今まで見たヤツと違うコードが十数本も繋がってある、段ボール箱ほどの大きさの巨大時限爆弾だった。
「で、デカい・・・・・!」
「正直、これをクリアされる自信は無いわ!」
部長さんは自信たっぷりに腕を組んでいる。
「つかぬことを聞く」
ラウラが部長さんに話しかけた。
「なにかしら?」
「これと同じものはあるか?」
「・・・・・・・・・」
部長さんは絶句した。おそらく、自分からこのサイズの爆弾解体を志願する者はいないと思っていたのだろう。
「ら、ラウラ? 一体どーゆーつもりで?」
「決まっている。お前と勝負する」
「は?」
「私が勝てばお前の分のストラップももらう。私が負けたら、私の分のストラップをやろう」
なんだかよく分からないが、いきなり勝負をしかけられた。つか、俺はもうすでに一つ持ってるからさほど欲しいわけでもない。
「え、いや、俺は別に―――――」
「ふ、ふふふふ・・・・・」
いきなり部長さんが笑い出した。
「ふふふふ、なぁ〜に解除できる前提の話をしてるのかしら? いいわ! こうなったらあなたたちの実力! 見せてもらおうじゃない!」
どうやら、ラウラの一言が部長さんに火をつけたようだ。あっというまに俺の前に置かれた爆弾と同じものをラウラの前にドンッ!と置いた。
「よーい! スタート!」
タイマーが点滅し始める。
(やれやれ・・・・・)
俺は渋々爆弾解体に取り掛かった。
「も、もう、来ないで・・・・・・」
微妙に涙目の部長さんに見送られ、俺達は美術室を出た。
「くそう・・・。あそこで伝達ケーブルの選択に手間取らなけりゃあ・・・・・」
「ふっ、お前もまだまだだな」
悔しがる俺の横ではラウラが手に二つのストラップを持って勝ち誇った笑みを浮かべている。
結果はタッチの差でラウラの勝利。敗因は今言った通りだ。
「そう言えば、瑛斗」
「なんだ?」
「あの美術部の部長の口ぶりでは、お前は前にもあそこに行ったのか?」
「ん? ああ、行ったぞ」
「な、なに!? 一体誰とだ!?」
ラウラがずいっと顔を近づけてくる。
「だ、誰って、シャルとエリスさんだけど・・・・・」
「エリス? エリスとは誰だ?」
「エレクリットの技術開発局の人だよ。俺の知り合い」
「そ、そうか。ならいい」
ラウラはホッとしたように息をはいた。
「何かまずいことでもあるのか?」
「べ、別になにもないっ!」
「あ、そう」
そしてラウラとの休憩も終わり、俺は再び一組の教室で一夏と一緒に引っ張りだこになるのだった。
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瑛斗、シャル、ラウラと学園祭を行く! | ||
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